美少女メイド集団


学園祭の朝、学校では全生徒が最終準備に追われているが、この慌ただしいのに楽しげな空気感は好きだ。


「れーん!林太郎!これ持って行って!」


メイド服を着た瑠奈が大きなダンボールを持って階段を上がってきた。


「なにこれ」

「料理用のプレートとか!」

「うわっ、重た」

「だから二人で持っていってよ」

「任せろ」

「了解」


瑠奈は想像通りメイド服が似合う。教室でも女子生徒のメイド服姿に男子生徒は鼻の下を伸ばしながら準備を続けた。


最終準備を終え、何人かはチラシを持って昇降口前で待機し、僕達は教室で学園祭のスタートを待った。


「まだ30分もあるねー」

「そうだなー」


その時、一人の女子生徒がダンボールを持って走ってきた。


「間に合った!」

「よかったー!」


なにを持ってきたのか気になっていると、中から出てきたのはメイド服だった。


「メイド服足りなかったのかな」

「いや、みんな着てたぞ?」

「これは男子の衣装!早く着替えてきて!」

「......はー⁉︎」

「メイド喫茶の本当のコンセプトは、女装メイド喫茶だから」

「聞いてないよ!瑠奈は知ってたの⁉︎」

「ご、ごめんねー」

「そんな!」

「早くして!時間ないんだから!」


僕達はメイド服に着替えさせられ、顔を真っ赤にして教室の隅に座り込んだ。

だが、瑠奈は嬉しそうに僕と林太郎くんの写真を撮りまくり、そうこうしているうに学園祭がスタートした。


頼む......生徒会のみんなが来ませんように......


学園祭がスタートしてすぐ、メイド喫茶だというのに客は女性ばかりで、容赦なく僕達の写真を撮ってくる。


「ねぇ君」

「ぼ、僕ですか?」


大人の色気ムンムンな茶髪お姉さんに声をかけられた。


「そう君、可愛いね」

「ありがとうございます......」

「連絡先教えてよ、君が18になったら相手してあげるわよ?」

「あ、あはは......連絡先はちょっと......」

「どうして?年上は嫌い?」


好きです‼︎でも初対面だし‼︎


「こいつ、男が好きなので」

「林太郎くん⁉︎なに言ってるの⁉︎」

「あら、それもそれでいいわね♡女好きに調教してあげたい♡」


ヤバイよ!このお姉さんヤバイよ!高校の学園祭に来ちゃいけない人だよ!


