最後のイベント


美術室の前に行くと、千華先輩は携帯をいじって僕を待っていた。


「お待たせしました」

「やっと来た!」

「美術室って、なんか出し物してるんですか?」

「アニメ風に似顔絵描いてもらえるらしいよ!一緒に描いてもらおうよ!」

「いいですね!」

「そうと決まれば!二人一緒に書いてくださーい!」


二人横並びに座り、デッサンが始まった。


「これ、結構時間かかりますよね」

「はい!1時間程かかります!」

「千華先輩、これでデートチケット終わりですね」

「え......」

「だって、1時間後は梨央奈先輩の予約があります」

「で、でも、梨央奈にバレなければ!」

「美術室の外で、既に待ってますよ」

「うわ、本当だ。あ、熊だ」


なんと、熊の人が熊の着ぐるみを着たままイラストを描いてもらっていたのだ。


「熊の絵とか簡単そうですね」

「でも、丸って意外と難しいよ?」

「そうかもですね。あの熊、中身誰だと思います?」

「さぁー」

「てか、雫先輩見ました?柄にも無く学園祭を楽しんでるらしいですよ」

「まじ⁉︎見てない!」

「あの雫先輩が学園祭を楽しむとか、明日地球終わったりしませんよね」

「そしたら、地球最後の日は一緒に居ようね!」

「地球最後の日は寝てたいです。どう足掻いても死ぬなら気持ちよく寝るが一番です」

「私と居ても気持ちよくなれるよ?」

「堂々とセクハラ発言しないでください」

「いやん♡」

「あははー......」


それから1時間後。


「できました!」

「え⁉︎なんで僕ピエロなんですか‼︎」

「えっ、ピエロのメイクしてるので......」

「忘れてた......でも凄いですね。千華先輩って分かる特徴をそのままにアニメ風になってますね」

「ありがとうございます!」

「私ってこんなに可愛い⁉︎」

「二次元はだいたい可愛いですよ」 

「もう!酷いよ蓮!」

「千華先輩はもちろん可愛いですよ⁉︎」

「え♡」

「あ、いつの間にか熊が居なくなってます」

「え?なんで話し逸らした?」


千華先輩はイラストを受け取り、僕は梨央奈先輩にメイク落としを貰ってメイクを落とした。


「はぁー、スッキリしました」

「よし!行こう!」

「なにやるんですか?」

「クレープ食べて、輪投げして、演劇見て」

「やりたいこといっぱいですね」

「行こう!」

「はい」


梨央奈先輩にクレープやジュース、アイスを奢ってもらい、アイスを食べながら出店を見ていると、タピオカジュースの店がガラガラで、赤字になってしまうと困っていた。


「梨央奈先輩、学園祭で赤字になるとどうなるんですか?」

「単純に損するだけだよ」

「あ、熊がタピオカ買うみたいです」


熊は喋らず、小さなノートに伝えたいこと書いてタピオカ屋に渡した。


「ぜ、全部買うんですか⁉︎」


熊は静かに頷くと、口から大金を出して渡した。


「......あ、ありがとうございます‼︎」


その時、梨央奈先輩の携帯にメッセージが届いた。


「なるほどね」

「どうしたんですか?」

「ちょっと放送室行こ!」

「はい」


放送室に行くと、梨央奈先輩は校内放送のスイッチを入れた。


ピンポンパンポーン

「タピオカ店よりお知らせです。只今よりタピオカジュースを無料でお配りします。数に制限がありますので、ご希望の方はお早めに昇降口左側のタピオカ店までお越し下さい」

ピンポンパンポーン


その放送の後、タピオカ店には行列ができ、熊の人が一人一人手渡してタピオカジュースを渡していた。


「さて、体育館で劇でも見ながらゆっくりしよ!」

「はい!」


体育館に行くと、雫先輩以外の生徒会メンバーが集まっていた。


「あ、涼風くん!」


睦美先輩......メイド服だ〜‼︎‼︎


「な、なんでメイド服なんですか⁉︎」

「メイド喫茶やってたから!」

「へ、へ〜」


知らなかった‼︎行きたかった‼︎


「あ、あの時の人だー」


そう声をかけてきたのは、瑠奈と遊びに行った時に会った、赤髪の女性だった。


「うちの制服......」

「今日から転校してきましたー」

「学園祭の日に転校って大変ですね」

「まぁね。てかさー、雫は?いくら探しても見つけられないんだけど」

「僕も見てないです」


すると、結愛先輩はその女子生徒を見上げた。


「雫になんか用?」

「ちょっとね。あ、私と同じ赤髪じゃん!仲間だね」

「私は襟足だけだし」

「んじゃ敵?」

「さぁね」


なにこの空気......


