ペット禁止の理由


「次どこ行くんだ?」

「アニメグッズとか見たい!ついでに近くにいい店あれば、生徒会のみんなにもお土産買いたいし!」

「いいね!私も好きなキャラのフィギュア探す!......」


何故か瑠奈の表情が引きつりだした。


「どうかした?」

「後ろの怖い人誰?」

「へ?」


後ろを振り返ると、そこにはサングラスをかけたスーツ姿の男性が4人立っていて、1人が僕の肩に触れた。


「涼風蓮だな」

「は、はい」

「一緒に来てもらう」

「えぇ⁉︎」


蓮は無理矢理車に乗せられ、瑠奈は呆然と見ているしかなかった。


「マップ見てたんだけど、秋葉原じゃなくてもあるんだな。フィギュアがあるのはこの店だ」

「蓮が......」

「あれ?蓮はどこだ?」

「蓮が拐われた!東京ヤバイよ!怖いよ!」

「と、とりあえず中川先生に電話だ!」

「私がかける!」

「頼んだ」


瑠奈は震える手で中川先生に電話をかけた。


「もしもし!」

「どうしたの?」

「蓮が拐われた!」

「あー、校長先生から連絡があってね、蓮くんは青森に帰ることになったのよ」

「なんで⁉︎どうして⁉︎」

「学校で、ちょっとトラブルがあったみたいでね」

「修学旅行は⁉︎蓮も楽しそうにしてたんだよ⁉︎」

「修学旅行が終わったら慰めてあげて?それじゃ、自由行動楽しみなさいね」

「いやいやいや待って⁉︎切るな!」

「切られた?」

「うん。蓮、青森に帰ったらしい」

「え......」


その頃蓮は、怯えながら車に乗っていて、どこに行くのか質問しても誰も答えてくれず、着いた場所は空港だった。

そのまま飛行機に乗せられ、気づくと見覚えのある風景になり、地元に帰ってきたと知った。


「どういうことですか⁉︎」

「いいから着いてこい」

「修学旅行中だったんですよ⁉︎てか、警察呼びますよ⁉︎」

「無駄だ」

「えぇー......」


空港を出て、また車に乗せられると着いた場所は雫先輩の家だった。


「雫先輩の家?」

「入れ」

「は、はい」


広いリビングに案内され、フッカフカの白いソファーに座っていると、黒髪ロングの女性がやってきた。


「君が涼風蓮くんだね」

「はい......」


雰囲気が雫先輩そっくりだ......顔も似てるかも。あ、雫先輩の部屋で見た写真に写ってた、お母さんかも。


「私は雫の母親よ」

「ど、どうもです。僕、なんでここに?」

「学校から猫を連れてきたわ」

「え」

「ペット禁止のルールを破った罰として、あの猫は保健所へ連れて行くことにしたの」

「な、なんでですか!みんなで可愛がってて、もう、生徒会の一員みたいなもんなんです!」

「だからどうしたというの?ルールはルールよ。それに私はペットが嫌いなの」

「ニャー」

「レックス!こっちおいで!レックス!」


レックスはケージなどには入っていなく、雫先輩の家を自由に散歩していたようだ。

そしてリビングに入ってきたレックスは、雫先輩の母親の脚に頬をスリスリし始めた。


「......」


あれ?雫先輩のお母さん、嫌がってない。それに、本当に嫌いなら自由に散歩なんてさせないはずだ......


「ケージに入れたりしないんですね」

「残念ながら手に入らなかったわ」


嘘だ。僕を東京から連れてくる行動力と財産、猫のケージごときが手に入らないわけがない。


「なんで手に入らなかったんですか?」

「君を連れてくるための手配に時間がかかってね」

(なにかに勘付いたみたいね。躊躇する様子もなく探りを入れてくるなんて)


手配に時間がかかる......


「まぁ、僕が連れてこられた理由はよく分からないですけど、音海さんは本当凄いですよね!」

「褒めても猫は返さないわよ」

「いえいえ!こんな大きな家に住んでて、是非、お金持ちになる秘訣とか教えてください!」

「それは実際にそうなろうとして、その道を歩んだ人間にしか理解できないわね。時は金なりと言うように、スピーディーな行動は勿論、そこに正確さと効率の良さも必要なの。そして人間関係もとても大切」

「時は金なりですか」

「......貴方、わざとさっきの質問をしたわね?」

「はい、スピーディーに正確さと効率の良さが大事なのに、僕を連れてくるための手配に、猫のケージを買う時間もないほど時間がかかってしまったんですね」

「ほーう、私を煽っているのかな?」

「違います!本当は買う必要がないと判断したんじゃないですか?ペットは嫌いでも、生き物は好きとかですか?さっきも脚にスリスリされてたのに嫌がらなかったですし」

「ちょっとしたことを見逃さないのね。その調子だと、雫も困る瞬間がありそうね」

「よく怒られてます......」

「君の目には、雫はどう写っている?」


雫先輩がどう写るか......素直に答えた方がいいのかな。


「......雫先輩は怖いです!」

「んふっ」


え、今笑わなかった?


