幸せだったのかな
なんとなく気分で学校を二日休み、二日目の夜、とうとう鬼のお面をつけた雫先輩が家にやってきた。
「こ、こんばんは。今更鬼のお面でビックリしませんよ?」
「お誕生日おめでとう」
「え、ありがとうございます」
「これは瑠奈さんと林太郎くんから」
雫先輩はカバンからプレゼントを取り出して渡してくれた。
瑠奈からは何故か亀のストラップ、林太郎くんからはUFOキャッチャーで取ったであろう小さめの宇宙人のぬいぐるみ。
「これが結愛さんと梨央奈さんと千華さんから、そしてこれが乃愛さんからよ」
「プレゼントがいっぱいだ」
結愛先輩と梨央奈先輩と千華先輩からは同じ恋愛成就のお守りを貰った。嫌味かな。
「乃愛先輩からはなんですか?」
「それも開けてみらたいいじゃない」
「はい......」
袋を開けると、中には2人の思い出の写真のアルバムと、一枚の手紙が入っていた。
「蓮へ」
「人前で読むの?」
「別にいいかなって」
「そう」
「蓮へ、私は蓮が好きです、本当に大好きです......でも私は知ってしまいました。雫が蓮を好きだって⁉︎」
「か、貸しなさい‼︎」
雫先輩は僕から手紙を奪おうとしたが、常識人の雫先輩は玄関から先に勝手に上がって来なかった。
「雫が蓮を好きだって知って、私は雫に幸せになってほしいって強く思いました。私の勝手を許してください。そして嫌いになって振ったわけじゃないことを信じてください。この写真は、私も大事な宝物です!蓮も大切気してくれたら嬉しいです。誕生日おめでとう......」
「嘘よ!その内容は全部嘘!」
「この流れで嘘つきます⁉︎」
「わ、私が蓮くんを好き?ふざけないでちょうだい」
「でも、手紙にはそう書いてますよ?顔赤くなってますし」
雫先輩は両手で顔を隠したが、僕はすぐにツッコんだ。
「お面の色ですけどね!」
「上がらせてもらうわね」
「え、それはちょっと!待ってください‼︎調子に乗りましたごめんなさい〜‼︎ぐはっ‼︎」
雫先輩に背負い投げされ、硬いフローリングに背中を打ってしまった。
「私をおちょくったことを反省しなさい」
「はい......」
「それでご両親は?」
「あの2人ラブラブなんで、よく外食に出かけるんですよ」
「いいことね」
「ちなみに、花梨さんと雫先輩からプレゼントはないんですか?」
「花梨さんは直接じゃないと渡さないらしいわよ。月曜日は学校に来なさい」
「はい。雫先輩からは?」
「あるわよ」
「え⁉︎」
あー、さっきから雫先輩の純白のパンツが丸見えなんだよなー。一瞬でも動揺して悟られたら殺されるし、静かに堪能しよう。
「いつまで倒れているの?立ちなさい」
「は、はい!」
堪能タイムはすぐに終わってしまった。
「これが私からのプレゼントよ」
「......」
雫先輩がくれたのは、生徒会立候補の書類だった。
「みんなより早く手に入れられて良かったわね」
「いや、要らないんですけど」
「持つだけ持っていなさい」
「分かりました」
「私は帰るわね。乃愛さんからの手紙を信じちゃダメよ」
「んじゃ乃愛先輩は僕が嫌いなんですか?」
「そこじゃないわよ!そこは信じなさい!」
雫は蓮の家を出て、すぐに乃愛に電話をかけた。
「もしもし?プレゼント渡してくれた?」
「なんてこと書いてくれたのよ!」
「え?」
「手紙、目の前で読まれたじゃない」
「あ、ごめん」
「ごめんじゃ済まされないわよ」
「でもこれで、蓮も雫を意識するかもね!」
「困るわよ」
「どうして?」
「どうしてって」
「もういいじゃん、バレちゃったんだし」
「月曜日、グラウンドにある鉄棒の場所に来なさい」
「嫌だって言ったら?」
「来なさい。いいわね?」
「う、うん」
月曜日になり学校に行くと、何故か乃愛先輩がナマケモノのポーズで鉄棒に縛り付けられていた。
「蓮!助けて!」
見なかったことにしよう。きっとそれが正しい。
「れーんー‼︎」
乃愛先輩を無視して教室に行く途中、花梨さんに声をかけられた。
「あ、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
「これプレゼント」
「開けていい?」
「いいよ」
花梨さんに渡された小さな黄色い袋を開けると、中にはゴリラの置物が入っていた。
「ゴリラ......」
「可愛くない?」
「可愛くない」
「は?んじゃ返して」
「可愛い可愛い!」
「よかった。大事にしてね」
「うん、ありがとう」
なんでゴリラなんだろう......
