嘘つきは要らない


「雫先輩のお姉さん、詩音さんを探すのに3人も協力してほしい」 

「もちろん!」

「問題ないぞ」

「別に良いけど」

「まず分かってる情報は、雫先輩のお母さんが詩音さんの居場所を知ってるってことだけ」

「なら聞けばいいじゃん!」

「教えてくれない。教えてもらうには、100万円を用意するか、雫先輩のお母さんの心を動かす必要があるんだ」


みんな100万円と聞いて顔をしかめ、瑠奈は閃いたように言った。


「みんなでバイトしよう!」

「間に合わないよ、雫先輩が卒業する前に見つけ出したい」

「そっか......」

「花梨さん、なにか良い考えない?」

「なんで私?」

「頭いいじゃん」

「雫先輩のお母さんがどんな人かも知らないし、分からないよ」

「んー、美桜先輩は?」

「心を動かすとかどうしたらいいか分からないし、こっちがもう居場所を知ってるていにして話すとか?」

「それで居場所を聞き出すんですか?」

「そう」


雫先輩のお母さんを騙せる自信がない......

あの人、多分雫先輩より洞察力とか凄いし。


「それなら私が話の内容考えてあげる」

「花梨さんが?」

「うん、明日まで待ってくれるなら」

「分かった、それじゃまた明日の放課後集まろう。美桜先輩も来てくださいね、でも、絶対周りにバレないでください」

「分かった」


翌日の放課後、約束通り生徒会室に集まり、雫先輩のお母さんと話す時の立ち振る舞いを伝授してもらうことになった。


「まず、会った瞬間は笑顔で、声のトーンも少し明るく嬉しそうにして」

「待って、僕一人で行くの?」

「私達は面識ないんだから仕方ないでしょ?」

「ま、まぁ、続けて」

「そして、話の始まりが重要」

「どうするの?」

「もう、詩音さん見つからないかと焦りましたよー。これ、この時も笑顔」

「ふむふむ」

「居場所が分かったの?的なことを聞いてくるはずだから、迷わずにイエス」

「でもさ、よかったねの一言で終わったらどうするの?」

「終わらせないの。よかったねって言われたら、あんな見つけやすいところに居たのに、教えてくれてもよかったじゃないですかって言うの。明確な場所を言わなくても、ヒントになるようなことを言うかもしれない」

「てかさ、蓮と通話繋げて、イヤホンで指示すれば?」

「俺も瑠奈に賛成だな」

「僕もその方が安心かも」

「それじゃそうしよう」

「あ、あの、私はなにをすれば?」

「美桜先輩は詩音さんへの謝罪の言葉でも考えててください」

「わ、分かった!」


あの美桜先輩がここまで素直になるなんて、本当に反省してるんだな。


「とりあえず、雫先輩のお母さんにいつ会えるか電話してみるから、みんな静かにね」

「明るい声でね」

「分かった」


内緒ドキドキしながら雫先輩のお母さんに電話をかけると、ワンコールが終わる前にでた。


「はい、音海です」

「どうも!蓮です!」

「あら、どうしたの?」

「久しぶりに会って話したいなと思いまして」


待て、電話できるなら会う必要なくない⁉︎


「そうねー、今ロスで仕事をしているの、次帰るのは二ヵ月後ね!」


二ヵ月に話して失敗したら、もう間に合わない......もうこのままやってやる‼︎

......なんて言うんだっけ。


急遽、携帯をスピーカーにし、みんなにも話が聞こえるようにした。


「それじゃ電話でも大丈夫です!いやー、まさか詩音さをがあんな場所に居るなんて思いませんでしたよ!」


ん?なんか教えてもらったことと違うこと言ったかも。


「あんな場所ってどこかしら」


予定ない返答⁉︎


花梨さんはすぐに紙に文字を書き、なんと言えばいいか指示してきた。


「意外と近場でしたね!」

「会話ができないの?私は、どこと聞いているの」


ヤバイ......マジで雫先輩みたい、怖い......


