初雪の空の中
そういえば、瑠奈にパンツ貰い損ねたなとガッカリした気持ちで昼休みに自販機へジュースを買いに行くと、梨央奈先輩もジュースを買っていた。
「あ、蓮くんもジュース?」
「はい」
「買ってあげる!なにがいい?」
「炭酸がいいです!」
「はい!」
「ありがとうございます!」
「そういえば、瑠奈ちゃんが探してたよ」
「いつものことですよ」
すると梨央奈先輩はニヤニヤしながら顔を近づけてきた。
「私と別れて、睦美さんを振って、蓮くんは誰がお目当てなのかなー?」
「だ、誰も目当てじゃないですよ」
「乃愛は?」
「可愛いとは思いますけど」
「結愛は?」
「結愛先輩は、あんまり感情が読めません」
「千華は?」
「いい人です。よく飴をくれます」
「雫は?」
「怖いです」
「美桜さんは?」
「ゲップの人です」
「あ⁉︎蓮!今なんか言ったか‼︎」
「み、美桜先輩いたんですか⁉︎」
美桜先輩は眉間にシワを寄せて、僕に詰め寄ってきた。
「ご、ごめんなさい!これあげますから」
梨央奈先輩に買ってもらった炭酸ジュースを見せると、美桜先輩は顔を真っ赤にして僕を睨んできた。
「またゲップさせる気?」
「そ、そんなつもりは!」
「まぁまぁ、みんなゲップぐらいするよ」
「んじゃ梨央奈も今すぐしてよ!」
「れ、蓮くんの前でできるわけないでしょ⁉︎」
「いいからしろ‼︎」
僕は2人が揉めているうちに、こっそりその場を離れて売店に向かう途中、新聞部の男子生徒が廊下に新聞を貼り出していた。
「また幽霊ですか?」
「それの関連かな!」
「へー......」
新聞に載っていた写真は、雫先輩が頭から塩をかぶっている時の写真だった。
「鬼の会長、実は怖がりだった!いい見出しでしょ?」
「......馬鹿じゃねーの⁉︎」
「せ、先輩に向かってなんなんだよ」
「死にますよ⁉︎先輩、殺されますよ⁉︎貼り出したのこの一枚だけですか?」
「まぁ、そうだけど」
僕は貼り出された新聞を剥がし、グシャグシャに丸めた。
「なにすんだよ!」
「いいですか先輩。死にたくなければ、その手に持ってる新聞の束を僕に渡してください」
「蓮くん、瑠奈さんが大声で探していたわよ。迷惑だから行ってあげなさい。あら新聞部じゃない」
雫先輩だ......新聞部終わったな。
「新しい記事?」
「は、はい」
「見せなさい」
新聞部が雫先輩に新聞を1枚渡すと、雫先輩は新聞をグシャッと握った。
「この記事を作った人と、写真を撮った人を生徒会室に連れてきなさい」
「し、新聞部の人達は勘違いしてるんですよ!」
「どういうことかしら」
「さっき話を聞いたんですけど、よく分からずに記事にしたそうですよ。本当は海外のとある民族の伝統を真似ただけなのに」
「そ、そうよ。勉強の一環だったのよ」
「そうだったんですか⁉︎それは失礼しました」
「その写真のデータは消しなさい」
「は、はい......」
雫先輩のマジな目に怯んだ新聞部の生徒は、写真を消してくれると約束してくれた。
新聞も雫先輩が回収し、新聞部はその場を立ち去った。
「私も行くわね」
「待ってください」
「なにかしら」
「ありがとうございますが聞こえませんでしたね〜」
「本当最近、調子に乗るようになったわね。蓮くんは私が怖くないのかしら」
「怖いですけど、人間味あるところとか見ると、少しは恐怖心も薄れますよ」
「私のお礼を聞いて、蓮くんは満足するのかしら」
「はい!」
「見返りを求めた優しさだったのね。見損なったわ」
あ、オワタわ。これ完全に終わったな。
「でもありがとう」
「え、はい」
雫先輩は早歩きでどこかへ行ってしまった。
雫先輩ってツンデレなのかな。もしかしたら僕が知らないだけで、他の生徒会メンバーとはあんな感じなのかな。
そして雫は蓮の元を立ち去り、生徒会室に入る直前、後ろから梨央奈に抱きつかれた。
「梨央奈さんね」
「分かるんだ」
「感よ」
「最近さ、鬼の仮面が少しずつ剥がれてきてない?なんども貼り直したシールみたいに、時々剥がれる瞬間がある。蓮くんとなんかあった?」
「なにもないわよ」
