第98話『アオハル』

前回のあらすじ


ハデスの召喚士かつスマホもといデバイスを作ったシルヴァレ=ジョーカーさんと話して

会議完全に終了!!病室に戻ったら疲れが

ドッと来てゼウスと喋ってる最中に

寝ちゃったんだ。んで寝返り打ったら

シュヴァルツさんの頭に手が当たったんだ。


 …


えぇ〜…何でシュヴァルツさんが僕のベッドに居るんだ??しかも寝てるし。

アスクレピオスも居ないところを見ると1人で来たのか。


「すぅ…すぅ…」


穏やかな寝息だ。

幼児退行はもう治ったのかな。

…誰かと寝るのって修学旅行以来かも。

いや、1つのベッドに2人で寝るのは無いんだけども。疲れてるだろうしそのままにして

あげよっと。おやすみなさぁい…。



 ……

 …


「す……く…」


何か聞こえるけどめっちゃ眠い…あと5分…


「うわ大変だ!シャルとメルトが見知らぬ男に連れていかれそうだぞ!」


「何だって!!!?」


その言葉に思わず飛び起きた。が、シャル君もメルトちゃんもベッドの上で驚いて目を

丸くしている。だ、騙された…。

それにシュヴァルツさんが居ない。


「おはよ、エクス。」


ベッドの横で微笑む男に視線を合わせる。


「なんだヨシュアかよ…もー…。

えっ!?ヨシュア!?」


目の前に居るのは確かにヨシュアだ。


「皆からまた心配させやがってって言われてさ。1番心配かけたエクスが1番寝坊助だったから最後に謝る。ごめんね。」


「ううん。僕も守れなくてごめんね。

身体に変なとこない?」


「うん。めっちゃ元気。」


「記憶は?」


「昨日の会議の途中までは覚えているんだけど…クロノスに何かされたところから

よく覚えていないんだ。

枕の横に

“君のデバイス。

使い方は友達に教えてもらって”

って書いてあるしよく分かんない。」


ヨシュアは黒に青いラメの線がカッコイイ

デバイスを持っていた。

僕のデバイスは金色の線だから色違いだ。


「もしかすると時間が経てば記憶がハッキリするかもしれない。迷惑かけてごめん。」


「ヨシュアは何も悪くない。謝んないで。」


過去に戻されたヨシュアの記憶が鮮明になる事あるのかな…。


「エクス、俺また何か変な事した?」


僕の顔色を伺うようにヨシュアが

首を傾げた。


「いやいやいや何もしてないよ。

暴れてもないよ。」


ちゃんと本当の事を伝えたつもりだけど

ヨシュアの表情は晴れない。

何か考えている顔だ。


「ど、どうしたの?

ヨシュアに嘘吐いてないよ?」


「あ、うん。大丈夫信じてる。

そうじゃなくてね?俺の身体に何処も異常を感じないのが不思議でさ。

アビスに絶対何かされてるはずなのに。」


「あー…。」


 こういう時何て言えば良いんだろう…。


「今が無事ならいーじゃん。」


ヘラヘラしているレンが横から口を挟んできた。


「今何も無いならそれでいーんだって。

エクス君とゼウスが何とかしてくれるよ。」


「…」


ジト目でレンを見ていたヨシュアは、

やがて溜息を吐いて困ったように笑った。


「…そーなっちゃうかな。」


「ま、任せて!

絶対何とかしてみせるから!」


「ありがと。」


うーむ…まだ表情晴れんか…。

あ、今日はいい事あるじゃん!


「そうだ!ヨシュア、今日一緒に回ろ!」


「え?何かあるの?」


「邪魔するで。」


 タイミング良くシオン先生が入ってきた。


「シオン先生!」


「おはようさん。

全員昨日はご苦労、よう頑張ったな。

約束通り今日は城下町で羽目を外さん程度に遊んどいで。ヴァルハラから金が出たからそれを渡す。朝食を食べ、自由とする。

皆、手を出しい。」


シオン先生は歩いて僕達の手にお札を1枚

置いていく。お札は10,000と書いてある。

…1万?


「太っ腹やなヴァルハラは。君達に1万レアム渡すとは。じゃ、楽しんどいで。

くれぐれも問題を起こさんように。」


先生はあまり話さず退出してしまった。

…1万って凄いな…。


「エクスが言ったのってコレ?」


「うん、城下町で買い物して良いんだって!

