パンツは修羅場の元
雫先輩と付き合い始めてから、毎日会うのが日課になっていた。
そして春休みに入り、今日は僕の家に雫先輩が来ていて、何故か部屋の掃除をしてもらっている。
「掃除なら自分でしますよー」
「してないから服とか散らかってるんじゃない。私に任せなさい」
「はーい。にしても、服畳むの早いですね」
「こういう地道な作業って結構好きなのよ。服はこのタンスに仕舞えばいいかしら」
「そこで大丈夫です」
雫先輩は畳んだ服を持ち、タンスを開けて固まった。
「どうしました?虫でもいました?」
「ねぇ、蓮くん?」
「はい?」
「蓮くんは浮気とかしないわよね」
「するわけないじゃないですか!」
「それじゃ、この水色の女性用下着はなにかしら」
「......」
僕は静かにベッドへ潜り込んだ。
......乃愛先輩のだー‼︎‼︎‼︎‼︎忘れてたし‼︎貰っただけで変なことしてないけど‼︎雫先輩の声のトーン、完全に怒ってる時のやつだし‼︎
「蓮くん?も、もしかして、そういう趣味なの?それなら勝手に見てしまった私が悪かったわ」
違う違う違う‼︎‼︎趣味って言えば許される空気だけど、絶対嫌だー‼︎‼︎‼︎
「怒ってないからベッドから出てちょうだい」
「本当ですか?」
「私はこんなことで怒ったりしないわよ」
雫先輩がベッドの横に来た気配がする。
とにかく、怒ってないなら出るか......
勇気を出して、ひょこっと顔を出すと、完全に怒った表情の雫先輩が、水色のパンツを持って僕を見下ろしていた。
「鷹の目だ。その目つき久しぶりに見ました」
「話を逸らさないでくれるかしら」
「怒ってないんじゃなかったんですか?」
「怒ってないわよ?今はまだ、我慢している段階」
「人類はまだ、噴火を食い止める術を持っていません」
「......」
「うわぁ〜!」
胸ぐらを掴まれて無理やり立たされると、目の前が全て水色になるほどパンツを近づけられた。
「誰のかしら」
もう逃げられないと感じた僕は、素直に言うことにした。
「......乃愛先輩の......」
ゆっくりとパンツが下げられ、雫先輩の顔が見えると、雫先輩はどこか、もどかしい表情をしていた。
「雫先輩?」
「やっぱり、元恋人じゃない?」
「は、はい」
「そういうこともしたのかしら......」
「しっ!してませんよ!」
「......本当?」
なんですかその上目遣い‼︎今すぐ抱きしめたい‼︎
「勝手に置いていっただけです!」
「それなら、何故早く言わなかったの?」
「なんか怒ってる雰囲気だったので......」
「そうだったのね。ごめんなさい」
「いえいえ」
「梨央奈さんと乃愛さんとは、どこまでしたのかしら......」
「キスまでですけど......」
雫先輩は自分の心臓の上に手を置き、切ない表情を見せた。
(ズキズキする......)
