お土産


先輩達の修学旅行も終わり、今日久しぶりに顔を合わせる。

やっぱり、生徒会のみんなが学校のどこかに居るってだけで、学校全体の空気がピリつく。


そして今、久しぶりに雫先輩がステージに上がり、全校集会が始まった。


「みんな、私達がいない学校生活はどうだったかしら」


瑠奈はボケーっとしているが、他の生徒達は雫先輩の方を見ようとしない。


「生徒会と瑠奈さん、林太郎くん以外全員立ちなさい」


言われるがまま全員立った。


「その場でスクワット千回。途中で一人でも限界がきたら最初からやり直しよ。回数を声に出してやりなさい。はい、1、2」


鬼が帰ってきたんだなーと実感する光景だ。

瑠奈と林太郎くんは、多分僕に協力したから許されたんだろう。


そして124回目の時、一人の一年生女子の動きが止まったのを雫先輩は見逃さなかった。


「やり直しよ。はい、1、2」


その後、一からやり直して206回目の時、何故か瑠奈が立ち上がった。


瑠奈〜⁉︎また問題起こす気か⁉︎


「長い‼︎座ってるのも辛いっての‼︎」


その時、体育館に生徒の保護者のような人達が10人入ってきた。

すると僕の隣にいた中川先生はボソッと呟いた。


「このタイミングはまずいね......」

「あの人達、誰ですか?」

「PTAの人達。ずっと先生達が抑えてきたんだけど、限界がきたみたいね」

「限界?」

「少なからず、雫さんのやり方に反対してる人達はいるのよ。先生、ちょっと行ってくるわね」


中川先生が保護者達に駆け寄ると、一人の化粧の濃いおばさんが雫先輩を見て言った。


「辞めさせなさい!」

「どうしてです?」

「こんなの体罰よ!」

「いけないことをした生徒が罰を受けるのは当たり前のことです」


雫先輩とPTAが見つめ合い、生徒達はスクワットをし続ける......異様な光景だ。


「悪いことをしたら罰を受ける。それは社会も同じことです。万引きをすれば捕まります。今からそれを身をもって教えることの何がいけないのでしょうか」

「やりすぎだと言っているの!」

「それならPTAの皆様方に聞きます。悪いことをした生徒を、どうやって更生させるのが正解でしょうか」

「少し注意すれば分かるでしょ!」

「そうよ!」

「本当にそうでしょうか。私がみんなの身になって考えるに、注意なんて聞いていれば終わる。ただただめんどくさい時間としか思いませんが」


雫先輩は大人達相手に一歩も引かないし、怯む様子もない。凄すぎる。


「そもそも、成績上位の生徒だけ髪も何でも自由っておかしいじゃない!」

「頑張った生徒が他の生徒と同じだという方がおかしいです。そうですね、一度スクワットをやめて、全員に話を聞いてもらいましょう。みんな座りなさい」


全員ぐったりしながら体育館に座り込んだ。


「なぜ髪を染めちゃいけないか。なぜピアスを開けてはいけないか。それは貴方達が弱い人間だからです」

「貴方ね!そうやってみんなを馬鹿にするのもいい加減にしなさいよ!」

「冷静に人の話を最後まで聞けないなら出ていってもらえますか?」


PTAのおばさんは顔を真っ赤にして怒っている。


「髪を染めれば目立ち、危ない人間のターゲットにされることもあります。特に学生という、大人から舐められる存在なら尚更です。それに学生というのは一部そうじゃない人もいるかもしれませんが、髪を染め、自分は周りと違うと調子に乗ります。校内にも、強い者と弱い者が生まれ、いじめに発展しやすくなります。そんな時、貴方達PTAは、その問題を解決できますか?」

「できるわよ!」

「どうやってですか?まさか、まだ注意すれば事は終わると思っていませんよね」

「そもそも、貴方は言ってる事とやってることが違うのよ!貴方達生徒会の中には髪を染めてる人もいるし、実際、みんな生徒会に怯えてるじゃない!強い者と弱い者が生まれてるじゃないの!」

「それじゃ、生徒会全員が髪を黒く染めたら、みんなは私達に怯えないという考えですね?」

「そうよ」


梨央奈先輩は青ざめてしまった。


「まさか雫、黒染めしろって言うんじゃ......」

「それなら聞いてみましょう。貴方、立ちなさい」


一人の生徒が指名され立たされた。


「は、はい」

「生徒会のなにが怖いの?嘘をついても分かるわよ。正直に言いなさい」

「威圧感と、罰を与えられる恐怖です......か、髪色はどうでもいいです......実際会長は黒髪ですし......」

「そう言ってますが」

「だからって髪を染めていい理由にはならないでしょ!」

「皆さん、そろそろ分かったと思いますが、ああ言えばこう言う、自分の考えが絶対だという考えなんです。一番の理由はそれです。みんな髪を染めていいことにしろと言われて許可を出し、なにか問題が起きれば、次は学校が悪いと言うんです。それと、全員平等にするとなにが起きるか教えてあげます。作られた安全な不平等ではなく、危険な不平等が生まれるんです」


やばい。僕バカすぎて雫先輩が何言ってるか分からない。


「ただ、学園祭が終われば10月に生徒会選挙があります。それは生徒全員に平等に投票する権利が与えられます。そこで私が選ばれたら文句は言わせません。解散」


雫先輩がステージから降りる時、一瞬ふらついたように見えたけど大丈夫かな。

それにしても大人達を黙らせるあの堂々とした感じはどっからくるんだろう。


「蓮くん!修学旅行のお土産持ってきたから生徒会室行こ!」

「行きます!」


梨央奈先輩に言われ、生徒会全員が生徒会室に集まった。


「これ全部お土産!」

「こんなに⁉︎」


梨央奈先輩がくれたのはお菓子やキーホルダー、置物など、合わせて20個のお土産だった。


「睦美さんにはこれね!」

「あ、ありがとう」


睦美先輩はシーサーのストラップを貰った。


「蓮!私もお土産買った!」

「千華先輩はなに買ってくれたんですか?」

「これ!」

「なんですかこれ」


千華先輩に渡されたのは、小さな瓶に砂が入っている物だった。


「願いが叶う、縁起の良い砂だって!」

「おー!そういう縁起物とか結構好きです!」

「よかったー!」

「蓮くん、私のより喜んでない?」

「そんなことないですよ⁉︎」

「むっちゃんにも砂!」

「むっちゃん⁉︎あ、ありがとう」


乃愛さんは車椅子に座り、袋を抱えてモゾモゾしている。


「乃愛、渡しな?」


結愛先輩にそう言われた乃愛先輩は、少し不安そうに袋を渡してきた。


「お土産」

「うわ!これ拾ったんですか⁉︎」

「結愛と私から、大量の貝殻」

「ありがとうございます!部屋に飾ります!」


僕が素直に喜ぶと、乃愛先輩と結愛先輩は可愛らしくニコニコと笑った。


「雫先輩もお土産買ってきてくれてたりします?」

「あるわけないでしょ?」

「ですよねー......」

「それより、貴方達授業は?」

「雫先輩は授業受けないんですか?」

「受けなくてもテストで100点取れるのに、授業を受ける必要があるかしら」


こいつ‼︎めちゃくちゃ嫌味言いやがって‼︎クソー‼︎


「それを言うなら私達もだね!むっちゃんと蓮は教室戻りなさーい!」

「千華先輩は味方だと思ってたのに......」

「どういう意味⁉︎」


結局僕は大人しく教室に向かったが、何故か梨央奈先輩が着いてくる。


「どうかしました?」

「瑠奈ちゃんにお土産渡そうと思って!」

「なるほどです」


教室に着くと、みんな学園祭の準備をしていた。


「瑠奈、梨央奈先輩がお土産だって」

「梨央奈!」

「これ、ハイビスカスのストラップ!」

「ありがとう!」


梨央奈先輩は瑠奈の耳元でなにか囁いた。


「蓮くんとお揃いだからね」

「梨央奈〜♡!」

「抱きつかないの!それじゃ、学園祭の準備頑張ってね!」

「うん!ほら、蓮もやるよ!」

「はいはい」


僕達のクラスはお化け屋敷をすることに決まり、男子は内装を改造し、女子はお化けの衣装を作っている。


「林太郎くん、僕何すればいい?」

「ちょっとガムテープ取ってくれ」

「はい」

「ありがとう」

「で、なにすればいい?」

「瑠奈の手伝いでもしろ」

「わかった」


瑠奈がしていた作業は、お化けのデザインをイラストにする作業だった。


「手伝えって言われたけど、絵とか描けないや」

「いいよ!私の見てて!」

「分かった」


ラッキー!楽な仕事だ!


そして下校時刻になり、下駄箱を開けると、沖縄で買ったであろう入浴剤セットが入っていた。


「見てよ瑠奈、これ絶対雫先輩からだよ」

「あの人、本当ワケワカメ」

「涼風くん見て」

「あ、睦美先輩も入浴剤セット入ってたんですか?」

「うん!会長は素直じゃないね!」

「そうですね」

「なんかお礼言っていいのか分からないよね」

「確かに。雫先輩の下駄箱にお礼の手紙ぐらい入れますか」

「そうだね!」


僕達はその場でノートの切れ端にお礼を書いた。


「蓮、私は手紙貰ったことないんだけど」

「え、書くことないじゃん」

「んじゃ、私が書いたら返事くれる?」

「いいよ」

「やった!」


そして雫先輩の下駄箱に手紙を入れて僕達は帰宅した。


そして雫が下駄箱に向かおうとした時、梨央奈は雫に声をかけた。


「なにしてるのかなー?」

「わっ!」

「あ!雫、今ビックリした!」

「してないわよ」

「動画撮っておけば良かったー」

「私は帰るわね」


雫は下駄箱を開け、手紙をポケットに入れて帰宅した。

帰宅後、自分の部屋で二人の手紙を広げ、とても優しい表情で、手紙を大事そうにファイルに挟んだ。


「学園祭、頑張らなくちゃね」

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