お泊まり海デート
夏休み初日、僕は昼過ぎに目を覚まし、布団からも出ずにボケーっとしながらSNSを眺めていた。
「あ、睦美先輩が投稿してる」
睦美先輩は家族で旅行か。
そういえば、生徒会のメンバーはSNSのアカウント持ってるのかな。
林太郎くんはネットに興味無いし、瑠奈は僕だけフォローして、何も投稿しないし。
梨央奈先輩は......次会ったら聞いてみよ。
そんなことを考えている時、梨央奈先輩から電話がかかってきた。
「はーい」
「寝起き?」
「さっき起きました」
「夏休み初日からお寝坊さんだね!」
「遅くまで起きてたので」
「そうなんだ!今から蓮くんのお家行っていい?」
「え、家じゃなくて、どこか行きません?」
「でも、もう家の前にいるの」
「なにそれ怖いです」
ピンポーン
「ほら」
「ほらじゃないですよ」
「あ!お久しぶりです!上がっていいですか?」
お母さんが玄関を開けて、梨央奈先輩は電話を切った。
「蓮くん♡布団から出て!」
「今ズボン履いてないので」
「別にいいよ?」
「僕が良くないです」
「それ〜!」
「ちょっと⁉︎」
掛け布団を取られ、パンツ姿を見られたが、冷静になればパンツぐらい問題ない。
梨央奈先輩は少し息遣いが荒いけど......
ズボンを履いてベッドに座って背伸びをした。
「夏休みだからって、夜更かしはダメだよ?」
「録画してたアニメ一気見してたので」
「そうなんだ!とりあえず行こ!」
「どこにですか?」
「海!」
「今からですか⁉︎」
「うん!」
「今から行っても夕方になっちゃいますよ」
「大丈夫!外でお父様が待ってるから、早く準備して?」
「......はい⁉︎」
「さぁ!急いで!」
「は、はい!」
よく分かんないけど急がないと‼︎梨央奈先輩のお父さんを待たせるわけにはいかない‼︎
とりあえずパジャマから学校のジャージに着替え、携帯と財布だけ持ち家を出た。
すると、家の前には明らかに高そうな黒い車が止まっていて、梨央奈先輩が車のドアを開けてくれた。
「お、おはようございます」
「やぁ、蓮くん。梨央奈がどうしても海に行きたいと言うもんでね」
「は、はい」
梨央奈先輩は僕の隣に座り、なんだか楽しそうにニコニコしている。
「プライベートビーチへ招待するよ」
「プライベートビーチですか⁉︎」
「近くに別荘もあるからね、今日はそこに二人で泊まるといい」
.......プライベートビーチ⁉︎別荘⁉︎梨央奈先輩とお泊まり⁉︎頭が追いつかない‼︎
そして気まずいまま辿り着いたのは、地元の空港だった。
「どこの海に行くんですか?僕、パスポート持ってないんですけど。お金もないですし」
「梨央奈、後は自分で行けるね」
「はい、お父様!蓮くん、行こ!」
「え、はい」
梨央奈先輩に手を引かれて空港に入ると、スーツ姿でサングラスをつけた三人の男性が待っていた。
「お嬢様、涼風様、こちらです」
涼風様⁉︎様⁉︎
そしてヘリコプターに案内され、言われるがままにヘリコプターに乗り込んだ。
「あのー、梨央奈先輩?」
「このヘリコプター、お父様のなの!これならすぐに海まで行けるよ!」
「お金持ちってすごいですね......」
「ちなみに、雫はもっと凄いからね?」
「梨央奈先輩よりですか⁉︎」
僕が驚くと、ヘリコプターのパイロットの声がヘッドセットに聞こえきた。
「我々が勤めている沢村様のご家庭は総資産200兆円を超える財閥の一つですが、雫さん、音海様のご家庭はそれより上、総資産300兆円を超えているかと思います」
「兆......」
「蓮くん、逆玉の輿だね!」
「はぁ......」
やばい、なんかクラクラしてきた。
僕が小学生の頃なんて、100万円あれば世界救えると思ってたのに、金銭感覚狂いそう......
