立ち上がる先輩


僕は明日の山本先輩の登校に備えて、生徒会の全員に、朝早く登校して体育館のステージ裏に集合と伝え、早めに寝ることにした。


翌朝、ステージ裏に行くと、すでに全員集まっていた。


「おはようございます!うわ、ここ暑いですね。乃愛先輩と結愛先輩、パーカー脱がないんですか?」

「半袖のパーカーにしたも〜ん。通気性もいい〜」

「あ、本当だ」


雫先輩はパイプ椅子に座り、ステージ裏は薄暗いにも関わらず、平気で読書をしていた。


「雫先輩、視力下がりますよ」

「そうね。読書はやめるわ。それで、ここに集めた理由は?」

「今日、山本先輩が登校してくるので、登校中に生徒会のメンバーを見たら帰ってしまう可能性があると思って」

「いつまでここに閉じ込めるのかしら」

「え......あれです、全校集会で僕がみんなを呼んだら、ステージに出てきてください」

「分かったわ」

「そういえば、山本先輩の下の名前ってなんですか?」

睦美むつみさんよ」


だからSNSの名前がむうさんなのか。


それから、続々と生徒達が体育館に集まった。


「睦美!久しぶりじゃん!」

「ひ、久しぶり!」

「元気そうで良かった!」

「うん。なんか久しぶりの学校で緊張するよ。生徒会が無くなったって本当?」

「あ、あぁー......うん!」


全校集会の時間になり、僕はステージ裏からステージに上がった。


三年一組の生徒がいる場所に昨日居なかった人が山本先輩だ......あれが山本先輩か。

生徒会のみんなには負けるけど、真面目そうで普通に可愛い人だな。


「おはようございます!」


蓮の声を聞いて、睦美は蓮に注目した。

(この声って......)


僕は三年一組の方を見て、堂々と言った。


「三年一組、山本睦美先輩!僕は涼風蓮です!」

「涼風くん⁉︎」

(やっぱり涼風くんだった!すごい!同じ学校だったんだ!)

「山本先輩は不登校で、学校に来ないと卒業できないということで、三年一組の先輩方に協力してもらい、生徒会が無くなったと嘘をついてもらいました。ですが、先輩方は悪くありません!僕が生徒会命令として脅してやらせました!」

「嘘......」

「生徒会の皆さん、ステージへ」


千華先輩を先頭に一列になってステージに上がり、最後に雫先輩がステージに上がった時、山本先輩は明らかに怯えた表情に変わった。


よし、ここからは僕に怒りを持たせる時間......


「この通り、生徒会は無くなってません!僕は最初から学校に来させるために山本先輩と繋がりを持ちました!まんまと騙されてくれましたね!」


山本先輩の反応は......完全に怒ってるー‼︎


睦美は、友達だと思っていた蓮に裏切られたと知り、強い怒りを感じた。

(最初から......仲良くしてたのもこのため......)


ひぃ〜!怒りを持たせるのは成功したけど、あの目つき怖すぎ!無理!


睦美が怒りと裏切られた悲しみで涙を流すと、三年一組の生徒は、急に手のひらを返し始めた。


「や、やっぱり騙すなんて反対だったんだ!」

「そうだよ!やり方が酷すぎる!」


やばい.....予想外の展開だ......


「で、でも......」

「でも、貴方達は昨日、反対なんてしていなかったじゃない」

「雫先輩.....」

「よくやったわ、蓮くん。あとは私が話すから下がってなさい」

「は、はい」


雫先輩に褒められたー!嬉しい!めっちゃ嬉しい!


雫先輩はマイクの前に立ち、三年一組の方を見つめながら話し始めた。


「心の中での反対なんて、なんの意味もないのよ。間違っていると思うこと、嫌なこと、それはその時に言わないと意味がないの。言葉にして伝えなければ、賛成していると同じことよ?後になって、結果を見てから反対だと言われても困るのよ。一年生の瑠奈さんは理由は違えど、みんなの前で手を挙げて反対意見を述べたわよ?貴方達は一年生以下ね」


雫先輩の言葉で先輩達は静まり返ったが、まさかの山本先輩が立ち上がり、ステージに向かってきた。

すると梨央奈先輩は僕の手を引き、自分の後ろに僕を立たせた。


そして山本先輩は雫先輩の目の前に立ち、マイクを握りしめた。


「やっぱり、この学校の生徒会は間違ってる‼︎人を傷つけて、自分達は正しいみたいな顔するな‼︎」

「あら?私達が怖いんじゃなかったの?」

「もう吹っ切れた‼︎私一人でも戦ってやる‼︎」


すると、三年一組の生徒は恐る恐る立ち上がり、声を上げた。


「お、俺達もだ‼︎」

「私も‼︎」

「みんな......」


雫先輩は動じることなく、冷静な表情をして言った。


「あらあら、前の千華さんみたいね」


うわ、千華先輩どんな顔してるんだろ......


