涙の卒業式


卒業式前日の日曜日、先生からお金を貰い、生徒会全員で花屋にやってきた。


「蓮先輩、幾らもらったの?」

「二万円!」 

「花束幾らか知ってる?」

「知らない」 

「花束って五千円からが一般的なんだよ?」

「え、五千円足りなくなるじゃん」

「俺が貸そうか?」

「いや、悪いよ」

「私が貸す!」

「瑠奈は確か、千円も持ってなかったよね」

「バレた?」

「前に言ってたし。乃愛先輩と結愛先輩は2人で一つにする?」

「まずは行こうぜ。安いのあるかもしれないだろ」

「そうだね!」


花屋に着き、花独特の香りに包まれ癒されていると、優しそうなお爺さんの店員さんに声をかけられた。


「いらっしゃいませー」

「あ、どうも。5人分の花束を買いたいんですけど幾らぐらいになりますか?」

「そうだねー、二万五千円ぐらいかねー」

「やっぱりそれくらいしちゃいますよね......」

「なんのプレゼントなんだい?」

「すごいお世話になった先輩か明日卒業なんです」

「感謝を込めて花束かい」

「はい!」


お爺さんは眼鏡をかけて電卓を手に取った。


「これでいいかな?」

「えっ⁉︎え⁉︎え⁉︎四千円も安くしてくれるんですか⁉︎」

「ここにいる4人の感謝割引じゃ」


僕達は思わず笑顔になったが、僕はそれでも千円足りないことを思い出した。


「ごめん林太郎くん、やっぱり千円だけ貸してくれない?」

「おっと、ここにいる人の感謝割引なら、ワシの分も引くべきだったのう。二万円でどうじゃ」

「......な、なんでお爺さんの分まで⁉︎」

「この店で素敵な想いを込めて花を買ってくれる。その感謝引きじゃ」

「お爺さーん‼︎」


瑠奈は嬉しそうにお爺さんに抱きついた。


「喜んでもらえてなによりじゃよ」

「このお礼は必ずします!」

「またこの店で買ってくれたらいいよ」

「ありがとうございます!にしても、素敵な店ですね」

「婆さんが大事にしていた店なんじゃよ。去年亡くなってしまったんじゃ、だからワシが生きている間はこの店を守らんとな」


僕達は一気にテンションが下がり、暗い表情になると、お爺さんは優しく笑みを浮かべた。


「5人分の花束、花はワシが選んで大丈夫かい?」

「は、はい。お願いします」


それから数分後、赤、ピンク、黄色、オレンジの花をバランスよくミックした、綺麗な花束を作ってくれ、2万円を支払った。


「本当にありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「こちらこそありがとう」

「はい!また来ます!」

「約束じゃぞ」

「もちろんです!」


花屋を出て、一度学校に行き、生徒会室に花束を隠して僕達は帰宅した。


3月23日、卒業式当日。

僕はもう一度詩音さんに電話をかけたが、やっぱり繋がることはなかった。


学校に行き、卒業式の最終準備を済ませ、卒業式の始まりを待ちながら椅子に座ってボケーっとしていると、瑠奈が僕の頭を優しく、ポンッと一回叩いた。


「なに?」

「今からそんな顔してて大丈夫?」

「いやー、なんかさー、雫先輩達がいない学校ってつまんなそうだよね」 

「まぁね、私達が入学したその日から、関わらない日はほぼ無かったしね」

「瑠奈も寂しい?」 

「......」

「ちょっ!なに泣いてるの!」

「寂しいに決まってる!」


瑠奈もなんだかんだ、みんなと仲良くしてたからな......特に梨央奈先輩との絆は深いだろう。


「とりあえず涙拭いて、泣くのは卒業式が終わったらにしよう」

「うん......」


そして遂に、卒業式が始まってしまった。


沢山の三年生が体育館に入場してくる中で、やっぱり元生徒会のみんなだけオーラが違うように感じる。

なにより、保護者の席に座る雫先輩のお母さんのオーラがヤバイ、ヤバすぎる。


それから卒業式は順調に進行され、僕の出番がやってきた。


「在校生代表、涼風蓮さん」

「はい!」


ステージに上がり、マイクの前に立つと、自然と雫先輩達を見てしまい。

その瞬間、ブワッと涙が溢れ出てきた。


「......送辞。在校生を代表して、お祝いの言葉を申し上げます......」


涙で視界が歪む中でも、僕が泣くのを見て、雫先輩以外のみんなが泣いているのが分かり、ますます涙が止まらなくなってしまった。


「三年生の皆様、ご卒業おめでとうございます......僕が入学した時、雫先輩が会長で、いきなりこの学校の厳しさを実感させられました......オープンスクールでは普通の学校だったのに、まんまと騙されました」


