第44話『もしかして』

 前回のあらすじ


またまたヨシュアです。

エクスが良い人はすみません。

クリムの目撃情報によってアビスを発見。問い詰めるものの証拠がなく逃がしてしまいました。やっぱり俺達がアビスを問い詰めるには証拠が少なすぎた…。

勘づいたと喋ってしまったものだしやはり本人に聞いたのは間違いだったか…?

焦って手順を間違えてしまったかもしれないな、俺。…ださいなぁ。

いや、反省は後だ。クリムに忠告しようとしたら本人が来ちゃったわけだから。


 …


「俺がどうかした?ヨシュア君♪」


後ろからレンの声がする。俺は嫌な顔を一瞬した後で笑顔を作り振り向いた。


「やぁレン君。ご機嫌いかがー?」


「えっ!きしょ。何?晩御飯当たった?

大丈夫?頭やられてない?」


 チッ…目ん玉刺したくなる…!


「あれ?何か怒ってる?

カルシウム足りてないんじゃないかなぁ。」


「生憎俺は今日魚料理食べたんだ。いらない気遣いどーも。あ、そうだクリム。お兄様がローランドと共にテラスで待ってるよって言ってたよ。早く行った方が良いんじゃない?」


「え?」


「それは大変だ!初耳だ!

ではさらばだ諸君!」


「え、えぇ?!」


クリムの困惑した声を聞くとローランドが上手く彼女の肩に手を回して連れて行ってくれたんだろう。ナイス、ローランド。

今度エクスの弱点見つけたら教えるからね。

レンも深追いせずに目線だけ彼らに向け、本棚で見えなくなったからか目線を戻してきた。


「彼女に俺の名前話してたよね。

何のことなの?」


「君のような何考えているか分からない男に気をつけろとあの子のお兄様から言伝を頼まれててね。」


「でも俺達の忠告だって言わなかった?」


 聞いてたのかよ。


「言ってないけど。君こそ耳大丈夫かな?」


「うん、問題ないね。キミの呼吸の音が聞こえるよ。余計な心配ありがとう。」


いちいち腹立つ…。

落ち着け、煽りにのったらおしまいだ。


「そういえばエクス君は?」


「君には関係ないだろう?」


「うん、そうだね。話せないのは寂しいけど今度の楽しみにとっておくよ。

じゃ、俺は行くから。おやすみ、ヨシュア君。良い夢を。」


「おやすみ、レン。良い夢を。」


俺に微笑んだ後、背を向けて図書館を出た。


ローランドと合流しなくては。

テラスに居るかな。テラスはスカーレットと初めて会った場所のこと。

俺はレンの姿が見えなくなってから行動を始めた。


 …


「あ、居た!」


 テラスに着くと2人が居た。


「ヨシュア君!無事だったかい?」


「うん、元気!」


「急に驚きましたよっ!」


「ごめんごめん。その危険な男、レン=フォーダンは俺らを監視している気がする。

クリムも気を付けるんだよ。」


 そう言うとクリムは何回も頷いた。


「わ、分かりました!」


「ローランド、アフロディーテでゼウスに伝えたいことが。」


「分かった。アフロディーテ、頼めるかい?」


『♡』


小さなアフロディーテが俺の目の前で小さな光を放ち目を閉じた。


「ゼウス、聞こえる?」


『うむ、如何した?』


アフロディーテの全身からゼウスの声が聞こえる。スピーカーになってるんだ…すげ。


「俺達は部屋に戻るよ。」


『私達も帰っている最中だ。

ではまた、部屋の中で。』


必要最低限の会話で終わったからクリムが居ても平気。疑問に思ってる顔をしているクリムに伝えてあげよう。


「実は人探し仲間がまだ居てね。

連絡したの。」


「余程人探ししてらっしゃるのですね。

またクリムにもお手伝いさせて下さい!」


「うむ、また協力を頼む!」


ローランドがそう言うとクリムは笑顔で頷いた。俺らはクリムと一緒に寮へ戻った。

その時だった。左の青色の扉が開いた。

中から出てきたのはスカーレット=アルカンシエル。クリムの兄。


「あ、クリム!!」


「兄様!!」


クリムに駆け寄り抱き締めると俺達を睨みつけるスカーレット。

あ、めんどくさくなりそう。


「アンタ達!