千華先輩の顔を見ると、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。


「どんなに束になろうと、自分の意見をハッキリ言えない貴方達に負ける気がしないわね。それに、そんな大人数で生徒会に喧嘩を売って負けたら......」


雫先輩は山本先輩の顎を掴み、顔を近づけた。


「とっても恥ずかしいわね。あら?これから戦う相手に怯えているの?」


山本先輩は雫先輩の威圧感に腰を抜かし、立てなくなってしまった。


「先生方はこの戦いに関与しないようにお願いします。なにが起きても、蓮くんが全責任を取ります」

「ぼ、僕⁉︎」

「怒りを買うところまでが蓮くんの作戦よね?それなら、この争いは蓮くんが招いたことになるわ」

「そんな!」

「それでは三年一組の皆さん、なにで私達と戦うか決まったら報告を待っているわ。解散」


生徒会室に戻る途中、僕は怯えていた。


やばい......こんなことになって、絶対みんなに怒られる......


そして生徒会室に入った瞬間、梨央奈先輩は笑顔で僕に抱きついてきた。


「よくやった!」

「え?」

「本当によくやったよ!ね?雫!」

「そうね。学校に来させるという目的を達成したことは褒めてあげるわ」

「あ、ありがとうございます!」


千華先輩はルンルン気分で飛び跳ねた。


「今日は打ち上げだー!」

「お〜」

「千華さん、まだ全て解決したわけじゃないのよ?馬鹿なこと言わないで」

「なんで私だけ⁉︎乃愛も、おー!って言った!」

「馬鹿なこと言わないで〜」

「裏切り者‼︎」

「あ、あの、戦うって、なにで戦う気だと思います?あんな人数に勝てる気がしないんですけど」

「さすがに暴力でやり合うとは考えにくいから大丈夫よ」

「そ、そうですかねー」


その時、山本先輩のSNSアカウントからメッセージが届いた。

(許してあげるからちゃんと話そ?屋上で待ってるね)


これは行くしかない!


「僕、戻りますね」


ラッキーすぎる展開だ‼︎屋上へ急ごう‼︎


そして屋上へ着くと、山本先輩は一人でベンチに座っていた。


「ど、どうも......」

「座っていいよ」


山本先輩の隣に座ると、山本先輩は少し悲しそうに話始めた。


「涼風くん、同じ学校だったんだね」

「は、はい......」

「私、涼風くんとは友達だと思ってたからさ......悲しかった」

「ご、ごめんなさい!ただ、山本先輩が卒業できなくなるって言われたので......」

「嫌じゃなかったらさ、これからも友達でいてくれる?」

「え?怒ってないんですか?」

「だって、SNSで初めてできた友達だから」

「それじゃ、これからも仲良くしましょう!」

「本当⁉︎」

「はい!」

「んじゃ、涼風くんには何もしない」

「よかったです!」

「ここ最近の学校の事情とか知りたいから、明日早く学校に来て話さない?」 

「いいですよ!」

「んじゃ約束ね?」 

「はい!」

「よかった。んじゃ教室戻るね!」

(涼風くん。君は絶対に許さないから)


