第137話『謎の男、来訪』

前回のあらすじ


赤ずきんちゃんが僕を恨んでいるという悪夢を見ました。勝手に悪夢って決めつけちゃってるけど…本心だったらって思うととても

怖い。でも身を呈して護ってくれたのに

泣き続けるのはダメだよね。


ウジウジしててごめんね赤ずきんちゃん。


僕は守ってもらったこの命で出来ることを

するから…見ててね。



謎の機械を片手に学校から足早に去ろうと

する紙袋マン、シルヴァレ=ジョーカー。


「うにゃにゃ〜退散退さぐえっ!?」


そんなシルヴァレの首根っこは何者かに

掴まれ持ち上げられる。


『…』


掴んだのはシルヴァレの召喚獣、

冥府の王ハデス。

彼は空いてる右手で仮面を取って召喚士を

睨みつける。


「は、はでしゅ…こ、怖い顔だにゃあ〜…」


『…何をしていたのです?』


ハデスの目線はシルヴァレの機材に向いた。


「にゃ、にゃにもしてにゃいよ!

整備してただけにゃん!」


『主のへっどほん?から聴こえるのは

生徒の声ですが。』


「えっ嘘、音漏れ!?」


シルヴァレの紙袋の中身はアイオーンと

同じような猫耳のヘッドホンをしている。

ハデスはそれを分かっていて目を細めた。


『やはり聞こえていたのですか。

さては盗聴ですね。』


「あっ騙したにゃー!!

詐欺にゃー!犯罪だよぉー!」


『勝手に学校内を盗聴しているのと、

それを判明させる為の嘘。

はて、犯罪はどちらでしょう?』


「ぐぬぬぬぬ…っ!」


『謝りなさい。』


「誰に!」


逆ギレするシルヴァレを掴んだまま180度

回り、彼らの視界に入ったのは…


「シルヴァレ=ジョーカー殿。

ヴァルハラが何を企んでいるかは知らんが

生徒のプライバシーを侵害する行為は

やめて頂こうか。」


「げ…ヒメリア=ルージュたん…。それに…」


シルヴァレはヒメリアの両サイドに居る2人に目を向ける。

1人はシスター姿でニコニコ笑顔の女性。


「あらあら〜?

誰も見ていないと思ったのかしらねぇ〜?

あれから監視を強化しているのはご存知ですわよねぇ〜?」


「リーレイ=テレサリアたん…」


もう1人はツギハギな猫のぬいぐるみを装備した目隠れのドレス姿な女性。


「やーい怒られてやんノー!」


「オペラ=ベルカント…」


「何でわた…っ

コイツだけ呼び捨てなんだヨ!!」


「だってオペラはオペラだにゃん。」


「えぇー…?」


『ほら主、謝ろ。』


「みんにゃを守るためにゃのに…」


『でも盗聴は良くないです。謝ろう?ね?』


「にゃんでボクが…」


『謝れ。』


「誠に申し訳ございませんでした。」


ハデスに脅され謝るシルヴァレ。

謝った事によりゆっくり地面に降ろされた

シルヴァレは誰に言われた訳でもなく

綺麗な土下座を披露した。


『主が本当にすみませんでした。』


ハデスも頭を下げた。


「よく出来た召喚獣に救われたな、

シルヴァレ殿。」


「へぇ、返す言葉もごぜぇません。」


「口調変だゾ?」


「オペラにだけは言われたくにゃい。」


「にゃんだと!?」


「あらあら〜。喧嘩はダメよぉ?」


「だってぇ………!?」


シルヴァレが途端に紙袋の上からヘッドホンであろう場所に手を置いた。


「機械が破壊されていく!?

普通の人じゃまず気づかない場所を計算して設置したのに!誰!?」


『!…この気配…ここからでも分かります。

あのお方ですね。』


「あのお方ぁ?一体誰にゃ…」


コツコツ


「うげぇっ嫌な予感!!」


足音がシルヴァレの後ろから鳴り響く。


「あれ、結構居るんだ。

こんにち…あれ、こんばんはかな。

ま、どっちでもいっか。」


声の主の方に振り向けないシルヴァレを

他所にリーレイが微笑む。


「あら〜!ジル君〜!」


「じる=ぎるべーとたん…にゃあ…。」


ジル=ギルベート。

シオンの電話相手だ。

彼は白いラインの入った黒く丈の長い軍服のような服を着ており、袖の部分がシオンの

着物のように広がっている。

腰のベルトには黒い鞘に仕舞われた刀が1本。

結ばれた青い髪には黒いメッシュが入っている。


「リーレイちゃん、それにヒメリアちゃんに

オペラちゃん。どうもお邪魔致します。」


「ギルベート殿、急に来校されるとは如何なさった?」


質問したヒメリアに視線を移すジルは腕を組んだ。


「実は野暮用でしーくんに会いに来たのですが魔力が感知出来なくて困ってたんです。」


「しーくんって…

あぁ、シオン=ツキバミたんね。

ってさっき電話してたっしょ?

