お姉ちゃん


千華達は雫に言われた通り、千華の誕生日に雫の家にやってきた。


「これ......会長の家?」

「そう。私も最初はビックリした」


門の前で立ち尽くしていると、音海家の黒服がやってきた。


「長瀬様ですね、お待ちしておりました。庭にバーベキューセットと食材が用意してありますので、遠慮せずにお使いください」

「あ、あの、花見と聞いていたのですが」

「もちろん、お団子もございます!ただ、桜を見なが食べるお肉も最高ですよ!それではごゆっくりお楽しみください」


黒服の人は家の中へ戻っていき、お父さんは少し引き気味に言った。


「せ、せっかくだし、頂こうか」

「食べる食べる!会長が用意したお肉でしょ?全部食って、会長の夜ご飯無くしてやろう!」

「花梨、失礼だぞ。聞こえたらどうする」

「あ、雫からメッセージだ。なになに?逆に食べきれなかったら、全額払ってもらうわね......だって。聞こえてたみたい」

「全額って幾らよ......A5ランクって書いてるわよ?」

「大丈夫大丈夫!絶対食べきる!」


沢山のお肉と野菜、ジュースとお酒が置かれてあり、四人は桜を見ながらバーベキューを始めた。


「こうやって四人でバーベキューする日がくるなんてな」

「前までは食卓に出てこなかった人がいるもんね」

「は?千華、なんか文句あるの?」

「ううん。今こうやって四人でいるのが嬉しい!」

「バッ、バカなんじゃない?」


千華と花梨の間には、まだ少し溝があるものの、普通に会話できるほどには仲良くなっていた。


「花梨、左手じゃ食べ辛そうだね、はい、あーん」


千華が花梨に肉を食べさせようとすると、花梨は頬を赤らめ、千華のスネに蹴りを入れた。


「いったーい‼︎なにすんの‼︎」

「自分で食べれるっての!」

「はいはい!分かりましたよ!ふん!」


それから1時間後、お腹いっぱいで、四人はブルーシートに横になり、まだまだ残っている食材を見ながら黄昏ていた。


「あー、借金かなー」

「借金生活とか勘弁してー」

「花梨が調子に乗るからだよー」

「うるせぇ」

「うわー、酷い」

「てか、もう本当に食べれない!蓮先輩呼ぼ」

「えっ⁉︎なんで⁉︎」

「食べてもらう。あの人いい人そうだし、呼んでよ」

「とりあえず連絡してみるけど」


その頃蓮は、乃愛と瑠奈と林太郎と一緒にゲームセンターにいた。


「ねぇ、林太郎くん」

「どうした?」

「雫先輩の家に行くと、焼肉食べられるらしいよ」

「タダで?」

「みたいだよ?」

「俺は行きたいけど、あの二人いつ終わるだろう」


瑠奈と乃愛先輩はパンチングマシーンで、どっちのパンチ力が強いかを何回も勝負していた。

もちろん、乃愛先輩が全勝中だ。


「乃愛先輩」

「おりゃ‼︎」

「あ、あの」

「どうしたの?」

「雫先輩の家でバーベキューやらないかって連絡がきて」

「雫の家⁉︎行こ行こ!」

「私も行きたい!」


すると乃愛先輩は、パンチングマシーンに肘をついて決めポーズをし、ドヤ顔で言った。


「敗北の味を知らないのもつまらないものだね〜。まぁ、代わりに肉を味わうとするか」

「ママー!変なお姉ちゃんがいるー!」

「シッ!見ちゃダメ」


知らない男の子に指を指され、乃愛先輩は顔が真っ赤になり、瑠奈は笑い転げた。


「あーははははは!言われてやんのー!」

「う、うるさい!」


乃愛先輩は自爆してしまったが、とりあえず雫先輩の家に向かうと、長瀬家が完全にダウンしている状態だった。


「来ましたよー」

「蓮先輩、残りのお肉食べて。って、変なのも着いてきてる」

「誰が変なのじゃ!」

「ガリとか絶対に戦力外じゃん」


いつもの林太郎くんなら、ここでうなだれるところだが、今日の林太郎くんは違った。


