パンツ‼︎下着‼︎パンツ‼︎
「れれれれれれれれーん」
夏休み初日、耳元で乃愛先輩の声がして目を覚ました。
「乃愛先輩、不法侵入ですよ」
「お母さんが入っていいって言ってくれた」
「まだ眠いんですけど」
「水族館行かない?」
「今何時ですか?」
「朝6時」
「......おやすみなさい」
「れーん!起きてー!」
「わーかりました!準備するのでリビングで待っててください」
「なんで?」
「なんでって、着替えるので」
「彼女に見せられないものなんてある?」
「んじゃ乃愛先輩は裸でもなんでも見せれるんですね?」
「えっ......しょ、しょうがないな......」
乃愛先輩は黒いズボンのチャックを下ろし、ズボンを脱ごうとした。
「ストップ!」
「なんで?」
「見てるこっちが恥ずかしいです!」
手で目を押さえて乃愛先輩を見ないようにしていると、乃愛先輩は諦めたのか呆れた声で言った。
「ちゃんと履いたから」
「本当ですか?」
「うん」
恐る恐る手をどかして目を開けると、乃愛先輩は完全に上下水色の下着姿になっていた。
「はぁ⁉︎」
「興奮する?」
「するので着てください!」
「我慢しないで!」
「いっなっ⁉︎」
下着姿のまま僕に飛びつき、ビックリしたせいで変な声が出てしまった。
そしていつもの癖で落ちないようにお尻に手を回してしまったが、これは......
「プ、プニプニですね......」
「なんだかんだ言って触ってるじゃん」
「いや、えっと」
その時、廊下からお母さんの声が聞こえてきた。
「蓮?」
「な、なに⁉︎」
「開けるわよ」
「待って待って!」
「乃愛さんは朝ごはん食べたのかしら」
お母さんは僕の声が聞こえてなかったのか、部屋のドアを開けて、下着姿の乃愛先輩を抱っこしている光景を見てポカーンとしている。
「朝ごはんは蓮かしら」
「す、すみません‼︎すぐに服着ます‼︎」
「いいのよ?付けるもの付ければ」
「お母さん‼︎生々しいよ‼︎」
「そんなことより、タンスに入れた服もたまには洗わないとダニがつくわよ」
「この状況で平然とタンス漁らないでよ!」
「あら?これは乃愛さんの?」
お母さんが手に取ったのは瑠奈から貰った赤いパンツだった......
「あ、はい、持ち帰ります」
あれ......なんでこんな時に小さい頃の思い出が......走馬灯だ〜‼︎‼︎
「お母さん!もう出て!」
「はいはい、分かったわよ」
お母さんが部屋から出ていくと、乃愛先輩は静かに服を着て、パンツを握りしめて僕の方を振り向いた。
「詳しく聞かせてもらわなきゃね」
「す、水族館行きましょ?時間なくなっちゃいますし」
「この汚いパンツは誰の?」
「汚くはないと思いますけど......」
「汚い‼︎私以外のパンツでなにしたの‼︎」
「なにもしてないです!ただ貰っただけで!」
「貰ったんだ。梨央奈?瑠奈?」
「りるな」
「は?私怒ってるよ?」
「瑠奈です......」
「で?このパンツでなにをしたの?」
「だから、貰っただけなんです......」
「なんで?」
「いきなり渡されました」
「触ったの?」
「そりゃ、まぁ......」
「......もう知らない‼︎」
「それで、なんで僕のベッドに潜り込むんですか」
「ふん!」
まいったな......