つか何で他校のジルたんがもう此処に居んの?」


「おや、何で知ってるのかな?」


「……ボクだから☆」


「ははは。まだ何処かに盗聴器あったね。」


「…。」


実際アイオーンを通して盗聴してた事実の

誤魔化しも効かずシルヴァレは口をキュッと結んだ。

ジルは気にせず話を戻していく。


「で、しーくんよりも大きな魔力反応が2つ

あるのが気になって。

多分片方召喚獣だと思うんですけど。」


「…」


ジル以外の全員はすぐにエクスとゼウスだろうと勘づいた。


「今年の此処の子供達は面白そうだ。

…ん?」


『!』


ジルが疑問に思った理由を直ちに理解した

ハデスは彼を見る。


「……随分変な感じの子が1人居ますね。」


『主、指示を。』


「にゃ?」


『おそらく

ヨシュア=アイスレインが殺されます。』


「守れハデス!」


『御意。』


シルヴァレが指示を出したのと同時にジルはこの場から音も無く姿を消した。


「購買部って何処にゃん!!

早く連れてって!」


何がなんだか分からない3人はシルヴァレの

気迫に驚きながらも購買部へ走って向かった。


一方その頃、

ヨシュアはミカウが創った部屋でヨガミとシオンと話していた。

ヨガミはヨシュアに問いかける。


「来ていきなり踵を返すもんだから驚いたぞ。で?野暮用終わったか?」


「はい、でもエクスの気分が優れないので

手短にお願いします。」


「!分かった。

じゃあお前が知り得る情報を聞かせてくれ。」


「はい。」



「えーとつまり…

生命の核?が移動して地中へ行って破壊されなければ不死身の完成、ねぇ。」


ヨシュアはヨガミとシオンに話をしていた。


「森の主だけ地中で、周りの魔物達の核は

空中に漂っていました。」


「それが堕天の力の作用ですか。

また物が変わったん?

人間をホムンクルスにしたり召喚獣を闇に

堕とす道具だったはずですが。」


「用途を複数用意した線が妥当だろう。

ホムンクルス用、召喚獣用、魔物用。

3つの分類が出来る訳だ。」


「魔獣殺しのあの時には組織で既にある程度完成していた可能性があるわけやな。」


「そういうこった。

ベヒモスとかは本来エンカウント率低いからな。それの為だけにアビスは此処へ来たかもしれねぇ。」


教師2人の会話を聞いていたヨシュアは

立ち上がる。


「俺が力になれるのはここまでだと思いますので失礼しますね。」


「あ、おいヨシュ」


『ちょい待ちや!今出たらアカン!!』


「え?」


襖を開けたヨシュアだったが、

玉藻前の言葉で足を止める。


その瞬間


激しくぶつかり合う金属音が響き渡った。


「っ!?な、何…?」


立ち止まるヨシュアの目の前には黒いコートを身に纏った銀髪の男性が鎌を持っていた。

ヨシュアはその後ろ姿に見覚えがあった。


「は、ハデス!」


ハデスと聞き、

ヨガミとシオンも駆け寄った。


『…っ刀を…収めて下さい…!』


「刀?」


ハデスの言葉に疑問を思ったシオンは

ハデスの後ろから顔を覗かせた。


「あっ!?」


シオンは視界に入った人物に驚き声を上げた。


「ん?あ、しーくん!」


ハデスに刀をぶつけていたのは紛れもなく

ジル=ギルベートだった。

彼はにこやかに黒い刀を仕舞う。


『…』


ハデスのジト目を無視したジルは話をその場で始める。


「しーくんさっきぶり!」


「しーくん…?」


ヨシュアの疑問の視線に気付いたシオンは

溜息を吐いてから


「彼はジル=ギルベート。

別の召喚士育成機関の教師であり私の旧友です。」


と紹介した。


「はーい、ジル先生でーす。」


「ヨシュア=アイスレインです。

あの、何故ハデスに刀を振るったんですか?」


「変な魔力を察知したからだよ。

そしたらハデスが庇ったから鍔迫り合いに

なっちゃった。」


「…それってつまり俺を狙ったって事ですよね?」


「うん!」


満面の笑みで答えるジルにシオンは溜息を

返す。


「ジル…彼は此処の生徒です。

貴方が勝手に手出しして良い訳では無い。」


「ジル先輩、コイツ俺の生徒なんです。

皆コイツの事は知っていますのでどうか待ってください。」


ヨガミの言葉にジルは首に手を添えた。


「ヨガミ君までそういうなら仕方ないかな。ごめんねヨシュア君!」


「はぁ…。」


ジルを信用出来ないヨシュアは無意識に

ハデスの近くへ。

シオンは呆れ顔でジルを見やる。


「で、ジル。

猫かぶり解いて話しましょうや。」


「やだなぁ、そんな事してないですって。

君達の生徒が居るのに。」


「居るからやろが。」


「えぇ?…まぁいいや、あのさしーくん。

さっき嫌な予感がするって言ったじゃん?」


「えぇ、言ってましたね。」


「あれ割と本気でやばい気がするの。

でもヨシュア君と似た感じがする。」


その言葉にヨガミとシオンは

僅かに息を詰まらせ目を大きくした。

ジルはそれを見逃さない。


「あはは、やっぱり?

ねぇヨシュア君。キミ、何隠してるの?」


「アイスレインは何も隠しとらん。」


「それはしーくんが言うことじゃない。

ほら、答えてヨシュア君。

しーくん達にも隠している事、あるよね?」


ジルは左足を後ろに引き、腰を落として構えた。右手は何時でも抜刀出来ると言わんばかりに柄の近くに添えてある。


「俺は…」


ヨシュアの言葉をある程度予測しているのか、左の親指で刀の鍔をゆっくり、

少しだけ上げた。

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