第17話『閉ざす者と怪しい者』

前回のあらすじ


ヨガミ先生とメルトちゃんと離れた僕と

ヨシュアは怪しい物が無いか、校内を簡単に回ることにしました。そこでリリアンさんと衝突してしまい、僕だけ吹っ飛ぶという恥ずかしい事に。


僕だけが尻もちついたというのは忘れてください…!

あの騎士様がお強いだけなんですぅ…!


 …


レンが黒幕じゃない可能性。

リリアンさんが敵になる可能性。

埋め込まれたプログラムで動いていたNPCは、この世界だと普通の人間なんだ。

自ら思考を持ち、行動する、ただの…。


「エクス?どうしたの?」


ヨシュアの声でハッと我に返る。


「あ、ごめん!ちょっと考え事!」


「そう?なら良いけど?次はどうする?」


どうしようか。考えようとすると


ぐぅううぅう〜…


とお腹が鳴った。


2人分の腹の音は大きめに響いた。

は、恥ずかしいっ!


「お、お腹減ったし、しょ、食堂でご飯食べよ!」


「そ、そうだね。」


ヨシュアは顔色1つ変えていない。

何なら焦っている僕に引いている。


このまま真っ直ぐ行って目指すよりも来た道を戻った方が早いのでくるりと踵を返した。


次の瞬間


背中に衝撃が走った。


「どわぁあっ!!?」


「エクス!?」


痛くはないけど勢いが強い。

前のめりで転けないように右足を出して踏ん張った。キッと衝撃に目を向けると


「わーっ!ごめんねー!」


黒に近い紫色のショートヘアに赤目の可愛らしい女の子。


『ほらマスター?足が速くなったろぉ?

 どうよ、不思議な靴は。』


この声は…


「うんっ!!凄いよロキ!」


名を呼ばれ後から浮いて来た召喚獣は、

赤紫色の髪、2本の黒い角、全体的にチャラそうな服…。


見覚えがあった。


彼は魔神ロキ。

北欧神話のトリックスター…。

またの名を【閉ざす者】


ちょっと興味あってググッたんだ。

神話って厨二病を擽るから…。

オリュンポス十二神については調べてないんだけども。


「ぶつかってごめんね!」


「あ、ううん。気にしないで。」


「ありがとー!」


女の子は僕から離れた。


僕は少し緊張している。


その女の子…魔神ロキの召喚士は


レンの手助けをする者。


自分から進んで協力するのではなく、あの

魔神ロキに騙された結果、協力してしまう

責めたくても責められない子。


「…。」


ヨシュアが心配そうに僕のことをじっと見ている。顔に出ていたかもしれない。怪しまれるなよ自分!まずは怪しまれているかどうか相手の反応を伺おう。


「あたしね、イデアって言うの!

 イデア=ルークス!」


…全然怪しんでないな。


イデアちゃんは満面の笑みでロキの腕に抱きついた。


「こっちはパートナーのロキ!」


『アッ俺、男に興味無いんで。』


何かイラッとくる。イデアちゃんはじぃっとこちらを見つめてくる。


「むー…?貴方達、どっかで見たことが…」


『マスター、覚えていないのか?

 ほら、マスターの幼馴染だよ。』


今さっき初めてお会いしましたけど。


「えっ!?そうなの!?嘘、別人みたいになってたから気付かなかった!」


別人ですよ。


『嘘だよマスター。本当はマスターに恋心を寄せてる奴らだよ。』


「えっ!?

