可愛いは罪


もう、卒業式と終業式を同じ日にしてほしいと思いながらも学校に走り、チャイムが鳴り止むタイミングで教室に入った。


「セーフ!」

「アウトよ?」

「いや!まだチャイムの余韻が残ってたからセーフです!」


中川先生はムッとしたが、僕は怒られない自信があった。


「僕は生徒会長なので、遅刻はいいんです!」

「雫さんが会長の時も、遅刻だけは許されなかったわよ」

「で、でも、今は僕が会長ですし......瑠奈もなんとか言って!」

「学校のトップが遅刻はダメ〜」

「瑠奈〜。林太郎くん!」

「ダメ〜」

「はい、廊下に立ってなさい」

「そんなー‼︎」


今日僕は......もう生徒会に権力なんて無いと知った。


そして昼休み、今日の1番の楽しみである、雫先輩の手作り弁当を食べようと準備し始めた時、教室に校長先生が入ってきた。


「れーんくん!」

「はい⁉︎」


なんだ?めっちゃ上機嫌みたいだけど。


「君はもう、私の家族のようなものだ!お昼ご飯を持ってきたよ!食べたまえ!」

「え、いや、え」


お節料理などが入っていそうな、高級な箱から巨大な海老の頭がはみ出している......


「あの......雫先輩から作ってもらったのがあるので」

「雫の手作り......交換してくれないか」

「えぇ〜......」

「おぉ〜!」


瑠奈が海老を見て目をキラキラさせている。


「た、食べたい?」


激しく頷くのを見て、しょうがなく弁当を交換することにした。


「じゃ、交換で......」

「さすが蓮くんだ!」

「は、はい」


雫先輩に怒られたりしないかな......


校長先生は雫先輩が作った弁当を持って教室を出て行き、交換した弁当箱を開けると、中には寿司が大量に入っていた。


「すご!」

「これ食べきれなくない?」

「確かに、林太郎くんも食べよ!」

「いいのか?」

「うん!瑠奈は花梨さんを生徒会室に呼んで!みんなで食べようよ!」

「分かった!」


林太郎くんと二人で生徒会室で瑠奈達を待っていると、瑠奈は花梨さんを連れて、包丁を握りしめて生徒会室に入ってきた。


「る、瑠奈⁉︎早まらないで!」

「瑠奈、落ち着け」

「海老を切って分けるだけだよ?」

「なんだ、ビビった」

「疑うなんてひどい!」


だっていろいろと前科あるし......