「嘘。雫は蓮くんをいい人だと思い始めてる。違う?」
「いつまで抱きついているの?入るわよ」
「話逸らさないで」
梨央奈は雫を強く抱き寄せ、雫を生徒会室に入れさせなかった。
「今の雫の心を教えて」
「どうしてかしら」
「どうしても知りたい。教えてくれるまで離さない」
「......蓮くんはいい人よ」
「どうしてそう思う?」
「私は最低で酷いことを沢山する。なのに蓮くんは私を助けてくれたわ。それに......」
「それに?」
「もういいでしょ。離しなさい」
「うん。いいよ」
梨央奈が雫を離すと、雫は生徒会室に入って立ち止まった。
「私は今の自分を私自身が望んだの。私の邪魔をしないで」
「......はーい。会長様」
その頃僕は、千華先輩に期待の眼差しを向けられていた。
「久しぶりに弁当作ったの!毎日練習したからきっと美味しい!」
「僕、まだやり残したことがあるので」
「ひどいー!お願い!一口でいいから!」
「忘れたんですか?一口で死ぬんですよ?」
「んじゃいいよ......」
「あ、いや!食べます食べます!」
「よし!食堂行こ!」
2人で食堂の席に座り、千華先輩はテーブルに唐揚げ弁当を広げた。
「なんで隣に座るんですか?普通目の前に座りますよね」
「隣に座りたいの!」
素直すぎるでしょ......
「んじゃ、いただきます.......」
「うん!」
気絶する覚悟をして唐揚げを口に運んだ。
「ど、どうかな」
「......あれ?美味しいです」
「本当⁉︎」
千華先輩は嬉しそうにニコニコして、目を輝かせている。
「はい。これなら全然食べれます」
「やったー!好きー!」
「いやいやいやいや!」
千華先輩はみんなが見ている前で堂々と僕に抱きつき、頬をスリスリしてきた。
「好き好きー!」
「やめてください!恥ずかしいですよ!」
「次!コロッケ食べてみて!」
そしてコロッケを口に入れた瞬間、千華先輩は笑顔で言った。
「コロッケは初めて作ってみたの!」
え......今なんて......
僕は見事に気絶してしまった。
「あ、やべ。蓮?」
(......逃げよ)
千華は蓮をそのままにして食堂から逃走したが、そのあとすぐに瑠奈が蓮を見つけた。
「蓮⁉︎蓮!どうしたの⁉︎誰にやられたの⁉︎」
必死に蓮の体を揺するが、蓮は白目を向いて気絶している。
「こういう時は、じ、人工呼吸......」
瑠奈は蓮の唇を見て息遣いが荒くなっている。
「ハァ♡ハァ♡しょうがないよね、蓮を助けるためだもんね♡」
「チビ瑠奈、なにしてるの?」
「は?なんで来たわけ?邪魔なんだけど」
「ご飯食べるの」
「一人で?どうやって階段降りたの?」
「千華に下ろしてもらった」
「千華先輩は?」
「食堂に行きたくないって言って、どっか行った」
「へー」
(食べかけの弁当......気絶......)
瑠奈は弁当からコロッケを手掴みし、乃愛の口に近づけた。
「食べてみて」
「は?なんで」
「蓮の手作りだよ」
「食べる!」
「あーん」
「あーん!」
「どう?」
「んー......」
乃愛は車椅子に座ったままうなだれて、白目を向いて気絶してしまった。
「ありがとうの乃愛先輩、実験台になってくれて。蓮、今仇を取ってあげるからね」
瑠奈は学校中を走り回って千華を探していると、パックのリンゴジュースを飲みながら歩く梨央奈に呼び止められた。
「瑠奈ちゃーん!」
「あ!梨央奈!」
「怒った顔でなに急いでたの?」
「千華が蓮に弁当食べさせた!許さない!」
「まさか気絶中?」
「うん」
「そのうち千華には料理教えてあげなきゃねー」
「それより千華先輩見なかった?」
「見てないけど、居るなら教室かな」
「行ってくる!」
結局千華は瑠奈に見つからず、また大好きな蓮を気絶させてしまった罪悪感で、昼休みが終わるまで女子トイレに閉じこもっていた。
「乃愛を迎えに行かないと......」
食堂へ向かい、2人が気絶しているのを見た千華は、なにも見なかったことにして口笛を吹きながら教室へ戻って行った。
瑠奈も授業が始まる前に蓮の元に戻ろうとしたが......
