救ってあげなきゃ


お祓いしてもらってからは、幽霊の目撃情報は完全に無くなり、今日は生徒会メンバーで千華先輩の応援をしにきている。

僕達は会場の二階席に横並びで座り、千華先輩の試合を待った。


「梨央奈先輩」

「なに?」

「どれが千華先輩ですか?」

「あの頭に赤い布着けてる、一人で正座してるのが千華だよ」

「あー、あれですか」


応援といっても、声を出して応援する人はいなく、戦いが終わった後に拍手をする程度で、会場内は緊張感マックスの雰囲気だった。


みんなが千華の出番を待つ中、千華は呼んだ覚えのない蓮が来ていることに動揺していた。

(なーんで⁉︎なんでなの⁉︎蓮は呼んでないじゃん!あまり強いとこ見せたくないのに!)


そして遂に千華先輩の番がきたが、聞いていた話とは違い、千華先輩は何回も技を決められ、このままじゃ負けてしまいそうだった。


「様子が変ね」

「体調でも悪いんですかね」


その時、相手生徒の学校の生徒が「頑張れー!」と大きな声を出して先生に注意されていた。


「蓮くん、強い千華先輩が好きって言って」


梨央奈先輩の無茶振りに思わず顔が引きつった。


「そんな恥ずかしいこと言わせないでください。いじめですか?」 

「チャンスは今だけ、早く。おっぱい揉ませてあげるから」

「揉まれたいだけですよね」


雫先輩は僕達をギロッと睨んで言った。


「貴方達、神聖な場でなんて話をしているの」

「梨央奈先輩が悪いんです」

「いいから早く。千華が負けちゃう」

「分かりましよ。強い千華先輩が好きです!」


次の瞬間、面で一点取られ、お互い距離を取って睨み合った。


「勝ったわね」

「え?」

「竹刀を持つ手に力が入ったわ」


それからの千華先輩は一気に強くなり、相手に一点も取らせることなく、大きな声を出して点を取り続け、その姿は侍の如く堂々としていた。


「カッコいいですね」


試合が終わり、審判が赤い旗を上げれば千華先輩の勝ち、白い旗を上げれば千華先輩の負けだ。

後半は千華先輩が点数を取り続けたが、前半はダメダメだったし......


そして、期待と心配の感情がぐちゃぐちゃになる中、旗は上がった。


「あ、赤ですよ!」

「静かに」

「あ、はい、すみません」


試合後、千華先輩はジャージに着替えて、外で僕達と合流した。


「お疲れ様です!カッコ良かったです!」

「あ、あまり近づかないで」

「え⁉︎僕なんかしました?」 

「今汗臭いから」

「別に気にしませんよ」

「な、ならいいけど」


みんなに祝いの言葉をもらって嬉しそうな千華先輩は、雫先輩に感想を聞いた。


「雫!私の竹刀捌きどうだった?」

「相変わらず強かったわね。良くやったわ。生徒会から試合優勝者が出るのは素晴らしいことよ」

「やった!打ち上げ行こ!打ち上げ!」

「あ、僕はこの後用事あるので失礼します」

「え〜、蓮が居ないんじゃつまんなーい」

「ま、また今度付き合いますよ」

「約束だからね!」

「は、はーい」


見てる途中のアニメが気になって早く帰りたいだけだけど。


それから僕は梨央奈先輩にタクシー代を貰い、一人で帰宅した。


「よし、一気に見ちゃお!」

 

今回のタイトルには温泉が付いてるし、絶対サービス回のはずだ!


ピンポーン


アニメを見ようとした瞬間、家のチャイムが鳴り、僕以外誰も居ないことを思い出し、めんどくさがりながら玄関へ向かった。


ピンポーン、ピンピンピンピンピンポーン、ピーンポーン。


「はーい!今出ます!」

「チーンポー」


そこに居たのは結愛先輩だった。


「今、チャイムの音に合わせて変なこと言ってませんでした?」

「気のせいじゃないかな」

「絶対言ってましたよ‼︎てか、打ち上げはどうしたんですか?」

「私も行かなかった。家入っていい?」

「ちょっと忙しいので」

「頼みがあるの。乃愛のことで」

「乃愛先輩のことで?」

「うん」


結局僕は、結愛先輩を家に入れてしまった。


「へー、これが蓮の部屋かー。なにもないね」

「まぁ、あまり趣味とかないので。それで頼みってなんですか?」

「まずは話から聞いてほしい。3年、私と乃愛が中学生の頃の冬、私達のお母さんが死んだ」

 

え......いきなり重い......


