金の紋章
「体育祭負けちゃったなー」
「林太郎くん、結構本気で頑張ってたもんね」
「雫先輩のクラス、全員運動神経よかったからねー。雫先輩達がいる赤組になれなかったのが負けの理由みたいなもんだな」
「絶対に雫先輩が鍛えあげたんだよ」
「かもな」
無事に体育祭は終わり、いつもより早く帰れた僕達は、二人でゲームセンターに寄って帰ることにした。が、もうすぐでゲームセンターに着くという時に雫先輩から電話がかかってきた。
「え......雫先輩だ。もしもし」
「蓮くん?何故帰っているの?まだ生徒会の仕事が残っているわよ?」
「え!聞いてないですよ!」
「今すぐ学校に戻りなさい。みんな待っているわ。5分、いや3分よ。1秒でも遅れたら罰を与えます」
「3分は無理です!......切られた......」
「どうしたんだ?」
「林太郎くんごめん!すぐ戻らなきゃ!」
「え」
「じゃあね林太郎くん!」
「お、おぉ......」
息を切らして全力で学校に向かった。
体育祭で疲れてるのにー!
「蓮!居た!」
校門前で瑠奈と会ってしまった。
「もしかして私のために戻って来てくれたの?学校中探しても居ないからビックリしたよ!今日は早く終わったし、今から遊ぼ!って、なに足踏みしてるの?」
「ごめん!生徒会室行かなきゃ!」
「待って!」
「なに⁉︎」
「今日遊んでくれたら......蓮がしたいことなんでもしてあげる......」
「ごめん!」
「もう‼︎」
(体育祭終わりでシャワー浴びてないし、今日は困るけど......)
僕は慌てて生徒会室に飛び込んだ。
「お待たせしました‼︎」
「6分28秒。秒数にして208秒遅刻ね。この場で208回スクワット」
「はい?」
「はい、スタート」
「クソ〜‼︎」
「クソ?回数追加するわよ?」
「ごめんなさい〜!」
生徒会のみんなに見られながらスクワットをしていると、千華先輩が立ち上がった。
「可哀想だよ!元々集まる予定無かったんだから!」
「そうなの⁉︎」
「関係ないわ。上に立つ者としてその可能性を考えなかったのがいけないの。可哀想なら千華さんも一緒にしてあげたら?」
「言われなくてもするし!」
梨央奈は雫の機嫌を取ろうと、ニコニコしながら雫の肩を揉んだ。
「また一段と厳しくなったんじゃない?」
「私は元々こんな感じよ」
「そうだったかな?」
「なにが言いたいの?」
「なんでもないよー」
スクワットが終わり、ヘトヘトになりながらソファーに座ると、雫先輩は一人の女子生徒の顔写真を見せてきた。
「三年一組、山本先輩よ。蓮くんは、この生徒を見て何か感じるかしら」
「真面目で優しそうですね」
「この生徒、長い間不登校なのよ」
「そうなんですか」
「そろそろ学校に来ないと、卒業できなくなるわ」
「雫先輩が来いって言えば一発なんじゃ」
「学校に来ない原因を掴まないまま無理矢理来させて、その原因がいじめだった場合困るじゃない。そこで蓮くん」
「はい」
「この案件を蓮くんに任せるわ」
「......いや!む、無理ですよ!」
「これが欲しくない?」
雫先輩は金のバッチのような物を見せてきた。
「なんですかそれ」
「気づいてなかった?生徒会は全員、制服の紋章が金なのよ」
「え」
みんなの紋章を見ると、確かに金色だった。ちなみに一般生徒は銀色だ。
「なんで僕だけ銀なんですか⁉︎」
「渡してないからよ」
「そういうことじゃなくてです!」
「シンプルに渡すのを忘れていただけよ」
「えぇ〜、雫先輩も人間なんですねー」
「馬鹿にしているの?」
「そんなことないです!」
「さっき説明した問題を解決できたら金の紋章をあげるわ。頑張ることね」
「えぇ〜......」
「返事」
「は、はい!」
「それでは解散よ」
雫先輩が生徒会を出て行くと、千華先輩と梨央奈先輩が同時に僕の手に触れ、同時に声を揃えて言った。
「遊びに行こ!」
「遊びに行こ!」
「いや〜、頭がいっぱいいっぱいで遊ぶ気分じゃ......」
「そっか......それより、なんで千華が蓮くんの手を握ってるの?」
「あ、ごめんごめん!」
怖い。梨央奈先輩、ニコニコしてるのに不機嫌なのが伝わる。
「そ、それじゃ今日は帰りますね」
「せめて途中まで一緒に帰ろ!」
「梨央奈だけずるい!」
「だって私は彼女だもん!」
膨れっ面の千華先輩と、パックの林檎ジュースを飲む結愛先輩と、多分寝てる乃愛先輩を置いて梨央奈先輩と下校することになった。
「蓮くんさ、大変な仕事任されちゃったね!」
「本当ですよ......」
「でも、みんな通った道だから!」
「なにがですか?」
「私は学校の前で生徒の身嗜みチェック、千華は学校全体の掃除、結愛と乃愛は分からないけど、みんなそうやって金の紋章を貰ったんだよ」
「ちょっと待ってください。みんな難易度低くないですか⁉︎イージーすぎます‼︎」
「まぁ確かに!でもね、金の紋章を渡し忘れてたなんて嘘だよ?」