アタシの妹に何してんのよ!!」


 ほら見ろ。


「ち、違うぞ!?

疚しいことなど一切ない!!」


「そう、ローランドの言う通り誤解だよ

スカーレット。クリムが一緒に来たいって言ったから人探しの協力をしてもらってたんだよ。ね、クリム?」


「は、はい。クリムが我儘言ったのです。

兄様。ヨシュアさん達はクリムのお願いを聞いてくださっただけなのです!」


クリムの援護もあってスカーレットは俺を睨みながらもクリムを離した。


「……疑って悪かったわ。それに、アタシはイデアちゃんを借りた手前何も言えないわ。

 無事で良かったわ、クリム。」


「えへへ。」


仲睦まじい兄妹がそこに居た。

つい、笑みが零れるような…

そんな優しい兄妹が。


いいなぁ…。


「ヨシュア君、羨ましいのかい?」


えっ!?声出てた!?

惚けて聞き返そう。


「え?」


「いや、いいなぁ…って声が聞こえたから。」


 声に出てたかぁ…。認めざるを得ないな。

 俺はゆっくり頷いた。


「…うん、羨ましい。」


「…僕もさ。」


「そうなの?」


「あぁ。」


これ以上聞くのは良くないとお互いに察したのか兄妹の話題を無言で終わらせた。


「あ、ヨシュア!ローランド君!」


エクスの声だ!

振り返るとエクスとメルト、シャルが手を振っていた。エクスは俺に近付いてスカーレットとクリムを見た。


「あれ?イデアちゃんは?」


「あの子ならアタシが可愛くしたわよ。」


「ほぇ?!」


急にスカーレットに話しかけられ肩を震わせるエクス。…面白い。


「もう部屋へ帰らせたわ。」


「あ、貴方は…?あ、僕は」


「エクス=アーシェでしょ?

知ってるわよ。クラス代表くらいね。」


「はわ…。」


言葉を無くすエクス。スカーレットは気にせずエクスの頭の上にいる小さなゼウスとメルトとシャルも観察する。

そして彼はシャルのブーツを指さした。


「アンタのそのニーハイブーツ…」


「あ、コレは家で履いていたものです。」


「アルカディア家のでしょ。」


「はい、シャーロット=アルカディア。

コレがオレの名前です。」


「私はメルト=ガーディア!」


「……ふぅん…アタシはスカーレット=アルカンシエル。じゃ、また明日ね。」


クリムの頭を撫でたあと、

素っ気なく青の扉を開けて入っていった。


「ヨシュアさん、ローランドさん、

ありがとうございました!

