友達から


僕と美桜先輩は詩音さんの車に乗り、暖房で体を暖めたが、誰も一言も喋らないせいで、とてつもない緊張感に襲われていた。


「あ、暖かいですねー......」


勇気を出して話しかけると、美桜先輩が答えた。


「だねー......」


違うんだ美桜先輩。美桜先輩が返事したら、そこで会話が終わるじゃないか!


「貴方達、今日学校は?」

「サ、サボりました」

「貴方は会長でしょ?サボっていいわけないじゃない」

「ごめんなさい......」

「美桜さんは三年生だよね」

「は、はい!」

「後輩の見本にならないとダメだよ」

「すみません......」

「それで、雫は元気?」 

「は、はい!でも、最近ちょっと元気なさげですけど」

「なにかあったの?」

「クリスマスパーティーから少し......多分、婚約者関係で」 

「婚約ね......私は結婚からも逃げちゃったから、お父様はカンカンだと思う」

「好きな人でもいたんですか?」

「いいえ、いきなり家からも出ちゃったから、自然と婚約破棄になったの。お母様からの話だと、それで数億円と一つの大企業との繋がりがパーになったみたいだけど」


それなのに、あの有り余る財力はどういうことですか⁉︎と聞きたかったがやめておいた。

そうて美桜先輩は緊張からか、スカートを握りしめて自分から喋ろうとはしない。


「会長さんの名前は?」 

「涼風蓮です」

「涼風蓮」

「え、はい」 

「お母様が貴方を気に入っていたわ」

「いや......今は嫌われてると思いますけど」

「そんなことないよ。昨日電話したけれど、貴方を褒めていもの」

「そうなんですか⁉︎」

「なんとしてでも誰かの願いを叶えたい。その強い思いを感じる子だって」

「おー!」

「私からしたら迷惑だけど」

「......」


なにも言い返せなくなった。


「家まで送るから、道案内して」


詩音さんに家まで送ってもらうことになり、最初に美桜先輩の家に向かった。


「そこを右で、ここです」


美桜先輩ってアパートに住んでたんだ。


「ありがとうございました」

「どういたしまして」


美桜先輩は車から降り、深く頭を下げた。


「本当に、すみませんでした......」

「はい。それじゃあね」

「はい......」


それから僕の家に向かうと思いきや、詩音さんは車を走らせて、来た道を戻りだした。


「あ、あの......僕の家逆なんですけど」 

「少し二人で話しましょう」 

「は、はい」


それから会話は無く、着いた場所は古いアパートの駐車場だった。


「私の住んでる場所。お茶でも出すから上がっていきなさい」

「お、お邪魔します」


お金持ちなのに、どうしてこんなアパートに住んでるんだろう。


不思議に思いながらも部屋に上がらせてもらうと、テレビは無く、小さなテーブルがあり、ベッドだけは高級品だと見ただけで分かった。そしてめちゃくちゃいい匂い。


「なんにもないですね」

「足取りが掴めないように、よく引っ越すからね。どうぞ」

「ありがとうございます」


お茶を出してくれ、詩音さんは僕の目の前に座った。


「それで、話って......」

「私と雫を会わせて、どうしたいの?」

「どうしたいとかは無いですけど、雫先輩に喜んでほしくて」

「雫のこと好きなの?」

「いや......」

「好きなんだね」

「先輩としてなら」

「私には分かるよ。実は女性としても気になってるでしょ」

「そ、そんなわけないです!」

「昔から、親や周りの人の顔色ばかり伺って生きてきたから、少しの表情の変化とか、目の動きで、ある程度なに考えてるか分かるの」

「凄いですね......」

「認めるんだね」

「まぁ......綺麗で、人柄とかも魅力的な人だなとは思いますけど」

「そうじゃないと、喜ばせたいなんて思わないもんね」

「それと、元カノとの約束とかいろいろあって」

「優しんだね」

「あの......」

「なに?」

「どうしても雫先輩と会ってくれませんか?」


詩音さんは机に置かれたお茶を眺めて、しばらく黙り込んだ後に答えた。


「まずは私と貴方、友達になりましょう」