それから景色を楽しんでいるうちに、あっという間に海に着き、豪快に砂埃を上げて海の浜辺にヘリコプターが着陸した。
「綺麗な海ですね!」
「でしょ!それで、あれが別荘だよ!」
海のすぐ側に、旅館かってぐらい大きな別荘が建っていた。
「いや、あれは旅館です」
「別荘だよ?とりあえず荷物置きに行こう!」
梨央奈先輩と一緒に別荘に入り、内装も豪華すぎて唖然としていると、僕達を送ってくれたヘリコプターが飛び立ち、本当に二人っきりだと実感して緊張してきてしまった。
「さて!水着に着替えて海に集合しよ!」
「僕、水着持ってきてないですよ?」
「蓮くんの分も持ってきたよ!着替えも用意してるからね!」
無地の黒い水着を渡されて、僕は先に着替えてバスタオルを持ち、浜辺で海を眺めていた。
「あ、貝殻だ」
「蓮くーん♡」
「......貝殻だー‼︎‼︎」
梨央奈先輩は初の海デートで張り切りすぎたのか、貝殻ビキニで現れた。
「どうかな♡似合う?♡」
「ふ、普通の着てくださいよ!露出が多すぎます!」
「蓮くん、気に入ってくれると思ったのに.......」
「き、嫌いじゃないですよ⁉︎ただ刺激が強すぎます!」
「お尻はね、真珠がTバックみたいになってて、蓮くんが喜んでくれると思ってね」
僕は静かに梨央奈先輩の体にバスタオルをかけた。
「頑張りすぎです。普通の着てください」
結局梨央奈先輩は、フリルの付いた白い水着に着替えてくれた。
それから、梨央奈先輩を浮き輪に座らせて海にプカプさ浮かんだり、一緒に貝殻を拾ったり、水鉄砲で撃ち合ったりと夕方まで遊び尽くした。
「海で見る夕焼け、綺麗でしょ!」
「はい!携帯持ってきていいですか?」
「どうして?」
「写真撮りたいなって!」
「映えってやつ?」
「はい!SNSに投稿しようかなって!」
「映えばっかり気にしてると、本物が見えなくなっちゃうよ?」
「本物......ですか?」
「そう。本物」
まぁいいか。こうやって梨央奈先輩と夕陽を眺める時間を大切にしよう。
「ねぇ、蓮くん」
「なんですか?」
「最近の雫はどう感じる?」
「よく分かんないです。でも、瑠奈も林太郎くんも、雫先輩は実は優しいみたいなこと言ってました」
「嬉しいな。あの、万引きした生徒を退学にしたの覚えてる?」
「はい。あれはビックリしましたよ」
「雫はね、最後の最後まで、あの生徒を助けようとしてたんだと思う。でも犯罪は犯罪だから、大人達は納得しなかった」
「犯罪は......そりゃそうなりますよね」
「退学を言い渡した日の夜ね、雫が珍しく私に電話してきて、話をしたんだ」
「どんなですか?」
「学校のこととか、たわいもない話だったけど、多分あの時、雫は辛かったんだろうなって思う。誰かの声が聞きたかったんじゃないかな......」
「......」
「私、夢があるの!」
「夢ですか?」
「雫とこの海を眺めたい。一年生の頃に、一緒に行こうねって約束したんだ!」
「......叶いますよ」
「え?」
「梨央奈先輩の為だって思ったらやる気が出ました!方法は分からないですけど、僕が雫先輩を救います!そして、僕が叶えてあげます!その夢!」
梨央奈先輩は流れる涙をすぐに拭き、笑顔で言った。
「カレー作ってあげる!別荘に戻ろ!」
その笑顔はどこか切なく......だけどとても嬉しそうな笑顔だった。
別荘に戻り、梨央奈先輩は先にシャワーを浴びた。
「蓮くん、私終わったから次いいよ!」
「はい!」
「浴槽にお湯も溜まってるから、シャワーだけじゃなくて、ゆっくりお風呂に入って!」
「ありがとうございます!」
そしてお風呂に向かう蓮を見て、梨央奈はニヤッと笑った。
お風呂の扉を開けると、10人は一緒に入れるぐらいの浴槽で、ここに一人で入れると考えただけでテンションが上がる。
湯船に浸かり、海で遊んだ疲れを癒している時、正面の壁の一部に違和感を感じて近づいてみた。
......梨央奈先輩の携帯?