「どういうことですか?」
「今日まで逃げないで生徒会に居たこと、雫はちゃんと見てたんだよ!ある意味この試練は、雫が蓮くんを本当の意味で生徒会の一員だと認め始めてる。いや、認めたサインだよ!だから頑張って!」
「おぉー!なんかそれ聞いてやる気出ました!そういえば、梨央奈先輩はなんで生徒会に入ったんですか?」
そう聞くと、梨央奈先輩はニコニコするのを辞め、真剣に話してくれた。
「雫と私は入学初日から友達だったんだけど、雫が生徒会長になった途端、私と口を聞いてくれなくなったの」
「なんでです?」
「多分、鬼の仮面をつけた以上、自分は嫌われる対象になる。だから私を巻き込みたく無かったんだと思うよ?それで、私は友達が居なかったんだけど、クラスメイトの一人がいじめられてるのを知って、私がそれを庇ったの」
「優しいですね」
「でもね、そうしたら次は私がいじめられちゃって、ある日登校したら、靴に画鋲がパンパンに入っててさ......」
「.......」
「私、その場で泣いちゃって、そしたらね!雫が久しぶりに話しかけてきたの!泣いて蹲る私に、生徒会でこき使ってあげるわって!それだけ言って立ち去っていったんだけど、あの時の雫かっこよかったなー」
「え?かっこいいですか?」
「友達がいじめられて悲しむぐらいなら、自分の側に置いておく。そう考えたんじゃないかなって思ってる!」
「それならカッコ良すぎます。それでいじめはどうなったんですか?」
「生徒会に入った日から、ピタッと止まったの。私は本当の雫を知ってるから怖くなかったけど、やっぱりみんなには恐れられてるんだなーって、その時ハッキリ分かった」
「まぁ、僕も未だに雫先輩は怖いです」
梨央奈先輩は曲がり角で立ち止まり、可愛い笑顔を見せた。
「いつか本当の雫を知った時、惚れたら許さないよ!それじゃ、私こっちだから!」
「あ、はい。また明日です」
「また明日!」
ないない。確かに美人だけど、雫先輩に惚れるなんてないない。
そして僕は自宅に帰り、なにも解決策が浮かばなくて頭を抱えていた。
「面識もないし、三年生だし......あっ」
こういう時こそあの人に相談だ!
SNSで知り合った女子高生!むうさん!
早速、むうさんに難しい相談があるとメッセージを送ると......
「も、もしもし」
「もしもし。涼風くん?」
「は、はい!」
電話で相談を聞いてくれることになった。
ネットで知り合った人に番号を教えるのは抵抗があったが、むうさんは良い人だから大丈夫だろう。多分。
「初めて声聞いたね!」
「は、はい!!」
普通に可愛い声だなー。
「それで、相談ってなに?」
「あ、えっと......同じ学校に不登校の生徒がいて、どうにか学校に来させないといけないんです」
「あ、敬語使わなくて良いよ?」
「う、うん。ありがとう」
「不登校かー......その子はなんで学校に来ないんだろうね」
「それが分からないんだよね。むうさんは学校楽しい?」
「......実は私も学校行ってないんだよね」
「そ、そうなんだ。なんで?」
初めての電話でこの空気は気まずい......
「あまり言いたくないんだけど、学校の環境が私に向いてない気がするんだ......」
「へっ、へぇー。どんな学校なの?」
「生徒会が怖い......」
「あー、僕の学校も生徒会が特殊なんだけど、みんな怖がってるよ」
「涼風くんの学校もなんだ。私の学校ではね、会長が鬼の生徒会長って言われてて」
え......
「校則は厳しいし、会長は私達をゴミでも見るような目で見るし......」
「そ、そうなんだ。なんていう学校なの?」
「んー。涼風くんならいいか。
この人!山本先輩だ〜‼︎‼︎
「なんかごめんね?逆に相談みたいになっちゃって」
「い、いやいや」
どうする......どうしたらいいの⁉︎僕、その怖い生徒会の一員なんですけど‼︎不登校の原因の一部なんですけど‼︎‼︎
「それで、涼風くんはなんていう高校に通ってるの?」
その質問はダメ!あれだ、充電切れたフリして一旦電話を切ろう。あとで謝れば大丈夫!それしかない‼︎
そして僕は静かに電話を切った。
さて、やっぱり無理だって雫先輩に伝えよう。そう思った時、雫先輩からメッセージが届いた。
「なになに?もしも途中で諦めた場合、このプリクラを梨央奈さんに見せます⁉︎」
送られてきた画像は、最初の頃に千華先輩と撮ったプリクラだった。
「ふっ......ふはははは!甘い!甘いぞ雫先輩!この時の千華先輩は金髪!梨央奈先輩が見ても付き合うまえのだと分かる!」
ピコン
(このプリクラも見てちょうだい。編集で金髪を黒髪にしてみました。まるで蓮くんが浮気デートしたみたいな出来上がりね)
「......オワタ」
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