第16話『歩き始めた可能性』

前回のあらすじ


僕のレベルが足りないせいでゼウスのスキルにロックが生じているそうです。

僕自身魔法は沢山使えるのに…。

ゼウスはそれ以来考え込んでいます。


そういえばレベルって何処で確認するの?

それに今、僕って何レベ??


 …


「どうするか、決めた。監視は置かない。」


静かなヨガミ先生の一言に


「え!?」


驚いた僕は声を荒らげてしまった。


「何故ですか?彼はあの場に居た。それが本当ならば犯人の可能性だってあるでしょう?それを野放しにするってことですよ?」


ヨシュアは先生へ睨みつけるように視線を向ける。先生は静かに目を合わせる。


「あぁ、それは分かっている。

仮に、レンが悪質な儀式などをする為に

ベヒモス達を殺ったとしよう。それを裏付ける証拠は?お前ら持ってるか?」


「それは…」


何も持っていない。

ゼウスから聞くまで僕らは居たことすら知らなかったのだから。


考えている事が分かったのかヨガミ先生は

腕を組んで目を伏せた。


「無いだろ?これじゃ追い詰められないんだよ。儀式の魔法陣とか決定的証拠が無いとな。犯人にはぐらかされて終わりだ。

そんな中で監視を置いてみろ。

怪しまれることこの上ない。頭が切れる奴なら尚更だ。俺は尻尾を出すまで待つつもりだ。」


それでも野放しにしていい訳じゃ無いと思うのだけど…。


『うぬぬぬ…あと少しで…っ』


隣でゼウスが急に唸り始めた。


「ゼウス?」


『あ。』


「?」


ゼウスは口を開いて…

え、それ何を考えてる顔?


『できた…。』


と、開いた口の両端がゆっくりとつり上がっていく。


「え?」


『解錠、出来た…。』


「何が?」


『スキルロックが解錠出来たのだ!

マスター!』


「へ?」


嘘でしょ?


『私は完全な全知全能の神となった!!

 ふふふ…ふははははっ!!!

 はーっはっはっはっ!!………はっ!?』


大笑いした後に!?マークを浮かべ固まる

忙しいゼウス。どうしたんだろ?


「どうしたの?ゼウス。」


僕がそう聞くと、口を開けたまま


『またロックされた…っ!!』


と渋い顔を向けてきた。


「えっ!?どういう事!?」


『スキルロックを解錠した瞬間、新たな

ロックが掛けられたのだ!まるで呪いだ!

くそっ!こうなったら意地でも全て解いてやる!!』


『はーーっ!ざまぁwwww』


眉間に皺を寄せたゼウスを指差して馬鹿にし、笑っているプロメテウスにヨシュアは


「プロメテウスは解ける?」


と何となく聞いていた。


『はっ!?あ、アイツに出来んならお、おお俺だってと、ととと解けるしっ!!』


「…そっか。」


焦るプロメテウスが嘘を吐いていることが分かったヨシュアは無表情の顔で頷く。


分かりやすいな。


「アテナはやらなくて良いわよ!

ゆっくり、一緒に強くなろうね!」


『はい、マスター。』


この場合メルトちゃんが正しいのだろう。


本来、召喚士のレベルが鍵となり、それ以外では外せないスキルロックシステム。

それを無理矢理こじ開けるというゲームバランスを崩す裏技行為チートなんてゼウスにしか出来ないのだから。…上から、理事長とかから何か言われないよね?


「んんっ…もう良いか?」


ヨガミ先生の咳払いで話が逸れていた事を

思い出した。


「授業中は生徒の周りの目があるから迂闊には動けまい。その分、休み時間にはお前らが見張っとけ。常にとは言わん。

レンに限らず少しでも怪しい行動をとる奴を見かけたら危険が及ばない程度に追跡を頼む。俺やスピルカを呼んでもいいから。

てか呼べ。」


「それで良いのですか?」


「あぁ。今は、な。」


メルトちゃんに頷いた先生は次に溜息を吐いた。


「はぁ…何でこんなめんどくせぇ事に…。

…取り敢えず、お前らはレンを見張れる時に見張っとけ。でも怪しまれるな。事情を知らない奴にほいほい話すな。その点は特に注意するように。俺はスピルカと共に教師陣を探る。頼んだぞ。じゃあ解散!」


その後、先生は時間差で部屋を出るように

指示した。1番最初に部屋を出たのは

メルトちゃん。次にヨシュア。


『ヨガミ〜最初皆で一斉に入ったんだから

バラバラに出るのは意味無くない?』


アポロンの言うことは最もだ。


「まーな。念の為さ。おい、エクス。」


先生に呼ばれたのでドアノブから手を離して振り向いた。


「はい。」


「お前らが頼りだ。頼んだぞ。

 あと、明日からの授業寝んなよ。」


「寝ませんよ!!」


授業中はイジメにひたすら耐えていた

嫌な思い出しかないけど…!


「寝たら即座に殺すからな〜!」


初めてヨガミ先生の爽やかな笑顔を見た。

指輪で輝く細い中指が立ってる。


こっっわ。


「せ、先生はどうするんですか?」


「スピルカと話をしてくる。

そろそろ上に伝え終わっただろうしな。

はい、今日はこれでこの話は止めだ。

ほれほれ出てった出てった。」


『今日は学校回ったりして友達作っておくんだよー!』


そのアポロンの言葉は聞きたくなかった…!