 ね、一緒に回ろ!」


「うん!」


ヨシュアは快く頷いてくれた。

そして皆に顔を向けて


「皆はどうする?」


と聞くとメルトちゃんが手を挙げた。


「私は女の子皆と回りたいわ〜!それと

スカーレット君にオシャレ学びたいです!」


「あら、アタシ?クリムと離れる気なんて

毛頭無かったから勿論良いわよ。」


スカーレット君だけでなくリリアンさん、

クリムさん、イデアちゃんも笑顔で頷いた。

そしてレンは


「ねぇねぇシャーロット君。城下町で何人に夫婦と間違えられるかゲームしてみない?」


「え?」


と阿呆な事をぬかす。シャル君も目を丸くさせる。そんな顔になるよそりゃ…。

今度はローランド君が手を挙げる。


「ちょおっと待った!

我が麗しき同胞にそのような事させない!

僕がシャルの車椅子を押すのだからね!」


「えー?じゃあ3人で回ろー?」


「……うむ。良いだろう!」


「(オレの意見は…?

別に異論ありませんが…。)」


シャル君の表情に疑問を持ちつつ、

看護婦さんのメディカルチェックを受け、

僕達は朝食を食べて出かける準備をする。


実はメディカルチェックの時に看護婦さん

から服を貰ったんだ。不思議とサイズは

ピッタリで皆バラバラの服で似合っていた。

それを着て外へ出る。外は広場のようになっていて白いコンクリートに埋め込まれた

大理石のタイルを踏みしめる。老若男女

問わない沢山の人の往来で目が回りそう。


「わぁ…!」


昨日は夜だったし緊張しすぎて周りが見えてなかったけど解放されてる時に見るとすっっごい!人で溢れてる!!それに久し振りに

太陽を全身で浴びたーっ!!

腕を上に振り上げ全身を伸ばしていると

ヨシュアが笑った。


「っはは!エクスまだ外に出ただけだよ?」


「だって太陽久し振りじゃん!」


「じゃ、アタシ達はお先に〜。

行くわよ皆。」


スカーレット君は違和感のないハーレム状態で女の子達と街に消えた。

…あ、彼は背が高くて消えてないや。

真っ赤っかの頭見える。


「じゃあエクス君また後でね〜!」


レンも僕達に手を振り、シャル君の車椅子を押すローランド君と共に背中を向けて歩いていった。


「僕達も行こ!」


「うん、行こう!」


 僕もヨシュアと一緒に街を歩き始めた。


「何処行く?」


と聞かれてから目的が無いことに気付く僕。


「………ヨシュアは行きたいとこある?」


「目的無かったね?ま、俺も無い!気になるところがあったら行くスタンスで行こう!」


「おー!!」


僕達が最初に寄ったお店はキッチンカー。

何とホットサンドが売ってたんだ!!


「やっぱ友達と食べ歩きが良いよねー!!」


憧れた友達との食べ歩きが出来る…っ!

するとヨシュアがホットサンドを見つめて


「食べ歩き…?これ座って食べないの?」


 と僕に言った。


「エッ?」


「ご、ごめん…

実はこういうの初めてなんだ。」


そういうヨシュアの綺麗な顔を見て僕は

じわじわと思い出すことが。


「……あっ!

ヨシュアってお貴族様だったよね…。

これは僕が完全に悪い!!

ごめん!!やっぱ座って…」


「え?俺は引いてるわけじゃないよ。

そういうものなのか聞きたくて。

食べながら歩いて良いんだね!

じゃあそうしよう!いただきまーす!」


僕の目の前で美味しそうにホットサンドを

頬張るヨシュア。

チーズが伸びて美味しそう…。

食べ方上品だなーと思って見ていると、彼はよく噛んで飲み込んでから僕に話しかける。


「エクスは食べないの?」


「た、食べるよ!いただきます!」


「これ、歩きながら食べるんだよね?歩こ!こういうこともっと俺に教えてよ!」


僕の前世は友達なんて居ない人生真っ暗だったから教えられるか分からないけど…今は

違う。密かに憧れた事を友達と出来るんだ!


「期待すんなよー!」


「善処するー!」


僕らは笑いあって駆け出した。

これぞ青春だーっ!!


「ん、待ってエクス。」


途端にヨシュアが止まる。


「どうしたの?」


「あの店の男の人…」


彼は険しい顔である一点をじぃっと見つめてから僕に笑顔を向けた。


「ごめん!気のせいだった!次どこ行く?」


「…そう?じゃあまた何か食べよ!」


「おっけー!食っべ歩きー♪」


ヨシュアの視線。あれは一体何を思ったんだろう。しかし僕は今のヨシュアの笑顔を

曇らせたくなくて胸の内に留めておいた。




「あはァ!

彼、もう元気になっちゃったのかァ…。

それでこそゼウス様だねぇ…。

もう一度、種を作って蒔かなきゃなァ♪

でもちょっとだけ近づこうかな。

あ、いらっしゃいませぇ!」

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