息苦しいキス


「瑠奈、今日一緒にお昼食べる?」

「えっ⁉︎さ、誘ってくれてるの⁉︎」

「うん、たまにはね」 

「食べる!」  


昨日は一緒に食べれなかったから、今日ぐらいは一緒に食べてあげよう。


「林太郎くんも食堂行く?」


その瞬間、瑠奈は林太郎くんを睨みつけ、林太郎くんは気を使って苦笑いをした。


「俺はいいよ。それに、食堂使う許可貰ってないし」

「待って、瑠奈は貰ってたっけ」

「梨央奈がOKくれた」

「そうなんだ。まぁ、テストの点数いいもんね。それじゃ林太郎くん、僕達は行くね」

「はいよー」


瑠奈は嬉しそうに僕と食堂に向かい、メニューを見ながら何を食べるか悩んでいる。


「蓮だ!」

「乃愛先輩も食堂でご飯ですか?」

「うん!蓮も?」

「はい。瑠奈と一緒に」

「あ、本当だ。お金足りなくて困ってるみたいだけど」


瑠奈はレジ前で財布を広げてあたふたしていた。


「瑠奈、幾ら足りないの?」

「80円」

「僕が出すよ」

「うわー、チビ瑠奈が蓮に迷惑かけてるー」

「は?なんで乃愛先輩がいるわけ?」

「ご飯食べに来ただけだけど」

「一人で?ぼっち飯じゃん」


なんかまた始まったし、お金払ってご飯運んでおこう。


「はい、80円です」

「毎度ありがとうございます」

「あと、ワカメうどんお願いします」


80円払ったせいでカレーうどんが頼めなくなった‼︎学校での楽しみが‼︎


瑠奈が頼んだパジルパスタと、僕のワカメうどんをテーブルに運んだが、瑠奈と乃愛先輩はまだ揉めていた。


「は?もう一回言ってみろよ」 

「チービーるーなー」

「お前もチビだろうが‼︎」

「私は顔に全部成長がいってるからね〜、チビ瑠奈と違って」

「知らないの?蓮は童顔の方が好きなんだよ?」

「んじゃ私のことも好きじゃん」

「はは!自分で童顔ってこと認めてやんのー!」


僕はいつから童顔好きという認識をされていたんだろうか。


「あ?」

「きゃ!」


乃愛先輩は瑠奈の胸を両手で鷲掴みにして瑠奈を睨みつけた。まぁ......掴んでると言っていいのかは怪しいところだけど。


「チビ瑠奈はここもチビだもんねー、可哀想に」


乃愛先輩も変わらないよ......現実から目を背けないで!


そんな時、結愛は蓮を見つけて食堂に入ろうとしていた。


「れっ......」

(危ない!乃愛もいるじゃん!蓮と食べるのは諦めよう......)


結愛が教室に戻ろうとした時、コッペパンを食べながら歩く美桜に声をかけられた。


「ねぇ」

「なに?」

「アンタ、襟足赤に戻さないの?」

「な、なんで私が結愛だって分かったの?」

「直感かな?」

「なんだ、たまたまか」

「あとさ、悪いことしようとしてるでしょ」

「な、なに言ってんの?」

「雫と瑠奈に迷惑かけないなら黙っててあげる。ついでに梨央奈にも迷惑かけないでねー」

「......どこまで知ってるの?」

「別にー。たださ、車椅子生活だった時のチビに優しくしといて、案外性格悪いんだね」

「......」

「んじゃ、私は行くね」

「待って!なんで私がしてること分かるわけ?」

「屋上に鉄のハシゴあるでしょ?あの上に一人でいるのが好きなの」

「なるほどね」

(見られてたのか......)

「まぁさ、誰かを傷つけても得たいものがあるって気持ちは理解できるよ。でも、その生き方は自由に見えて案外辛い。真逆の生き方で辛い思いをしてる人もいるけどね」

「なにが言いたいの?」

「分かんないなら答えは一つ!」

「なに?」

「好きにしな。お前が辛い思いしようが大変なことになろうが知らねーし、やりたいようにやってみるといいよ。人生なんて、なるようにしかならないんだし」

「なるようにしか......」

「たまに、それすら捻じ曲げる人もいるけどね。とにかく大事なのは、起きた物事をどう解決するかだから、解決できる自信がないなら勝負しないことだね。寒いから教室戻るわ」


