第136話『悪夢と罪と。』

前回のあらすじ


学校に戻ってきた僕はヨガミ先生と

シオン先生から事情聴取されています。


んで僕はシオン先生の召喚獣である玉藻前が居るにも関わらず口を滑らせ、怒らせてしまったようです。


ランクSSSを怒らせたってやばくないか…?


それに話させるの早くないヨガミ先生!?

話せる時があれば話せ。

聞いてやるくらいなら出来る。

とか言ってたのに!!


それに1話空いた気がするんですけど気のせいですかね?


『ゼウスはんのマスター…

それ、ほんまか?』


玉藻前が怒ってる!!

やばいけど嘘じゃないもん!!


「アノ…ホ、ホントデス…スミマセン…」


気迫に負けて謝ってしまった。

僕何も悪くないよね…??


「何でアーシェが謝っとるん。」


シオン先生にも言われた。

ですよね。


「ほんで新月、生徒を虐めたらアカンで。」


『えっ虐めとらんけど!』


嘘吐け!!


「…怒る理由なぞ無いでしょう。

私が狙われるなら寧ろ好都合です。」


好都合?


『はぁ?危険やろ!』


「この私に負ける可能性があると?」


シオン先生の鋭い眼光を向けられた玉藻前は言葉を詰まらせた。


『っ…それは…』


「ただ、狙われる場所にもよりますがね。」


「だな。俺達教師だけならまだしも、

生徒達を人質にでもされたらおしまいだ。」


た、確かにヨガミ先生の言う通りだ…。


「…ふむ、対策を練らなアカンな。」


「だな。まず相手がどのように来るか…」


するとバイブ音が辺りに響き渡った。

シオン先生がすっと手を挙げた。


「私です、失礼。」


外に出ずに電話始めちゃった。

良いのかな?と思ってヨガミ先生を見ると

先生も僕を見ていた。


「えぇ…はい…カラス?」


カラス?


「貴方の勘は当たるものですからね。

はい、また後ほど連絡します。」


そう言って先生は電話を切った。


「誰からだったんだ?」


僕らに聞かれても良いと思って外に出なかったであろうシオン先生にヨガミ先生は尋ねた。


「ジルですよ。」


「ジル先輩か。」


ジル先輩?

僕が首を傾げるとシオン先生は説明を始めた。


「ジル=ギルベート、私の旧友です。

此処に入学する前からのね。」


シオン先生に友達居たんだ…。


「何やその失礼な事考えていそうな顔は。」


当然睨まれた。


「考えてないですっ!」


「入学したらクラスは別になってしまいましたが、私の見た目を全く気にせず殆どの時間を一緒に過ごしていたくらいです。」


「へぇ…てことはジルさんは神クラスか天使クラスだったんですね。」


「せや、ジルはポセイドンを召喚し神クラスになった。」


「ポセイドン…」


確かゼウスの兄だよな。

え、めっちゃ強いじゃん。

デバイス持ってるってことは少なくとも

シルヴァレさんと関わりがあるってことか。


「君達の代からクラス別に部屋割りされるようになったんよ。私達の代はクラス混合で、ジルとは同室でした。」


「へぇ…」


「んで、ジル先輩なんて?」


ヨガミ先生が会話に参加した。

僕も気になる。


「ジルの所の魔法学校でカラスの大群を見たそうです。嫌な感じがしたから気を付けてとのことで。」


カラスの大群?

それってもしかしてあの時と一緒の…


「どしたエクス。」


「あの、ヨガミ先生シオン先生。

僕、昨日似たようなもの見てます。」


「「!」」


「僕以外にもヨシュア、シャル君、ローランド君、ミカウさん、複数人の生徒が目撃しています。」


「何か分かったことはあるか?」


「強いて言うなら胸騒ぎがしました。

見ちゃいけないものというか…

ヨシュアも様子がおかしくなっちゃったし。」


ヨガミ先生とシオン先生は顔を見合わせ、

少しの沈黙が続いた。

最初に口を開いたのはヨガミ先生。


「分かった。次はヨシュアに話を聞くから

此処へ来るよう伝えてくれ。」


「はい、分かりました。」


「アーシェ。」


立ち上がるとシオン先生に呼び止められた。


「?」


「改めて今日はよう頑張った。

お利口さんでした。」


たったその言葉だけで僕の瞳は潤んだ。


「…はいっ」


また泣いていると思われたくなくて、急いで靴を履いて襖を開けた。


「っ!」


1歩出たその時、和の館から見慣れた学校の

廊下に出た。真後ろには購買部の入口があった。購買部から出てきたようになってる?

どうなっているんだ?

ミカウさんの力?


取り敢えず寮に戻ってヨシュアに声をかけないと。寝てるかな。



「ただいまぁ。」


「おかえり、エクス。」


ヨシュアは起きていて、制服から普段着に

変わっていた。


「寝れた?」


「ううん。」


「そっか。あのね、購買部でヨガミ先生と

シオン先生が話聞きたいって言ってたから

行ってきて?」


「俺もなんだ。分かった、行ってくる。

エクスこそ寝れるなら寝ちゃってね。」


「うん!いってらっしゃい。」


「いってきます。」


ガチャンと音がしてヨシュアが外に出たのが分かった。そして僕はベッドに背中から倒れ込んだ。


あ、先生達にヨシュアが森でもおかしくなったって言ってない。伝えておかないと。


「アイオーン。」


『はい、お呼びですか。』


「ヨガミ先生とシオン先生にこっそりメッセージ送りたいんだけど。」


『畏まりました。

ご要件を此方へ入力して下さい。』


彼は画面下から入力用のキーボードを引っ張り上げた。えーと…


“森でもヨシュアがおかしくなってしまいました。前とは違う感じだったので話を聞けるなら聞いて下さいませんか”

っと。


「書けたよ。」


『…承認。ヨガミ=デイブレイク様、

シオン=ツキバミ様へお送り致します。』


彼が指を鳴らすと僕の打った文章が消えた。


『これでバイブレーションを起動させずに

メッセージを送れました。』


「そっか、ありがとう。

気付けばいいんだけど。」


『エクス様。』


「ん?」


『いつもよりも声音が低めに感じます。』


「えっ」


アイオーンって僕の声の高さとか記録してるわけ!?


