上げれない顔
応援演説から数日経った今も、雫先輩はドジっ子のふりを続けて、そこで溜まったストレスを毎日お昼になると屋上で僕に話してくるのが日課になっていた。
「本当、こうもいきなり馴れ馴れしくされると困ってしまうわ」
「雫先輩が親しみやすいキャラを作ったんじゃないですか」
「蓮くんのためだもの。私は残すところ卒業するだけ、今まで積み上げた鬼の生徒会長というお面も、もう要らないわ」
「寂しくなるので、卒業とか言わないでくださいよ」
「そう思ってもらえて嬉しいわ」
「雫先輩のこと、最初はめちゃくちゃ嫌いでしたけどね」
「あえてそれを言うなんて性格が悪いわね」
「でも今は好きですよ」
「えっ」
「優しくて頼れて、最高の先輩です」
「先輩としてということね」
「他になにがあるんですか」
「なにもないわ......なにも」
雫先輩の表情はどこか寂しげに見えた。
それから毎日のように屋上で話すようになり、生徒会選挙、結果発表の日になった。
「今日も屋上に来るのね」
「お昼が終わったら結果発表なので、結果が出たら雫先輩は前みたいに戻って、こうやってお昼に会うこともなくなるかなって」
「そうね」
「いや〜、今から緊張しっぱなしですよ!」
「結果がどうあれ、私はやる気を出してくれた蓮くんに感謝するわ」
「でもまぁ、雫先輩が応援演説してくれたので、絶対大丈夫です!」
「私はずっと言ってきたわ」
「なにをですか?」
「他人に期待しない方がいいと」
「それじゃあれですか?僕が雫先輩を助けてあげるってのも期待してないんですか?」
「しない方がいいのは確かよ。だけれど、賭けてみたいの、蓮くんに」
「ギャンブル中毒には気をつけてくださいね」
「ふふっ、体育館で待機しなさい。もしも蓮くんが選ばれていたら、遅れるなんて許されないわよ」
「そうですね!先行ってます!」
「また後で」
「はい!」
雫は空を見上げ、小さな声で呟いた。
「もう、会いに来てくれないのね......」
そして結果発表の時間がやってきた。
「蓮」
「どうしたの?」
「選ばれる自信は?」
「ありありのあり。林太郎くんは?」
「あるわけないだろ。蓮と花梨の一騎討ちみたいなもんなんだから」
「確かにそうかも」
マイクのスイッチが入る音が聞こえ、僕は目を閉じて祈った。
僕は会長になったらしたいことがある、会長の力を使って、雫先輩のお姉さんを見つけて、そして雫先輩に会わせること......神様、お願いします‼︎
そして運命の時は来た
「会長に選ばれたのは......長瀬花梨さんです。おめでとうございます。ステージにて、最初のご挨拶をお願いします」
中川先生や元生徒会メンバーは、花梨と梨央奈以外、全員顔を伏せたままの蓮を見つめていた。
そんな中、蓮は顔を伏せたまま絶望していた。
どうして......もう雫先輩に合わせる顔がない......助けるって約束も.......
蓮がグッと涙を堪えた時、花梨が話し始めた。
「今日から私が会長ってことで、学校内の全てのルールは私次第。全部私に従ってもらう!......蓮先輩、顔を上げて」
無理だ......こんな状況で顔を上げるなんて......
「後輩に負けて顔も上げられないとか、本当ダサすぎ。まぁ、今からもっと無様な思いさせてあげるよ。よーく聞いて、今日からこの学校の生徒会長は蓮先輩になる」
「え?」
訳が分からず、思わず顔を上げてしまった。
「私が副会長で、蓮先輩が会長になるの。返事をして、これは会長命令」
「......は、はい......」
花梨さんは頭を下げて、初めて僕に敬語を使った。
「よろしくお願いします。会長」
「そ、それでは新しい生徒会長、涼風蓮さん、ステージで最初の挨拶をお願いします」
「は、はい」
なにがどうなってるんだ、なんで花梨さんはこんなことを......