「え?」

「話はそれから。久しぶりにプライベートで話ができる人を見つけたし、相手してもらえない?」

「は、はい!喜んで!」


ここで仲良くできれば、雫先輩と会ってくれる。そう信じて仲良くすることに決めた。


「私、水族館の経営以外にも、香水やアロマ、他にもいろんな仕事をしているの」

「そういえば、良い匂いしますよね!」

「本当?香水の匂いは嫌う人の方が割合が多いの。でも、石鹸とか柔軟剤の匂いは生活してれば嗅ぐことも多いし、不快感を感じる人は少ない。個人的にも好きな匂いだから」

「僕もそういう匂い大好きです!布団を洗って干した匂いとか!」

「それはダニが死んだ匂いだよ」

「へー......」

「でも好きなことを恥じることはないと思う」

「いや、別に恥じてませんけど」

「ふふっ、そうね」


は?なにその笑った顔。可愛い&可愛い×天使なんですけど。


「貴方は将来の夢とかある?」

「夢はー......楽に生きていきたいです!」

「いい夢ね」

「詩音さんは夢とかあります?」

「普通の家庭の子供として生まれ変わることかな」


重い......


「でも自殺願望はないの。死んでしまった時、私を嫌いな人とか、日頃から平気で人の悪口や、死ねって言葉を使うような人も、いい顔して私の死を悲しむふりをするだろうから」

「......」

「悔しくて死ねない」

「死なれちゃ困りますよ」

「雫に会わせられないから?」

「それもですけど、もう友達なのに死なれたら辛いです」

「ありがとう。なにか、友達らしいことでもしましょうか」

「なにします?」

「いつも友達とはなにをしているの?」

「喋ったり、ゲームセンターに行ったりですかね」

「遠い場所ならゲームセンターでもいいけど」

「んじゃ、行きますか!」


車に戻り、ゲームセンターに向かい始めた。


「あれですか?知ってる人に会わないように遠い場所ですか?」

「そう」

「まず、ゲームセンターとか行ったことあります?」

「雫が好きでね、昔はよく行ったよ」

「僕、入学当初、学校帰りにゲームセンター行ったんですけど、雫先輩に怒られました」

「雫が会長だった時は、相当厳しい学校だったみたいだね」

「もうヤバかったですよ。最初はなにで機嫌を損ねるかとかビクビクでした」

「きっと本当は、会長なんかしたくなったんじゃないかな」

「ですよね。長く一緒に居て、会長の時の雫先輩が作り物の人格だったんだなって気づいたんです。あんな優しい人、めったにいませんよ」


それを聞いて、詩音さんは表情が明るくなった。


「妹を褒めてもらえるのは嬉しいね。蓮くんが大企業の息子とかならねー」

「なんでですか?それと今、蓮くんって」

「友達なら名前で呼ばなきゃなって」

「なるほど!大企業の息子だったらってのはなんですか?」

「雫と結婚できたのにね」

「雫先輩と結婚なんてしたら苦労しそうですね。優しいのに素直じゃないから、ちょっとしたことで怒られそうです」

「たとえば?」

「トイレの便座上げっぱなしとか」

「それは下げなさい」

「は、はい」

「あとは?」

「エビフライの尻尾残すなとか」

「それは食べなさい」

「は、はい」

「あとは?」

「もう嫌です!雫先輩の前に、詩音さんに注意されますもん!」

「わざとやってみただけ」

「意外とおちゃめですね」

「普通の女の子ですから」


こんな高級車乗ってる人が普通の女なわけあるか‼︎


「雫は本当に好きな人と結婚なんてしちゃったら、たとえ世界を敵に回しても貴方を愛してる系女子だと思うよ?」

「そんな人います?天使じゃないですか」

「雫は天使じゃないって?」

「違います違います!そんなこと言ってません!」

「冗談だよ」


本当、雫先輩も詩音さんも冗談が下手だ。

にしても変な感じ。あんなに探した詩音先輩と、いきなり友達になって、二人でゲームセンターに向かってるなんて。


「そういえば私の部屋で、夢の話したでしょ?」

「はい」

「今日、蓮くんと遊んで楽しかったら、もう一個の夢も教えてあげる」

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