憂鬱


クリスマスが終わると冬休みに入り、短い冬の間も詩音さんについて各自で調べることになり、実質生徒会に休みは無かった。


冬休みが明けて1月8日、たまたま昇降口で雫先輩と会った。


「おはようございます」

「おはよう」

「......」

「......」


クリスマスパーティーの日から、雫先輩との間には気まずい空気が流れている。


「......本当に結婚するんですか?」

「小さい頃から決められた結婚なの、今更覆らないわ」

「それで幸せなんですか?」

「......」


雫先輩は何も言わずに靴を履き替え、教室へ行ってしまった。


何も言わずに逃げるような先輩じゃなかったのに......


放課後、未だに詩音先輩の足取りが掴めず、最近大きくなってきたようなウーパールーパーを眺めてレモンティーを飲みながらクッキーを食べるだけの時間が流れた。


「生徒会って案外暇なんだねー」

「瑠奈はラッキーなだけ、今も雫先輩が会長でこんなボケッとしてたら絶対怒られてるよ」

「蓮は怒らないのー?」

「僕もボケっとしてるからねー」

「はぁ〜......」


全員でため息を吐いた後、林太郎くんは聞いてきた。


「他に仕事やらなくていいのか?」

「やってるやってる、会議にも出てる」

「蓮一人で?」

「会議はみんなで出ることもあったけど、雫先輩も基本一人で全部やってたし」

「体壊すよ」

「んじゃ、花梨さん手伝ってよ」

「言ってくれたらいつでも手伝うって」

「え、そうだったの?」

「うん」


どんよりと気怠げな空気が流れる生徒会室で、美桜先輩だけは熱心にパソコンを眺めていた。


「美桜先輩、目が充血してますよ、少し休んでください」

「私は大丈夫」

「そうですか。卒業式までに間に合うかなー」

「卒業式いつだっけ」

「美桜先輩が忘れてどうするんですか、美桜先輩も卒業なのに。ちなみに3月23日ですよ」

「あんまり時間ないね」

「本当ヤバイですよ」

「んー、この水族館の公式サイト、経営者の名前だけ無い」

「どれですか?」

「これ」


それは乃愛先輩とデートで行った水族館だった。


「ここ、睦美先輩が働いてる場所ですよ。結構長い時間遊びましたけど、詩音さんらしき人は見てません」

「そっか......」

「でも一応、パンフレットとか送ってくれないか睦美先輩に連絡しておきます」

「よろしく」


それから4日後の放課後、生徒会室に中川先生がやってきた。


「生徒会宛になにか届いてるわよ」

「ありがとうございます!」


封筒から取り出した水族館のパンフレットを見て、中川先生は一安心した。

(やっと見つけたわね)


「はぁ!」

「あー‼︎」

「こら、学校では静かに」

「だって見てくださいよ‼︎ほら‼︎」

「良かったわね、上手くやりなさいね」

「はい‼︎」


パンフレットの1番最後のページに、小さな字で音海詩音と書いてあり、全員に笑顔が戻った。


「睦美先輩に電話して会わせてもらえるようにお願いしてみます!」


さっそく睦美先輩に電話をかけることになった。


「涼風くん?」

「はい!」

「今電話大丈夫ですか?」

「うん!今日休み!」

「良かったです!あの、睦美先輩が働いてる水族館あるじゃないですか」

「うん」

「音海詩音って人が経営してる水族館みたいなんですけど」

「音海?」 

「雫先輩のお姉さんです!」

「え!」

「その人と会いたいんですけど、どうにか取り合ってもらえませんか?」

「んー......でも、その人と会ったことないし、見たこともないよ?」

「面接の時とかに会わなかったんですか?」

「面接してくれたのおじさんだった」

「で、でも、詩音さんは経営者のはずなんてす」 

「そう言われてもー、あ!友人割にしてあげるから、今度みんなで遊びに来なよ!」

「そんな暇ないんですよー」

「詩音さんと運良く会えるかもよ?」

「行きます‼︎」

「それじゃ、来る時連絡して!チケットの窓口に話通しておくから!分かりやすくみんな制服で来てね!」

「はい!」


電話を切り、今度みんなで水族館に行くと伝えると、瑠奈は嬉しそうにぴょんぴょん跳ね始めた。


「やったやったー!」

「会えたらラッキーぐらいの感じで、みんなで楽しもう!」

「うん!」

「次の日曜日に行こう!当日はみんな制服ね!」

「了解!」

「ねぇ、蓮先輩」

「どうしたの?」

「睦美先輩ってどんな人?」

「あー、花梨さんは会ったことないんだっけ?」

「うん」

「睦美先輩はねー、最初は悪い人で、とんでもない先輩だったんだけど、結局根はいい人だった!花梨さんみたいな人かな?」

「はっ、は⁉︎」

「え、なに⁉︎」

「いい人じゃないし!」

「いや、え」


すると、美桜先輩は目を細くして、僕をジーッと見つめだした。


「な、なんですか」

「別に」


なにはともあれ、かなり詩音さんに近づけた気がして、僕はホッとしていた。


そして日曜日、生徒会メンバーと美桜先輩で水族館にやってきて、睦美先輩が言った通り、生徒会メンバーは半額でチケットを買うことができたが、美桜先輩だけ通常価格でチケットを買った。


「早く入ろ!寒いよ!」

「瑠奈、水族館でもその長いマフラーかよ」


瑠奈と林太郎くんが話していると、花梨さんは言ってはいけないことをぶっ込んだ。


「マフラーは普通のより長いぐらいじゃん、瑠奈先輩が小さいだけでしょ」

「あ?」

「なに」

「まぁまぁ!今日は楽しもう!ね?」

「蓮先輩が言うならしょうがないけど」

「私も蓮の言うことなら聞く」

「二人ともありがとう!」


蓮達が水族館に入った頃、従業員専用駐車場の車の中で、詩音はパソコンを使って作業をしていた。

(年の初めは三日間も点検に付いて周らなきゃいけないなんて......)


「憂鬱......」


パソコンを閉じると詩音の携帯が鳴った。


「はい」

「今日来てますよね」

「もう駐車場に居ます。それより、人の多い土日祝日は避けるようにお願いしましたよね」 

「すみません、整備点検の方達が今日から三日間以外の予定がパンパンだと言うもので......」

「そう、あの子は出勤してるかしら」

「あの子と言いますと?」

「山本さんだったかしら」

「睦美さんですか!してますよ!挨拶に行かせましょうか?」

「その子を私に近づけさせないで」

「え、はい、分かりました」

「15分後に裏口から入るわ」

「お待ちしてます」

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