第139話『エクス、入院』

前回のあらすじ


ジルさんやっと帰りました!!

はぁ……。



ゼウスはエクスの元へと舞い降りた。


『マスター、大丈夫か?』


「うん、だい……」


エクスは笑ったまま数秒固まり、


『マスター?』


ゼウスの問いかけに答えれず、顔を顰めた。


「う?うぅ…?」


「エクス?どうしたの??」


ヨシュアがエクスの傍に駆け寄り、背中を

摩るとエクスは糸が切れたように倒れた。


「エクスッ!!!」『マスターッ?!』


「エクスちゃんっ!」「エクスくんっ!」


「我がライバルよッ!!」


駆け寄る教師達を押し退けエクスに駆け寄る友達。


「にゃ!?ハデスどうなってるにゃん!?」


『いや…私でも分からない…。

死の音は聞こえないです。ゼウス、どう?』


エクスを抱き上げたゼウスはじっと彼を

見る。


『…いや、私でもまだ…もしや堕天アンヘルか?

森で堕天アンヘルを吸いすぎたのやもしれん…。』


「で、でもそれはアルテミスが防いでいたはずですが…」


『最終的に濃くなったろう。

それにマスターは精神干渉も受けている。

故に原因と考えられるのは多数ある。

…マスターは1人で頑張ったのだから。』


ゼウスの言葉に胸を締め付けられる

シャーロットは、手を握りしめて下を向く。


「……はい。本当に助けられました…。」


そしてヒメリアが口を開いた。


「兎に角シュヴァルツに連絡する。

まずはラブラビの元へ連れていこう。」


保健室へ向かったのは生徒とヨガミ、

ヒメリア、リーレイ、シルヴァレ。

シオン、オペラはジルが何か仕掛けてないか見回りをする事にした。


歩きながらヨガミは電話をかける。


「ラブラビか?俺だ。

今からエクスを保健室に連れてくからベッド確保してくれ、頼む。

あぁ、ルプスにも伝えてくれ。」


ヨガミが電話している最中、ゼウスは浮かない表情で自分の腕の中で眠っているエクスを見ていた。


『マスター…』


そんなゼウスをちらりと見つつ、

ローランドが話しかけた。


「なぁ、麗しきゼウスよ。

詳細は我が同胞から聞かせてもらったよ。」


『そうか。』


「我がライバルは本当に凄いね。

敵わないとすら思えてしまうよ。

まぁそんな事ないのだが。」


『…』


「故に我がライバルと認めている。

彼は…エクス=アーシェはこのような些細な事で負けるはずが無いのだ。」


『当たり前だろう。』


「うむ、当たり前だ。

だから最高神であり相棒の貴方がそのような顔をする理由は無い。」


『…』


ローランドの言葉に思うところがあったのか、ゼウスはもう一度エクスを見た。


『…よもやこの私がマスター以外の人間に

言われるとはな。』


ローランドとゼウスが話している最中、

スカーレットは俯きながら歩くシャーロットを心配していた。


「シャルちゃん?どうしたの?お腹痛い?」


「あ、いえ…お腹は大丈夫です。

ただ、ゼウス様のお言葉が胸に…

突き刺さりまして。」


「?」


「エクス君がお一人で頑張ってくださった…本当にその通りで、その通りなのが…

申し訳なくて…自分の不甲斐なさが…

ほんっとうに嫌になる…っ!!」


手に力を入れ食いしばるシャーロットをただ心配することしか出来ないスカーレットは

名前を呼ぶ。


「シャルちゃん…」


「エクス君が1人で抱え込んでしまっている

