第1話『神との邂逅』

第1話『神との邂逅』


前回のあらすじ


屋上から落ちて死にました。以上。


 ……


何も感じない。痛みも感じない…。

ん?感じる?寧ろふかふか?


「いつまで寝てるのー!?

学校に遅刻するわよ!!」


「ひゃいぃい!??」


突然の怒声に身体が飛び上がる。

周りは木で出来た1人分の部屋。

そして僕はさっきまでベッドで寝ていたようだ。


え!?何処ここ!?僕、死んだはずじゃ!?


それにさっきの声、僕のお母さんの声じゃないのに何処かで聞いたことがある。

あれ?そういえば部屋も見たことが…


思考を凝らすと扉が開き、慌ててる表情の女性がフライパンとお玉片手に入ってきた。


「早くしなさいと遅刻するわよ?」


「ご、ごめんなさい!」


「制服ならタンスの中だからね。

早く着替えて降りて来なさい!」


あれ、あれ?やっぱり聞いたことがあるぞこの声。何処でだ?何処で聞いた?

興奮が始まった身体は思考を鈍らせて上手く思い出せない。

取り敢えず服着よう。また怒られたくない。


僕は制服に着替えた。


あれあれあれあれあれ?

この制服…どう見ても…。


ま、まさか…?これって…あの…だから…。

さっきの女性は…


いやいやいやいや、あれはフィクション!

ゲームの世界だからあるはずないんだって!

でも…聞いてみよう。を。


部屋から飛び出して急いで階段を降りた。


「お母さん!」


「なぁに?」


あぁ、やっぱりあのお母さんだ!


「あのさ!僕の…」


僕の名前って何?

って聞こうとしたけどヤバくないか?

息子、頭がおかしくなっちゃったと思われるよね。


思い出せ、もしこれがあの世界なら…

名前が掘られているはずの物がある!


「僕の…」


「?」


えぇっと…うーんと…あっ!!


「僕の名前の入った杖ってどこ?」


そうだこれだ!!!


「その鞄の中に入れてあげたわよ。」


お母さんが指を差した方向に置いてあった鞄を漁る。

中には魔導書と謎の長細い黒箱が入っていた。

あぁ…やっぱり…!!

箱を開けて確信した。杖の持ち手に小さく


 Aixエクスと掘ってあった。


エクスとはデウス・エクス・マキナの主人公固定ネームだ。


僕がエクスだとすると、

エクス=アーシェだとするとココは…


本当にデウス・エクス・マキナの世界ッ!?


「やっほーーっ!!いってきまーーす!!」


「待って!ちゃんとご飯食べなさい!」


「あっ」


急いで食べ終わり玄関に向かって座りながら靴を履く。


「エクス、帰りたくなったらいつでも帰って来てね。」


お母さんは僕を見ると寂しそうな表情を浮かべていた。


「うん。ありがとう、お母さん。

頑張ってくるね。」


ゼウリス魔法学校は寮生活。

1人前になるまでは外に出られない。

だから、離れ離れだ。

正直ゲームでしか会ったことないから今までお世話になった記憶とか無いので感慨深いものはないんだけど…涙目で言われるからちょっとぐっと来るものがある。


「お願いだから、ちゃんと帰ってきてね。」


「うん、約束する。」


やり込み要素で帰ってくるから。


お母さんは背伸びをして僕を抱き締めた。

優しくて温かい。

実は羨ましかったんだ、この主人公が。

だって母親に愛されているから。


「じゃあ、僕行くね。」


「えぇ、ずっと応援してるわ。

行ってらっしゃい、エクス。」


「行ってきます、お母さん。」


ちょっとカッコ良く言えた気がする!


学校までの道は完璧に覚えている。

いっそげー!!


僕は期待で胸を膨らませ、軽く感じる身体で家を飛び出した。



「はぁー…はぁー……っ」


あれぇ!?思った以上に遠かった…!

ゲームじゃなくて生身だから体力減るのか…!

HPじゃなくて…本体の…人間の…おぇっ…

黒くて大きな柵のような禍々しい校門の前で力尽き、肩で息をする。


「ねぇ貴方、大丈夫?」


僕を気遣ってくれるこの優しい天使みたいな声は!

勢いよく顔を向けたせいで女の子はビクッと肩を震わせた。


「メルトちゃん!!」


黄味がかったふわふわ茶髪のポニーテール!

透き通る肌にくりくりなおめめ!!


間違いない!

メルト=ガーディアちゃんだ!


このゲームのメインヒロイン!

リアルになっても可愛い!!


「えっ!何で私を知ってるの?」


あ、やっべ。


「あ、えと………」


異世界で知ってたんだよとか言ったらサイコパスだよもう!


