幕開け


「瑠奈〜」

「どうしたの?」

「春休みの宿題終わった?」 

「当たり前じゃん!まさか......」

「終わらなかったー‼︎」

「うるさっ!」 

「しかも今日はクラス替えの発表!入学式!宿題終わらなくて先生と雫先輩に怒られる!心臓が持たない......」

「大丈夫大丈夫!春休みの課題が多すぎるのが悪い!」

「だよね!休みは短いのに多すぎるよね!僕の代わりに文句言っといて!」

「あいよ!」


そんなたわいもない会話をしながら学校に着くと、林太郎くんが明るい表情をして近づいてきた。


「おはよう!」

「蓮!瑠奈!俺達また同じクラス!二年一組だ!」

「おーらぁー‼︎」

「瑠奈⁉︎ぐぁ〜‼︎」


何故か林太郎くんは瑠奈にぶっ飛ばされ、二年生になって早々、昇降口でもがき苦しんだ。


「クラス表見る楽しみ奪うな!さっきのは私の分!次は蓮の分だ〜!」

「瑠奈!ストップストップ!」


瑠奈の体を後ろから掴み、これ以上暴れないようにした。


「お腹殴っちゃダメだよ。ガリなんだから、あばら折れちゃう」

「ガ......リ......」

「なんか、蓮が留め刺したっぽい」

「え......」


僕達は、林太郎くんを放置して新しい教室に向かった。


「席はどこだろ」

「蓮は窓側の1番後ろの席だ」

「え、ボスの席じゃん。瑠奈は?」

「ドア側の1番後ろ......」

「おー、離れちゃったね」

「ショック〜‼︎」

「まぁまぁ」


正直、今は席なんかどうでもいい。何故だかさっきから、新しいクラスメイトに嫌なものを見る目で見られている......もしかして僕って、あまり受け入れられてない⁉︎

前同じクラスだった人達は僕なんか気にも留めてないみたいだけど。


「り、林太郎くんはどこの席だろ」

「私の前の前」

「なんとも言えない席だね」

「うん」


話終わっちゃった〜!この空気の中一人で座ってるのはキツい......そうだ!ホワイトデー辺りは忙しくて、新学期の今日渡そうと思って持ってきてたんだ!


「瑠奈」

「んー?」

「ちょっと着いてきて」

「どうしたの?カバンなんか持って」

「いいからいいから」


最初から教室に居なければ良かったんだなと思いながら、瑠奈と屋上へやってきた。


「ホワイトデー返せなかったから」

「え⁉︎」

「はい、10円のチョコ一個」

「んっ」

「だって瑠奈、足で食べさせたんだよ⁉︎みんなの前で!」

「あの時の私は変だったの!」

「せめて二人だけの時にしてよ!それならワンチャンご褒美に変わる!」

「えっ......」

「やらせた本人が若干引くのやめてもらえます?」

「でもありがとう!初めてホワイトデー返してくれたね!」

「うん、まぁ、そうかも」

「チョコもネックレスにできたらいいのにー」

「凄いこと考えるね......あー‼︎‼︎」

「なに⁉︎」

「朝から会議あるの忘れてた‼︎」

「急いで急いで!」

「あ、これ!一個とか嘘だから!はい、100円分!んじゃ行ってくる!」


10円チョコを10個貰って蓮を見送り、瑠奈はベンチに座って一つ口に入れた。


「......甘すぎ」

(友達で居続けるって決めてから好きになるようなことばっかりして、蓮は本当にバカだな......)