体育館内に少しの笑いが起き、僕は送辞を続けた。


「ですが、この鷹坂高校に通えば通うほど、厳しさにも慣れてくるもので、厳しさの中の優しさにも気づき始め、三年生の皆さんの優しい指導にもまともに耳を傾けられるようになりました......元生徒会の皆さんや、三年生の皆さんには感謝しかありません......皆さんが卒業してしまうこと、もう、先輩達と学校で話せなくなってしまうことが寂しくてたまりません......」


ふと雫先輩を見ると、さっきまで泣いていなかった雫先輩は目に白いハンカチを当てて泣いていた。


「これから皆さんは高校を出て、新しい生活に足を踏み入れますが、この高校を卒業できた先輩方なら、どんな困難にも立ち向かえると信じています!壁は越えるものじゃなく壊すものです。そうすれば、再び同じ壁にぶつかることはありません。本当に今までありがとうございました!皆様のご健康と、更なる活躍を願い、送辞とさせていただきます」


沢山の拍手と泣き声が入り混じる中、僕は涙を拭いてマイクを握った。


「在校生起立!在校生全員から、卒業生の皆様に、感謝を込めて別れの歌を贈ります」


僕がみんなの元へ戻ると、林太郎くんが優しく背中を二回叩き「お疲れさん」と優しく声をかけてくれた。


それから歌を贈り、みんなの嬉しそうな顔を見れて、サプライズは成功した。

そして、雫先輩の出番がやってきた。


「卒業生代表、音海雫さん」

「はい」


雫先輩はステージに上がり、数秒間なにも言わずに、いつものキリッとした表情ではなく、優しい表情で全生徒と先生達を見渡した。


「......まずは先生方、長い間、私のわがままに付き合っていただき、本当にありがとうございました」


雫先輩は先生達に深く頭を下げ、今気づいたが、中川先生は引くぐらい号泣していた。


「そして皆さん、長い間、生徒会の作った厳しいルールに、よく耐えてくれました。私は、みんな1人1人が頑張っているところを、ちゃんと見ていましたよ。時に悩み、挫けそうになった時も、逃げずに学校に来てくれましたね。そしてなにより、こんな私に話しかけてくれたことが、とても嬉しかったです。新しい会長は、とても心が優しく、とても頑張り屋さんですが、多少適当なところがあります。在校生みなさんで支えてあげてください」