お、おやすみなさいです!」


ぺこっと頭を下げて赤の扉から寮に入るクリム。


「私も帰るわ。

イデアちゃん気になるし。」


「うん、おやすみ。」


メルトが開けた赤い扉が閉まったのを確認してから俺達も部屋に戻った。


エクスは部屋に戻って靴を脱ぐや否やベッドに飛び込んだ。


「ぷはぁーっ!ベッド最高!」


「っふふ…。エクスの方どうだった?」


「あ、聞いてよヨシュア!!」


エクスからミカウという購買部の店主のことと話をした事を聞いた。

その中でもカプセルの話が恐ろしい。


「召喚獣が闇に堕ちる…?」


「うん。ミカウさんはそう言ってた。召喚士が廃人になるとも。ゼウスも感じた?」


『…いや、そんな感じがすると思うくらいだった。アイツは視る物の詳細が分かってしまう能力でも持ってるのかもな。

あ、でもスキルロックさえ外せれば余裕よ。』


見栄を張るゼウスを横目にエクスに問いかける。


「そのカプセルは今どこ?」


「それがミカウさんに取られたまま追い出されちゃって。」


『悪用されたらされたの問題だ。

そんな奴には見えなかったがな。』


「そう…。」


「ヨシュアは?」


俺はアビスの事を全て伝えた。レンの事は言わなくてもいいと思って伏せた。


「やっぱ持ち歩かないよなー。」


「俺のミスでアビスに勘づいたと

分からせちゃった。ごめんね。」


「ヨシュアのせいじゃないよ。だって絶対もう気付いてるって思ってるはずだもん。」


『マスターの言う通りだ。プロメテウスのマスターがアビスと話す以前に奴も探っていることに気がついていたのだ。気にするな。

だが他の生徒も含め黒いカプセルと言うと怪しまれる。そこで考えたのだが、あのカプセルの事を堕天アンヘルと呼ばないか?

何処かの国の言葉で天使という意味があるらしいからな、皮肉を込めて。口にしないのが1番なのだが何かあった時の合図になる。』


 堕天アンヘル…カッコつけ感満載だけど悪くないかな。

エクスの目が超輝いてるし。


『さ、マスター達。もう寝るが良い。』


「うん、おやすみ。ゼウス、ヨシュア。」


「おやすみ、ゼウス、エクス。」


『うむ。おやすみ、2人とも。』


ゼウスの優しい声を最後に俺は1日を終わらせた。


 …



「ん…ぅぅうう…」


あれ、俺寝てたのか……チッ……まだ眠みぃ…。あー…でも起きねぇと……寝起き悪いのバレたくねぇ……あーー眠みぃ……起きたくねぇ…あーーー…。



 間。



「おはよー…ヨシュア…

相変わらず早いねぇ。あれ?ジャージ?」


エクスがのそりと起き上がった。


「おはようエクス。呑気にしてないで!

今日初っ端実技だよ!急ご!俺朝ご飯先に食べた!」


「えっ!?嘘!!急ぐ!!」


俺はエクスが洗顔して朝ご飯を食べている間に授業の用意をしていた。


「エクスの授業道具出しとくよー。」


「ふぁひふぁふぉー!」


「あははっ何言ってるか分からな…

あ、お礼か。」


「うう。」


「もーいいから早く食べて。」


「ん!」


こうして食べ終わり、歯を磨いてジャージに着替えたエクスと共に太陽が眩しいグラウンドへ出た。

途中でシャル、ローランドとも合流し、先生が来るまで雑談していた。

その間にメルトとイデアも来た。

…イデアの髪がサラッサラになってる…。


「イデアちゃん髪サラッサラじゃん!

どうしたの?」


とエクスが聞くと


「スーくんがやってくれたのー!」


笑顔で答えたイデア。昨日髪の毛の事言ってたもんな。そう思ったら背後に気配を感じた。


「アタシを呼んだかしら。」


口角を上げたスカーレットが真後ろに立っていた。


「スーくん!」


「あら、イデアちゃんとても可愛いわね。

ちゃんとケアしたのね。」


「メルトちゃんも手伝ってくれたのー!」


「そう。ありがとね、メルトちゃん。

貴女は髪の毛…うん、ちゃんとしてるわね。

偉いわ。」


「えへへ!」


ナチュラルに褒めてる…女子の会話は分かんない。その調子で話しているとスピルカ先生とヨガミ先生が現れた。


「みんなおはよーう!早速出欠とるぞー!

呼ばれたら返事なー!イデアー!」


「はーい!」


出欠?昨日は無かったのに。

忘れてたのかな。


「エクスー!」


「はーい!」


次々と名前が呼ばれていく。


「シャーロットー!」


「はいっ!」


「スカーレットー!」


「はぁい。」


それ以降も呼ばれ続け


「メルトー!」


「はーい!」


「モーブー!」


 沈黙。


 …居ない?生徒達もざわつき始める。


「ぁ?んだよ2日目にして早速居ねぇのか?」


「まぁまぁ落ち着けヨガミ。

…あ、ほら来た。遅いぞモー……ぶ?」


スピルカ先生がモーブに疑問を持った理由。

それは透明感のある黒い炎のようなオーラを纏い、覚束無い足取りで明らかに様子がおかしいから。


…どうしたんだ?

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