そして蓮は、勢いよく生徒会室の扉を開けた。


「遅れました!」

「今日から二年生でしょ?しっかりしなさい」

「はい......あ、千華先輩、金髪に戻ってる」

「まぁね!気合い入れみたいな感じかな?」

「気合い?」

「蓮くんも気合いを入れなさい。今年の一年生、活きのいいのが一匹混ざってるわ」

「気合い気合いって......結愛先輩と乃愛先輩寝てますけど!」

「二人には春休みの間、その生徒について調べてもらっていたから仕方ないわ」

「なるほど......」

「名前は長瀬花梨ながせかりん

「長瀬?千華先輩と同じですね」


すると千華先輩は気まずそうに説明してくれた。


「私の......義理の妹。家では一切話さないし、だから二人に色々調べてもらうことになったんだけど」

「なんかヤバいんですか?」

「中学の頃、問題を起こしすぎて他の学校では受験すら断られた。そしてこの学校に入学することになったの」

「まぁ、雫先輩には敵わないでしょうね」

「どうだか......」

「え......」


そんなにヤバいの⁉︎


「ちなみに、僕達が入学するときも会議とかしたんですか?」

「瑠奈さんの名前は上がったわよ。でも、地毛かどうか怪しいってぐらいの話だったけれど」

「入学式前からマークされてたんですね......」

「前のことはいいわ。花梨さんの厄介なところは問題を起こすこと以外にもあるの」

「なんですか?」

「頭がいい。もしかしたらこの学校で1番」

「し、雫先輩達よりもってことですか?」

「そうよ。この学校は学力で全てが決まると言っても過言ではないし、私がそういう学校にしたの。生徒会が乗っ取られるのも時間の問題かもしれないわね」

「そんな......り、梨央奈先輩!なにかいい考えは!」

「今のところなにも......環境が変われば生活態度も変わる人は珍しくないし、まずは花梨さんが問題を起こさないことを願うしかないね」


すると、雫先輩はチラシの切れ端を渡してきた。


「なんですか?プロテイン?」

「蓮くんと林太郎くんは、花梨さんと瑠奈さんが衝突しないようにしなさい。林太郎くんには会長命令として、頑張ればそのプロテインをあげると付け加えて伝えるように」

「僕へのご褒美はありますか?」

「あるわけないでしょ?林太郎くんは生徒会でもないのに仕事を任される、当然の対価を貰うだけよ。蓮くんは当たり前の仕事をこなすだけ。何故三人を同じクラスにしたと思っているの」