気がしてなりません。

オレが少しでもお役に立ててたら…」


その会話を聞いていたハデスが


『アルテミスのマスター、もう終わったことだよ。そういうの1回思っちゃうと主みたいに止まらなくなっちゃうよ。』


と彼の肩にそっと触れた。


「…はい…。」


「おいこらボクみたいってにゃんだよ。」


「それに、アルカディアの活躍はユリウス殿から聞いている。胸を張れ。」


「ヒメリアたんが喋ったからってハデス無視すんにゃー!!」


ぷんすこ怒っているシルヴァレを見て

ゆっくりと口角を上げていくシャーロット。


「ふふっ…シルヴァレさん、ハデス様…

ヒメリア先生、ありがとうございます。」


そして保健室へと辿り着いた。

先頭を歩いていたヨガミが扉をノックする。


「ラブラビ、入るぞ!」


「はいはーい!」


ヨガミが扉を開けると、ラブラビとルプスが待っていた。ラブラビはゼウスに抱えられたエクスを見て頷く。


「こっちだよ!ゼウスちゃん連れてきて!」


『うむ。』


ゼウスの後に続く面々。

ルプスはこっそりとリーレイに耳打ちをした。


「アイツどーしたんだよ。

簡単にくたばるタマじゃないだろ。」


「それが急に倒れちゃったのよ〜。

私達も分からなくてラブラビちゃんと貴方に頼みに来たのよ〜。」


「グルル…なるほどな。」


ルプスは寝かされたエクスを見やる。

ヒメリアはデバイスを操作し耳に当て、

ラブラビに問いかけた。


「ラブラビ、シュヴァルツに電話するから

お前の診た結果を話してくれないか?」


「うぅーん…

でも変なとこ無いんだよね〜。

脈も正常だしお目目に変なもの無いし。」


「もしもしシュヴァルツか?

すまない今大丈夫か?あぁ、それでな…」


ヒメリアは事情をシュヴァルツに話した。


「…ゼウスに?あぁ、分かった。ゼウス。」


『む?』


「今から病院来れるか?だと。」


『ふむ、魔力は残っている故問題は無い。』


「…。(マジか…此処から病院までどんくらい距離あると思ってんだよ…人1人の魔力量

プラスα必要だぞ?)」


驚くヨガミを一瞥しゼウスはヒメリアに

頷いた。


『行く。』


「行けるらしい。

あぁ、アスクレピオスが待つ?

伝えておく。」


『直ぐに行こう、ではな。』


シャンッ


「本当に一瞬でその場から居なくなったわね…あら?ヨシュアちゃんは?」


スカーレットの言葉で全員が辺りを

見回した。


「………あれ??」


「…(それにアスクレピオスはリンネたんの

治療で魔力全部使って魔導書に戻ったはずじゃ…)」



病院前。


『ふぅ…魔導書から糸を引いておいて正解だった。ぶっちゃけ場所忘れてた。』


『おいクソジジイ。』


聞き慣れた声に笑みが零れ、振り返る頃には満面の笑みが出来上がっていた。


『アスクレピオス!』


『その気色悪い顔やめろ!虫唾が走る!』


『照れなくても良いではないかぁ〜!』


『だぁあぁっウザイ!

今はそれどころではないだろう!』


『む、そうだった。』


『チィッ!

それにソイツを何故連れて来た!』


『ソイツ?』


アスクレピオスが指差す方へ目をやると

ヨシュアがぺこりと頭を下げた。


「ごめんなさい、咄嗟にゼウスに掴まって

ついてきちゃいました。」


『……いや…(この私が気付かなかっただと?

たかが召喚士見習いの人間を?