よかったー‼︎全て解決‼︎あ、でも、僕以外にはなにかする気なのかな......会って話しても良い人だったし、さすがにそんなヤバいことにはならないか。


僕も教室に戻ると、瑠奈は心配そうに話しかけてきた。


「敵が増えちゃったけど、いきなり全員で殴り込みとかされないよね」

「雫先輩が、暴力は考えにくいって」 

「そっか......」

「心配しないでよ!もし暴力沙汰になっても、生徒会のメンバーだけで一クラス分の戦力はあるだろうし!まぁ、僕は戦力外だけど」

「違うよ。暴力で勝つ負けるじゃなくて、そんなことが起きたら、蓮が責任取るんだよ?退学だよ」

「え......る、瑠奈!助けて!」

「そ、そりゃ私が蓮を助けるし、蓮が退学になったら私も学校やめるもん!」

「そしたら暗い人生を共に歩もうね......」

「プ、プロポーズ⁉︎」

「あ、違うから」

「え」

「蓮、瑠奈」


林太郎くんは何故か、スクールカバンを頭にかぶって話しかけてきた。


「これで顔守れるかな!」

「なにから守るの?」

「喧嘩になったら俺も呼んでくれ!」

「いや、林太郎くんはいいや」

「ガリガリだし」

「瑠奈......今言ってはいけないこと言ったな」

「あ、ごめん」

「俺は......俺は毎日筋トレ頑張ってるんだぞ‼︎許さね〜‼︎」


林太郎くんはカバンをかぶったまま、瑠奈の髪をぐちゃぐちゃにしようと手を前に出した。


「ん?なんだこの感触」


目の前の光景に、クラス全体が凍りついた。


「ん?なんだ?みんな急に静かになって」

「り、林太郎くん......」

「んー?」


林太郎くんは、何故か僕達の教室にやってきた雫先輩の胸を鷲掴みにしてしまったのだ。


「なぁー、このプニプニなんだ?まさか瑠奈!豊胸......したのか......」

「あ?」

「冗談冗談!」

「冗談じゃ済まされないわね」


雫先輩の声を聞き、林太郎くんは慌ててカバンを取った。


「し、雫先輩⁉︎す......すみませんでしたー‼︎」

「瑠奈さんに話があったのだけれど、急用ができてしまったわ。林太郎くん、行くわよ」

「い、行くってどこにです⁉︎」

「いいから来なさい」

「れ、蓮‼︎俺はどこに連れて行かれるんだ⁉︎生徒会のお前なら分かるだろ‼︎」

「地獄」

「そ、そんな!瑠奈!助けてくれ!」

「早くいけよ。地獄に」


瑠奈はさっき、貧乳をネタにされて機嫌が悪い。


「林太郎くん?無駄な足掻きはやめなさい。貴方はこれから地獄に行くのだから」

「地獄って言った!今地獄って言った!いや〜!」


林太郎くんは雫先輩に引っ張られ、どこかへ連れて行かれた。


そして教室の前の廊下では、千華先輩と梨央奈先輩が廊下を見張っていた。

きっと優しさもあるだろうけど、主な理由はデートチケット目当てだろう。

 

そして放課後まで何も起きなかったが、林太郎くんも帰ってくることはなかった。

瑠奈は生徒会室に呼ばれ、一人で生徒会室に向かった。


「なんですか?」

「蓮くんを守るのに、瑠奈さんの力が必要よ」

「蓮を守るために私が......」

「今回だけは私の言うことを聞いてちょうだい。蓮くんのためにも」

「......分かった」


その頃僕は、梨央奈先輩と千華先輩に腕を組まれ、両手に花で下校中だ。


「蓮くん?腕を切り落としても、人って生きていけるのかな」

「......ち、千華先輩!離れてください!」

「なんで私だけ⁉︎私も蓮とくっつきたい!じゃなくて蓮を守るの!」

「ハッキリと本音言いましたよね」

「てへ♡」


梨央奈先輩は携帯を開き、ボソッと呟いた。


「へー、チェンソーって意外と安いんだ」

「千華先輩‼︎本当に離れてください‼︎腕切られますよ⁉︎」


梨央奈先輩は僕の腕をグッと寄せて、キスするスレスレまで顔を近づけ、目を大きく見開いた。


「蓮くんの腕だよ。そんな汚れた腕要らないでしょ?大丈夫。体が不自由になっても、私が一生面倒見てあげるから」


恐怖で全身に鳥肌が立った時、千華先輩も恐怖で僕の腕を離した。

その瞬間、僕の携帯が鳴った。


「も、もしもし」

「蓮?どうして先に帰るの?梨央奈先輩と帰ってるの?私とは帰りたくないの?私の気持ち考えてくれないんだ」

「蓮くん?私と話してるのに誰と電話してるの?女?まさか女じゃないよね」

「梨央奈先輩の声......やっぱり一緒なんだ。酷い......蓮は私だけ見てなきゃいけないのに......私以外の女に触れるのも許されないのに」


僕、いつか死ぬかも。


そんな困っている蓮を見ていた千華は、一人だけ前向きだった。

(蓮は私が守ってあげなきゃね!梨央奈と瑠奈ちゃんは蓮を困らせてばっかり!やっぱり蓮に相応しいのは私なんだ!)

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