「他には?」

「えっとー、実はみんなのこと考えていて、人一倍優しい人です!でも素直じゃないです」

「ふっ」

「な、なんかおかしいこと言っちゃいましたか?」

「雫を褒める生徒がいるなんてね」

「生徒会のみんな、雫先輩のこと好きだと思いますよ?」

「そうかそうか......雫は頑固だから、辛い顔とかは絶対に見せない。とくに私には」

「お母さんなのにですか?」

「雫が小さい頃から仕事ばっかりでね、唯一まともに遊んだのは小学生の頃の夏祭り」

「雫先輩楽しんでました?」

「それはもう、はしゃいでいたよ」


想像できない......笑顔すら想像できないのに。


「そこで、どうしても金魚掬いの金魚を欲しがってね、絶対自分で掬うって何回もチャレンジして、最終的には金魚掬いのおじさんが一匹くれたのよ」

「そんなに欲しかったんですか」

「生き物を飼ったことがない雫には魅力的だったんだろうね。でも、私が海外に戻る日の朝、その金魚は死んでしまっていた。私はその金魚を庭に埋めて、雫には川に逃したと嘘をついたの」

「なんでそんな嘘を?」

「......娘の悲しむ顔を見たい親がどこにいる?死んでしまった事実より、私が嫌われる方がマシだと考えたの。それからはもう雫が悲しまないようにペット禁止のルールを作った」

「んじゃレックス、いや、猫もそういう理由で?」

「そう、この子にもいつか、最期はやってくる。でも、君の話を聞いていると、今の雫は悲しんだ時に側に居てくれる人間がいるみたいだね」

「ま、まぁ......なんかあれですね」

「ん?」

「悪役になりきって誰かの心を守るやり方、雫先輩そっくりです!」

「同じ血が流れているからね、考えることも似てくるものよ。君なら雫の心を守れそうね、猫は返すよ」

「あ、ありがとうございます。って、僕ですか⁉︎」

「女の心を動かすのも守るのも、男の役目じゃないかな?」

「......」

「不安かい?」

「何故かみんな、雫先輩を救ってあげてほしいみたいなことを僕に言うんです」

「ふふふっ。周りからも君の信頼は厚いようね」

「僕からすれば、いい迷惑です」

「ふっ......あはははは!」

「え⁉︎」


雫先輩のお母さんは、お腹を抱えて笑いだし、淑やかで怖そうなイメージと違って、僕は驚いてしまった。


「蓮くん、気に入ったわ!」

「ど、どうも......」

「素直な子はいいわね。自分、頑張ります!みたいな熱い人間よりも信頼できる、下手な期待もしないで済むしね。雫に会ったら、ビンタしたことを謝っておいてくれるかな」

「い、いいですよ」


雫先輩にビンタしたの⁉︎命知らず‼︎


その時、雫先輩がリビングに入ってきた。


「自分で謝ってください」

「し、雫、聞いていたの?」

「最初から全部聞かせてもらいました」

「すまなかったわ......」

「私もごめんなさい」


雫先輩が頭を下げたー‼︎僕、ここに居ていいの⁉︎


「雫......」

「金魚のこと、ずっと根に持って冷たくして......」

「いいのよ、雫は悪くないわ。今日は久しぶりに、2人でご飯でも食べましょう」

「......はい」

「蓮くん、修学旅行中に悪かったわね」

「ほ、本当ですよ!早く帰らせてください!」

「みんな他の仕事に回してしまって、東京まで送っていく手段がないのよ」

「......え」

「よかったら今日は泊まっていきなさい」

「お母様⁉︎」

「雫の部屋は広いんだから問題ないわよね?」

「あります!」

「親に口答えかしら」

「......すみません......」


是非、僕からも断りたい。でも断りにくすぎる。


「夜ご飯は私と雫で食べるとして、それまで時間はあるから、2人は雫の部屋で遊んでいなさい」

「れ、蓮くん」

「は、はい!」

「行くわよ......」

「はい!」


久しぶりに雫先輩の部屋に入ると、散らばっていた写真は見当たらなく、綺麗で広い、いい匂いのする、シンプルな女の子らしい部屋になっていた。


「なにキョロキョロしているの?」

「あ、いや!......写真無いなって」

「勝手に部屋に入る人がいるから、箱に入れてあるわ」

「なんかごめんなさい」

「勝手に入るのは蓮くんだけじゃないわよ」

「......」

「......」


あぁ〜‼︎気まずい‼︎帰りた〜い‼︎


蓮が気まずさに押し潰されそうになっている時、雫も気まずさと変な緊張感に押し潰されそうになっていた。

(なんでこんなことに......やっぱりお母様は許さない!)


それから、正座して一歩も動かないようにと釘を刺され、雫先輩は一度学校に戻って行った。


「暇だ......うさぎパンツでも探すか」

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