美桜は教室に戻って行き、結愛もなにかを考え込むようにフードをかぶって教室に戻った。


その頃食堂で蓮は、二人の長い争いを呆れた様子で見つめながらワカメうどんを食べていた。


「瑠奈〜、パスタ冷めちゃうよ」

「今行く!」

「乃愛先輩も食べる時間なくなりますよ」

「今から食べる!」

「んじゃ睨み合うのやめてくださーい」


結局、二人の戦いは昼休みが終わるまで続き、瑠奈はパジルパスタを一気に食べて、苦しそうに教室に戻った。


時間は経ち、放課後。

その日の生徒会の仕事は特に無く、早めに家に帰って漫画を読んでいると、家のチャイムが鳴って数分後、ゆっくりと部屋のドアが開いた。


「お邪魔します」

「乃愛先輩⁉︎」

「き、来ちゃった」

「僕の家知ってましたっけ」

「結愛に聞いた」

「そうなんですか。それで、なんで僕の家に?」

「暇だから遊ぼうかなって」

「暇だからって、普通男子の家に遊び来ませんよ!」

「嫌だった?」

「耳舐めたりしないならいいですよ。普通に遊ぶなら」

「耳......」


結愛はベッドに座る蓮を押し倒し、腕を押さえて耳を優しく舐め始めた。


「い、今しないならって言ったばっかりですよね!」

「こ、これ気持ちいいの?」

「変な感じになるのでやめてください!」

「でも、男の子は舐められと気持ちいいって、千華が持ってた本で見たよ」


千華先輩⁉︎どんな本持ってんの⁉︎


「その本では......耳じゃなかったけど......」

「い、一度離れましょう?このままだと、理性が......」

「我慢しなくてもいいのに」

「ぼ、僕達付き合ってもないんですよ⁉︎」

「じゃあ......付き合ってよ」


僕......モテすぎー‼︎‼︎


自分で思ってしまうほどに、何故か僕はモテている。


「......返事は?」


その時、蓮の携帯が鳴り、結愛はドキッとした。

(乃愛からだったらヤバイ!)


「出ていいですか?」

「ダメ!」


電話は切れたと思っても、またすぐにかかってくる。


「このかけかたは瑠奈です!出ないと後々めんどくさいです!」 

「確認する」


結愛は一度蓮から離れ、床に置いてあった携帯を確認した。


「瑠奈、チビ瑠奈からだった。出ていいよ」

「ありがとうございます」


今、なんで言い直したんだろ。


「もしもし」

「なんですぐ出ないの?まさか女と居たりしてないよね」

「い、いないいない!どうしたの?」


変に感がいいのやめて〜。


結愛はムスッとした表情で「スピーカー」と口パクで伝え、蓮は困った表情をして電話をスピーカーにした。


「1月はどの店も安売りしてるから、今から一緒に買い物行かない?」

「今から⁉︎」

「忙しい?」

「ま、漫画読みたいからさ」


結愛は蓮から携帯を奪い、誇らしげに瑠奈を煽り始めた。


「ごめんねー、さっきまで舐め合いっこしてたから疲れちゃったんだってー」

「乃愛先輩‼︎なに言ってるんですか⁉︎一方的に舐められただけです‼︎」

「気持ち良くて、すぐ大きくなってたもんね」

「鼻息がですよね⁉︎」

「蓮」

「あぁ!瑠奈?誤解だからね?」

「なんで今、乃愛先輩の名前を言ったの?三人でいるの?舐めるってなに」

「違う違う!乃愛先輩が暇だからって遊びに来て、それで!」

「なるほどね!てか、さっきから自分の声が跳ね返ってくるから、スピーカーやめて乃愛先輩に変わって」

「う、うん、分かった。乃愛先輩、変なこと言わないでくださいよ?」

「うん。もしもし」

「今から遊ばない?」

「なんでチビ瑠奈と遊ばないといけないの?」

「いいから遊んでよ。結愛先輩」

「......わ、分かった。どこ行けばいい?」


結愛は隠していたことがバレ、一気に冷や汗をかいた。

(なんでバレたの......そうか、顔を見て話してないから、声だけだと私って分かるんだ......しくじった)


「学校の近くの大きな公園に一人で来て」

「分かった。切るね」


結愛は電話を切り、青ざめた表情で蓮の部屋を出ようとした。


「乃愛先輩?どうしたんですか?」

「......」

(もう......蓮とイチャイチャできなくなるのかな......それなら最後に......)

「ちょっと⁉︎」


結愛は蓮に抱きつき、息が苦しくなるほど長いキスをし、可愛くニッコリ笑って部屋から走り去った。

(しちゃった!大好きな蓮とキス......しちゃった!)


蓮は放心状態で自分の唇に触れた。


「ヤバイ......可愛いと思ってた人にこんなことされたら......」


好きになっちゃうって......

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