「その日はクリスマスイブで、初雪の日でね、お母さんと雪祭りに行く約束を楽しみにしてて、お母さんの仕事の帰りを待ってたの......でも、お父さんが青ざめた顔で部屋に入ってきて言ったの、お母さんが事故にあったって」

「......」

「お母さんはその事故で死んだ。それから乃愛は、毎年雪が降るとお母さんが帰ってくるかもしれないって言って、ずっと玄関の前で待つんだよ」

「死を受け止められてないってことですか?」

「いや、受け止めてると思う......でも寂しんだよ。冬になると、あの日のことを思い出して夜に泣くこともあるし、死んでるのは分かってても、会いたくて仕方ないんだと思う」

「......結愛先輩もそうなんですか?」

「私は割と平気。お父さんっ子だし」


えー、そういう問題なんだ......まぁ、表情を見れば強がりだって一瞬で分かるけど。


「乃愛にとって冬は特別なの」

「......悲しい特別ですね」

「毎年雪祭りには行くんだけど、時間が経つにつれて表情が暗くなって、毎回涙目になりながら帰るんだよ」

「んじゃなんで行くんですか?」

「お母さんを探してる」

「だからそれって、死を受け止められてないんじゃ」

「特別で、凄い辛い日だから......だからその日はお母さんは死んでないって自己暗示をかけてるんじゃないかと思う」

「そういうことですか」

「それで本題」

「は、はい」

「今年の雪祭り、乃愛は行っちゃダメって雫に言われてて、でもどうしても連れて行ってあげたいの!だからお願い!なんとかして!」 

「なんとかって、まず、なんで行っちゃダメなんですか?」

「雪の中で車椅子は大変だし、なんかのトラブルに巻き込まれたら大変だからって......乃愛は行きたがってる。お願い......雫に怒られる時は、私が悪いってちゃんと言うから」


こんな話を聞かされたら行かせてあげたくなるけど......多分当日は見回りもあるし、雫先輩にバレないようには無理だろうな......勢いでなんとかするしか......


「当日だけ......みんなで雫先輩に反抗しましょう」

「反抗?」

「もう、堂々と乃愛先輩を連れて行って、何を言われても反抗しまくるんです!その後は、みんなでグラウンド100周走りましょう!」

「......本当......蓮は優しいね」


そう言う結愛先輩は、とても優しい表情をしていた。


「雫先輩以外のみんなには、僕からお願いしてみます」

「でも、雪が積もったらどうやって移動しよう」

「......あ!ソリとかどうですか?目線は低くなっちゃいますけど、スムーズに移動できます!」

「いいと思う。ソリは私が買っておく」

「分かりました!そういえば、二人が雫先輩をボコボコにしたのも雪祭りじゃありませんでした?」

「そうそう」

「冬に嫌な思い出が強く残ってるのって......なんか......」

「まぁ、しょうがないよね。人生ですから」

「深いようで何も考えてなかったりします?」

「します」

「なんで敬語なんですか」

「なんとなくです」

「気が引けるんでやめてください」

「はい、わかりました」


分かってないわ。

でも僕は分かっていることがある。結愛先輩は乃愛先輩を大切に想うあまり、自分の辛さをほったらかしにしている。


ただ乃愛先輩を雪祭りに行かせるだけじゃない、冬をもっといい日にしてあげたい。僕はそう思っていた。

だから、同時に結愛先輩も救ってあげなきゃ......


「蓮」

「なんですか?」


結愛先輩は立ち上がり、部屋の窓を開けて降る雪を眺めながら言った。


「平気そうに見えて、なにかを抱えたり背負ったり、今にも張り裂けそうな気持ちで生きてる人は以外といっぱいいる。気づいてあげてね」

「それは、雫先輩のことですか?結愛先輩のことですか?」

「さぁ......どうだろう」

「雫先輩の過去を知ってるんですか?」

「そりゃ少しはね。同じ学年だから、雫のお姉ちゃんが学校をやめたことだけは知ってる。あの人、生徒会長だったし。多分さ、雫も何かを抱えてると思う」

「......そうですか。とにかく今は乃愛先輩ですね!いろいろ考えてみるので、期待しててください!」

「ありがとう。蓮にお願いしてよかった」


結愛先輩は話が終わると帰って行き、僕は雪祭りのホームページを見ながら作戦を練り始めた。

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