白いお風呂の壁に、梨央奈先輩の白い携帯が白いガムテープで貼られていた。
「なんでだ?」
気になって携帯を取ってみると、ガッツリ動画が回っていた。
「......梨央奈先輩〜‼︎‼︎」
「呼んだ?♡」
「は、入ってこないでください‼︎」
「だって呼んだじゃん♡」
「こ、この携帯なんですか!」
梨央奈先輩は露骨に口笛を吹いて誤魔化そうとして、僕は思わず梨央奈先輩の携帯を浴槽に投げ入れた。
「な、なにするの⁉︎」
梨央奈先輩が携帯を拾うのに夢中になっている隙に、僕は大事なところを隠しながら体を拭き、急いで服を着ようとした。
あれ?置いといた下着が無い‼︎
「ざんねん♡私の携帯、防水でしたー♡」
「あ、あの、パンツ......」
「返してほしいなら、その手どけて?」
「む、無理ですよ‼︎携帯向けないでください!」
梨央奈先輩は顔が赤くなり、何故か前かがみになり、自分の左腕を股に挟んでいる。
「早く♡」
「と、盗撮したこと、雫先輩に言いますよ⁉︎」
「チッ」
梨央奈先輩は急に冷静になり、舌打ちをして出て行った。
「いやあの、僕のパンツは......」
「知らないもん!」
「えぇ〜......」
結局タオルを巻いてお風呂から出ると、お風呂を出てすぐの床に着替えが置かれていた。
僕は急いで着替え、カレーを作る梨央奈先輩を眺めている時、梨央奈先輩の携帯に動画が保存されていることを思い出した。
「あの動画消してくださいね」
「なんで?」
「なんでじゃないですよ!流出したらどうするんですか!」
「流出するわけないでしょ?蓮くんの体は私しか見ちゃいけないの。私だけの体なの♡」
これは何言っても消してくれないな......そのうち携帯奪って勝手に消そう。
「そういえば、梨央奈先輩はSNSやってないんですか?」
「え?蓮くんのことフォローしてるじゃん」
「え?どのアカウントですか?」
「アイコンがピアノで、名前がリリだよ?」
これか。僕しかフォローしてないし、投稿してる内容もごく普通だな。
「フォローしたなら言ってくださいよ」
「ごめんごめん!」
これからはSNSでの女絡みは気をつけよう。
最近、ゆっちゃんって名前のアカウントと仲良くしてるのがバレたらまためんどくさいことになるな。
ただ仲良くしてるだけだけど、一回顔写真見せてもらった時、可愛いって送っちゃってるし。
「あー、そうそう。ゆっちゃんってアカウントも私だから」
「......カ、カレーいつできます?僕散歩してきますね!」
「はーい。気をつけてね。拾ってきた顔写真に可愛いとか言っちゃう彼氏さん」
女って怖い‼︎そこまでする⁉︎もうホモになろう!やっぱ嫌だ‼︎
しばらく浜辺でボケーっとしていると、ゆっちゃんのアカウントからメッセージが届いた。
(カレーできたよ♡)
絶対わざとだ。
別荘に戻ってカレーを食べている時も、梨央奈先輩はニコニコしていて、特に機嫌は悪くなさそうだ。
多分、今日はお泊まりということで、一旦許してくれてる感じかな?
「お、美味しいですね!」
「本当は、ゆっちゃんと食べたかった?」
めちゃめちゃ根に持ってた〜‼︎
「梨央奈先輩の方が可愛いですよ」
「んっ、ま、まぁ♡......えへ♡」
めんどくさいとこあるけど、単純な女の子だ。
カレーも食べ終わり、一緒に星空を眺めてベッドに入った。
「なんで一緒に寝てるんですか」
梨央奈先輩から返事がない。
「梨央奈先輩?」
......もう寝てる。海ではしゃいでたもんな。
あんな楽しそうな梨央奈先輩初めて見たし......それにしても寝顔も可愛いな。
そして蓮が安心しきって眠りについた時、梨央奈が目を開いた。
「うふ♡」
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