戸惑いながらステージに上がると、花梨さんは言った。
「最初からこうするつもりだった」
「どうして?」
「蓮先輩が本気がどうか見たかったから。んじゃ、挨拶お願いします」
花梨さんはステージを降り、僕は動揺しながら話し始めた。
「え、えっと、会長になりました涼風蓮です。よろしくお願いします......今、頭が混乱してて、何を話せばいいのか分からなくなってるんです。で、でも!とにかく会長として頑張ります!」
そう言って雫先輩の方を見ると、雫先輩は嬉しそうに微かに笑みを浮かべた。
挨拶の時間も終わり、体育館を出ようとした時、雫先輩と花梨さん以外の元生徒会メンバーは僕に一斉に飛びついてきた。
「れーん!」
「蓮くーん!」
「ぶはっ!勢いよすぎます‼︎」
「一時はどうなるかと思ったよ!」
「乃愛先輩、目の下赤くなってますよ」
「泣いちゃってたもんね〜」
「言うな千華ゴリラ!」
「別にいいじゃん、てか、ゴリラってなんだ‼︎」
「蓮くん、おめでとう!」
「中川先生!」
「これ、生徒会室の鍵よ」
「ありがとうございます!みんなで行きましょうよ!」
中川先生に鍵を貰い、みんなを誘って生徒会室に向かった。
「うわ!なんか懐かしく感じますね!」
「ニャ〜」
「レックス!元気だった⁉︎あ、花梨さん、レックスだよ」
「はっ、は⁉︎だからなんだし!」
「猫語で喋らないの?」
「ぶっ飛ばすぞ!」
「ごめんごめん!」
そして、ふと周りを見ると、雫先輩の姿が無かった。
「結愛先輩、雫先輩どこ行ったんですか?」
「雫は来ないって」
「えー、久しぶりにみんなで話したかったのになー」
その頃雫は、屋上で黄昏ているところを中川先生に話しかけられていた。
「蓮くんが会長になって安心した?」
「中川先生......」
「改めて、本当に会長お疲れ様」
「ありがとうございます」
「まさかあんな応援演説をするなんてね」
「みんなに言われます」
「少し、一年生の頃の雫さんを思い出しちゃった」
「私、別にドジじゃなかったですよね」
「そうだったかな?家庭科の授業で小麦粉ぶち撒けて真っ白になったのは誰だったかなー?」
「......」
「あ!しかもいつだったか、学校で幽霊が話題になった時、蓮くんと調理室で塩無駄にしたでしょ!先生見てたんだから!」
「なんで今言うんですか」
「会長の時の雫さんに言ったら、先生なのに罰与えられそうだもの」
「やりかねませんね」
「ほらー」
「そういえば」
「なに?」
「中川先生、付き合ってた彼氏からのプロポーズ断りましたよね」
「な、なんで知ってるの⁉︎」
「中川先生の元彼、家で私の担当をしている者です」
「え⁉︎初めて知った!」
「どうして断ったんですか?」
「そうねー、前までの雫さんなら理解してくれたかもしれないわね」
「と言うと?」
「私は詩音さんを救えなかった。そして、苦しみながら頑張り続ける雫さんの力になれなかった。そんな教師が、幸せになっちゃいけないと思ってしまったの。でも今ちゃんと後悔してる」
「私も、あと一歩踏み出していれば、あと一言が言えていたらと思うことがあります。人生に後悔はつきものですね」
「蓮くんのこと?」
「べ、別にそうじゃないです」
「顔赤くなってるわよ?」
「見ないでください」
「蓮くんと良い感じになったら教えてね?」
「言いません!」
それから生徒会室で蓮達は、放課後まで話し尽くし、副会長に花梨、秘書に瑠奈、会計に林太郎を迎えて生徒会の活動が始まった。
「瑠奈!林太郎くん!生徒会入ってくれてありがとう!」
「おうよ」
「やっと楽な学校生活が送れるー!」
「怠ける場所じゃないからね?」
「はいはーい!」
「さて、最初の仕事を始めよう!花梨さん、美桜先輩呼んできて!」
「了解」
数分後、生徒会室に美桜先輩がやってきた。
「なに?会長になったら私に説教?」
「色々と聞いてますよ」
「なにが?」
「一緒に雫先輩のお姉さんを探しましょう!もちろん、雫先輩には内緒で」
「......探してくれるの?」
「一緒に探すんですよ!」
「さ、探す!」
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