「この為だったんですね......頑張りまーす」


生徒会室に来たついでにバレンタインデーのお返しをしようとカバンを広げた。


「梨央奈先輩、バレンタインデーのお返しです」


すると次の瞬間、結愛先輩と乃愛先輩は寝起きと思えない目力で僕を見つめた。


「いきなり起きないでください......ビックリします。梨央奈先輩にはクッキーです!」

「いいの⁉︎ありがとう!」

「コンビニのなんで、口に合うか分からないですけど」

「すごい嬉しい!」

「よかったです!次は結愛先輩!」


乃愛先輩は楽しみすぎて鼻息が荒くなっている。


「乃愛先輩、一度落ち着いてください。結愛先輩の次に渡しますから」

「わーい!わーい!」

「結愛先輩には赤いグミです!」

「ありがとう。辛い?」 

「イチゴ味みたいですよ?」

「よかった」

「乃愛先輩には水色のグミです!」

「ありがとーう!」


乃愛先輩はグミを受け取って僕に飛びつき、すべすべな頬をスリスリしてきた。


「恥ずかしいからやめてください」

「いいじゃーん!」

「いいですけど」

「うへへ♡好きだよー♡」

「あ、ありがとうございます!」

「本当、二人とも付き合ってないの?」

「付き合ってないですよ?あ、千華先輩にもありますよ!乃愛先輩、一度降りてください」

「うん!」


結愛先輩と乃愛先輩は、早速グミを食べて幸せそうな表情をしている。


「千華先輩には特大ペロペロキャンディーです!」

「デカ!顔ぐらいあるじゃん!」

「ちゃんと舐めきってくださいね!」

「ありがとう!嬉しいよ!」

「よかったです!」


雫先輩には......今じゃない方がいいか。


それから教室に戻り、林太郎くんにチラシの切れ端を渡して、会長命令を伝えた。


「瑠奈とその新入生を衝突させないだけで、この高級プロテインが貰えるのか⁉︎」

「みたいだよ?」

「やる!いや、やらせてください!」

「うん、とにかく頑張ろう。成功させればいいけど、失敗したら怖そうだからね」

「そうだな。まぁでも、瑠奈も大人しくなったからなー」

「林太郎くんはサンドバッグになっちゃったけどね」

「ドMで良かったわ」

「聞かなかったことにするね。友達でいるの辛くなるから」


それから担任の先生が発表され、僕達の担任はまた中川先生になった。

そしてお昼になり、瑠奈と林太郎くん、梨央奈先輩と美桜先輩と僕という珍しいメンバーでお昼ごはんを食べ終え、体育館に向かい、入学式の始まりを待った。


15分後ぐらいに入学式が始まり、入場してくる新入生を見ていたが、ヤンチャそうな生徒は一人もいなく、どれが千華先輩の妹か分からなかったが、みんな期待に満ち溢れた表情をしていた。


一年前の僕も、こんな感じだったのかな?

この後すぐに衝撃を受け、不安の高校生活の幕開けになるんだけどね......


新入生が全員椅子に座ると、雫先輩がステージへ上がった。


「ご入学おめでとうございます。これにて入学式を終了いたします。解散」


出た〜!やっぱりこうなるか!


新入生や、その保護者はざわめきだしたが、僕達の時とは違い、雫先輩はステージを降りて体育館を出ようとした。その時


「危ない‼︎」


瑠奈の声が聞こえて、その後「きゃー‼︎」という女子生徒達の悲鳴が響いた。

瑠奈の視線の先を見ると、雫先輩は黒髪ロングの雫先輩に雰囲気の似ている真面目そうな美少女女子生徒を目の前に、手から血を流していた。


「手を離しなさい」

「やだね」


よく見ると女子生徒は彫刻刀を持っていて、雫先輩はその彫刻刀を握り締めて血を流していたのだ。


「こんな場所で恥をかきたいのかしら。物好きね」

「アンタが会長でしょ?この学校は会長の独裁校だって聞いてたからさ、この晴れ舞台で会長人生を終了させてあげるよ。後のことは私に任せな」


僕達には何を話しているのか聞こえない。それにしても、なんであんな真面目そうな生徒が......


生徒会のみんなも、下手に動いたら雫先輩が危ないと感じているのか、いつでも走り出せるように立ち上がってるが動かない。


「今すぐ貴方を気絶させることなんて簡単よ」

「どうかな」


女子生徒は彫刻刀をグリッと動かし、雫先輩が思わず手を離すと、体育館の床に大量の血がポタポタと垂れ、かなり痛々しい光景になった。

それを見て僕は、思わず雫先輩の元へ駆け寄った。


「やめろ‼︎」

「なにー?会長の彼氏さーん?」

「違う‼︎入学式でなにやってるのさ‼︎」

「入学式じゃなかったらいいわけ?」

「この子の保護者の方居ますか?」

「は、はい......」


一人のお母さんが立ち上がると、女子生徒は母親に彫刻刀を向けた。


「なに立ってるわけ?アンタなんか母親じゃない‼︎座れ‼︎」

「はい......」


お母さんは大人しく座ってしまったが、女子生徒の背後から乃愛先輩が近づき、彫刻刀を握っている方の腕を掴んだ。


「捕まえた」

「は?」


乃愛先輩は立て続けに左手で背中を殴り、女子生徒は激痛に顔をしかめて床に倒れ込んでしまった。


「さぁ、全生徒は教室に戻りなさい」


生徒会と、その女子生徒と保護者全員、そして先生だけを残してみんなが体育館を出て行くと、雫先輩は血を流しながら言った。


「保護者の皆さん、このことは大事にしないようにお願いします。警察を呼んだところで、現状からの逃げにしかなりません。この生徒は私が変えてみせます。改めまして、お子様のご入学おめでとうございます。保護者の皆さんは、お気をつけてご帰宅なされますよう、お願いいたします」


