ヒント地獄


左、2、ポの三つのヒントじゃ何も分からず、僕達は理科室へ向かった。

理科室も何人かの生徒がヒントを探していたが、瑠奈が最初になにか見つけた。


「蓮!あれは⁉︎」


瑠奈が指を差すと他の生徒が群がり、一人のマジシャンの様な格好をして、何故か鳩の餌を片手に持った男子生徒がビーカーを手に取った。


「瑠奈!大丈夫⁉︎」


瑠奈が人混みを掻き分けて出てくると、小声で教えてくれた。


「ビーカーの中に紙があってね、なんでも包み込んでしまう部活ってなーんだ?って書いてあった」

「なぞなぞか.......」

「包み込む部活?」

「......乃愛先輩だ。林太郎くん、放送室に行こう」

「なんでだ?」

「物を包む包装、包装部、放送部」

「蓮!俺の頭には漢字が浮かんだぞ!」

「え?え?私全く分からない!」

「瑠奈は頭いいのに、なんで分からないの?とりあえず行こう」


放送室に行くと、車椅子に座った熊が居た。


「乃愛先輩?」

「蓮!早かったね!」

「理科室の謎謎、乃愛先輩のことじゃないですか?」

「最初はグー!ジャンケンポン!」


いきなり始まったジャンケンで、僕は慌ててチョキを出した。


「あー、蓮負けちゃった。次誰?」

「よく分かんないけど、俺やります」

「最初はグー!ジャンケンポン!」


林太郎くんはパー、乃愛先輩はチョキを出して、林太郎くんも負けてしまった。


「ラストチャンス!チビ瑠奈、かかってこい」

「一言余計だチビ」

「あ?ジャンケンしてあげないよ?」

「はいはい、最初はグー、ジャンケンポン」


瑠奈はパーを出し、乃愛先輩がグーを出した。


「よりによって瑠奈に負けるとか最悪」

「で?なに?」


すると乃愛先輩は紙に(あ)と書いて渡してくれた。


「私にたどり着いたのは蓮達が最初だから頑張って!」

「ありがとうございます!」


左、2、ポ、あ。全く分からない......あと10個もあるしな......でもこういうの、謎解きみたいで楽しい!


「んじゃ、他を探しに行きますね!」

「あ!待って!」

「どうしました?」

「赤、黄色、青の絵具を同じ量混ぜた苦い飲み物ってなーんだ!」


また謎謎か......


「美術室行こう!」

「さすが瑠奈!実際に絵具を混ぜるんだな!」


その時、他の生徒も放送室にたどり着き、僕達は美術室に急いだ。

美術室には、パレットと赤、黄色、青の絵具が用意されていた。


「私が混ぜる!」


瑠奈は同じ量の三色の絵具をパレットに乗せ、濡れた筆で混ぜ始めた。


「黒?」

「黒だね」

「黒だな」


黒の苦い飲み物......