乃愛先輩が機嫌を直すまで待とうと床に座ると、なにやらベッドの中でモゾモゾし始め、ポイっと水色のパンツが投げ出された。
「あげる。なにかするならそれでして」
「......あ、ありがとうございます」
「んじゃ、水族館行く?」
「はい」
「よし!」
乃愛先輩が機嫌を直したは良いものの、自分がパンツを脱いだことを忘れて立ち上がってしまった。
「ズボンズボン‼︎」
「いやん♡」
「朝からなんなんだー‼︎」
朝からドッと疲れたが、準備をして水族館にやってきた。
「僕ここ初めてなんですよ!」
「私も小さい時に一回だけ!」
水族館に入ると、最初はカクレクマノミなどの小さな魚や、綺麗なサンゴやイソギンチャクの小さな水槽が壁に沢山埋め込まれていて、乃愛先輩と一緒に手を繋いで魚を見て回った。
ずっと歩いていると、深海魚コーナーにやってきて、乃愛先輩はチョウチンアンコウに食い付いた。
「見て見て!口怖くない?」
「思ったより気持ち悪いですね」
「写真撮ってみんなに見せよ」
写真を撮ってSNSに投稿するのを見て、僕もチョウチンアンコウの写真を撮ろうとした。
「水槽の前に立ってください」
「こう?」
「チョウチンアンコウみたいな顔してください!」
「うぇ〜」
乃愛先輩はノリが良く、口をでろーんとさせて写真を撮らせてくれた。
「2人でやろうよ!」
次は乃愛先輩と2人でチョウチンアンコウみたいな顔をして写真を撮り、それをSNSに投稿すると、すぐに瑠奈から電話がかかってきた。
「もしもし?」
「いいな......楽しそうで......」
「お土産買っていくね」
「お土産より、蓮との時間が欲しい」
「んじゃ、明日ゲーセンでも行こう」
「本当に?約束?」
「今、乃愛先輩がイライラしてるから、僕が生きてたらね」
「乃愛先輩に代わって」
乃愛先輩に携帯を渡すと、乃愛先輩は小さな声でイライラを表した。
「なに寝取ろうとしてんの?」
「遊ぶだけじゃん」
「浮気だから」
寝取るとか生々しいよ。
「幼馴染みとの浮気ぐらい許してあげなよ」
「は?夏休み中はずっと私と居る約束なの」
そんな約束はしていない。けど居てもいいとは思う。
「とにかく明日はゲーセンでデートするから」
「私も行くから」
「乃愛先輩は来なくていいよ」
「行く」
乃愛先輩は電話を切り、ポケットから赤いパンツを取り出した。
「ちょうどよかった。明日は瑠奈に色んなことが聞けそう」
「こ、こんなとこで出さないでくださいよ!」
「ふん」
「あ、あっちにサメがいるみたいですよ」
「え⁉︎サメ⁉︎見る見る!」
なんか分かんないけど機嫌直ったみたい。
それからサメを見て、クラゲコーナーで写真を沢山撮り、イルカショーを見にきた。
「乃愛先輩、嬉しそうですね」
「イルカは可愛い!」
「ですね」
イルカショーのお姉さんがステージに出てきて、イルカショーが始まった。
「みんなー!こーんにーちわー!」
「こんにちはー!」
「乃愛先輩、恥ずかしいのでやめてください」
「いいじゃん!」
「それじゃみんなで、イルカさんを呼んでみよう!お姉さんがせーのって言ったら、みんなでイルカさーんって大きな声で言ってね!イルカさーん!あ、やべ、間違えた。せーの!って、もう来ちゃった!」
「え、あのお姉さん大丈夫?」
みんなが呼ぶ前に、お姉さんの掛け声でイルカが登場してしまった。
「私もイルカ呼びたかった」
「い、今呼びましょう」
乃愛先輩は立ち上がり、手を振りながらイルカを呼んだ。
「イルカさーん!おーい!イルカさーん!」
今は他人のフリをしよう。
「げ、元気なお姉さんが居ますね!」
(乃愛さん⁉︎)
お姉さんにも引かれてますよ⁉︎
でもこの声、どこかで聞いたことあるんだよな。
「イールーカーさーん!」
「乃愛先輩、もう座りましょう」
「分かったー」
イルカを操るのは違うスタッフだったが、しばらくイルカショーを見ていると、お姉さんは客席に呼びかけた。
「みんなの中で、イルカさんと握手したい人はいるかなー?握手したい人は、元気に手を挙げよーう!」
「はーい‼︎はい‼︎はいはいはい‼︎はーい‼︎」
乃愛先輩、もうやめて!本当に恥ずかしい!