「えーと…あ、そこのネームプレート!」


鞄に付いていたタグを慌てて指差す。


「あ、これね!ふふ、初めまして。

メルト=ガーディアって言います。

良かったら一緒に行きましょ?えーと…」


「あ、僕はエクス。エクス=アーシェ!」


よし!言えた!


「エクス君ね、覚えたわ。

じゃあ行きましょ!」


「うん!」


あれ?こんなイベントは無かったよな?

校門潜ったら秒で入学式だったし。


人の流れに体育館に入ると大勢の生徒で溢れていた。

周りも色とりどりの花などで豪華に飾り付けられている。

このゼウリス魔法学校は有名な召喚士育成学校で色々な国からも生徒が来ているとか。


ん?あ、席自由か。


「エクス君、ここに座ろ!」


「うん!」


メルトちゃんと隣…

てか女の子と話すの何年ぶり!??

ダメだ意識するな、普通だ。うん、普通だ。

すると、右隣でギシッと音が聞こえた。

目を向けると


「あ。」


「…俺に何か?」


「あ、いや!ごめんなさい!」


白に近い銀髪に青い目、透き通る肌、イケメン…。

絶対主人公の親友のヨシュア=アイスレインだ!


「…変なの。」


「あ、あはは…。これからよろしく…」


「…よろしくどーぞ。」


うーん…やっぱり最初は冷めてるなぁ。


メルトちゃんと話そうとした時、突然照明が切れて辺りが真っ暗になる。驚いてざわつく生徒。

それを黙らせるようにカッと舞台にスポットライトが射す。


照らされた人物は赤いスーツ、タイトな黒スカートでロングヘアの強そうな美人女性。


あれは!!


「皆さん、ゼウリス魔法学校へようこそ!

私はヒメリア=ルージュ!皆さんの教師となる者!

貴方達が国を護れる立派な召喚士になる為に全力でサポートをさせて頂きます!だから…」


ヒメリア先生は一見仕事のできるOL(見た目が派手)に見えるのだが…実は


「貴様らも弱音を吐かずについてこいよっ!!」


という鞭しならせる系の鬼教官なのだ。

今ので何人かの恋心が粉砕されただろう。


「こ、怖いね…ヒメリア先生って。」


メルトちゃんが小さく呟く。


「…ね。」


と小さく頷いた。


「召喚士とは召喚獣と呼ばれるモンスターを使役し、力を借りることで初めて戦える。

良きパートナーに出逢えるよう祈っているぞ。」


ヒメリア先生は鞭をしならせる。

すると舞台に大きな赤色の魔法陣が現れ、全身が火で覆われた大きな魔物がビリビリとするくらい大きな咆哮と共に現れた。


そう、ヒメリア先生のパートナーは

火の精霊イフリート。その業火はあらゆる罪をも焼き尽くす…って言われている。

マジで本物かっけぇええぇ!!!


ヒメリア先生はイフリートの手に座った。

…よく燃えないな。


「さて早速だが貴様らにはクラス分けの為、

召喚を行ってもらう。」


クラス分けはこうだ。

パートナーが神族である"神クラス"

パートナーが天使族である"天使クラス"

パートナーがその他の種族である"アルファクラス"

この3つだ。


「端の奴から始める!各自移動せよ!!」


「だって!早く並びましょ!エクス君!」


「あ、うん!」


ヒメリア先生に従い周りも移動を始めた。

あぁ、ついに始まった。

召喚の為のクリスタルは大聖堂のような場所に保管される。


主人公のパートナーはチュートリアルで確定排出のアークエンジェルから始まる。

つまり何があろうと天使クラス。


そしてこの両隣のメルトちゃんとヨシュアは神族を呼び出し、神クラスへ行ってしまう。


即ち、ぼっち生活がまた暫く続くのだ。


神クラスで別なのに何でこの2人がヒロインと親友なのか。

それは主人公は天使クラスで浮いた存在になっちゃって2人が気にかけてくれたからだ。

結局中盤で絶対神族呼べるシナリオだし。

しかもどのみち中間くらいからは裏切り者のせいでクラス関係無いし!

ちょっとストーリー性がなんでもあり感ありすぎて宜しくなかったんだよな、これ。


あれ?でも実際ストーリー変わってるよな?

校門前でメルトちゃんに会うし、此処でヨシュアと喋るし。


うーん…?


「おい!お前!」


ヒメリア先生の怖い声が真横に聞こえた。


「ひゃいっ!!?」


「杖を出して召喚するんだ!」


「へ?」


いつの間にか僕の番で、よく見ると大聖堂のような白く広い部屋の中、僕の前にぼんやりと輝く超巨大なクリスタルが浮いていた。

青く透き通った海のように神々しく、この世の物とは思えない綺麗さ。

凄い…ゲームのままだ…。


「エクス君、頑張って!」


後ろからメルトちゃんの声が聞こえる。

頑張っても結果はアークエンジェルだけどね。

これから始まるぼっち生活に半ば絶望しながらクリスタルに杖を向ける。

絶望はしつつもカッコイイこの召喚をしたかった。

何度隠れながら身振り手振りをしたことか!