「瑠奈さん!チャイム鳴ってるわよ」
「せ、先生!蓮を迎えに行くだけ!」
「涼風くんは生徒会で忙しいのよ、早く戻りなさい」
中川先生に強制的に教室に戻されていた。
それからしばらくして目を覚ました蓮は、気絶している乃愛を見て焦っていた。
「乃愛先輩⁉︎しっかりしてください!」
「蓮......」
「大丈夫ですか⁉︎」
「教室に運んで......」
「保健室の方が......」
「大丈夫......」
とりあえず乃愛先輩をおんぶして階段を上がると、乃愛先輩はギュッと僕に掴まって言った。
「やっぱり保健室」
「分かりました」
そして階段を降りてすぐ。
「やっぱり教室」
「わ、分かりました」
それを三回繰り返した時、僕はついに言ってしまった。
「あの、おんぶされてたいだけじゃないですよね」
「そ、そんなことないよ?」
「絶対今ニヤけてますよね」
「いいの!はむ!」
「ぬあ!だから耳舐めないでくださいよ!」
「んじゃ、どこ舐められたい?」
「どこもダメです。もう保健室行きますよ」
「はーい」
その頃結愛は、保健室で雫と話していた。
「可哀想だけれど、今年のクリスマスイブの日にある雪祭り、乃愛さんは連れて行けないわ」
「な、なんで!」
「雪の中、車椅子で見回りや、祭りを楽しむのは難しいし、なにかのトラブルに巻き込まれたら大変だわ」
「雫も知ってるでしょ?乃愛は冬を大切にしてる。雪が大好きなのも知ってるよね」
「でもダメよ」
「......どうしても?」
「どうしてもよ」
「分かった。乃愛には私から言っておく」
「頼んだわ」
乃愛先輩を保健室に連れて行くと、結愛先輩がベッドに寝そべりながら漫画を読んでいた。
「結愛先輩?」
「あれ?2人ともどうかしたの?」
「千華先輩の弁当食べて、さっきまで気絶してたので」
「は⁉︎あれ千華のだったの⁉︎」
「うーるさい!乃愛先輩、耳元で大きな声出さないでください!」
「ごめんごめん」
「結愛先輩はどうかしたんですか?」
「漫画読みたくなったからベッド借りに来た」
「自由ですね......」
結愛先輩が寝そべる隣のベッドに乃愛先輩を寝かせて、顔まで布団をかけた。
「ここで寝ててください。今から車椅子持ってかますから」
乃愛先輩は、ひょこっと顔だけを出し、何も言わずにニコッと笑った。
蓮が保健室を出て行くと、結愛は乃愛の掛け布団を取り、ふくらはぎなどをマッサージし始めた。
「車椅子は慣れた?」
「うん」
「私の知らないところで、いじめとか差別とかされてないよね」
「大丈夫。そうなったら雫がいち早く気づいてくれる」
「そうだね.......あのね......雫がね、今年の雪祭り、乃愛はお留守番だって」
「......」
僕が車椅子を保健室に持ってくると、何故か乃愛先輩は元気が無いように感じた。
「車椅子置いておきますね」
「ありがとう」
「あ!降ってきましたね!初雪です!」
乃愛先輩は上半身を起こし、小さな子供のような表情で、ふわふわとゆっくり降る雪を見つめた。
「雪好きなんですか?」
「うん!私、冬が一番大好きなんだ!」
それから長い間会話もなく、3人で窓越しに雪を眺めていると、学校にお寺の神主さんのような人が入ってきた。
「お祓いの人ですね」
「初雪の空の中で成仏できるなんて、幽霊さんも幸せだね!」
「寒がりだったらどうするんですか」
「あ〜」
男の「あ〜」という低い声が聞こえて、僕と結愛先輩は顔を真っ青にして保健室を出ようとした。
「ねぇ!置いていかないで!」
可哀想だけど、乃愛先輩をおんぶする余裕は無く、僕達は自分達の教室に逃げ込んだ。
乃愛はまた雪を眺めて、ボソッ呟いた。
「おかえりなさい」
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