呼んであげない


雫先輩から逃げまくった二日後の放課後、意を決して二人で謝りに行った。


「二日ぶりです......」

「貴方達の方から来るなんて意外ね」

「えっと、この前ははすみませんでした」

「ごめんね雫」

「もういいわ。それより、公園キスしていたように見えたのだけれど、二人は付き合ってるのかしら」

「うん!付き合ってる!」

「そうなのね。あまり校内でイチャイチャしないように」

「はい。それより、ずっと病院に居て大変じゃないですか?」

「花梨さんが目覚めた時、一人だったら可哀想じゃない」

「雫さ、いい人なの隠さなくなってきたよね」

「優しくなんてないわ。そんなことより、学校ではどうかしら、まだ噂話は絶えない?」

「僕の耳には入ってこないですね」

「そう」


三人で会話をしていると、生徒会での仕事を終わらせた千華さんがやってきた。


「蓮と乃愛も来てたんだ」

「はい!」

「千華、飴ちょうだい」

「なに味がいい?」

「バナナミルク」

「はい」

「ありがとう!」

「蓮と雫もいる?」

「私は要らないわ」

「僕も大丈夫です」

「そういえば千華さん」

「なに?」

「3時間前にご両親が来ていたわよ」

「変な話してないよね⁉︎」

「いつも迷惑ばかりかけてと謝られたわ」

「私なんかしたっけ」

「分からないの?反省してない証拠ね」

「覚えてる覚えてる!ごめんなさい!」

「あ!蓮もいる!」


千華先輩が慌てだした時、瑠奈と梨央奈先輩と結愛先輩と美桜先輩がやって来た。


「瑠奈もお見舞い?」

「うん!さっき外で千華先輩のお母さんとお父さんに会ったよ!」

「またお見舞いかな?」

「着替え持ってきたんだって」

「なるほどね!」


噂をしていれば二人の両親が病室に入ってきた。


「あら!人が沢山ね」

「みんなお見舞いに来てくれてありがとう」

「いえいえ」


その時、花梨さんが少しだけ眉間にシワを寄せ、微かに手が動き、雫先輩はその手を握った。


「花梨さん」

「......っ」

「すぐに看護師さんを呼んでください」

「わ、分かった!」


お父さんは病室を飛び出していき、雫先輩は花梨さんに声をかけ続けた。


「花梨さん、聞こえたら返事をしてちょうだい」

「ぅ......っ」


その声は吐息よりも小さく、何を言っているか聞き取れなかった。


「連れてきました!」


看護師さんと病院の先生が駆けつけ、先生は花梨さんの肩をトントンと優しく叩きながら声をかけた。


「聞こえるー?目開けれるかな?」

「......」


花梨さんはゆっくり薄く目を開け、ゆっくり瞬きをした。

その瞬間、二人の両親は涙を流し、雫先輩は安心した様子で、他のみんなはとても嬉しそうだ。もちろん僕も嬉しい。


「自分の名前言えるかな?」

「......か......りん」

「痛むところはないかい?」

「うん......」

「一安心ですね」

「ありがとうございます、ありがとうございます」


両親は涙を流しながらお礼を言い、雫先輩は花梨さんに声をかけた。


「周りを見てみなさい」


花梨さんはゆっくり周りを見た後、雫先輩に視線を戻した。


「貴方は一人じゃない」


すると花梨さんは少し口元をニコッとさせたあと、小さく舌を出して雫先輩を挑発した。


「こんな状態なのに、いい度胸ね」

「ありが......とう......」

「早く学校に来なさい。みんな待っているわ」

「......はい」

「それじゃ、私達は帰ります。千華さんは残りなさい」

「う、うん」

「本当にみんなありがとうね」


雫先輩は病室内を家族だけにして、僕達を帰らせた。


「お父さん......」

「なんだ?あまり無理して喋るな」

「ごめ......んね......」

「なに言ってるんだ......お父さんが花梨の気持ちを理解してあげられなかったから......」


花梨は小さく首を横に振った後、義理の母親を見て、涙を流しながら言った。


「お母さん......」

「花梨ちゃん......」


そして千華を見て少しニコッとした後目を閉じた。


「アンタは......まだ呼んであげない」

「花梨、今まで本当にごめん......私が弱いせいで寂しい思いをさせて......」

「私も弱い......これからは、ちゃんと家族に......」

「なろう!ちゃんと仲良くしよ!......寝ちゃった」

「久しぶりに喋って疲れたんだろう」

「今日は帰って、また明日来よう」

「そうだね」


その頃蓮は、乃愛と瑠奈に両サイドから腕を引っ張られていた。


「私の家で遊ぶの!」

「蓮は私と付き合ってるんだから!私が遊ぶのー!」

「え⁉︎なに?二人って付き合ってるの⁉︎」


雫先輩と結愛先輩以外のみんなが驚きを隠せない様子だった。


「付き合ってる!なのに瑠奈が邪魔するー!」

「邪魔じゃないもん!」

「まぁまぁ、三人で遊べばいいじゃないですか」

「なんで!瑠奈が居たらイチャイチャできない!」

「はー⁉︎いつも学校でしてるじゃん!」

「カップルってのはね!二人っきりでしたいこともあるの!」 

「蓮、もう童貞じゃないの?」

「な、なに聞いてるの⁉︎」 

「違うの?」

「まだしたことないよ!言わせないで!」


すると乃愛先輩は僕の腕を離し、自分のお腹を優しく撫で始めた。


「酷い......この子のお父さんになってくれないの?」


僕以外の全員が凍りつき、僕は一瞬、知らぬ間にしてしまったんじゃないかという不安に襲われたが、絶対にやってない。僕はまだチェリーだ‼︎


「乃愛先輩、嘘つかないでください」


すると次は、瑠奈が自分のお腹を撫で始めた。


「蓮との子......もうすぐ生まれるの」

「あぁ、ちゃんとグッピーに餌あげてね」


その時、みんなの頭の中を同じことが巡っていた。

(否定しない⁉︎名前まで付いてる......しかもグッピーって、キラキラネームってやつ⁉︎それにご飯じゃなくて餌って言った......子供を人間とすら見てない、最低!)


「み、みんな?なんでそんな目で僕を見るんです?」

「蓮は初めてじゃないんだ......しかも子供まで......」

「乃愛先輩⁉︎なに勘違いしてるんですか⁉︎」

「子供いっぱい増やすね♡」

「瑠奈もスト〜ップ‼︎」


そんなこんなで花梨さんは右腕を骨折していが、他に後遺症もなく、一週間後に退院した。

そして今までのことを考え、一週間の停学処分となった。


それから数日経ち、4月26日の二日前の金曜日、雫は朝から千華を生徒会室に呼び出した。


「おはよー」

「おはよう。今月の26日、千華さんの誕生日よね」

「うん」

「私の家の庭には桜の木があるわ。家族全員でお花見に来ないかしら、桜も26日が限界そうだし」

「いいの?花梨は月曜日まで停学だよ?」

「停学中に生徒会長と校長の家に出向く、問題ないでしょ?その日はお父様もいるし、花梨さんはお説教してもらうといいわ」

「分かった!帰ったら話してみる!」

「待ってるわね」

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