第138話『ジルは勝手』

前回のあらすじ


最近僕出てない回増えてません?



「隠し事はよくないんじゃないかな?」


ジルに問われ、ヨシュアは重たい口を開く。


「俺は…」


『そこまでです。』


ジルの横でハデスが鎌を動かした。


『貴方が彼を殺そうとするなら私は貴方を

その前に殺す。貴方の抜刀よりも私の鎌が先に首を撥ねる。』


「…」


ハデスに睨まれているジルは少し驚くだけで怯えることもしなかった。

が、構えるのをやめて両手を上げた。


「あはは、やっぱキミ怖いなぁ。

分かった、彼からは詮索しないよ。」


『…』


ハデスも訝しげにジルを見つめた後、

大丈夫だと判断したのか鎌を下ろした。


「残念だなぁ。折角聞けると思ったのに。

じゃああの子に聞いちゃおうかな。」


「ジル、何するつもりや。」


「ヨシュア君が口を割らないなら、

魔力が1番多い子に聞きに行くのさ。」


「魔力が1番多い…」


「(エクス…!)」


全員がエクスを意識した時、

ジルはニヤリと微笑んだ。


「おや、聞かれたくないって顔だね。

君が答えてくれれば聞きに行かないけど。」


「ぐ…」


「ジル先輩、ジル先輩の言ってる奴は学生ながらもヴァルハラの任務に同行して疲れてるんです。だから…」


「話を聞くチャンスだね!」


「「「っ!?」」」


ヨガミの言うことを全く聞かないジルは

刀の柄に手を置いた。


「ヨシュア君が答えてくれないから

そっちに行くよ。

話聞いたら戻ってくるから、またね。」


本当にその場から居なくなったジル。

ヨシュアは血相を変えて飛び出した。


「エクスッ!!」


それを見たヨガミはデバイスを取り出し、

画面を操作しながらシオンに文句を言う。


「チッ!

ホントにアンタの旧友なんだよなあの人!」


「昔からあんなんですよアイツ!

せや、単独行動しとったハデスはどうするん?」


『今一度主に指示を仰がねばなりません。

私1人じゃ動けません。』


「く…っ」


シオンが顔を顰めた瞬間、シルヴァレ達が辿り着いた。


「はぁ…っ…はぁ…っ…」


『主!』


「ふだっ…普段運動しにゃいから…

ちょ、ま、マジで待って…っ」


「シオン、何があった?」


シルヴァレの回復を待っている間、

ヒメリアがシオンに状況説明を求めた。


「ジルが言うことを聞きません。

アイツ、アーシェに何するか…」


「くっそ!何回か掛けてんのに出ねぇ!!」


「まずい状況か。なら先に動くべきだ。」


「せやな。」


「はでしゅ…行ってきてにゃん…」


『は。』


「ジル、どないしはったん…?

いつもと何かがちゃう…。」


全員が和室から出ていく際、昔からあんなだと言っていたシオンが誰にも聞かれないようにこっそりと言葉を零していた。



エクスはゼウスの腕の中で眠っていた。

するとベッドの上に置かれたデバイスが

光り、震える。


『エクス様、

ヨガミ=デイブレイク様から着信です。』


ゼウスはエクスを起こすまいと小声で

呼びかける。


『む…そこの絡繰よ。』


『エクス様、

ヨガミ=デイブレイク様から着信です。』


『む、私を無視か。良い度胸よな絡繰よ。

我がマスターは寝ておるが故に答えられぬ。』


『エクス様、

ヨガミ=デイブレイク様から着信です。』


全て無視されたゼウスは腹を立て大声で

怒鳴る。


『うがーっ!!

エクスは寝とるが故に出れぬと先程から

言っておろうが!!』


『声紋、ダウンロード…

データ参照中……アップロード完了。

名前:ゼウス

分類:エクス様の召喚獣

で、よろしいですか?』


急に話しかけられたゼウスは驚き、

怒りを忘れ普通に対応する。


『む…?

絡繰の分際で私を呼び捨てとは良い度胸だ。口の利き方以外は間違いないぞ。』


『私はアイオーン。

エクス様のサポートAIです。』


『そういえばマスターは時折絡繰と話していたな。会話相手はお主か。』


『アイオーンと仰っていたのならばそうです。』


『ほーん…で、だ。

エクスは疲れて眠っておる。

起きるまで暫く鳴らすな。』


『ご主人様とエクス様以外の命令は受け付けません。』


『なんだと!?