「それじゃ、そこの髪が水色の子!」
乃愛先輩だ〜‼︎‼︎
「やった!蓮、動画撮っておいて!」
「分かりました」
乃愛先輩は裏口からステージに上がり、僕に向かって手を振ってきたが、そこは他人のフリを貫いた。
「準備はいいかなー?」
「はい!」
お姉さんの横にいるお兄さんがイルカに合図を出すと、イルカは真っ直ぐ立ち、乃愛先輩はとても嬉しそうにイルカと握手をした。
すると乃愛先輩はなにか気づいたように女性スタッフのキャップ帽を外した。
「あ、ちょっと!」
「......睦美じゃん‼︎」
「バレちゃった」
睦美先輩⁉︎
「睦美〜‼︎」
「ちょっ‼︎抱きつかないで!滑るからぁ〜‼︎」
乃愛先輩は睦美先輩に抱きつき、2人は足を滑らせて豪快に水へ落ち、大きな水しぶきが上がった。
2人はイルカにお尻を持ち上げられて助けられたが、時間差で水面に浮いてきたのは赤いパンツだった。
客席の大爆笑の中、イルカはそのパンツを咥えて乃愛先輩に渡そうとした。
「ち、違う!これは友達の!」
睦美先輩に頭を拭かれながらパンツは自分のじゃないと叫ぶが、その光景はたちまちSNSで拡散され、乃愛先輩は顔を真っ赤にして濡れた服のまま水族館を出て、外で服を乾かし始めた。
「大丈夫ですか?」
「全部チビ瑠奈が悪い‼︎」
「そ、そうですね」
「大丈夫?」
「あ、睦美先輩!」
「2人が来るなんてビックリしたよ!」
睦美先輩は乾いた服に着替えて、弁当を持ってやってきた。
「卒業してからここで働いてるんだ!」
「もっとお金持ちルートに行けたんじゃ」
「そうだけど、好きなことを仕事にしないと続かなそうだし!はい、パンツ乾いたよ」
「これ瑠奈のパンツなの!」
「そ、そうなんだ。みんなも来てるの?」
「今日は2人で来ました!」
「へー、意外」
「付き合ってるので!」
「え⁉︎意外すぎる!」
「そういえば知らなかったですね」
それにしても、社会人になってますます垢抜けて美人になってるし。睦美先輩も彼氏ぐらいいそうだな。
「睦美先輩は彼氏とかいないんですか?」
「いないいない!魚達が恋人みたいなもんだから!」
犬飼ったら結婚欲がなくなるみたいなやつか。
「雫先輩はここで働いてること知ってるんですか?」
「まだ言ってないなー」
「言ったらきっと喜びますよ!電話してみましょ!」
「なんか緊張するなー」
睦美先輩は緊張しながら雫先輩に電話をかけた。
「も、もしもし」
「久しぶりね」
「久しぶり!今、涼風くんと乃愛さんに会って」
「珍しいわね」
「私、水族館で働いてるんだけど、2人でデートしに来たみたいで」
「そう、素敵な職に就いたわね。たまには学校にも遊びに来なさい」
「いいの?」
「もちろんよ。今近くに乃愛さんは居るかしら」
「いるよ?」
「代わってちょうだい」
「代わってだってさ」
このタイミングで乃愛先輩に代わるとか嫌な予感しかしない。
「もしもし?」
「鷹坂高校の生徒会として、とんでもない恥を世に広めてくれたわね」
「え、見たの?」
「ネットでトレンドに上がっていたわよ。明日、学校に来なさい」
「明日はちょっと!」
「来ないならそれでもいいわよ?反省してないと捉えていいのよね?」
「行く!行くから」
「それじゃ、睦美さんに代わってちょうだい」
「もしもし?代わったよ」
「迷惑をかけたわね。これからもお仕事頑張りなさい」
「ありがとう!」
「それじゃ切るわね」
「うん!」
それから、睦美先輩が弁当を食べ終わるまで3人で思い出話に花を咲かせ、睦美先輩が仕事に戻った後、また水族館を一周して地元に帰った。
「楽しかったですね!睦美先輩にも会えましたし!」
「散々な目にあった。明日は雫に怒られるし」
「しょうがないですよ」
「明日、本当に瑠奈と遊ぶの?」
「乃愛先輩が怒られてからでもいいですけど」
「さすが蓮!」
「学校までついて行って、外で待ってます!」
「ありがとう!」
そして翌日、乃愛先輩は30枚の反省文を書かされたのち、職員室の掃除をさせられて学校を出てきた。
「疲れた〜......」
「お疲れ様です!」
「ゲーセン行こ」
「ゲーセンは行きたいんですね」
「蓮となら何処へでも!」
それから瑠奈とゲームセンターで合流してすぐ、赤いパンツが原因で軽い喧嘩になったが、なんだかんだ楽しめ、最終的には3人でプリクラを撮ることになり、撮影のタイミングで乃愛先輩は僕の右頬に、瑠奈は左頬にキスをし、2人が僕を挟んで睨み合う写真も撮れてしまった。
「2人とも、仲良くしてよ」
「無理」
「蓮、左ほっぺだけ洗ってきて」
「右だけでしょ」
こんな感じで夏休み中は3人で遊んだり、乃愛先輩と2人で遊園地や近所の公園、ショッピングモールやファミレスと、いろんな場所でデートをして思い出を増やし、明日は乃愛先輩が僕の家に泊まることになった。
「んじゃ、明日は朝から行ってもいい?」
「はい!あ、ちょっと待ってください、雫先輩から電話です」
「なんだろう」
「もしもし」
「明日、生徒会のみんなで合宿をしようと思うの」
「明日ですか?明日は乃愛先輩と泊まる約束が」
「合宿もお泊まりも変わらないじゃない。明日、朝9時までに学校に来なさい。分かったわね?」
「は、はい」
電話を切って乃愛先輩に説明すると、予想とは違って怒ったりせず、むしろ前向きだった。
「蓮と泊まれるならいいよ!」
「ならいいんですけど」
去年は合宿なんてなかったのに、なにするんだろう。
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