お疲れ様でした......
「もしもし瑠奈?」
「なっむ〜」
「はい?」
「迎えきたよ」
「んっ、今起きた〜」
「えぇ〜......遅れちゃうから早くして」
「分かった〜」
それから10分後に瑠奈は出てきた。
「早く乗って!」
「二人乗りダメって言ってたじゃん」
「瑠奈が遅すぎるからだよ!今日は絶対遅刻しちゃいけない日だから!」
「確かに」
瑠奈が自転車の後ろに乗ったが、あまり重さを感じなく、スムーズに自転車を漕げた。
「着いたよ。誰かに見られる前に降りて」
「今から生徒会室?」
「うん、先に教室行ってて」
「了解!」
急いで生徒会室に行くと、雫先輩は椅子に座りながら窓の方を向いて空を見ていた。
「誰かしら」
「蓮です。書類を返しにきました」
「そう。そこに置いておきなさい」
「はい」
「体育館に梨央奈さん達がいるから、作業の手伝いをお願い」
「分かりました」
雫先輩は一度も僕の方を向かなかった。
そして体育館に行くと、雫先輩を除いた生徒会のみんなが椅子の位置の微調整をしていた。
「蓮!遅ーい!」
「乃愛先輩、朝から声大きすぎです」
「早く手伝って!」
「はーい」
その頃瑠奈は、誰もいない教室で蓮の席に座り、ボケーっとなにも書かれていない黒板を眺めていた。
「おはよう」
「林太郎、来るの早いね」
「瑠奈も珍しく早いじゃん」
「蓮に迎えにきてもらった」
「そっか」
「昨日、蓮とちゃんと話したんだ。私達、ずっと友達で居続けることになった」
「それで良かったのか?」
瑠奈はネックレスのプルタブを指で撫でながら言った。
「このネックレスに、やっと本当の特別な価値が付いたの。私自身も蓮の特別になった。だからいいの」
「良かったな」
「でも、蓮を困らせる女がいたら私が許さない。ボロボロになっても立ち向かう」
「瑠奈らしいじゃん」
「でしょ!それより林太郎」
「なんだ?」
「チャンス到来じゃん」
「バーカ。俺なんか相手にしてないだろ」
「あ?今馬鹿って言った?林太郎よりテストの点数上なんだけど」
「すまんすまん」
「土下座、はい、土下座」
「手拍子しながら言うな。悪趣味だと思われるぞ」
「はいはい。やめまーす」
蓮は体育館での作業も終わり教室に戻ると、瑠奈が嬉しそうな笑顔で立ち上がった。
「お疲れ様!」
「ありがとう!」
林太郎は瑠奈の笑顔を見て安心したように座ったまま蓮に声をかけた。
「この前はごめんな」
「大丈夫。僕のせいだから」
「なんかあったの?」
「色々あって、俺が蓮を殴っちゃったんだ......る、瑠奈?」
瑠奈はゆっくり林太郎くんに近づくと拳を振り上げた。
「お、落ち着け!」
「黙れ‼︎」
「ぐぁっ‼︎」
林太郎くんは瑠奈に殴られて椅子から落ちて痛みに踠いている......
「ぶん殴るぞ‼︎」
「る、瑠奈?ぶん殴ってから言っちゃ意味ないよ」
「ん、んじゃ、もう一回ぶん殴るぞ‼︎」
「理不尽な暴力!やめてあげて!」
「まぁ、蓮が許してるならいいけど」
しばらく経って、全校生徒は体育館に移動して、卒業生の保護者も集まりだした。
睦美先輩とは、あまり思い出作れなかったな......三年生で唯一まともに話せる先輩だったけど、卒業してからもたまに会えたらいいな。
卒業式が始まる前から少ししんみりモードに入ってしまったが、遂に卒業式は始まった。
「卒業生入場」
沢山の拍手に包まれながら三年生が続々と入場する中、睦美先輩と目が合い、ニコッと笑ってくれた。
それから卒業式はスムーズに進行され、泣いてる三年生も多い。
こんな厳しい学校でも、それなりに思い出はあるのかな。
「在校生代表。音海雫さん」
「はい」
雫先輩はステージに上がり、在校生代表の言葉を贈った。
「送辞。在校生を代表して、お祝いの言葉を申し上げます。この度はご卒業おめでとうございます。これから新しい未来に向かい、進学する人、就職する人、様々な明日を迎えることでしょう。大学でも社会でも、いじめや理不尽な言葉の暴力、そして差別はあります」
雫先輩......卒業式でなに言ってんの⁉︎絶望感持たせてどうすんの⁉︎
「ですが、卒業生の皆さんなら大丈夫だと信じています。この厳しい学校で逃げずに学業を成し遂げたことは、必ず新しい明日の役に立つはずです。もし、自分がいじめや悪口の対象になった時、心の中でこう思ってください。まだ修羅場を経験したことのない、人の痛みを知らない、薄っぺらい人生を歩んだ人なんだな。あぁ、可哀想にと」
雫先輩⁉︎いいの⁉︎本当にいいの⁉︎卒業式ですよ⁉︎
「なにより、卒業生の皆さんが他人を自分の正義で傷つけないことを願います」
いつか雫先輩にも同じこと言ってやろう。いや、言っておいてって瑠奈に頼もう。
「誰かを
そのあと、校長先生と教頭先生からメッセージが送られ、教頭先生が話している間は笑いを堪えるのに必死だったが、無事に卒業式が終わり、教室に戻ってすぐ
ピンポンパンポーン
「生徒会の皆さんは、体育館に集まってください」
ピンポンパンポーン
「え〜、もう後片付けかな〜」
てか、今の呼び出しって生徒会のメンバーじゃなかったな。
「蓮、私も手伝う?」
「瑠奈はゆっくりしてて、終わらなそうだったら呼ぶよ」
「分かった!」
体育館に来ると、雫先輩とタイミングが重なった。
「雫先輩、片付けですか?」
「私はなにも知らないわよ」
「そうなんですか」
そして体育館の中では、梨央奈先輩と千華先輩と結愛先輩と乃愛先輩が、ステージの方を見ているのが分かった。
「お待たせしました」
僕と雫先輩も体育館に入ってステージの方を見ると、そこでは三年生のみんながニコニコしながらこちらを見ていた。
「これはなんの集まりかしら」
「せーの!」
「生徒会のみなさん!厳しくしてくれてありがとうございました!」
サ......サプライズってやつ?