「ほら!仕事仕事!」


瑠奈が無理矢理僕達を引っ張ってくれたおかげで助かった。


「ありがとう瑠奈」

「まったく、ハッキリ断らないと」

「一応お客さんだし......」

「いいの!なんかあれば梨央奈を呼ぶ!」

「それは心強い」

「蓮くん⁉︎」


梨央奈先輩だ〜‼︎‼︎


「すっごい可愛い♡」


梨央奈先輩は躊躇なく抱きついてきて、微かに頬を赤くしながら、僕のお尻を撫でてきた。


「ちょっと!なにしてるんですか!」

「このままベッド縛り付けて、一生可愛がりたい♡」

「瑠奈!梨央奈先輩もヤバイ人だった!助けて!」

「い、いいんじゃない?元カノだし、可愛がってもらいなよ」

「バカなの⁉︎」


そうか、瑠奈が僕を好きじゃなくなると、こういうパターンが生まれるのか、それはそれで問題だ。


「梨央奈先輩、離してください!」

「しょうがないなー」

「あー!本当にメイド服だー!」


乃愛先輩の声が聞こえて死にたくなりながら入り口を見ると、生徒会が全員集合していた。


「あぁ、死にたい」

「あははははは!蓮先輩がメイド服着てるー!」

「みんなも来たんだ!」


すると同じクラスの女子生徒達が生徒会のみんなを囲み始めた。


「メイド服余ってるので、是非着てください!」

「私達はいいわよ」

「いいじゃん雫!思い出じゃん!」

「思い出......」


なぬ⁉︎みんなのメイド服姿だと⁉︎見たい‼︎やっぱり生きる‼︎


「少しだけなら」

「やったー!」


生徒会の美少女集団がメイド服を着る、その噂は光の速さで広まり、僕達のクラスの前や廊下に人集りができ、生徒会が現れるのを待ち望んだ。


「なんか凄いことになってるな」

「みんな、怖いところを除けば頭がいい美少女集団だからね、意外と男女問わずに人気の的なんだよ」

「確かにな......あっちー‼︎‼︎」

「どうしたの⁉︎」


瑠奈が焼きたてのパンケーキを林太郎くんの手に乗せ、林太郎くんを睨んでいた。


「なに?生徒会のみんなが可愛いの?」

「冗談冗談!」

「ふんっ」


その時、廊下が騒がしくなりはじめた。


「きゃー!」

「可愛いです!」

「雫可愛いよー!」

「梨央奈せんぱーい!」  


アイドルの登場のように歓声を浴びながら僕達の教室に入ってくると、雫先輩は両手で顔を隠していたが、みんなの可愛さにドキッとしてしまった。

早速みんなに囲まれて、褒め言葉の嵐が起きた。


「可愛いー!」

「乃愛先輩と結愛先輩、お人形さんみたーい!」

「千華先輩と花梨先輩も、ツンデレっぽくていい!」


パシャパシャと写真部や新聞部のカメラのシャッター音が止まらなく、写真部は雫先輩に言った。


「どうか顔を見せてください!」

「いやよ」

「そこをなんとか!」


千華先輩と梨央奈先輩が雫先輩の腕を引っ張ると、雫先輩は頬が赤くなっていて、それを見た女子生徒達はテンションが上がった。


「きゃー!雫先輩赤くなってる!可愛い〜!」


雫先輩は一切僕の方を見ずに、ずっと恥ずかしがっていた。

こんな雫先輩、去年じゃ絶対にあり得なかった......自分で気付いてるから分からないけど、雫先輩はもう鬼じゃない。厳しい時の方が多いけど、本当いろんな表情をするようになった。


「蓮もなにか言ってあげなよ!」

「そうだよ」


乃愛先輩と結愛先輩に煽られ、素直な気持ちを口にした。


「みんな可愛いです‼︎」

「違うでしょ、雫先輩に言えって言ってるの」


花梨さんは何故名指して雫先輩の感想を言わせたいのか謎だけど、とりあえず感想を言った。


「雫先輩もかなり可愛いです!似合ってますよ!」

「見て見て!雫先輩真っ赤!」

「可愛すぎるよ〜!ギャップ萌えだよ〜!」

「もっ、もういいでしょ?制服に着替えるわ」

「次も雫先輩が会長やれたらいいのにー」


その瞬間、生徒会のみんなは雫先輩を教室から押し出した。


「よし!制服に着替えよ!」


あー、ずっと眺めていたかった。


「蓮、結局生徒会はどうするんだ?」

「学園祭が終わる時までには決めるつもり」

「そうか」


それから午前中はずっと働き、やっと自分の仕事を終えて制服に着替えることができた。


「瑠奈は林太郎くんとデート?」

「うん!」

「楽しんでね!僕も適当に楽しむよ!」

「了解!どっかで合流できたらいいね!」

「うん!行ってらっしゃい!」

「行ってきまーす!」


さて、とりあえず何か食べたいな。


その頃雫は、生徒会室でみんなに茶化されていた。


「雫があんなに顔赤くなるなんて」

「初めて見た!」

「蓮先輩と学園祭周れば?」

「な、なんで私が」

「好きなんでしょ?」 

「花梨さん!」

「もうみんな分かってるって」


雫は少し顔を赤くしながらみんなを見ると、みんなはニヤニヤしながら雫を見つめていた。


「蓮くんは鈍感だから、誘っても好きなことはバレないと思うよ?」

「わ、私じゃなく、乃愛さんが一緒に」

「何のために別れたと思ってるの!学園祭なんて大チャンスだよ⁉︎二人で楽しみなって!」

「ほら、行った行った!」


雫は生徒会室から出され、笑顔のみんなに見送られて動揺しながら生徒会の前を立ち去った。


そして残された生徒会メンバーは、花梨を除いて抱きつき合い、急に声を出して泣き始めた。


「は⁉︎なに泣いてんの⁉︎」

「これで本当に蓮を諦めなきゃいけないなって......」

「へー、そんなことで泣くとか情けない先輩」

「なんだとー‼︎先輩を馬鹿にするな‼︎」

「うっせ」


花梨はソファーに座って目を閉じた。

(ずっと好きで、その気持ちを一切口にできなかった私が......1番情けないんだけどね......)

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