第18話『人形劇、余興』

前回のあらすじ


レンの協力者、イデア=ルークスちゃんに衝突され挨拶を交わしました。

途中、イデアちゃんの相棒である魔神ロキに異世界からの来訪者と呼ばれ焦ってしまった僕。最初は嘘と言っていたけど本当に適当に言ったのかどうなのか分からない。


考えているとヨシュアがローブ姿の怪しい人影を発見したので追いかけ、追い詰めました。


 そして今、フードを取った。


 …


「「っ…貴方は!」」


僕とヨシュアは声を揃える。

僕らから逃げていたローブ姿の人は…


金髪を大きな黒いリボンでハーフアップにしていたロングヘアの女性だった。

彼女の目は前髪で見えなかった。


あれ?見覚えがあるぞ…。


「…どなたですか?何故逃げたんです?」


ヨシュアが聞くと女性はあわあわと狼狽え、何処からともなく両手にパペットを装備した。左手には女天使の人形、右手には継ぎ接ぎの猫の人形…ぬいぐるみ?が。

女性は天使の人形を動かしながら


「きゅ、急に追いかけられたら逃げるだろう!」


 と口も開かずに答えた。


 …腹話術!!


『変な奴だなマスター。殺すか』


僕の横に移動したゼウスは組んでいた腕を

解こうとする。


「物騒!!ゼウスは手出し禁止!」


『む。』


「で、誰なんですか。」


怪訝なヨシュアに肩を震わせた女性は継ぎ接ぎの猫の人形を突き出した。


「ケケッ!コイツは天使クラス副担任だヨ!名前をオペラ=ベルカント!こっちの天使は

ミカエル!んで俺様がケット・シー!

よぉく覚えとけヨ!!」


「オペラ=ベルカント…先生…。」


 うん、やっぱり覚えてる。

あの人形…喋らない本体…間違いない。

本当に天使クラスの副担任、

オペラ=ベルカント先生だ!

ミカエルのパートナーとだけあってとても強いんだ。確か対人恐怖症なんだけど人形越しだと話せるという不思議な人。

前髪の下は学校内の誰も見た事が無いとか。


「おい、そう言う貴様らは誰なんだ!」


ミカエルの顔を僕の頬にぐいぐいと押し付ける。痛いけどふかふかで肌触りが良い。


「ぼ、ぼくはエクヒュ=アーヒェでひゅ。」


「俺はヨシュア。

ヨシュア=アイスレインです。」


やっとミカエルの人形が離れた。


「エクス=アーシェ。

神クラス代表で最高神ゼウスの召喚士か。」


ちゃんと正しく聞こえてたんだ。

これはミカエルに頷くべきなのかオペラ先生に頷くべきなのか。結論的には一緒か。


「そして貴様がアイスレイン家の…。

 で、何で私らを追いかけてきた?」


「「え。」」


ついヨシュアを見ると、彼も僕を見ていた。僕に頷いたヨシュアがミカエルに向かって


「せ、先生が怪しかったから…

何か悪さをするつもりなんじゃないかなって…思いまして。」


と、嘘もなく告げる。

言うことが無い僕はコクコクと頷いた。

オペラ先生の手のミカエルとケット・シーは考えるように短い腕を組む動作をする。


「…怪しかったのは確かだ。すまない。

しかし貴様らの威圧が凄まじくてな。

逃げるしかなかった。」


それは…すみません。


「逆に、先生は何を?」


ヨシュアの問にビクッと身体を震わせる

オペラ先生。ケット・シーが焦りを表すような動きをしている。


「ケケッ!?あー…えーと…そのぉー…」


『はっきり言わぬか戯けが。雷落とすぞ。』


口篭ることに腹が立ったのかオペラ先生を

また脅すゼウス。


「せ、生徒達と仲良くなりたくて人間観察をしてましタっ!!」


そんなゼウスに土下座しつつケット・シーの人形だけ突き上げる異様な姿。

土下座に慣れているのだろうか、とても綺麗なフォームだ。


「人間観察?」


顔を上げ、聞いたヨシュアにケット・シー人形を向ける。


「明日から授業なので先に生徒のパートナーは誰かと探ったリ、得意な魔法について話してないか聞き耳立てたりしてましタ!」


ストーカー紛いな行為だ…。


『誠だろうな。』


「本当です、ゼウス様!信じて下さい!」


必死に動くミカエル人形をじっと見たゼウスは僕に視線を移し


『…嘘では無さそうだ。』


と言った。


「そっか。ならヨシュア。」


「そうだね。先生、失礼しました。」


「問い詰めてすみませんでした。」


僕とヨシュアは頭を下げた。


次の瞬間


下げた頭を思い切り床に叩きつけられたかのような威圧感、身体を氷漬けにされたかと

思うくらいの悪寒、息が出来なくなる程の

プレッシャーが襲ってきた。

僕は頭を下げた体勢のまま動けなくなった。


何だ!?怖くて頭を上げられない…っ!

動けないっ!ゼウスの名前も呼べないっ!


手足が震える…!


コツコツと石畳を歩く足音が響きながらも

近づいてくる。何処から?頭の方だ。

つまり、前から。鼻筋を冷汗が伝う。

その汗の1粒が鼻から離れ、石畳に落ちる音が聞こえると同時に、足音がコツンと


僕の真横で止まった。

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