「私分かっちゃった!」

「なに⁉︎」

「ブラックコーヒー!」


林太郎くんは顔をしかめた。


「だとしても、どうしたらいいんだ?」

「とりあえず、一階の自販機で買ってみる?」

「そうするか」


三人で自販機の前に行くと、他の生徒が熊の前でブラックコーヒーを飲んでいた。


「あ、美術部の人だ。美術部なら絵具混ぜなくても答えを知ってたんだ」 

「先越されたー」

「私達も早く買おう!」


自販機でブラックコーヒーを買うと、熊が喋りだした。


「ヒントを解いた人が飲み干してね!」

「睦美先輩だ」


先にブラックコーヒーを飲み干した生徒は、睦美先輩から一枚の紙を貰ってどこかへ走って行った。

でも焦らなくていい、多分体育館の時計と床の文字には気付いてないだろうし。


「とりあえず瑠奈、早く飲んで!」

「う、うん!......ぶぇ〜」

「汚いよ瑠奈!」


瑠奈はブラックコーヒーを口に含んだ瞬間、口から全部出してしまった。


「瑠奈頑張れ!ほら、そのコーヒーは蓮の愛が詰まったスペシャルコーヒーだ!」

「林太郎くん何言ってるの⁉︎」

「すごいぞ瑠奈!そのまま一気だ!」


瑠奈は眉間にシワを寄せながら、ブラックコーヒーを一気に飲み干すと、いきなり僕に抱きついてきた。


「蓮の愛は私のもの」

「瑠奈、コーヒー臭いよ」

「な、なに抱きついてるの⁉︎」

「なに?睦美先輩、もしかして蓮が好きなわけ?そうだとしたら、動きが鈍い今のうちに消してあげるけど」

「はい!おめでとう!」


睦美先輩は話を逸らすように瑠奈に紙を渡し、僕達は周りの生徒に見られないように紙を開いた。


「長?」


左、2、ポ、あ、長......ますます分からなくなってきた。


「とにかく次を探そう!」


次に一度、三年生の教室を探し回ったが何も見つからず、廊下で同じクラスの女子生徒に会った。


「瑠奈ちゃん!ヒント見せ合おう!」

「いいよ!」


女子生徒が見せてくれたのは、全部僕達が解いたヒントだけだったが、有力な情報を教えてくれた。


「先輩が話してるの聞いたんだけど、雨の日ってどんな意味だろうって話してたよ」

「雨の日?」


きっとその先輩はどこかでヒントの紙を見つけたんだろう。雨の日で連想するものは傘しかない。


「瑠奈、林太郎くん、行こう!」


僕達は走って傘立てに向かい、傘を確認した。


「ほら、全部の傘に紙が入ってる」

「周りにバレないようにね」

「うん。......そ?」


左、2、ポ、あ、長、そ。まだ繋がりそうな文字は無さそうだな。


「蓮、瑠奈、これ見ろ」


林太郎くんが透明傘を広げると、そこには文字が書いてあった。


「黒と白、ちゃんと裏返そう......また問題かな」

「黒と白で裏返すってなに?」

「俺には分からないな」

「蓮は?」

「今考え中......もしかしてオセロ?」

「それだよ蓮!でも、学校にオセロなんかある?」

「前に、千華先輩と梨央奈先輩がやってるの見たかも」

「どこで?」

「着いてきて」


生徒会室に向かうと、テーブルに白に挟まれた黒のオセロの駒が置かれていた。


「ビンゴだ!」


黒い駒を裏返すと、白い駒に(る)と書かれていた。


「る......」


駒を元に戻し、他にヒントがないか生徒会室を探すと、テーブルの下にもオセロの駒が置かれてあった。


「あったあった!」


駒を裏返して白い駒を確認すると(れ)と書いてあった。


「一旦全部メモしようか」

「俺がする。左、2、ポ、あ、長、そ、る、れ。全然分かんないな」

「蓮、これは開けていいの?」

「大丈夫だよ。乃愛先輩達のパーカーが入ってるクローゼットだから」

「ふーん。きゃー‼︎‼︎」

「どうしたの⁉︎」


クローゼットの中には顔の両サイドが潰れた熊が入っていた。


このサイズ感......