でも今度は本当に召喚できるんだ!


いくぞ…大きく息を吸って…


summonサモン!】


声高らかに言い放った。

杖の先端が光り輝き光線を放ちクリスタルと結びつける。これでクリスタルが青く光ってアークエンジェルが出て…


あれ?


クリスタルは青く光らない。

何なら何も変化が起きない。

壊した?んなアホな。でも…聞かないと。


「せ、せんせ?僕、壊したのですか…?」


先生に向かって首を傾げる。

先生は暫くクリスタルを見て、ハッと息を飲んだ。


「いや、そうじゃない!

ここに居る皆、衝撃に備えろっ!!

イフリート!!」


声を荒らげた先生のイフリートが両手を突き出して炎の結界を張る。

ヒメリア先生以外の先生も召喚獣を召喚して結界を張っていた。


次の瞬間、クリスタルが一瞬虹色に輝いたがそれを隠すように暗雲と雷に覆われた。


壁が、床が、空気が悲鳴をあげるように揺れ動く。

突風も吹き荒れる中、暗雲は僕の目の前に立ち込み、浮き上がる。


え!?何!?

こんなのストーリーでは無かったよ!!

これは絶対アークエンジェルじゃない!!

チュートリアルのはずなのに!!

あぁ、僕のせいで周りがパニックに!!

どうしよう!!


そして、高い位置にあった暗雲から白い雷が目の前に落ちてきた。

イフリートの結界が壊れ、あまりの眩しさに目を瞑る。光が引いてきたので恐る恐る目を開けると、目の前に誰かが浮いていた。



腰より長い白く艶やかな髪、ギリシャ神話の神様らしい服。神々しい光背こうはい

白く長い睫毛が煌めく神様級の綺麗なイケメンフェイス。

謎のイケメンは口を開いた。


『私は全知全能の神、ゼウス。

 召喚に応じ来てやったぞ。』


…は?


「は?」


『は?とは何だ馬鹿者!私が来てやったのだ!

泣いて喜べ!崇め奉れ!!』


……思考が追いつかない。あのゼウスだって?

ガチャ確率が限りなくゼロに近いあの?

最強キャラのあの?チュートリアルなのに?

絶対アークエンジェルのはずなのに?


「ヒトチガイダトオモイマス。」


『む…?どうやら信じて無さそうだ。

ほれ、これをやろう。』


自称ゼウスが人差し指をくいっと動かすと、僕の持っていた杖が白と金のデザインに姿を変えた。


こ、ここここれは…

【ゼウスの光杖こうじょう】!!

デウス・エクス・マキナの中の装備品!!


超高難易度クエストクリアで一定確率で起こる親密度イベを何十回何百回とやってゼウスに認められないと手に入らない究極の杖…!!


何故超高難易度かと言うと仲間になったゼウスが使用禁止だから。


ゼウスが来る前のレベルカンストパーティーでもキツいからだ。


新密度イベに至っては確率だからね!


震えている僕をゼウスは冷ややかな目線で見下ろす。


『小僧、名は何という。』


「エト…アノ…」


『えとあの?』


「アッ違います!エクスです!

エクス=アーシェ!」


『エクスとな。ほれ』


彼が指を鳴らすと、僕自身の黒い杖に戻った。


「ほ、ほんものだぁ…。」


『ふん、やっと信じたか。

エクス。いや、マスターよ。

私がお前の力になってやる故に感謝せよ。 』


「えぇ…!?」


▼ぜんちぜんのうのかみ ぜうす が なかまに なった!



拝啓、死んだはずの僕へ。


物の見事にゲーム世界へ転生した後、主人公になり、全知全能の神ゼウスがパートナーという勝ち組の切符を手に入れたよ。

もうこの人生勝ったも同然。

楽勝コース、つまり無双だよ無双。


『お、何だコイツ。』


ゼウスはヒメリア先生のイフリートに近づく。

ゼウスの方が小さいんだな…。

ヒメリア先生目を見開いたまま動かなくなっちゃったし。…ん?


「ぜ、ゼウス…?」


何するの?


『おぉ、イフリートか。

中々愛い顔をしているな。よしよーし』


と彼がイフリートの頭上へ飛んでいき、頭を撫でた瞬間に雷が落ち、じゅっと焼ける音と共に一瞬でイフリートが消えた。


『あ、うっかり。』


「いや、なにしてんのぉおおおおっ!!?」


こうして、波乱万丈な魔法学校生活が幕を開けた。

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