顔面ケーキ


雫先輩は翌日退院し、お昼から学校に登校してきた。

たまたまお昼休みで、雫先輩を見かけた僕は後ろから声をかけた。


「雫先輩」

「なにかしら」

「学校休まなくていいんですか?」

「大丈夫よ。それより、元生徒会のメンバーを集めてくれない?」

「どうしてですか?」

「ちょっとね。屋上で待ってるわね」

「ですって、みんな」


みんな、昼休みになると僕の元へやってくるのが日課だ。

僕がみんなに呼びかけると、当たり前のように物陰から現れた。


「それじゃ、みんなで行きましょうか」

「はい」

「蓮ー!どこー?」


瑠奈が僕を探す声が聞こえて、僕は慌てて屋上に走った。


「あ、梨央奈!蓮どこ?」

「トイレに走って行ったよ?お腹痛いみたい」

「え⁉︎大変!私行ってくる!」


梨央奈は瑠奈に嘘をつき、みんなで屋上に向かった。


屋上に着くと、雫先輩はベンチではなく、そのまま地面に座った。


「なにも敷いてないけど、みんな座りましょう」


輪になるように座り、乃愛先輩はそのまま車椅子に座った。


「昨日は心配をかけてしまったから、これ」


雫先輩はカバンからケーキ屋の箱を出し、箱を開けると、6個のショートケーキが入っていた。


「みんなで食べてちょうだい」

「やったー!」

「美味しそう!」


ショートケーキを見てみんな喜んだが、雫先輩は食べなくていいのか気になってしまった。


「雫先輩の分は無いんですか?」

「私はいいのよ」

「よかったら僕の分食べてください」

「気にしないで食べなさい」

「雫先輩は不平等を作り出す人ですけど、せめて僕達は平等で居ましょうよ」


すると睦美先輩は、首を傾げながら僕に言った。


「でも、涼風くんのケーキをあげたら、涼風くんの分が無くなって平等じゃなくなるよ?」

「それなら、僕のを一口あげます!口開けてください」

「ちょ、ちょっと蓮くん」

「許さーん‼︎」


雫先輩の口にケーキを近づけた時、僕は千華先輩に背中を押され、ケーキは豪快に雫先輩の顔に押し付けられてしまった。


「いくら雫でも、蓮から食べさせてもらうとかズルい!」

「雫先輩......大丈夫ですか?」

「大丈夫に見えるかしら」

「顔真っ白ですね......」


すると、緊張感を吹き飛ばすように、乃愛先輩は笑いながら写真を撮り始めた。


「あはは!雫の顔真っ白だー!」

「ちょっと!撮らないで!」

「乃愛、笑ってる場合じゃないよ〜?」


梨央奈先輩はニヤニヤしながら乃愛先輩の顔にケーキを押し付けた。


「いや!梨央奈なにするの!」

「えい!」

「きゃ!」


梨央奈先輩も睦美先輩にやられ、顔が真っ白になってしまった。


「千華」

「うわっ‼︎」

「千華も真っ白」 

「結愛〜‼︎仕返しだー‼︎」


結局僕以外、全員顔が真っ白になり、雫先輩は自分の顔に付いたクリームを手に付け、僕の顔にベターっと塗ってきた。


「お返しよ」

「あははー......」


乃愛先輩はクリームまみれの笑顔で言った。


「これで平等だね!」

「これどうするのよ」

「みんなで写真撮ろ!」


何故か全員クリームまみれで集合写真を撮り、雫先輩はハンカチで顔を拭きながら校内に戻って行った。


「掃除しますか」

「てか、このケーキ高いやつだ」


待って、梨央奈先輩が高いとか言うと怖いんだけど。


「ちなみに幾らですか?」

「良い苺使ってる店でね、ショートケーキ1つ三千円はするかな」


梨央奈先輩以外の全員が青ざめるまで一瞬だった。無理もない......18000円を顔にぶつけ合ったのだから。


全員青ざめたまま、一度ジャージに着替えて屋上を掃除した。

そして教室に戻る途中、瑠奈が男子トイレの前で中川先生に怒られていた。


「瑠奈、どうしたの?」

「どこ行ってたの?」

「瑠奈さん!まだ話は終わってません!」

「だって!蓮がお腹壊したって聞いたから!」

「だからって男子トイレに入って良い理由にはなりません!」

「え、入ったの?」

「心配だったから......ん?蓮、甘い匂いしない?」

「確かに。涼風くん、なんでジャージなの?」

「ちょっと汚れたので」

「とーにーかーく!次から入らないこと!涼風くんも分かった?」

「僕を巻き込まないでください」


そんなこんなで放課後になり、廊下には学園祭の写真が展示された。

睦美先輩と遊びに行く前に、瑠奈と一緒に写真を選びに行くと、雫先輩以外の元生徒会メンバーも写真を選んでいた。


「蓮!私達の写真あるよ!」

「乃愛先輩とのですか?」


乃愛先輩は、的当てに行った時の写真を10枚も買っていた。


「僕も買います!」


すると瑠奈は、展示された写真を眺めてボソッと呟いた。


「みんなとのデート写真、全部楽しそうだね」

「る、瑠奈?」

「なんで私以外といる時にこんなに笑顔なの?どうして私以外に笑顔を見せるの?」

「いや......まぁ、学園祭だし......」

「嫌だ......蓮が私以外と幸せになるなんておかしい」

「る、瑠奈!一緒に鍵探しした時の写真もいっぱいあるよ!」

「どれ⁉︎」

「ほら」


僕とのツーショットを見つけて、瑠奈に笑顔が戻った。


「乃愛、そろそろ行かないと」

「えー、まだ全部見てないよ」

「一週間は貼り出されてるから大丈夫」

「分かったー......」

「結愛先輩と乃愛先輩、どこか行くんですか?」

「乃愛のリハビリ」

「あー、病院ですか」

「よかったら、途中まででも一緒に来てよ」

「途中までなら全然いいですよ!」


結局、その場に居たみんなで病院に歩いて向かった。

途中でさりげなく抜ければ睦美先輩との約束も大丈夫だろうし、睦美先輩も嫌な顔せずに病院に向かってるから問題ないだろう。


千華先輩が乃愛先輩の車椅子を押し、病院の近くまで来たところで睦美先輩にアイコンタクトされた。


「よ、用事思い出したので、僕は帰りますね」

「えー、蓮帰っちゃうの?」

「また今度リハビリに付き合いますよ」

「約束ね!」

「はい!」

「わ、私も帰るね」

「えー、分かったー......」


悲しそうな乃愛先輩に罪悪感を感じながらも、蓮と睦美がその場を離れた時、瑠奈は静かに路地裏に入った。


病院に着いて瑠奈がいない事に気づいた乃愛は不思議に思った。


「あれ?チビ瑠奈は?」

「あれー?さっきまで居たのに」

「蓮と一緒に帰ったのかな」 

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