「大丈夫ですか?」
「なんでそんなこと教えるのよ」
「んじゃ、なんで聞いたんですか⁉︎」
「だって、気になってしまったから......」
「雫先輩って意外と嫉妬深いんですね」
「わ、私は嫉妬なんてしないわよ!」
めちゃくちゃしてるけど、今はこれ以上言わないであげよう。
「この下着は私が処分していいかしら」
「い、いいですよ?」
本当は勿体ないけど......ダメとか言ったら大変なことになりそうだから諦めよう。
「それより、もう少しでお昼ですけどー」
「なにが食べたい?作るわよ?」
「いや、僕達ってデートしたことないじゃないですか。今からどこか行きません?」
「それなら、プリクラを撮りたいわ......」
「プリクラですか?」
「だって、お姉ちゃんは蓮くんと撮ったのに、お姉ちゃんだけズルいわ」
「えっ!前に言ってたズルいってそっち⁉︎」
「やっ、やっぱり撮らなくていいわ」
「いやいや、強がらないでくださいよ。撮りに行きましょ!」
雫先輩は強がるくせに、嬉しいと素直に表情に出て可愛らしい。卒業してから、本当にいろんな表情をするようになった。
それから二人で一緒に、ゲームセンターにやってきた。
「雫先輩ってゲームセンター好きなんですよね」
「お姉ちゃんから聞いたの?」
「はい」
「他になにを聞いたの?変なこと聞いてないわよね」
「き、聞いてないです。とりあえずプリクラ撮りましょうか」
「そうね」
プリクラ機に入ると、雫先輩がお金を出してくれ、雫先輩は急に腕を組んで可愛らしい笑顔を見せた。
「そ、そんなことするタイプでしたっけ⁉︎」
「う、うるさいわね」
「はい、すみません。てか、普通に笑顔作れるようになりましたね!」
「蓮くんのおかげよ」
「嬉しいです!」
それからも無難にピースしたり、お互いに照れながら手を繋いでみたりして撮影を楽しみ、出来上がったプリクラを見て、雫先輩は満足そうにニコニコしている。
次はUFOキャッチャーの景品を見て周ることにした。
「なにかUFOキャッチャーで欲しいものとかありますか?」
「そうねー。今は特にないわね」
「そうですかー。んじゃ、近くのファミレスでも行きません?いい加減お腹空きました」
「いいけれど、ファミレスって何が食べれるのかしら」
「まさか行ったことないんですか?」
「行く必要性が無いもの」
「あぁ......とりあえず行きましょう」
「そうね」
ゲームセンターを出てファミレスにやってくると、アルバイト着姿の千華先輩が入り口に歩いてきた。
「いらっしゃいませー」
「あら、千華さん」
「雫!蓮!」
「ここでバイトしてるんですか?」
「そう!美桜もいるよ!」
「え、二人って仲良くやれてるんですか?」
「元々仲悪くないし。とにかく席に案内するから!」
1番奥の窓際の席に案内され、メニューを渡された。
「決まったらそこのボタン押してね!」
「はーい!」
雫先輩はメニューを見て、サラダを指差した。
「こんなに大盛りで300円って、怪しくないかしら」
「大丈夫ですよ。チェーン店ですし」
「そう。蓮くんはなにを食べるの?」
「たらこパスタにします!」
「それじゃ、私もそれにするわ。あと、たこ焼きっていうのを食べてみたいわね」
「たこ焼きも食べたことないんですか⁉︎」
「一度もないわ。丸くて可愛いから気になっていたのよ。あとサラダ」
「結構いきますね」
「や、やっぱりサラダだけでいいわ」
「いっぱい食べる人の方が好きですよ!」
「それじゃ、たらこパスタと、たこ焼きとサラダ......とデザートのアイス」
なんか一個増えた。
ボタンを押すと、また千華先輩がやってきた。
「ご注文ご確認します!」
「たらこパスタを2つと、たこ焼きとサラダと、食後にアイスでお願いします!」
「たらこパスタ以外は全部一つ?」
「はい!」
「かしこまりー!」
「ちなみに聞くのだけれど、千華さんは作らないわよね」
「どういう意味かなー?」
「なんでもないわ」
分かるよ雫先輩。それは絶対に聞いておきたいことだった。
「私は注文取るだけ」
僕達はホッと肩を下ろした。
「ちょっと二人とも、なに安心したような顔してるの」
「早く行きなさい。仕事はテキパキと」
「はーい」
しばらくして、美桜先輩が料理を運んできた。
「本当に来てたんだ」
「様になってるわね。アルバイトには慣れたかしら」
「まだ始めたばっかりだから、まだまだだよ」
「千華先輩に料理させないように頑張ってくださいね」