不安そうに保護者達が帰っていくと、千華も体育館を出て行き、お母さんを追いかけていた。


「お母さん!」

「千華......ごめんね、お母さんのせいで......」

「お母さんは何も悪くないから。花梨のことなら、会長がなんとかしてくれる......私も頑張るから」

「分かったわ。学校には後日、改めて謝罪に来るわね」

「うん」


体育館では、足に梨央奈先輩が乗っかり、背中には結愛先輩、乃愛先輩は女子生徒の髪を掴み、動けないようにしていた。


「なにもしないからどいて」

「彫刻刀から手を離せ」

「はいはい」


乃愛先輩は彫刻刀を取り、ハンカチに包んだ。


「離してあげなさい」


女子生徒が立ち上がると、雫先輩を睨み付けるが、雫先輩も女子生徒から目を逸らすことはしなかった。


「教室に戻りなさい」

「クソが」


女子生徒が体育館から出て行き、僕は雫先輩の手を握った。


「なにをしているの?汚れるわよ」

「血を止めなきゃです!雫先輩は僕が保健室に連れていくので、後は頼みます!」

「了解!」


雫先輩の手を握りながら保健室へ向かう途中、雫先輩は僕の手を振り解こうとした。


「一人で行けるわ」

「ダメですよ!」 

「ならせめて、鬼のお面を取ってから」 

「なに言ってるんですか⁉︎早く行きますよ」


保健室に着いてから、雫先輩はずっと下を向いて表情が見えない。


「消毒染みますか?」

「平気よ」

「今ガーゼ貼ったので、包帯巻きますね」

「早めにお願い」 

「分かりました」

「それと教室に戻ったら、瑠奈さんにお礼を言っておいてちょうだい」

「瑠奈にですか?」

「あの時、危ないって言ってくれなかったら、今私は生きていなかったかもしれないのよ」 

「え⁉︎」 

「さっきの女子生徒は長瀬花梨。あの子、本当に私を殺す気だったわ。真っ直ぐ首を狙ってきたもの」 

「危なっ......」


その時、パトカーの音が鳴り響き、結局警察を呼ばれていたと気づいたが、先生達がなんとか警察を誤魔化してくれ、大事にはならずに済んだ。


「それじゃ、私は戻るわね」

「はい」


僕も教室に戻り、瑠奈に雫先輩からの伝言を伝えると、放課後までウザいドヤ顔をしていた。


放課後、生徒会室に行くと、雫先輩以外のみんなは入学式の後片付けをしに行っていて、バレンタインのお返しをするのには最高のタイミングだった。


「蓮くんも体育館へ行ってくれるかしら。私も後から行くわ」

「はい、それよりこれ」


カバンからオレンジのヘアゴムを出して渡すと、全然嬉しくなさそうにヘアゴムを見つめた。


「なにかしら、これ」

「雫先輩、いつも左腕に黒のヘアゴム付けてるじゃないですか、もうちょっと明るい色の方がいいかと思いまして、バレンタインのお返しです!」


雫は鬼のお面を取り出そうと少ししゃがみ、引き出しに手を伸ばしたその時、パリンッ‼︎と嫌な音が響き、パラパラパラッと粉粉になったガラスが落ちる音が聞こえ、雫は少し驚いた表情で体を起こした。

そこにはガラスの破片と小石が大量に散乱していて、蓮が頬とオデコから血を流して倒れていた。


「蓮......くん?」


雫が座る真後ろの窓ガラスが粉粉に割れているのに気づき、雫は唖然としながら外を見た。

すると外では花梨が小石を握りしめながら生徒会室を見上げ、挑発するように舌ピアスの付いた舌を出し、再び石を投げつけた。

雫は咄嗟にしゃがみ、蓮を抱えて生徒会室から出るが、男性を運ぶのはそこまでが限界で、その場で人を呼んだ。

 

「誰か......誰か来なさい!誰でもいいわ!誰か!」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る