なんかシンプルに恥かいた。


「あまり長々と話すつもりはないので、最後に一言。私は......この学校のみんなが大好きでした!」


雫先輩の口からそんな言葉が出ると思っていなかった全生徒はもちろん、先生達も驚きを隠せないようだった。


その後、校長の話があり、卒業式は幕を閉じた。

それからすぐに教室に戻り、僕は中川先生に声をかけた。


「先生」

「なに?」

「詩音さん来てませんか?」

「なにも聞いてないわね」

「そうですか......」


一度雫先輩達に、生徒会室に来るようにメッセージを送り、生徒会メンバー全員が生徒会室に集まった。


「あれだな、花束は蓮が渡してやれ」 

「え、みんなで渡そうよ」

「蓮先輩が1番お世話になったんだから、蓮先輩でいいでしょ」

「私も賛成!」 

「わ、分かった。僕が渡すよ!」


そして、最後のホームルームを終えた雫先輩達が生徒会室にやってきた。


「私達はなぜ呼ばれたの?」

「それじゃ、横一例に並んでください!」


みんなを横一例に並ばせ、最初に梨央奈先輩の前に立った。


「梨央奈先輩は、いつも優しい笑顔で接してくれて、辛い時も前を向けました!卒業おめでとうございます!」

「ありがとう!」

「次に千華先輩!」

「はい!」

「千華先輩は、僕が生徒会に入って初めてできた友達です!料理は心じゃなくて腕ですよ!」

「ありがとう!ん?」

「次は結愛先輩!」

「はい」

「結愛先輩はいつも物静かで、密かに僕の癒しになってました!卒業おめでとうございます!」

「ありがとうね!」

「次は乃愛先輩!」

「はーい!」

「乃愛先輩はいつも元気で、みんなを明るくしてくれましたね!僕も乃愛先輩の明るさで、何度も元気になれました!卒業おめでとうございます!」 

「ありがとう!」


最後は雫先輩だが、僕は言葉を迷い、謝罪を選ぶことにした。


「雫先輩」

「はい」

「すみませんでした!」

「え?」

「助けるって約束......守れなくて......」

「気にすることないわよ」

「本当に、お世話になりました。卒業おめでとうございます!」

「ありがとう」


その時、生徒会室の扉が開いた。


「雫?」

「なんだ、美桜先輩か」

「なんだってなに」


すると、中川先生の声も聞こえてきた。


「ほら、早く入った入った!」

「中川先生まで、どうしたんですか?」

「みんな並びなさい!写真撮るわよ!」


全員で並び、レックスを抱っこして中川先生に記念写真を撮ってもらうと、中川先生は写真を確認して言った。


「校門前でも撮るわよ!さぁ、移動移動!」


そして全員で昇降口を出ると、元生徒会メンバーは、一気に卒業生と在校生達に囲まれた。


「一緒に写真撮ってください!」

「私も!」

「俺もお願いします!」

「集合写真は、みんなとの撮影が終わってからでいいわよ!」


まさにアイドルの握手会のようにみんなの前に行列ができ、何故か瑠奈も梨央奈先輩の列に並んでいた。

そして瑠奈の番がくると、瑠奈は泣きながら梨央奈先輩に抱きついた。


「梨央奈〜‼︎‼︎」

「よしよーし」 

「卒業しないで‼︎」

「もうしちゃったんだよー」 

「嫌だー‼︎」


梨央奈先輩も涙目になりながら瑠奈をなだめ、最終的に2人は泣きながら写真を撮った。


「チビ瑠奈!私とも撮れ!」

「最後の最後まで呼び方変えなかったな!チビ!」

「あ?」

「は?」


最後の最後まで喧嘩しないでもらいたい。


結局2人は仲良さげに笑顔で写真を撮り、それから全員の撮影が終わると、みんなで校門前に並んだ。


「それじゃ撮るわよー!ハイ!チー」

「うわっ‼︎」

「ズ‼︎」


梨央奈先輩と千華先輩、そして結愛先輩と乃愛先輩の四人が、シャッターのタイミングで僕に抱きつき、僕が揉みクシャにされている写真を撮られてしまった。


「今日撮った写真、卒業組には後日発送するからね!」

「ありがとうございます!」


写真を撮り終わると、僕の携帯の通知音が鳴り、確認すると真横にいる乃愛先輩からだった。

(蓮と別れたことへの意味を頂戴。雫を救えるのは蓮だけだよ)とメッセージが来て、乃愛先輩と目を合わせても、なにも教えてくれなかった。


詩音さんは来てくれなかったし......もう、どうしたらいいか分からない。

......もう最後なんだ......直接聞いちゃえ‼︎と、勢いで乗り切ろうと、雫先輩の名前を呼んだ。


「雫先輩!」

「なにかしら」

「今僕に、なにをしてほしいですか?今ならなんでもします!」

「......それじゃ......」

「はい!」


その時、校長先生が校門へやってきた。


「雫、別れの挨拶は終わったかい?帰って準備を始めなさい」

「......はい。みんなごめんなさい。私はもう帰らなきゃいけないわ」

「近いうち、またみんなで集まろ!これからもずっと友達!」

「梨央奈さんがそう言うなら約束するわ。近いうちに必ず。蓮くん」

「はい」

「これからの学校を頼んだわね」

「はい!」

「瑠奈さんも、もう暴れないように」 

「うん!」

「花梨さんと林太郎くんも、蓮くんをサポートしてあげるのよ」

「はい!」

「分かってるよ」

「それじゃ......行くわね」


結局、雫先輩が何をして欲しかったの分からなかった。


雫先輩が帰っていくと、元生徒会のみんなは何故かイライラしだし、乃愛先輩は「もう‼︎」と大きな声を出した。


「ど、どうしたんですか?」

「もう言ってやるー‼︎‼︎‼︎」

「なんですか⁉︎」

「雫は蓮が好きなの‼︎なのになにやってるの‼︎バカ‼︎」

「はいー⁉︎⁉︎⁉︎」

「はー⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」

「いや、なんで美桜先輩が僕より驚いてるんですか。てか、いつからです⁉︎」

「ハッキリ分かったのは学校合宿の時」

「そんな前⁉︎瑠奈と林太郎くんは、どうしてそんなに落ち着いてるの!」

「いや、そうなのかなーとは思ってたし」

「林太郎に同じく」


二人もそう思ってたってことは本当なの⁉︎⁉︎


「蓮くん」

「は、はい」

「雫は蓮くんに未来を変えてほしかったんだよ。それが雫にとっての救いだったんじゃないのかな」

「......」


すると、元生徒会のみんなと花梨さんは、雫先輩が歩いて行った方向を指差し、みんな揃って「レッツゴー‼︎」と僕を行かせようとした。


「......僕......行ってきます‼︎」

「頑張れー‼︎」


蓮が走り去った後、乃愛は涙を流してしゃがみ込み、林太郎は静かに涙を流す瑠奈の頭を優しく撫で続け、蓮は様々な後悔と、なにも分かっていなかった自分への怒りに苛立ち、全力で走った。

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