「それは任せて!とりあえず、ゆっくり食べてってね」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」
雫先輩は運ばれてきた料理を見つめ、すぐにメニューを開いた。
「どうしました?」
「写真と全然違うわ。詐欺よ」
「いや......だいたいそういうもんですよ」
「写真より極端に量が少ないし、目で見て分かる冷凍食品感」
「まぁまぁ、まずは食べましょう!」
「分かったわ」
僕にとってはファミレスの料理は最高の昼ごはんだけど、日頃からいいものを食べている雫先輩じゃ満足できないのかな。
「んー!美味しい!」
「パスタが乾きすぎてるわね」
ダメだ。もう雫先輩とファミレス来るのはやめよう。
「たこ焼き食べみてくださいよ」
雫先輩は箸を器用に使い、たこ焼きを割り、中のタコだけを食べ始めた。
「焼けたタコね」
ツッコまない。僕は絶対ツッコまないぞ。
なんだかんだ言って全部食べ、食後のアイスが運ばれてきた。
「アイスなら普通に美味しんじゃないですか?」
「そうね!美味しいわ!」
ファミレスに来て初めて笑顔を見れた。
それからお会計の時、美桜先輩がレジを担当してくれたが、雫先輩はメニューに関するアドバイスを始めた。
「写真よりも少ない量にするなら、お皿も小さくすべきだわ。お皿が大きいと量の少なさが目立ちすぎて損した気分にさせてしまうと思うの」
「店長に言っとく」
「あと、アイスは美味しかったわ」
そう言い残して店を出た。
「お昼も払ってもらっちゃって、なんかありがとうございます」
「気にしなくていいわよ」
「てか、あれじゃただのクレーマーですよ」
「あれはアドバイスよ」
「次からは家で食べましょうね」
「私と外食したくないの?」
急に悲しそうな顔しないで〜......
「雫先輩の手料理の方が美味しいので!」
「そ、そう。そういうことならいいわ」
「んじゃ、ショッピングでも行きましょ!」
「うん!」
それから春休み中は毎日デートを重ね、あっという間に春休みが終わり、僕は三年生になった。
入学式は普通の学校のように、ごく普通の入学式をし、数日が経った時、廊下で一年達の噂話を耳にした。
「そういえば知ってる?」
「なになに?」
「前の生徒会、凄かったらしいよ!」
「凄いって?」
「鬼の生徒会長って呼ばれてた女子生徒会長がいて、他の生徒会メンバーもめちゃくちゃ怖かったんだって!」
「え、今は?」
「んで、今の会長の彼女が、その鬼の生徒会長なんだって!」
「マジ⁉︎んじゃ、会長を怒らせない方がいいね」
「うん。でも、みんなに恐れられてて、めちゃくちゃ厳しい学校だったらしんだけど、何故か生徒会のみんなは人気者だったらしいよ」
「なにそれ、意味分かんない」
まだ雫先輩達がこの学校にいたら、この子達も入学してしまったことの後悔で、まだ笑顔で話したりできてなかっただろうな。まぁ、花梨さんには注意して学校生活を送ってほしいけど。
「スカート短すぎだろ」
あ、早速花梨さんに捕まった......
「これくらい許してくださいよー」
「あ?」
「い、いいじゃないですか」
「いいわけねーだろ。お前、スカート短くしても可愛くないよ」
花梨さん⁉︎言い過ぎだよ‼︎てか普通に可愛いじゃん‼︎
「酷い!なにこの人」
すると、注意されている女子生徒の友達が一瞬で青ざめた。
「金の紋章......」
「生徒会⁉︎」
「そうだけど」
「長瀬花梨先輩......知ってる」
「私はアンタらを知らない。どっかで会った?」
「噂になってました!鬼の会長に入学式早々、カッターで切りかかったって!」
「だから?」
「す、すみませんでしたー!」
「明日までにスカート直してねー」
一年生は逃げていき、僕は花梨さんに声をかけた。
「もっと優しく注意しないと」
「優しくして従うならそうするよ」
「そうかもだけどさー、いつ殴り合いになるかとヒヤヒヤしたよ」
「もう、いきなり暴力振るったりしないって。それよりさ、雫先輩救って、マルッと解決とか思ってないよね」
「なんのこと?」
「前に梨央奈先輩と二人で話す機会があって、海に行く約束してるんでしょ?」
「うん。ちゃんと覚えてるよ?」
「ならいいけど」
「やっぱり、海は夏かなって。花梨さんも行こうね!」
「な、なんで私も?」
「花梨さんがいた方が絶対楽しいじゃん!」
「は?馬鹿じゃん。まぁ、行くけど」
「絶対前半は言わなくて良かったよね」
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