「これ本当に食べていいの?蓮先輩にくれたやつでしょ?」

「大丈夫!花梨さんも遠慮しないで!」

「ありがとう」

「よし!食べよう!」

「いただきまーす!」


さっそく瑠奈が海老を切ってくれ、いざ食べると、みんな幸せそうな表情になり、寿司を堪能した。


「学校で寿司とか最高だな!」

「そうだね!」

「そういえば雫先輩のお父さんに、君はもう家族みたいなもんだって言われてたよね」

「あ、うん」

「なんかあったの?」

「多分、雫先輩と付き合ったからかな......花梨さん、ちゃんと食べな。口からタコ出てるよ」


瑠奈と林太郎くんはビックリしたように固まり、花梨さんはほとんど噛まずにタコを飲み込むと、サッと立ち上がった。


「ごちそうさま」

「もういいの?」

「うん」


花梨さんが生徒会室を出て行くと、瑠奈も花梨さんについて行った。


そして瑠奈は、廊下で花梨を呼び止めた。


「花梨」

「なに?」

「大丈夫?」

「大丈夫。こうなるって分かってたし」

「んじゃ、戻って食べよ?」

「みんな凄いよね。どうして自分の気持ちが伝えられるの?」

「耐えきれずに口から出ちゃうだけじゃないかな。自分が気持ち伝えられなかったことを後悔してるの?」

「......当たり前じゃん」

「よかったね」

「は?」

「後悔できるのは、本気だった証拠だよ!本気になれた自分を誇って、前に進もう!」

「なに先輩みたいなこと言ってんの?」 

「先輩なんだけど」 

「あー、ごめん。チビだから先輩だと思ってなかったわ」

「今、なんて言った?」

「チビ」

「......早く戻るよ」

「え」

「早くー‼︎‼︎‼︎」

「分かった分かった!うるさいなー」


二人が生徒会室に戻ると、蓮は笑顔で花梨を見た。


「やっぱり食べ足りなかったでしょ」

「ま、まぁね」


それからみんなで楽しくお昼ご飯を済ませ、教室に戻ろうとした時、瑠奈はソファーから立ち上がらなかった。


「ちょっと林太郎と話があるから、先に戻ってて!」

「うん、分かった」


瑠奈と林太郎は二人きりになり、沈黙の時間が流れ、痺れを切らした林太郎が切り出した。


「瑠奈?どうしたんだ?」


瑠奈は林太郎に近づき、小さく背伸びをして一瞬だけキスをした。


「これで分かるでしょ」

「お、おう!おうおうおう!」

「うるさいキモい」

「え」

「戻るよ」

「おう‼︎」


その日の放課後、瑠奈が先に生徒会室に向かい、まだ教室に居た林太郎くんはこっそり話しかけてきた。


「なぁなぁ」

「なに?」

「瑠奈とキスした」

「はい?自慢?てか、より戻したんだ」

「えっ」 

「一度別れたことは雫先輩から聞いてるよ」

「そうだったのか」

「仲良くやってね」

「おう」


それから生徒会の仕事を済ませ、雫先輩の家に急いだ。

チャイムを押すと、必ず黒服の人が出てくるが、何回見てもちょっと怖い。


「あ、蓮様」

「さ、様?」

「雫お嬢様に御用ですか?」

「はい」

「ご案内致します」

「部屋分かるので大丈夫ですよ」

「分かりました。どうぞ」


なんか、いきなり扱いが良くなったような気がする。


雫先輩の部屋をノックし「雫先輩」と声をかけると、なんだか嬉しそうな表情でドアを開けてくれた。


「お疲れ様」

「機嫌良さそうですね」

「別に普通よ」

「すぐに目を逸らす時は嘘ついてる時です」

「と、とりあえず入りなさい」

「はーい」


部屋に入ると、雫先輩はワクワクしたような表情で聞いてきた。


「お弁当どうだったかしら」

「......最高でした!」

「嫌いなものとか入ってなかったかしら。好き嫌いとか知らずに作ったから」

「全部美味しかったです!」


一回嘘ついたら、嘘を重ねてしまうとはこのことか。


「何が1番美味しかった?」

「えっと、あの、肉団子みたいなやつとか」 「次は?」

「ウインナー......」

「......次は?」


雫先輩は無表情になり、声も急に低くなった。


「......サラダ......」

「誰のお弁当と勘違いしてるのかしら」


はい、嘘バレました。


「実は、雫先輩のお父さんに弁当を交換してほしいって言われて......」

「そう。もう二度とお弁当は作らないわ」

「そんな!作ってくださいよ!次はちゃんと食べますから!」

「食べなかったことじゃなく、嘘をついたことに怒ってるのよ」