と、友達から宜しくお願いします!」


ロキは凄いつらつらと嘘を吐けるな…。

僕らフラれてるし。


「楽しそうだね。全部嘘だけど。」


ヨシュアが黒い笑顔を見せている。

何処かで、または全てにイラッと来たのだろう。


「え?嘘なの?ロキ。」


やっぱり嘘だって気付いていないんだ…。


『あぁ。全部マスターを楽しませるための嘘なのさ。その不思議な靴だって幻覚で見た目が変わったように見せていただけさ。』


「えー!!」


相変わらずのお馬鹿さんキャラだ。

誰でも信じるという簡単そうで簡単でないことをやってのけるイデアちゃん。

の、頭に右腕を乗せてるロキはヨシュアと僕を順番に指さす。


『そっちの白髪…いや銀髪の男は知らないけど…そっちの薄いオレンジ色の髪の男は知ってるぜ。』


薄いオレンジ色って…あ、そういや今の僕ってエクスか。

なら他の皆と同じ計算して創られた顔イケメンフェイス…!?後で鏡見よ!!



考えていると、ロキはニッと口角を上げ



『あの男はな、“異世界からの来訪者”さ!』



と大きな声で告げた。


「……ッ!!?」


あまりの驚きに声が詰まる。


「えぇえ!?

異世界!?ロキ何でわかるの!?」


何故異世界だと知っている…!?

ダメだ今は取り繕え!!


「な、何のことかなぁ〜?」


焦ってより一層白々しくなる!!内心慌てふためく僕を見てロキはケラケラ笑った。


『…はははっ!嘘だぜ、マスター。』


「えっそうなの!?」


『いやーマスターは新鮮で面白いなァ…

くくっ』


ロキは笑いを堪えている。


そうだ、ロキは嘘吐きだ。

今のも適当に言ったのを僕が本気にしてしまったのが悪いんだ。


イデアちゃんは僕らに近付いた。


「ロキがごめんね?お名前、聞きたいな!」


「僕は…エクス。エクス=アーシェ。」


「…俺はヨシュア。

ヨシュア=アイスレイン。」


僕らの名前を聞くと笑顔で数回頷いた。


「エクス君にヨシュア君だね!

貴方達のパートナーって?」


本当に僕の事を覚えていないのか…。

あの場で頑張った意味とは…。


「それは…」


「秘密さ。」


僕が言おうとするとヨシュアが割って入った。


「え?秘密?」


目を丸くするイデアちゃんに頷いたヨシュア。


「うん。同じクラスということは伝える。

他は秘密。だって明日会った時の楽しみになるだろう?」


イデアちゃんは「うーん…?」と腕を組み

斜め上に視線を動かし考えていた。

そして結論は笑顔で頷くことで理解した。


「そうだね!楽しみにする!」


「うん、そうして?」


『なぁマスター。そのヨシュア=アイスレインって男は(ピーッ)なんだぜ。』


「…あらま。」


突然ロキがイデアちゃんに耳打ちする動作は見せるものの声は丸聞こえだ。えっ公共の場だよ?え?怖くなってヨシュアを見ると怒る顔ではなく笑顔だった。


ただ、とてつもなく黒い笑顔。


「っははは!よし、ぶっ殺」

「わーーーっ!!ダメだよヨシュア!!」


ヨシュアの口からゲーム中、人に対して1度も聞いたこと無かった言葉を聞きそうになるとは!!


「ろ、ロキ!凄い怒ってるよ!」


『嘘なのにな。あれじゃあ真実に…』


「(ビキッ)」


ん?ヨシュアから変な音が。


「………」


小さく聞こえる声。

頑張って耳を澄ますと詠唱らしい言葉が部分部分聞こえる。彼の横に浮いて現れた魔導書の炎が大きくなり始めている。

待てよ?ゲーム中にもコマンドから魔法を選ぶのとは別で、リモコンのマイクに自分で魔法名や詠唱を言っても発動出来たような?

オンラインゲームじゃないのにマイク使えるとか凄いなーとか思ってた。

詠唱が必要なのは結構上の究極魔法だけなんだけどね……結構上の究極魔法?

ま、まさかヨシュアがやろうとしているのはもしや究極魔法!?


まずいぞ校舎壊れるんじゃ!?