「今から肉が食えるんだ!筋肉をつけるために肉は必須!」

「とりあえず食べてよ」

「任せろ!」

「千華先輩、生きてます?」

「うぅ......もう食べられない」

「い、生きてるみたいですね。雫先輩はいないんですか?」

「雫は家の中」

「そうなんですか」


状況が分からないが、とりあえずバーベキューを始めた。


「瑠奈、野菜も食べな」

「蓮も肉ばっかじゃん!」

「だって乃愛先輩も肉だけだし」

「んじゃなんで私だけ注意するの?」

「乃愛先輩はいいの!」


乃愛先輩はニヤニヤしながら瑠奈に顔を近づけた。


「私は特別なんだって〜。か!の!じょ!だから」

「ほい」


瑠奈は乃愛先輩の口に生の玉ねぎを突っ込んだ。


「うぇ〜......辛い〜」

「二人ともなにしてるの......」


するとさっきまでダウンしていた千華先輩が立ち上がった。


「ふ、二人は付き合ってるの?」

「はい、最近付き合い始めました」

「新婚〜♡」

「一応言っておきますが、結婚はしてないです」

「そ、そうなんだ......へー......そっか」

「千華先輩?」

「ううん!なんでもないよ!」


それから1時間ぐらいバーベキューを楽しんでいると、誰一人食材に手をつけなくなっていた。


「食った食った〜」

「まだ残ってるじゃん!なにが食った食っただガリ!」 

「これ、完食しなきゃいけないのか?」

「全部食べないと全額支払いなの!借金地獄なの!みんなも食べたんだから、支払い分けるからね!」

「それなら、他の人も呼んでみるよ。僕は梨央奈先輩呼んでみるから、乃愛先輩は結愛先輩、瑠奈は美桜先輩呼んでみて」

「分かった!」


それから三人はすぐにやって来た、ちゃっかり、乃愛先輩と結愛先輩のお父さんもバーベキューに参加してるけど。


千華先輩と花梨さんも少し復活し、みんなで楽しく話しながら桜を満喫している頃、僕は雫先輩が気になっていた。


その頃雫は自分の部屋で、一年生全員のプロフィールを作っていた。


「お嬢様」

「なにかしら」

「開けますよ」

「聞こえてるわ、そのまま用件をお願い」

「かしこまりました。生徒会の皆様も集まり、とても賑わっています、お嬢様も参加なされてはどうかと」

「私はいいわ」

「蓮さんも来ていますよ」


雫はドアを開け、黒服をギロッと睨みつけた。


「あ、貴方、前もヘアゴムの時に余計なことを言って、どういうつもり?」

「ですが、家では大事そうにオレンジのヘアゴムを腕に着けてらっしゃるじゃないですか」

「口答えかしら?黒いのも一緒に付けてるわよ」

「黒いのは、お姉様が使っていたやつですよね」

「貴方、本当にデリカシーがないわね。私の担当を降りてもらうわよ」

「もっ、申し訳ありませんでした!二度と無駄口をきませんので、お許しください!」

「次はないわよ」

「はい!」

「お父様を庭に呼びなさい。私も行くわ」

「かしこまりました」


数分後、雫先輩が校長先生と一緒に庭にやってきて、千華先輩の両親はすぐに起き上がり、正座をした。


「こんにちは、寛いだままで結構ですよ。君が花梨ちゃんだね」

「うん」

「随分と問題を起こしてくれたみたいだね」

「か、花梨、謝りなさい」

「いやいや、謝れと言われて下げる頭に価値などないですよ?」

「も、申し訳ありません!」

「花梨ちゃん」

「は、はい......」


さすがの花梨さんも雫先輩のお父さんの風格に圧倒されたのか、敬語になってきている。


「君は......」


あ、これ出るな。


「パーフェクトだ‼︎」

「え?」


やっぱりな。


「君は色んなものと戦った!一度は命を投げ捨てたが、君は生きている!それだけでパーフェクトなんだ‼︎」

「あ、ありがとうございます」