「すみません......」

「はい!仲直り!」

「え?」

「謝ったらそれでいいじゃない」


やっぱり雫先輩は大人だな......てか「はい!仲直り!」の時の笑顔可愛すぎ。もう一回してくれないかな。


「また弁当作ってくれますか?」 

「もちろんよ」

「よかったー」

「次から嘘はダメよ?」

「はい!そういえば、今日一日なにしてたんですか?」

「お姉ちゃんとお買い物に行っていたわ」

「いいですね!」

「とても楽しかったわよ。それより、卒業アルバム見たいんじゃなかった?」

「見たいです!」


雫先輩の横に座り、卒業アルバムを見ることになった。


「これ、入学式の時ですか?」

「そうよ」

「雫先輩、あまり変わらないですね!」

「そうかしら。見てちょうだい、梨央奈さんがまだ黒髪よ」

「うわ!言われるまで梨央奈先輩って気付きませんでした!黒髪でも全然可愛いですね!」

「......」


雫先輩は、少し不機嫌そうに無言で僕を見つめてきた。


「雫先輩の方が可愛いですよ!」

「そ、そんなことないわよ」


なに⁉︎嫉妬したの⁉︎可愛すぎて犯罪‼︎


「ほ、ほら、乃愛さんと結愛さん、まだ襟足が黒よ」

「本当だ」

「どっちがどっちか分かるかしら」

「風船ガム膨らませてる方が乃愛先輩ですね」

「よく分かったわね」

「結愛先輩は意外と常識人なので、入学式でガム食べたりしません。あ、千華先輩って入学式の時には金髪だったんですね」

「今まで黙っていたけれど、千華さんって中学生の頃、かなりヤンチャだったそうよ。よかったわね、今まで本気で怒らせることがなくて」

「そういうことは生徒会入った時に教えてください。いろいろ思い出して、全身がゾワッとしましたよ」

「一年生の頃、バイクの後ろに乗って、廊下を暴走したのよ?」 

「あぁ......確か、千華先輩との初対面の時、廊下を自転車で走ってましたね」

「話してみれば、とても良い人だったけれどね」


写真を見て話しながらページをめくっていくと、卒業文集のページに変わった。


「雫先輩は何を書いたんですか?」

「何も書いてないわ。タイトルだけは書いたけれど」

「へー。あっ、本当だ。タイトル、未来の自分......」

「この時の私は、未来に希望を見出せなかったのよ......だから何も書けなかった」


それを聞いた僕は、鞄からボールペンを取り出し、雫先輩に握らせた。


「このボールペンは?」

「今なら書けるんじゃないですか?」

「......この頃から考えれば、今も未来よね」

「そうですね」

「......」


雫先輩は大きな字で(幸せ)と書いて淑やかに笑みを浮かべた。


「私は今、とても幸せ」

「......」


そう言う雫先輩と見つめ合い、自然と顔が近づいていった。

どんどん近くなる雫先輩の顔にドキドキしたが、キス寸前で我に返って離れてしまった。


「ご、ごめんなさい!」

「だっ、大丈夫よ」


雫は心臓の鼓動が激しくなり、ドキドキする気持ちを必死に抑えようとしていた。

(キスするのかと思っちゃった......)


「僕、学校からそのまま雫先輩の家に来てるので、そろそろ帰りますね」

「家まで送るわ」

「気にしなくて大丈夫ですよ!」

「ち、違うの」

「なんですか?」

「蓮くんが、少しでも私と一緒に居たいかと思ったのよ。感謝しなさい」

「素直になるために頑張るんじゃなかったでしたっけ」


雫先輩は斜め下を見ながら、頬を微かに赤らめた。


「も......もう少し......一緒に居てほしいです......」

「ならもう少し居ます!」


雫先輩は嬉しそうにニッコリ笑い、それから、たわいもない会話をして時間が過ぎていったが。僕は、さっきカバンからボールペンを取り出す時に見つけてしまった、ホワイトデーに渡す予定だったペアリングが頭から離れなくなっていた。


「それじゃ、そろそろ」

「分かったわ......」


雫先輩は何かを言い出そうに、目をキョロキョロさせた。


「なんですか?」

「次は......いつ会えるのかしら」

「学校が終われば明日も会えますよ?明後日が終業式なので、春休みに入れば朝から会えます」

「それじゃ、明日も......」

「はい!来ますね!」


春休みに入ったら、デートに誘ってみようかな。いや、誘おう‼︎

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