そして教室に行くと瑠奈と林太郎くんが話していて、僕を見てすぐに2人は目の前まで詰め寄ってきた。
「なんで休んでたんだ?」
「体調悪いの?」
「大丈夫大丈夫!ちょっと休憩してただけ」
「そうなのか」
「2人とも、プレゼントありがとうね」
「蓮、宇宙人好きだったろ」
「うん、そんなこと一度も言ったことない。瑠奈はなんで亀?」
「ウサギと亀のストラップが売ってて、やっぱり蓮は頑張り屋さんの亀かなって!」
「な、なるほど。一応携帯に付けてみた」
「本当だ!嬉しい!」
「てか、乃愛先輩はなんであんな目に?」
「知らない、学校きたら吊るされてた」
「雫先輩を怒らせることでもしたんじゃないのか?」
「それしか考えられないか」
「はーい!座りなさーい、今日も修学旅行のお話でーす。あら、蓮くんおはよう」
「おはようございます」
今日も修学旅行の話し合いと学園祭の準備が続き、放課後になって生徒会室に行くと、乃愛先輩が腕に付いたロープの痕を撫でながら不貞腐れていた。
「今日の仕事はなんですか?」
「そうね、全員でグラウンドの草むしりをしてちょうだい。私も後で行くわ」
それから言われたとおり草むしりをしていると、雫先輩が来る前にサッカー部の部活が始まって草むしりを中断しなければいけなくなり、生徒会室に戻って雫先輩に状況を説明すると、雫先輩は急に目を鋭くさせた。
「今日はサッカー部の部活はないと聞いていたけれど」
「でもしてますよ?」
窓からグラウンドを見つめ、サッカー部が部活をしているのを確認すると、机に置いていた書類を引き出しに入れて生徒会室を出た。
「どうするんですか?」
「やめさせるわ」
「別に良くない?」
「私達の仕事がなくなるじゃない」
むしろありがたいけど。
僕達は全員でグラウンドに行き、一度サッカー部の練習を中断させた。
「なんですか?」
「今日は練習の日じゃないわよね」
「別にいいじゃないですか。強くなるためです!」
「ルールも守れない人間が強くなったら、それこそ迷惑よ」
「んじゃ、練習しちゃダメな理由を教えてください」
「グラウンドを見なさい、雑草が生えているわ。これを綺麗にするのも私達生徒会の仕事、練習が無いはずの日に練習をされると困るわ」
「練習が終わってからやったらどうです?」
「私達を何時まで学校に居させる気?それに分からないの?草むしりは貴方達の為でもあるのよ」
「俺達の為ですか......分かりました」
なんか分かってくれたみたいだ。
「そういえば、部員に雫先輩のことが好きな後輩がいるんですよ」
「ぶ、部長!」
え、雫先輩のことが好き?まともに話したことなくて好きとか言ってるなら変な人か、林太郎くんみたいなドMだ。
見た目は普通のサッカー少年だけど。
「いい機会だから告っちゃえよ!」
「無理ですよ!てか、言わないでくださいよ!」
生徒会メンバーは、告白したところで答えは分かってると言わんばかりに興味無さ気だ。
「話があるなら早急に済ませてちょうだい」
「ほらほら!」
「んじゃ......お、俺!会長が好きです!付き合ってくだっ」
「却下。サッカー部は早く帰りなさい」
食い気味な却下にサッカー少年は唖然としているが、むしろなんで付き合えると思ったのか、とても気になる。
そして今思えば、入学当初、瑠奈を助けるために雫先輩に告白した僕のメンタル最強すぎるな。
サッカー部がぞろぞろと帰って行き、また草むしりが再開すると、みんな雫先輩が告白されたことに触れずに黙々と草むしりをするのを見て不思議に感じた。
「結愛先輩」
「ん?」
「雫先輩が告白されたこと驚かないんですか?」
「うん」
「千華先輩は?」
「別に驚かない」
「乃愛先輩も?」
「全然驚かない!」
「り、梨央奈先輩もですか?」
「うん、割と日常だし」
「え?どういうことですか?」
「雫って恐れられてる反面、すっごい美人だから気になる生徒も多いんだよ。あとは、雫の優しさを知ってしまった生徒とかね」
「初めて知りました......」
「だから蓮くんが告白した時も冷静だったんだよ」
「言わないでください」
すると、草むしりを休憩していた花梨さんが食いついてきた。
「え、蓮先輩告白したの?」
「一年生の時、いろいろ理由があってね」
「へー、なんで付き合ってないの?」
「そりゃ、雫先輩が誰かと付き合うなんて」
「余計な話していないで、早く終わらせなさい」
「は、はい!」
蓮と雫は、蓮が雫に嘘の告白をした日のことを思い出し、同じことを思っていた。
(あの時付き合うことになっていたら、どうなっていたんだろう。幸せだったのかな......)
そして日は経ち、修学旅行の三日前9月5日、瑠奈の誕生日がやってきた。
「もしもし林太郎くん」
「なんだ?」
「今日って瑠奈の誕生日じゃん?お祝いとかするの?」
「電話ではおめでとうって言ったけど、プレゼントは修学旅行で買おうかなって、東京なら色々ありそうだろ?」
「んじゃ、僕もそうしようかな」
「おう!一緒に祝ってやろうぜ」
「うん!それでさ、キスぐらいした?」
「してない」
「手は?」
「繋いでない」
「なんで⁉︎」
「なんか付き合ってから、恥ずかしいのか分からないけど、変な距離ができた」
「ま、まぁ、好き同士なら大丈夫でしょ」
「そうだな。蓮は新しく好きな人できたか?」
「まだ乃愛先輩が好きかな」
「蓮も大変だな」
「でも、前みたいに話せるようになったから嬉しいんだ」
「よかった。最近元気なかったからな」
「心配かけてごめんね」
「おう。瑠奈にも言ってやれよ?」
「分かった」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます