リボン付きピンクパンツ


各クラスに顔を出して選挙活動を繰り返している時に僕は気付いてしまった。

応援演説してくれる人が誰もいないことを......


「あ、雫先輩に頼めば一発じゃん」


雫先輩を探しに三年生の教室に行くと、梨央奈先輩が話しかけてきた。


「蓮くんだ!どうしたの?」

「雫先輩いますか?」

「お昼だと屋上かな?」

「分かりました!ありがとうございます!」


屋上に行くと、雫先輩は柵の前に立ち、街の風景を眺めていた。


「あら、どうしたの?」

「ちょっとお願いがあるんですけど」

「なにかしら」

「僕の応援演説をしてくれませんか?」

「私がやったら、当然蓮くんが選ばれるわ」

「凄い自信ですね」

「この学校のルール、学校の治安を誰が作り上げたと思っているの?」

「雫先輩の力を借りても、それでも僕は会長になりたいです!」

「私が応援演説をして、蓮くんは私にどんな対価を支払えるかしら」

「......助けてあげますよ」

「......乗ったわ。明日のお昼、また屋上に来なさい」

「分かりました!」


そして翌日のお昼、言われた通り屋上へ行くと、雫先輩は僕に一枚の紙を手渡した。


「応援演説の内容よ、確認してちょうだい」

「はい」


その内容は、完璧以外の言葉が見つからないほど完璧だった。


「完璧です!」

「当たり前じゃない。ただ、花梨さんの応援演説は梨央奈さんよ」

「え⁉︎ヤバくないですか?」

「やることになったからには情を捨てて本気でやると言っていたわ」

「梨央奈先輩がそういうことで本気を出したら......」

「安心しなさい、私も本気よ」

「頼りにしてます......」


数日後、応援演説の人数が多いことから、今日一日、休憩を挟みながら授業の時間を無くして行われた。


瑠奈や林太郎くんやクラスメイト全員は、無理矢理知らない一年生にやらせたからか、かなりグダグダな感じで終わってしまい、僕の作戦は通用しないかもしれないと、不安が僕を襲った。


「続いては、長瀬花梨さんの応援演説を務める、沢村梨央奈さんです」

「はい」


梨央奈先輩の番だ......


「よろしくお願いします。花梨さんは短い間ですが、生徒会の活動を共にし、皆さんが抱いているイメージと違い、可愛いところもあります!では、ご覧ください」


そう言うとステージに大きなスクリーンが降ろされた。

雫先輩の応援演説をした時と同じ作戦......


「これは、私がこっそり隠し撮りした映像です!」


映し出されたのは、花梨さんが一人でレックスと戯れる映像だった。


「にゃにゃ?どうしたのかにゃー?」

「ちょっ!」


花梨さんは知らなかったのか、顔を真っ赤にして立ち上がった。


「お腹すいたのかにゃー?」


これは恥ずかしすぎるな。でも、男子生徒の心は確実に掴んでいる......


「続いて、ウーパールーパーを見つめる花梨さんです!」

「ウパウパ〜、どうしてそんな顔してるウパか?」


花梨さんは梨央奈先輩に掴みかかり、勢いよく梨央奈先輩の体を揺らした。


「け、消して消して!」

「今もこのように、顔を真っ赤にする可愛い一面もあります!花梨さんが会長になったら、みなさんにトキメキと癒しを与えてくれるはずです!長瀬花梨に清き一票を!」


男子生徒の心をぐっと掴み、女子生徒は切り捨てるやり方か。ただ、花梨さんは冷たいけど頼りがある、そして怖いイメージがあるのに優しい時は優しい、そのギャップで元から花梨さんを支持してる女子生徒は少なくない、これはヤバイ......


そんなことを思っている時、隣に座る雫先輩が小さな声で話しかけてきた。


「やり方を変えるわ」

「今からですか?」

「この前渡した演説の内容は無かったことにしてちょうだい」

「は、はい......」


今から内容を変える⁉︎頭の回転が速い人ではあるけど、いくらなんでも......