「結愛先輩?」

「うん。頭挟まって動けなくなった」

「どうやって入ったんですか」

「千華に無理矢理押し込まれた」

「あぁ......やりそうですね」

「さて問題です」


あ、普通に問題出すんだ。


「食べれない大きなドーナッツってなーんだ」

「簡単ですね」

「え、なんで分かるの」

「簡単すぎです」


すると瑠奈は、結愛先輩が動こないことをいいことに、熊の鼻を握り潰して上下に激しく揺らした。


「おらおら!」

「やめろ!」 

「前にボコボコにされたお返しだ!」

「後でお前の鼻で同じことしてやる!」

「あっそ。ずっとそこに居ろチビ」


瑠奈は勢いよくクローゼットを閉めた。


「瑠奈。私はお前を許さない......一生」


その結愛先輩の言葉に、瑠奈は体がブルッと震えた。


「ビビるなら最初からしなければいいのに」

「ビ、ビビってないし。んで、答えは?」

「浮き輪」

「は?浮気?」

「林太郎くん大変。瑠奈の耳が馬鹿になった」

「そうだな。とりあえずプール行ってみるか」


外にあるプールに来ると、沢山の釣竿が用意されていて、糸先には磁石が付けられていた。

プールの中には青いカプセルと黄色のカプセルが沢山沈められているが、何故か黄色いカプセルは少し小さい。


「やば、他の生徒来たよ」

「とりあえず釣れば良いんだよね?」

「三人で竿振りまくればいける!」


すると赤髪の女子生徒がやってきて、あっさり磁石で釣り上げ、青いカプセルに入っていた紙を広げると、黄色いカプセルも釣り上げでプールを後にした。


「釣れた!」

「ナイス瑠奈!」


瑠奈が釣り上げたカプセルは青色で、中に入っていた紙を広げると(は)と書いてあり、下に小さく、黄色のカプセルも釣り上げてねと書いてあった。


「黄色のカプセルは小さくて難しいよ」

「無闇に竿を振るより、狙った方がいいかもな」


周りを見渡すと魚取りの長い網があり、釣りは二人に任せて、僕は網で取れないか挑戦してみることにした。


「網じゃ届かないなー。もうちょっとなんだけど」

「糸切って、網の先に磁石縛り付けたら楽勝じゃない?」

「瑠奈......天才?」

「私を誰だと思ってるの?」


その時、林太郎くんは言ってしまった。


「天才チビ子ちゃん」

「死ね‼︎」


バッシャーンという音が聞こえ、気づけば林太郎くんの姿は無かった。


「あーはっは‼︎ザマァみろ‼︎」

「瑠奈!なにやってるの!」


林太郎くんはプールから上がってこない。


「溺れてないよね⁉︎」

「ぶはっ!どうせ濡れたならと思って、手掴みで取ってやったわ!」

「す、すごーい......」


林太郎くんって、こんなに前向きだっけ。


林太郎くんもプールから上がり、早速黄色いカプセルを開けた。


「◯庭二羽鶏がいる」

「この学校に鶏なんていないよ?」

「この丸はなんだろう」

「この学校で庭が付く場所は中庭だけだな」

「中庭はデカイ池しかないよ」

「でも行ってみよ!」 

「俺はここで脱落」

「え?」

「さすがに濡れたままじゃな。着替えたいし」

「分かった。僕と瑠奈でなんとか探すよ」

「おう!頑張れ!」


左、2、ポ、あ、長、そ、る、れ、は。ヒントはあと5個!


僕と瑠奈は中庭に急ぎ、中庭で鶏を探した。


「もう!この学校無駄に広すぎ!」

「鶏なんていないね」

「中庭じゃないんじゃない?」

「んー......これ、引っ掛け問題かもしれない」

「どういうこと?」

「◯庭二羽鶏がいるって書いてあるでしょ?普通なら、◯庭には二羽鶏がいるって書かない?」

「ん?よく分かんないよ」

「それに、◯庭の庭をひらがなにすると、丸には二羽鶏がいるになるんだよ」

「てことは、中庭じゃなくて丸?」

「丸ってなに」

「私が分かるわけないじゃん!」

「学校にある丸い物......」

「ボール、金玉」 

「やめて」

「丸ねー......地球儀?」

「僕達の教室にあるやつ?」

「お化け屋敷するのに邪魔だからって梨央奈に渡して、どこか持っていってもらったじゃん」

「でも、地球儀に鶏ってどういうこと?ありえないよ」

「もう一回紙見せて」

「はい」


瑠奈は問題が書かれた紙をじっと見つめだした。


「......円にハニワ、二羽、鳥がいる」

「何言ってるの?」

「丸の読み方を円に変えて、区切る場所を変えてみたの」

「あ!」


その時僕は、理科室で見たマジシャンを思い出した。


「なに⁉︎」

「鶏じゃなくて、二羽の鳥ならいるかもしれない!」

「どこ⁉︎」

「学園祭の出し物でマジックしてる人がいて、鳩がいるはず!」

「マジックってことは、野球部がやってなかった?」

「部室に行ってみよう!」


野球部の部室前に来ると、二羽の鳩が入った鳥カゴに日傘をさして、鳩を休ませていた。


「二羽の鳥がいる場所の円にハニワがあるはず」

「入ってみよう!」


そして野球部の部室を開けてすぐに目に入ったのは、円形の早着替え用カーテンだった。


「このカーテンって、どうやって上げるの?」

「この紐引くんだよ!」


瑠奈が紐を引いてカーテンが上がると、そこにはハニワの置物を持った熊が居た。そしてハニワのオデコに(ッ)と書かれている。


「わっ‼︎熊‼︎」

「問題です!」


あ、梨央奈先輩だ。


「パンはパンでも食べられないパンはなーんだ!」

「フライパン」

「カビたパン」

「ブッブー!答えはホットケーキでしたー!......言っちゃった」

「梨央奈先輩、ホットケーキは食べれます」

「ほっといた結果だから食べれないよ」

「全部教えてくれますね」

「お、お願い!雫に言わないで!怒られちゃう!」

「言いませんよ」

「よかったー......どう?鍵探しは楽しんでる?」

「楽しい!」

「瑠奈ちゃんは元気だね!」

「ここに辿り着くまでの問題が難しすぎです」

「とりあえず、ホットケーキを頼りに次に行ってらっしゃーい!」

「はーい!」


僕と瑠奈は調理室に向かって走りだした。

そんな中、瑠奈は学園祭が始まってから一番今が楽しいと感じていた。

(蓮と二人で協力プレイ!でももう少しでヒントも集まっちゃう。ずっと続けばいいのに......)


「瑠奈!楽しいね!」

「え⁉︎う、うん!」

(きゃー♡蓮も私と二人で楽しんでる〜♡)

「左、2、ポ、あ、長、そ、る、れ、は、ッ。最終的に何になると思う?」

「私が分かってるのは一部!あ、そ、る、れ、はを入れ替えると、それはある!」

「すご!」

「当たってるか分からないよ?」

「可能性としてはあるよ!」


瑠奈は楽しそうな蓮を見て、ますますやる気を出した。


「私、蓮の為にもっと頭使うね!」

「任せたよ!」

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