すると、五人の生徒が色紙を持って前に出てきて、雫先輩以外のみんなに寄せ書きの色紙をプレゼントした。
「はい!蓮くんはもっと舐められないようにね!」
「あはは......ありがとうございます」
みんな嬉しそうに色紙を見ていると、なにやら睦美先輩のクラスがコソコソしていた。
「ほら、睦美が渡しなって!」
「で、でも」
「いいからいいから!」
睦美先輩は友達に背中を押されて、少し照れ臭そうに色紙を持って雫先輩の前に立った。
「こ、これみんなで書きました」
雫先輩は無言で色紙を受け取り、耳を疑う言葉を放った。
「くだらないわね」
「し、雫先輩⁉︎なんで⁉︎本当馬鹿なんですか⁉︎」
思わず口走った僕を落ち着かせるように、梨央奈先輩は優しく僕の肩に触れた。
「こんなことをしている暇があるなら、自分の将来を考えなさい。もうここは貴方達がいる場所じゃないのよ」
雫先輩にそう言われ、三年生はガッカリして体育館を後にした。
「雫先輩‼︎見損ないましたよ‼︎」
「蓮くん、落ち着いて」
「こんなサプライズ用意してくれたのに、酷すぎます‼︎」
「全員、教室に戻りなさい。今日は生徒会室に来なくていいわ」
それが雫先輩の照れ隠しだったと知るまで、時間はかからなかった。
僕達在校生は、卒業生を見送るために校門付近に集まった。
すると、卒業生は雫先輩にあんなことを言われた後なのにみんな笑顔で、全員一枚の紙を持っていた。
「まさか会長が手紙をくれるなんてな!お前なんて書いてあった?」
「これこれ、見てみ!」
「おー!全員違う内容って凄すぎじゃね?」
「やっぱり雫会長は凄い人だなー」
雫先輩は卒業生全員の下駄箱に、全て内容の違う手紙を入れていたのだ。
「睦美先輩!」
「瑠奈ちゃん!」
「睦美先輩〜!」
瑠奈は睦美先輩に抱きついて涙ぐんでいる。
「なに泣いてるの?」
「お昼ごはん奢ってくれる人が減っちゃう〜」
「あぁ〜......それは残念だね〜」
「睦美先輩、卒業おめでとうございます!」
「涼風くんもありがとう!」
「睦美先輩の手紙にはなんて書いてありました?」
「それが......私の下駄箱には入ってなかったんだよね」
「え......」
すると乃愛先輩が生徒会室を指差して言った。
「雫だ」
雫先輩は鬼のお面を付けて僕達を見下ろし、窓を開けた。
「むっさん!準備運動!」
「え⁉︎てか、なにそのニックネーム!」
千華先輩はニコニコしながら睦美先輩に準備運動をさせて、準備運動が終わる前に雫先輩はグラウンドに向けて一つの紙飛行機を飛ばした。
「むっピン行けー!」
「ま、またニックネーム変わってる!」
「行けー」
「レッツゴー!」
結愛先輩と乃愛先輩にも煽られ、睦美先輩はグラウンドに走り出し、なんとか紙飛行機をキャッチした。
「紙飛行機......」
睦美が紙飛行機を開くと、そこには雫からのメッセージが書いてあった。
(ちゃんと見ていたわよ。頑張ったわね。睦美さんの明日が幸せでありますよに)
睦美は嬉しさで手が震え、大粒の涙を流しながら生徒会室を見上げるが、そこにはもう、雫の姿は無かった。
だが睦美は、涙を流しながら生徒会に向かってお辞儀をした。
「ありがとうございました‼︎」
涙が止まらない睦美先輩に僕達は駆け寄り、梨央奈先輩は優しい表情で睦美先輩の手を握った。
「こんなやり方しかできない雫を許してあげてね」
「もちろんだよ......私、ここの生徒でよかった」
「雫が聞いたら泣いちゃうね」
「......会長って泣くの?」
「鬼のように誰よりも厳しくて、誰よりも頑張って、誰よりも心配性で、誰よりも優しい......ただの女の子だからね」
そう言って梨央奈先輩は生徒会室を見上げた。
睦美のお礼の言葉を聞いた雫は、生徒会室で睦美が座っていた椅子に鬼のお面を付けたまま座り、貰った色紙を見つめながらボソッと呟いた
「お疲れ様でした......」
鬼のお面の下から零れ落ちる雫がテーブルを濡らし、卒業式という別れの日は幕を閉じた。
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