「今日は楽しんでいくといい。ここにいる人は全員パーフェクト!私達が用意した肉を食べる資格のある人材だ!それじゃ、私は仕事が少し残っているのでね」


校長先生は家の中に戻っていき、雫先輩は花梨さんを見つめていた。


「な、なに見てるの?」

「元気になってよかったわね」

「まぁね」

「......」

「なんなの?」

「花梨さん、生徒会に入りなさい」

「......は?」


すると美桜先輩は慌てて話に割って入った。


「ま、待ってよ雫!私でも誘われたことないのに!」

「なぜ美桜さんを誘う必要があるのかしら」

「そんな〜......」


梨央奈先輩は優しい笑顔で花梨さんを見つめた。


「生徒会においで」

「ちょ、ちょっと待ってください!鷹坂高校の生徒会は凄いと聞きました!花梨に勤まりますか?」

「千華さんですらできています。それが答えです」

「なら大丈夫ですね!」

「お父さん⁉︎」

「花梨さん、後は貴方が決めることよ」

「......しばらく保留で」

「分かったわ。返事は急がなくて大丈夫よ」

「うん」


話が終わると、結愛先輩は雫先輩の制服を軽く引っ張り、雫先輩に肉を食べさせようとした。


「あーん」

「自分で食べるわよ」

「あーん」


雫先輩は僕達に背を向け、髪を耳にかけながら結愛先輩に食べさせてもらった。


「美味しい?」

「美味しいわね」


すると結愛は、周りに聞こえないように小さな声で言った。


「蓮が焼いたやつ」

「だ、誰が焼いても同じよ」

「ふーん」


そんな意味深な会話をしているとは知らずに、僕はストローを咥えている花梨さんに話しかけた。


「花梨さん、ごめんなさい」

「なに謝ってるの?」

「僕のせいで飛び降りたんじゃ......」

「うん、そうだね」

「ごめん」

「蓮先輩のおかげで人生を賭けれた。ありがとう」

「どういうこと?」

「知らなくていいよー」

「ま、まぁ、怒ってないならよかった」

「うん」


そういえば、千華先輩に話聞かなきゃ。


「千華先輩」

「ん?なに?」

「花梨さんが起きたら話したいことあるって言ってましたけど、あれってなんの話ですか?」

「あー......いや、あれはもう話せなくなっちゃった!気にしないで!」

「わ、分かりました」


一瞬、無理に明るい表情をしたように見えたけど、多分深追いしないほうがいい気がする。


「あ、そういえば、お誕生日おめでとうございます!」

「ありがとう!その言葉だけで嬉しい!」


それから、みんなで残りのお肉も食べきり、桜を見ながらのんびりしていると、雫先輩は千華先輩達に携帯を向けた。


「家族写真を撮りましょう。桜の木の前に並んでください」


花梨さんは少し照れ臭そうだったが、素敵な家族写真が撮れ、その日のうちにプリントアウトし、雫先輩は写真を綺麗な白い写真立てに入れてプレゼントした。


「今日はありがとうございました!いい思い出になりました!」

「それならよかったです」


みんなで後片付けをした後に帰宅し、その日の夜、花梨は千華の部屋に訪れた。


「千華」

「どうしたの?」

「い、一応聞くんだけどさ」 

「うん」

「本当に家族になってくれるの?」

「当たり前でしょ!私はもう逃げないよ」

「そっ、そっか......そうなんだ」

「本当にどうしたの?」

「別に。おやすみ、お......お姉ちゃん」

「......今なんて⁉︎もう一回言って!」

「黙れ‼︎殺すぞ‼︎」

「なんでー!」


その日の花梨は幸せそうに眠ったが、千華は蓮と乃愛が付き合っていた事実から、複雑な心境だった。

(なんでだろうな......私はいつも、一歩出遅れちゃう......)

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