「まぁ、体育館でゆっくりさせてもらうよ」


そう言ってその女子生徒は、体育館の隅に座った。


しばらく劇やダンスを見ていると、梨央奈先輩が急に話しかけてきた。


「私、ちょっと行ってくるね!」

「え、はい」


梨央奈先輩がステージ裏に入っていくと、ステージ上に熊の人が出てきた。

梨央奈先輩が熊の背中のチャックを下げ、熊の人が自分で頭を取ると、現れたのは雫先輩だった......


「ち、千華先輩!僕美術室で失礼なこと言っちゃいました!」

「死ぬ時は一緒だよ!」

「勝手に死んでください!」

「ちょっと待って。今なんて?」

「千華先輩は可愛い!」

「え♡」


体育館中も緊張感で包まれるかと思いきや......


「あの熊って会長だったんだ!」

「俺のクラスに来てくれたぜ!」

「私のとこも!」

「私も私も!」

「雫せんぱーい!」

「会長〜!」


え、なんでこんな人気になってるの?


「続いては!生徒会長によるピアノ演奏です!」


ステージ上に置かれたピアノにスポットライトが当てられ、雫先輩は鳥肌が立つほどの腕前でピアノを演奏し始めた。


「蓮!ここにいた!」


瑠奈はタピオカジュースを持って体育館にやってきた。


「瑠奈、静かに。見て」

「雫先輩だ」


それはすぐに話題になり、全校生徒が体育館に集まり、僕は勿論、瑠奈も全校生徒が雫先輩の演奏に見惚れた。


そして演奏が終わった瞬間、大きな歓声と会長コールが体育館中を包んだ。

そして雫先輩はマイクを取り、全員を静かにさせた。


「学園祭は楽しんでいただけたでしょうか。三年生は、今年が最後の学園祭ということで、全力を尽くし、全力で楽しんだと思います。これにて学園祭を終了と言いたいところですが、ここで、全校生徒へ私達生徒会からボーナスゲームです」


え、僕なにも聞いてない。


「今、屋上には小さな宝箱が置かれてあります。その宝箱の中には、願いを一つ叶えると書かれた紙が入っています。文字通り、私達が願いを叶えてあげます。ですが、屋上に入るためのドアは鍵が掛かっています。この学校の敷地内のどこかにある鍵を見つけ出し、最初に宝箱を私の元へ持ってきたクラスの勝ちです。学園祭最後のイベント、クラス対抗鍵探し!スタートです!」

「さ......探せー‼︎」


いきなりのビックイベントに、校内はパニックになった。


「れ、蓮!私達も探そう!」

「う、うん!」

「蓮!瑠奈!」

「林太郎くん?」

「これ見ろ!」


林太郎くんが指差す場所を見ると体育館の床には、テープで(左)と書かれていた。


「左?」

「あとあれ、みんな気付いてないみたいだけど、体育館の時計」

「長い針が無くなってるね」

「しかも短い針が二時で止まってる」


瑠奈は頭が混乱して慌てている。


「は、早く探そうよ!」

「落ち着け瑠奈、これなはなにかのヒントになってるんじゃないか?」

「左、2?」

「無闇に鍵を探し回るより、ヒントを探した方がいい。あの会長が探せば簡単に見つかる場所に隠すわけないだろ」

「確かに」


生徒会の皆に話を聞こうと振り返ると、既に皆んなの姿はなく、何故か赤髪の転校生と、ステージ上の雫先輩が睨み合っていた。


「とにかく三人で探そう」

「うん!」


ピンポンパンポーン

「あっあー、聞こえる?」


乃愛先輩の声だ。


「生徒会からお知らせです。もう気付いてる人もいるみたいだけど、鍵の場所を示すヒントが校内中に隠されてます!ヒントは全部で14個!14個以外にも、ヒントを見つけるためのヒントがあったりもするからね!ヒントを解かないと鍵の場所を見つけるのは難しいかもよー?頑張ってねー!」

ピンポンパンポーン


「やっぱりそうだ!行こう!」


三人で一階を走り回っていると、タピオカジュースを持った生徒達が騒ついていた。


「瑠奈、そのタピオカ飲み干してみて」

「え!そんな一気に無理!」

「んじゃ貸して!」


僕が一気にタピオカジュースを飲み干すと、ジュースが入っていたカップの底に(ポ)と書いていた。


「林太郎くん!これヒントじゃない⁉︎」

「ポ?左、2、ポ、全然分かんないな」

「れ、蓮!そのゴミちょうだい!」

「捨てておくよ」

「ダメ!持ち帰るの!お、思い出だから!」

「これが⁉︎ま、まぁいいけど」


瑠奈はタピオカジュースのゴミを持って、何故か満足そうだ。


「多分、全部の文字を繋げたら鍵の場所が分かるんじゃないか?」

「それだよ林太郎くん!あと11個探そう!」

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