私最高神ぞ!!ゼウス様ぞ!?』


「ん…ぜうす…?」


2度の大声でエクスは目覚めた。


『む、すまぬマスター。

つい声を出してしまった。』


「ううん…だいじょーぶ…。」


寝惚けているエクスの背中を優しく摩る

ゼウスの耳に、外からの音が入る。


『…?何やら外が騒がしいな。』


「え…?」


『マスターは此処に居ろ。』


ゼウスはエクスから離れ、玄関先まで

浮いて耳を澄ませた。


「アンタ誰よ。

この部屋の子に用があるならアタシ達が

先客よ。」


『(イーリスのマスターの声だな。)』


「えぇ〜?

俺、一応他校の先生なんだけどなぁ。」


『(会話相手は他校の教師か…

ふむ、どうりで聞き覚えの無いはずだ。)』


「た、他校の先生が一体何の用事なのですか?」


『(アルテミスのマスター…)』


「大人の事情さ。

君達が知ることじゃない。」


「大人の事情…?

なら何故貴殿が直接訪れるのだ?

普通はスピルカ先生やヨガミ先生だろう。」


『(アフロディーテのマスター…

扉前に居るのはこの4人か。)』


「許可は貰ったよ?挨拶がてら、ね。」


「「…」」


「アンタ、どうもきな臭いわ。

決めた、絶対退かない。

あの子には会わせない。」


「えぇー!?そりゃ無いよぉ!」


「オレ達だってすぐに会いたいですが…」


「ここで貴殿と会わせるなら僕達も会わない方が良い。僕らの本能がそう言っている。」


『…(何と、マスターは愛されているな。

だが、今の目の前の相手はお主たちだけで

どうこうなる相手ではないぞ。)』


「はぁあ…聞き分けの悪りぃ子達ばかりだな此処も。時間無いし退かないならさ、扉ごと君達を斬っちゃうよ?」


「っ…」


『(なんと凄まじい威圧…顔も見ておらぬのに気配だけでここまでとは、まるでポセイドン兄様のような…ん?もしや?

だがまずは止めるしかあるまいな。)』


「教師が生徒を殺すの?頭イかれてるわ。」


「お褒めいただき光栄です♡

じゃあ…3人仲良く死のっか!」


『控えよ。』


ゼウスは瞬間移動を使いジルの目の前へ。

その場の誰もが跪き、頭を垂れるほどの威圧をかけながら着地した。


「ッ!」


『我がマスターの安眠を脅かすのは貴様か

下衆が。実に不敬、万死に値する。』


スカーレット、シャーロット、ローランドは

ゼウスの威圧に潰され、その場で膝を付く。

周りに居た生徒達も腰を抜かし、壁に背中を付けて震えていた。


ただ、ジル=ギルベート1人だけは冷や汗を

かきながらも膝を曲げた状態で耐えている。


『ほう?貴様は屈さぬか。良い良い。

それは僥倖だ。マスターに仇なす者は

苦しませねば気が済まぬ。』


「っは…まさかの最高神ゼウス様の召喚士君だったのか!そりゃ魔力量おかしいわな!」


『貴様も我らの近くに居る部類…

貴様の強さの源はポセイドン兄様だろう?』


ジルは刀の柄を震える右手で握った。


「…驚いた。

魔導書も杖も出していないのにバレるなんて。兄弟の絆は凄いですねぇ…。」


『我は非常に寛大だ。誠に偉大である。

故に、マスターへの要件を聞こう。』


「……ヨシュア=アイスレインが隠している

秘密について。」


『ほう?その様子を見るに本人に隠されたようだ。はははっざまぁないな!』


「…」


『1つ問おう。我がマスターの友人の秘密…

我等が答えると思うか?』


「……」


ジルは口を噤んだまま、刀から手を離した。


『それで良い。

いくら兄様の召喚士とて二度は無いぞ。』


「わぁったよ…。もう、怖いなぁ…」


ジルが両手を上げたその時、


「エクスに手を出すなッ!!」


ヨシュアがかなりの速度で手に黒い光を

纏わせながらジルに殴りかかった。


「うぉっと!?」


『プロメテウスのマスターか!?