僕は急いでヨシュアの両脇へ入れた両手に

力を込めた。


「お、落ち着いてヨシュア!嘘なら動いちゃダメだよ!真実になるよ!!」


僕が言えたことじゃないけど!


「………………そうだね。」


落ち着いたのか詠唱を止めた。


「ろ、ロキが本当にごめんね?」


何も悪くないイデアちゃんが頭を下げる。

それに首を横に振って応えるヨシュア。


「いいよ。実践で容赦なく叩き潰すだけだから、安心して?」


どう安心するのかな。


「うん!安心した!」


もうダメだ。


『さ、マスター。そろそろ飯食おうぜ。

マスターの腹が鳴りっぱなしだぞ?』


「えっ」


女の子相手にデリカシー無いな。


『っははは!嘘だよ。』


「もうっ!ちょっと怒った!」


『悪かったって。やっぱマスターは怒った顔も可愛いなぁ〜!』


「もーっ…あ、そういう訳だからまた会おうね!エクス君、ヨシュア君!」


ばいばーいと手を振りながら僕の横を通り

過ぎるイデアちゃん。

その後ろに浮かぶロキ。


『これから宜しくな。異世界来訪者?』


耳元で僕だけに聞こえるような声で呟いてから口角を上げてイデアちゃんについて行った。


「…え?」


「エクスどうしたの?」


「ぁ…いや。」


嘘じゃ、なかったのか。

ヨシュアが(ピーッ)という事だけが本当じゃなかったのか。


「エクス、何か失礼な事考えてない?」


「考えてない考えてない!」


「でもイデア、食堂に向かったみたいだね。

どうする?イデアは良いんだけどあのロキとは喋りたくないな。」


そう言うヨシュアと真逆で話したいと思っている僕。…しかしこの通路での人が疎らだったから話せたというのもある。食堂は人が多いだろう。変なこと言われたら全員に知れ渡る事となる。それは避けたい。虐められるのは嫌だから。


「お腹がまだ大丈夫なら他も見よ、ヨシュア。」


「そうだね。……!」


ヨシュアが目を見開き曲がり角を見る。


「エクス!!」


僕の名前を呼ぶとそちらへ走り出した。


「ど、どうしたの!?」


「怪しい影が見えた!!」


「えっ!!」


「俺が気付いたら逃げたんだ!それにボロボロのローブ着てた!

顔も見せないようにフードを被っていた!

これが怪しくない訳ない!」


ローブなら制服の上からでも着れるし、服に規定のない教師陣もありえる!

もしかして僕らも魔獣殺しの犯人に嗅ぎ回られるのか!?


通ったことの無い場所でちらほらと居る人達を避けながら石畳の廊下を全力疾走する。

太陽光が入る窓も無いこの通路は少し冷える。


てか、ローブの人、足速くない!?


僕から見えるのはヨシュアの背中と小さくなっていくローブの誰か。


あ、こういう時こそ!


「出てきてゼウス!【summonサモン!】」


僕が叫ぶと魔導書が輝き、相棒を起こす。


『私を呼んだかマスター!』


「うん!あのヨシュアの前を走ってる人をっ…つ、捕まえてっ!」


『了解だ!!』


浮いているだけあって直ぐに僕を抜かし、

ヨシュアを追い越し、ローブ姿の人の前に

立ちはだかった。雷使わないんだ…。


『観念するんだな。』


ゼウスが前に居るならそうそう抜けられない。決して広いとは言えないこの廊下。

僕とヨシュアが間隔を少し開けるだけで逃げられないぞ、という雰囲気を醸し出せる。


「貴方は誰だ?何故逃げる?」


ヨシュアがゆっくり近付いて行く。


『そいつに手を出したら四肢を捥ぐ。』


ゼウスの脅しでポケットに入れた何も持っていない手をゆっくりと出した。


そして、ヨシュアの手がローブで隠された顔を露わにする。


「「っ…貴方は!」」

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