花梨さんも手が止まってしまい、数秒の沈黙が続いた。


「蓮くん、貴方には期待していたけれど、今日でお別れね。ビジネスでは勿論、私の世界に嘘つきは要らない」

「......切られちゃった」 

「今すぐかけ直して謝って!」

「う、うん!」


すぐに電話をかけなおしたが、すでに着信拒否されていて、電話は繋がらなかった。


「終わった......」

「俺、詩音さんが学校にいた頃の卒業アルバム見てくる」

「なんで?」

「卒業アルバムに詩音さんは載ってないだろうけど、何か手掛かりがあるかもしれない」

「分かった、瑠奈も一緒に行ってあげて」

「うん!」


林太郎くんと瑠奈が出て行き、僕達3人は深いため息をついた。


「校長先生って雫のお父さんじゃん?」

「はい」

「居場所知らないのかな」

「多分知りません」 

「そっか......」

「あれだね、雫先輩に探してることを内緒にしてる以上、街で聞き込み調査とかもできないもんね」 

「そうだね、雫先輩にはサプライズで喜んでほしいから」

「作戦、考え直そうか」 

「うん......」


それから30分後、瑠奈が卒業アルバムを持って勢いよく生徒会室に入ってきた。


「見て!」

「なに?なんか分かったの?」

「作文に詩音さんと卒業したかったって書いてる人がいる!」

「本当⁉︎」 

「それで、この人は3年3組なんだけど、3組の集合写真を見ると、担任は中川先生」

「り、林太郎くん!今すぐ中川先生呼んできて!」

「あ、林太郎ならお腹壊してブリブリ中」 「汚いこと言わないでよ、賞味期限切れのレモンティー飲んだ美桜先輩みたいじゃん」

「はー⁉︎言うなよ‼︎」 

「あ、やっぱりあの時ブリブッ‼︎膝蹴り禁止‼︎」

「喧嘩してる場合じゃないでしょ、美桜先輩、中川先生呼んできて」

「う、うん!」


美桜先輩が中川先生を呼んできてくれ、中川先生はテーブルに置かれた卒業アルバムを見て言った。


「気づいちゃった?」

「はい、詩音さんの居場所知らないですか?」 

「んー......」

「知ってるんですね」

「先生!早く教えて!」

「美桜さん落ち着いて。そういえばみんな、学園祭の時、石鹸のような、柔軟剤のような、優しくなにかに包まれてる気分になる匂いを嗅がなかった?」

「あ、美桜先輩が拾った香水」

「確かにあれ、そんな感じの匂いだったかも」

「詩音さんはあれと同じ匂いがするの」

「もしかして......」

「そう、詩音さんは学園祭に来ていた」

「なんで言ってくれなかったんですか!」

「言えないわよ、隠れて来てたんだから。それで二人で話をしたの」

「どんなですか?」

「内容までは言えない。でも、居場所に繋がるヒントなら言ってもいいかな」

「教えてください!」

「いろんなパンフレットや公式サイトをを見てみなさい。それじゃ先生は仕事があるから戻るわね」


僕達はパンフレットと公式サイトという漠然としたヒントを頼りに、詩音さんの居場所の手掛かりを探したが、県内に関するパンフレットや公式サイトだけでも信じられないほど数があり、そもそもそれを見てどうしたら良いのか分からずに毎日が無駄に過ぎていった。


そして、ちらほらと雪も降り始め、クリスマスが近づいてきた日の夜、乃愛先輩から電話がかかってきた。


「もしもし」

「雫......毎日屋上にいるよ?」

「こんな寒いのにですか⁉︎」

「きっと蓮を待ってるんだと思う」

「そうですか......早く雫先輩を救ってみせます!」

「蓮、本当に分かってる?」

「分かってますよ!」

「ならいいけど」

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