(速過ぎないか!?)』


ジルは避け、避けられたヨシュアは舌打ちをする。


「俺になら刀向けても、実際切ってもいい!だけどエクスや皆を傷付けるのは絶対に

許さない…!」


ジルの視線がヨシュアの黒い光へ。


「そのキラキラの手…それが正体だね。

態々見せに来てくれてありがとうねぇ。」


「…ゼウス、この人エクスから俺の事を聞こうとしているんだ。絶対に手荒な事する。」


『もうしておる。だが安心するが良い。

誰も話しておらんよ。

(自ら晒したお主以外は。)』


「そう。」


「…ヨシュア君。

君のそれって自分で操ってるの?」


「答える義理はない。」


「あらら、随分と嫌われちゃった。

ジル先生それ見てるとゾワゾワするんだよね。同じようなもの君も見なかったかい?

あの禍々しいカラスの大群を。」


「…」


ヨシュアは黒い光を収め、ジルを睨む。


「まさかの黙秘か。

別に隠すことなんてないだろうに。」


「まだ此処に居るつもりですか。」


「だって話聞けてないからね。」


「…貴方が聞いて何になる?」


「あれ?言ってなかったっけ。

俺、国家最高機関所属でもあるんだよ。」


『まさか貴様…ヴァルハラか?』


「うん!シルヴァレの召喚獣ハデスが君を庇った所を見るに皆が君の事を黙秘してるんだよね。でも…その手を見ればどう思うかな。」


「…この手の事は既に話してある。」


「それはどうかな。

ユリウス君やニフラムさんが黙っているとは思えないよ。話してないでしょ、それ。

ヨシュア君、君さ…


本来此処に居ちゃいけない存在だよ?」


「…!」


ジルの一言が突き刺さったヨシュアは

目を見開いて固まった。


「多分しーくん達教師がヴァルハラを

言いくるめたんだろうけど…

君、恩を仇で返すのかい?」


「それは…」


「【魔刃抜刀まじんばっとう十七番歌じゅうしちばんか】」


「ッ!?」


何かに反応したいきなりジルが抜刀した。

刀は引き抜かれるのと同時に現れたシオンの攻撃を受け続ける。


「ちょ、ちょっとしーくん!?

学校だよここ!」


ピタリと攻撃が止まり、

シオンが体勢を戻す。


「ジル…昔のよしみで見逃してましたが

次はあらへんよ。勝手すぎるで自分。」


「…」


「ヨシュア=アイスレインの事は逐一報告しとる。それにジルは元ヴァルハラやろ。

既に関係無いんとちゃうか。」


「……今野放しにしたら後悔するよ?」


「せぇへん。」


「ジル先輩は心配性なんスよ。

ゼウリスの教師を信用してない。」


ヨガミもハデス、シルヴァレと共にやって来た。そしてエクスもヨシュアの隣に並んだ。


「僕達生徒も信用してもらえていないみたいですね。」


『マスター!』


「ゼウス、ありがとうね。」


『うむっ』


エクスはジルを睨むような眼差しで見据えた。


「ヨシュアは僕らの大切な友達です。

友達を守るのは当たり前です。」


「友達に殺されるかもしれないんだよ?」


「絶対に殺されないし殺させない。

ヴァルハラとも約束してますしね。」


エクスがちらりとシルヴァレを見る。


「にゃん!ボクが証人さ!」



「それに僕、最高神のマスターなんで。

やられるはずが無いので。」



エクスから放たれた威圧は

一瞬の恐怖を与えた。

ジルは鼻を鳴らし目を細め、エクスを見る。


「ハッ…

君、クソガキって言われたことない?」


「今のところは。」


「へぇ…分かったよ。

君に免じて帰るとするよ。」


背を向けたジルにシオンは声をかける。


「ジル。」


「わぁってるよしーくん。

王様にもお伝えしないさ。

君達も俺の忠告を無下にしないでよ?」


「えぇ、痛み入ります。」


「んじゃあね。」


ジルの靴の音が辺りに響き渡る。

完全に音が聞こえなくなるまで誰一人口を

開かなかった。

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