『今はどのような感情なのですか?』


どのような…?

何て言ったら良いんだろ…。


「うーん…少し疲れたのかな?」


『疲れ、ですか。アップデート中…』


あっぷでーと!?


『ご主人様既存データにより、悲しみの感情の声音データに疲労を足しました。

リラクゼーション効果を推奨致します。』


と、アイオーンがホワイトボードを画面外から転がしてきた。

それに文字が勝手に書かれていく。

その中に睡眠があった。

睡眠か…。


「ありがとうアイオーン。試してみるよ。」


『…』


アイオーンは数秒僕の顔を見ていた。

そしてゆっくり頷く。


『お力になれれば幸いです。

ではまた、いつでもお呼びください。』


「うん、ありがとう。」


そして電源を切り、デバイスを持った手を下ろす。


「はぁ…」


何だろう、脱力感がやばい。

何もしたくない。けれど眠くもない。

身体がまだ緊張しているのが分かる。

…お風呂入らないと。でも身体が疲れて動かなくなってきた。後で寝て起きたら入ろう…



「お兄ちゃん。」


「っ!?」


この声は赤ずきんちゃん!?

気がつくと目の前に赤ずきんちゃんが居た。

何で…


「私、死んじゃった。」


「え…?」


「死にたくなかった。」


「…」


「お兄ちゃんのせいで死んじゃった。」


「ッ!!」



「お前が死ねばよかったのにッ!!」



「エクスッ!!!」


「ッ!!?」


名前を呼ばれて勢いよく起き上がった。


「はぁっ…はぁっ…!!」


息が苦しい…!


「エクス、大丈夫!?

水持ってくるから待ってて!」


起こしてくれたのはヨシュアだった。

あれは…夢?

額に嫌な汗をかいている。


「はい、これ。ゆっくり息して飲んで。」


差し出されたコップを受け取り、呼吸を整える。


「ごめんね、コップは歯磨き用のやつしか無くて…」


首を振って返事をして水を飲む。

その間、ヨシュアは背中を摩ってくれていた。


「大丈夫?随分魘されてたみたいだから起こしちゃった。」


「ありがとう、助かったよ…。」


「嫌な夢?」


「うん…」


「……そっか。」


ヨシュアは僕が話したがらないのを察してくれたようで深くは聞いてこなかった。


「ご飯、食べれそう?」


「正直、何も食べたくないかな…。」


「そう…じゃあ俺、食堂で栄養ドリンクとか見てくるから休んでて。」


「ごめん…」


「何で謝るのさ。じゃ、いってきます。」


優しく笑ってヨシュアは外へ出た。

すると夢を思い出して途端に恐怖が全身を巡って襲ってくる。

赤ずきんちゃんが僕を恨んでいる…

1人が怖い!


「ゼウス、ごめん出てきて!【summon】」


『私を呼んっ……マスター?』


「ぜうす…!」


今にも泣きそうな僕を見て察してくれたらしく、優しく僕を包んでくれる。


「ぼく、なかないって…

言ったばかりなのに…!」


『泣くなと他人に言われたのか?』


僕は首を横に振った。


『苦しいのなら泣けば良いではないか。』


「でも…」


『そんなプライドなぞ捨ててしまえ。

そんな妄言など無くしてしまえ。』


「あかずきんちゃんが…」


『あの童か。マスターの命の恩人だな。』


「僕のせいで死んじゃった。

僕が死ねばよかったんだって…!」


『例え夢であろうがもう一度その台詞を吐いてみろマスター。私は許さんぞ。』


「…ごめんなさい。」


『うむ、その台詞は童の侮辱にもなると受け止めよ。』


「…」


『咄嗟に庇う行為はおいそれと誰でも出来る訳が無い。守りたい、守らねばと思う心が動力となる。マスターを見ていた童にはそれがあった。だからエクスを守ってくれたのだ。実に見事だった。』


「僕が殺したも同然じゃないか…」


『マスターがそう思うのなら私にはどうすることも出来ぬ。それを事実とするなら重く

受け止め、罪として一生背負え。』


「罪…」


『それから背くな。

自分を苛む暇があるなら童に償え。

それに。』


ゼウスは僕に回した手に力を込めた。


『動けなかった私も同罪だ。

マスター1人で抱えるものでは断じてない。

一緒にこの身を賭して償おうではないか。』


「…」


ゼウスの声が優しくて、心に染み渡るという言葉の意味を実感している。

どうすれば償いになるんだろう。

今の僕に、僕達に出来る事は…

今を精一杯生きることと、

魔女の夜ヴァルプルギス・ナハトを倒す為に頑張ること、かな。


「うん…だから絶対一緒に居てね。」


『その言葉、そのまま返すぞ。』


「うん。」



「うにゃあ…頑張れエクス君。

つっても悪夢見せたのボクだけどにゃ!

好きな夢が見れるマシン作ったつもりだったのににゃあ。バレる前に退散ちゃお。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る