不器用な看病


土日の2日で、雫の体調はすっかり戻り、いつもより遅く学校に行くと、乃愛と結愛が昇降口前で雪を転がして遊んでいた。


「おはよう。なにをしているの?」

「雪が溶ける前に雪だるま作るの!」

「雫も作る?」

「私はいいわ」

「えー。あ、蓮ね、風邪引いて休むらしいよ。チビ瑠奈と林太郎が言ってた」

「か、風邪?」

「うん。まだ一月で寒いからねー」

「そ、そうね。私、忘れ物をしてしまったから一度帰るわね」


学校を出て行く雫を見て、結愛はボソッと呟いた。


「雫、嘘ついた」

「え⁉︎なにが嘘⁉︎」

「内緒」

「なーんーでー!教えてよー!」

「内緒」


雫は小走りで蓮の家に向かい、チャイムを押すと、パジャマ姿でグッタリした蓮が出てきた。


「はい......」

「だ、大丈夫?とにかくお部屋に戻りなさい」

「あれ?雫先輩じゃないですか。それに部屋に戻れって、雫先輩がチャイム押したんですよ」

「い、いいから」


雫は蓮をベッドに連れていき、蓮を横にならせた。


「洗面台借りるわね」

「はい......」


洗面台でタオルを濡らして絞り、蓮の顔を優しく拭いてあげた。


「こんなもんかしら」 

「ありがとうございます。んで、なにしに来たんですか?」

「私が風邪を移してしまったから、今日は私が看病するわ。何か買ってきて欲しいものはあるかしら」

「水とプリンとか......」

「買ってくるわね」


雫は急いでコンビニに走り、大量の水とプリンを買って蓮の部屋に戻ってきた。


「買ってきたわよ」

「......買いすぎ!」

「二軒回って、あるだけ買ってきたわ」

「まぁ......ありがとうございます」

「プ、プリン食べたいわよね!口開けて!」

「え、あー」


雫先輩は僕の口に、プリン丸ごと一個を落とした。


「あがっ!ゴホッゴホッ!」

「み、水!」


続いて、焦った表情で水を大量に口に突っ込んできた。


「ブーッ‼︎落ち着いてください!」

「ご、ごめんなさい......」

「優しさだけで充分ですよ」

「他になにかしてほしいことがあれば何でも言いなさい」

「何でもですか?」

「も、もちろん」

「んじゃ、学校に戻ってください。雫先輩も病み上がりで、また風邪引いたら大変ですよ」

「でも、私が移してしまったのよ?できることはしたいわ」

「雫先輩は卒業まであまり休んじゃダメですよ。できるだけ思い出作らなきゃいけないんですから」

「でも......」

「行ってください。じゃないともう、口聞きませんよ?」

「......分かったわ」


雫先輩は僕を心配そうに見つめながら部屋を出て行った。


「ふぅー......」


また雫先輩が風邪を引いたら大変だしな。それに、あんな美人に優しくされすぎたら惚れてしまう可能性がある。危ない!


その日は一日中寝て過ごし、翌日には風邪が治り、学校に行ってすぐに雫先輩の教室に向かった。


「雫先輩!」

「れ、蓮くん、もう大丈夫なの?」


雫先輩はすぐに、心配そうに僕の目の前までやってきた。


「あれれー?そんな心配そうな顔して〜、そんなに僕が心配だったんですか〜?」

「......」

「蓮くん、おはよう!」

「梨央奈先輩もおはようございます!」

「雫ねー、ずっと元気が無くて」

「梨央奈さん!」

「それでねー、蓮くんが病院に運ばれたって!って嘘ついたら、急に走り出して廊下で転んじゃったんだよー」

「え⁉︎梨央奈先輩!なんでそんな嘘つくんですか!」

「えっ、ちょっとした悪ふざけだよ」

「雫先輩が可哀想じゃないですか!転んだって、怪我とか大丈夫ですか?」

「う、うん。大丈夫よ?」


梨央奈は、なんだか二人がいい感じだなと感じ取り、静かに自分の席に戻った。


「雫先輩が買ってくれたプリン持ってきたので、生徒会室で食べましょ!」

「これから授業よ?」

「なに言ってるんですか、会長の時は全然授業に出なかったじゃないですか」

「私もプリン食べたい!」

「うわっ!乃愛先輩、いつから後ろにいたんですか」

「今さっきぃ〜⁉︎結愛⁉︎」

「ほら、教室戻るよ」


乃愛先輩は結愛先輩に引っ張られ、教室に連れて行かれた。


「行きましょうよ。あんな大量に食べ切れないですし」

「分かったわ」


二人で生徒会室に行き、プリンを食べながら話をした。


「雫先輩、レックスとウーパールーパーに会うの久しぶりじゃないですか?」

「そうね」

「レックス、そんなに雫先輩にスリスリして、覚えてるもんですね」

「少し太ってきたんじゃないかしら」

「んー、確かに前と比べたら」

「太りすぎないようにしなくてわね」

「ご飯の量、調整します。それより雫先輩、学校では指輪しないんですね」

「......カバンに入れてあるわ。急に会うことになったら、していないと面倒くさそうだから......」

「あの人と二人の時は、どんな話するんですか?」

「ずっと自慢話ばかり。最近買ったブランドの財布がどうのとか、そんなこと」

「嫌ですねー。雫先輩はお金持ちなのに、あまり豪華な物持ってませんよね」

「興味ないし、見栄を張る必要も無いもの」

「へー、婚約者とはキスとかしたんですか?」


ずっと雫先輩と婚約者の関係が気になっていて、雫先輩がこの話題を嫌がっているのを感じ取りながらも、質問をやめれなかった。


「されそうになって、やんわり断ったことはあるわね」

「......」

「蓮くん?」


雫先輩とあの男がキスしているのを想像したら、何故か猛烈に腹が立った。


「蓮くん?どうかした?」

「あ、いや、なんでもないです!プリン美味しかったですね!残りは生徒会のみんなで分けます!」

「そうしてちょうだい。それじゃ私は戻るわね」

「......」


雫先輩が生徒会室をでようとした時、急に寂しさを感じて雫先輩の腕を掴んだ。


「どどっ、どうしたの?」

「なんでもないです。ごめんなさい」

「そ、そう。それじゃあね」

「はい......」


それから日が経ち、2月8日、土曜日。


雫は今日まで毎日、悩んでは考えるのを放棄するを繰り返し、ついに勇気を出して花梨に電話をかけた。


「も、もしもし」

「なに?」

「今日暇かしら......」

「まぁー、暇だね」

「2月14日のことで相談があるの......」

「あー、バレンタイン」

「ハ、ハッキリ言わないでちょうだい!」

「うるさいなー。で、なに?」

「美味しいチョコの作り方とか......教えてもらえたらって......」

「......」

「花梨さん?」

「蓮先輩?」

「......」

「言わないなら手伝わない」

「そ、そうかもしれないし、違うかもしれないわね」

「バイバーイ」

「ま、待ちなさい!」

「なに」

「れ......蓮くんに......」

「どうして急に?なんか展開あったの?」

「特にないのだけれど、チョコぐらいならあげてもいいのかなって......」

「へー、んじゃ10時に駅近くのカフェ待ち合わせで」

「わ、分かったわ」

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