僕はゼウスと共に部屋を出た。


「願わくば……教師陣に…。」


ヨガミ先生がか細い声で何か言ったように

聞こえたが扉を閉める音に掻き消された。


ふと前を見るとヨシュアとプロメテウスだけがそこに居た。


「あれ?メルトちゃんは?」


「解散って聞いたから女子寮へ戻るわ〜

 2人で過ごしてて〜!だってさ。」


ちょっと真似が似ていたな。

ヒメリア先生の置き手紙に、解散したら女子寮へ戻るようにって書いてあったっけ。


「これからどうする?」


「流石に直ぐレンを見張るのもな〜…。」


『おいマスター!

ゼウスの野郎と一緒なんてごめ』


「プロメテウスは本に戻ってて。」


ヨシュアは煌めく炎が神秘的な魔導書の表紙をコンコンと2回ノックする。

その瞬間、プロメテウスがその場から消えた。


「え。い、いいの?」


「ちょっとプロメテウスに休んでもらおうと思って。」


黒い笑顔のヨシュア。

ヨシュアの言葉を言い換えると


黙ってろや。


と言うことだろう。


召喚士は自分の意思で召喚獣を本から自由に出し入れ出来る。召喚獣を呼びたい時は本を開き【summon】と言えば答えてくれる。

本に戻したい時は戻れと直接言うか、さっきのヨシュアのように魔導書の表紙を召喚士の魔力が籠った手で2回ノックする必要がある。

大抵戻れと言えば戻ってくれるはずなんだけどプロメテウスみたいな召喚獣は戻れと言うよりノックして戻した方が早いだろう。

ちなみに、自分の意思で戻る召喚獣もいる。例えばタナトスとか。

子供のような見た目の彼は大聖堂に向かう際

『戻ります。またお呼びください。』

そう言ってぺこりとお辞儀をしながら消えたのだ。


「ゼウスも戻る?」


『え、やだ。』


子供か。


「だってゼウスド派手だから目立つんだもん。うん、決めた。一旦戻ってゼウス。

僕、ヨシュアと校内回って怪しい人や場所がないか調べてくるから。」


『……何かあったら直ぐに私を呼ぶのだぞ!

良いなマスター!』


「うん。何かあったら助けてね。」


『…うむ!』


不満丸出しな表情のまま頷いたゼウスは

神々しい光と共に本の中へ消えていった。


「…よし、ヨシュア。行こう!」


「うん、ざっと校内を回ろうか。」


ヨシュアより少し前を歩き、角を曲がろうとした時、左右をしっかり見ていなかったから


「おわっ!!」

「きゃあっ!!」


人(女性)とぶつかってしまった。

衝撃が強く、僕は尻もちをつく。

まずい!!女性になんて事を!!


「すみません!!だっ大丈夫です…か…。」


僕のせいで女性も尻もちをついているのだろうと思い、手を差し伸べようとしたのだが…


女性はしっかりと立っていた。


…え?僕が尻もちついたのにこの女性は立ってるの…?僕が弱いの?女性が強いの?

女性の顔を見上げると、僕が弱いのだと結論づいた。気高き騎士を連想させる立ち姿、美しい顔には見覚えがあったからだ。

僕は彼女の名前を呟いた。


「り、リリアン=ナイトイヴさん…。」


「あら、貴方は神クラス代表の

エクス=アーシェさん…だったかしら。」


覚えていてくれた…!?


「お、覚えていてくれたのですか!?」


興奮気味に聞くと優しく微笑んでくれた。

ウッ…眩しい…っ!!美しい…!!


「えぇ。あの最高神ゼウスの召喚士さんですから。…あら?ゼウスは…」


「今は戻しました。目立っちゃうので。」


「成程。私もアーサーを休ませようと戻したところです。………あの、アーシェさん。」


「ひゃいっ!!」


「今、貴方に適う生徒はおそらく居ないでしょう。今日、見てわかりました。

けれど、私とアーサーが貴方とゼウスを必ず追い越します。もし、模擬戦などで相見える機会がございましたらどうぞお覚悟を。

ではまた、御機嫌よう。」


花のように微笑んだ彼女は僕の横を通り過ぎる。あ…いい匂い…。


「美しい…。」


気付けば声が零れていた。


「エクス、大丈夫だった?」


曲がり角からヨシュアが顔を覗かせる。


「あ、ヨシュア!居ないと思ったら!」


「あははっエクスとリリアンさんがいい感じだったから邪魔しないようにと思って。」


ヨシュアが僕の横に並び、周りに怪しまれないように歩きながら話すことにした。


「……あ、そうだ。」


さっきのリリアンさんを見て思った。


「どうしたの?エクス。」


「リリアンさんを協力者に出来ないかな?」


本来のストーリーよりも大分早いけど味方なの分かってる訳だし早いうちに味方になってくれれば!うん、我ながら結構いい案だと思う。

と思ってヨシュアに聞いたんだけど案外そうでは無さそうで。彼は顎に手を当て目線を下げる。


「うーん…それでも良いとは思うけど…関わりの浅い彼女が味方に付くとも限らない。

今は俺ら以外の生徒、教師は敵と一緒だよ。協力者になってもらえると確定したらスカウトしようよ。」


「…」


た、確かに…。

さっきストーリー云々と言ったけど…

僕がエクスに転生したその時からゼウスが来たり、ベヒモスなどの魔獣が暴れたりなど僕の知っているストーリーが変わっているのも確かだ。もしこのままストーリーが変わっていくとして、アルファクラス代表のリリアンさんが敵になったら…そう考えるとぞっとする…。


そうだ。

もうこの世界は僕の知っているゲームであってそうじゃないんだ。


僕は既にデウス・エクス・マキナの別の世界線を歩き始めたのだろう。


別の世界線ならばレンが黒幕じゃない可能性も出てきたりするのだろうか…。

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