「心配そうね」

「そりゃそうですよ」

「安心しなさい、蓮くんのためにプライドを捨ててあげる」

「何する気ですか?」

「結局、投票するのは大人じゃなくて私達生徒、それなら真面目な話をするよりも、印象に残ることをした方がいいのよ」

「だからなにを......」

「続いては、涼風蓮さんの応援演説を務める、音海雫さんです」

「行ってくるわね」


雫先輩が何をしようとしているのか不安の中、雫先輩の出番が来てしまった。


雫先輩はステージに上がると、周りをキョロキョロし始めた。


「え、えっと、なにを言うか忘れてしまいました」


雫先輩の完璧なイメージが崩れて、生徒達はざわめき始めた。


「えっとえっと、メモしてきたのに......メモした紙を無くしちゃって、でも、本当に書いたんです!今まで完璧なフリをしてきたのに......こんな形でドジなのがバレるなんて......」


雫先輩の困りフェスと、ドデカいギャップで生徒達の反応が変わり始めた。


「なんか雫先輩可愛くない?」

「ちょー可愛い」


プライドを捨てるって......今まで積み上げてきたものを捨てて今後の僕に賭けるってことか......


「えっと......あ!思い出しました!ちょっと待ってくださいね!」


雫先輩はマイクを持って僕の元へ戻ってきた。


「蓮くんに預けてました!」

「え、これですか?」

「そう!ありがとう!」


雫先輩は紙を持ってステージに戻り、紙を広げると、驚いたように口元に手を当てた。


「白紙の紙を預けちゃってました!どうしましょう!」


体育館に笑いが起き、応援演説とは思えない雰囲気に変わった。


「雫さーん!頑張ってー!」

「雫先輩頑張ってくださーい!」


全生徒が雫先輩の策略にハマった。


「あまり見ないでください」


雫先輩はいつものような喋り方に戻し、体育館が一瞬で静かになったが、その瞬間両手で顔を隠してモジモジしながら言った。


「あまり見られると恥ずかしいです......」

「きゃー!」

「可愛いー!」


その時、近くにいた梨央奈先輩が僕に話しかけてきた。


「まさかのやり方だね」

「僕もビックリです」

「これは私達の負けかな?」

「まだ分からないですよ」

「雫はプライドと積み上げた全てを捨てる覚悟をした、こうなったら雫は強い。花梨さんのギャップが霞んで見えちゃうもん。むしろみんな忘れてるかも」


それから雫先輩は個人で使っていい時間の10のうち9分を使い、生徒達を盛り上げ、最後の1分でやっと本題に入った。


「で、でも、こんな私でもハッキリ言えることがあります。蓮くんは凄い人です、私の次は蓮くんしかあり得ない!」

「応援します!」

「蓮!絶対会長になれよ!」

「蓮せんぱーい!頑張ってくださーい!」


普通ならなんの説得力も無いその言葉は、本当はこんなにダメな女の子が、今まで会長として頑張ってきたという思い込み、雫先輩の好感度が爆上がりの今、とんでもない力を帯びた。


「チッ」


花梨さんの舌打ちが聞こえ、一瞬ドキッとしたが、これは戦い......しょうがない。てか、応援されるの気持ち良すぎ。


全ての応援演説が終了し、静かになった瞬間、梨央奈先輩は急に大声を出して注目を集めた。


「花梨さん!立って立って!」

「え?」

「虫!」

「は⁉︎どこどこ!取って!」

「それー!」

「きゃー!」


梨央奈先輩は花梨さんのスカートを持ち上げ、全生徒にパンツを見せつけた。


「おー‼︎」

「み、見るなー‼︎離せ‼︎」

「まだ虫が」

「いいから離せー‼︎‼︎‼︎」


ふむ、花梨さんはピンクに白いリボン。意外に可愛いのを履くのか。


パンツをガン見している時、花梨さんと目が合い、花梨さんは更に顔が真っ赤になって僕を睨みつけた。


「やべっ」


それから教室に戻る時、雫先輩は僕を通り越す寸前、小さな声で言った。


「やられたわね」


......そうか......最後の梨央奈先輩の行動、あれはわざとだったんだ。投票期間は1カ月もある、その間、応援演説なんかの内容を覚えてる生徒はそんなに多くない。本当に印象深い人しか記憶に残らない......最後の最後で応援演説で印象深い人物を花梨さんにするため......


「やられた......」

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