ありえんぞ…。)』


『…来てしまったものは仕方ない。

こちらだ。』


『うむ。』


アスクレピオスの後に続くゼウスとヨシュア。

フロアの中心にある部屋の“staff only”と書いてある黒い扉を開け、中へ招いた。


『こちらだ。』


『入るぞ。』


「…いいよ。」


『アスクレピオスのマスター…』


中で待っていたのはシュヴァルツ。

彼はヨシュアを見て驚いた。


「…君も…来たんだね。」


「すみません押しかけて…」


「…ううん。じゃあこのベッドへ。」


シュヴァルツはリンネの隣の空いていた

ベッドへエクスを寝かせるよう指示をした。

その間にヨシュアはアスクレピオスに小声で話しかけた。


「そういえばアスクレピオスは魔力を全消費して魔導書に戻ったのではなかったのです?」


『クソまずエリクサーを食って悶えてたから魔導書に戻っただけだ。

全消費はしたが戻る前にエリクサーを使ったから消えた訳では無い。』


「へぇ、そうなんだ。」


『それはそうと貴様、よく祖父に気付かれずについてきたな。』


「いえ、多分ゼウスの方がエクスの事心配しすぎて気付かなかったんだと思います。」


『…(あのゼウスがそのような事あるか?)』


「…アスクレピオスもこっち来て。」


『あ、あぁ。』


シュヴァルツに呼ばれ返事を疎かにした

アスクレピオスを数秒見つめてから後を追うヨシュア。


「…アスクレピオスから診て…どう?」


『少し待て。』


黒蛇の杖を顕現させエクスに翳す。

すると彼は眉間に皺を寄せた。


『…どういう事だ。

何もおかしなところが無いぞ。』


「…やっぱり…。」


『私ですら感知出来ていない。

しかしそれはマスターの召喚獣故の理由が

あるのかと思ったが…お主らでも何も見えぬのなら本当に何も無いのだろう。』


「つまりエクスは正常なんですか?」


ヨシュアの質問にゼウスは首を横に振った。


『逆だ、何も無いというのは異常なのだ。』


「…簡単に言うと何で寝てるか分かんないの。」


「そんな…エクス、エクス起きて。」


ヨシュアはエクスの肩を優しく叩く。

しかしエクスは表情1つ変えなかった。

アスクレピオスは腕を組んでそちらを見ていたがゼウスへと視線を移した。


『アンタのマスターは何をされたんだ。』


『簡潔に話すぞ。』


ゼウスは祈りの森であった事をまとめて伝えた。シュヴァルツはエクスへと視線を向け、アスクレピオスはハンッと鼻を鳴らした。


『最高神ともあろうお方が居ながらこのザマか。笑えんな。』


「…アスクレピオス…!」


『いや善い。全て誠だからな。』


素直な返事に一瞬ムッとしたアスクレピオスだったが、すぐに視線をエクスへと向ける。


『しかし精神干渉か。

私はそこに引っかかる。

アンタが完全治療しないのはそれだろ。』


『左様。精神に異常を齎したらまずい。

しかし私に気付かれずのろいを施すのはほぼ不可能だ。しかしそれはまじないだったらだ。』


「…魔力の無い堕天とかだったら話は別

ってことだよね。」


ヨシュアに頷いたゼウスは心配そうに

エクスを見る。


『マスター…早く起きてくれ。

私の名を呼んでくれ。』


「…アスクレピオス、非常時のエリクサー

今持ってる…?」


エリクサーと聞きギクリと肩を震わせた

アスクレピオス。


『あー…そのー…食った。』


「…食った…?

…召喚インターバル短かったのってもしかして…」


『非常時だと思って消える前に食った。』


「…もうエリクサーは患者さんの分しか無いよ…。中々作れないから品薄で…」


『マスターならポーションよりエリクサーの方が簡単に作れるぞ。』


「エクスならそうだね。

ポーション作りで1人だけエリクサーしか

作れなくて補習だったし。」


「『!?』」


シュヴァルツとアスクレピオスの驚く顔に

満足気に頷くゼウス。


『我がマスターに不可能は無い!』


「…凄いね、彼。

…今日はリンネと一緒に預かるよ。

…疲労溜まってるし点滴打っておくね。」


『私は戻らんからな。

マスターが口を聞けん以上戻るのはリスクだ。』


「俺も泊まっていいですか?」


「…いいよ。

使ってないベッドあるから…。

姉さんにはぼくから言っておくよ。」


「ありがとうございます!」


「…ご飯食べてないなら売店で買っておいで、お金渡すよ。」


「あ、お構いなく!

食べたので大丈夫です。」


「…そう?いつでも言ってね。」


「はい!」


『…』


シュヴァルツが小さな携帯を取り出し、

席を立つ。


「…ごめん。

ぼく、患者さんの所へ行かなくちゃ。」


『この場は私に任せよ。』


「…うん。」


『変な事するなよ。

私の黒蛇が見てるからな。』


アスクレピオスの袖から黒い蛇が1匹落ち、

舌をチロチロ出しながらゼウスを見る。


『分かってるさ。』


2人が部屋から出ていくのを見たヨシュアは

リンネの方へ足を運んだ。


「ゼウス、この人は大丈夫なの?」


『うむ、見たところアスクレピオスが

頑張ったようだ。すぐ目を覚ますさ。』


「そっか。」


『…』


ゼウスの中でヨシュアの事を聞くか聞くまいか迷いが生じた。


私が聞いたところで何になる?

私の助けを、この男は振り払うだろう。


森でのマスターのあの表情…辛そうだった。

それは童が死んだことに加え、謎の力を

持ってしまった友人のせいだ。


正直、此奴はマスターの友なだけであって

それ以外に私が助ける理由など無い。

だが、マスターの居るこの世界が崩壊して

しまう可能性があるのなら…

助ける理由が出来る。


話を聞いて、その後のマスターとの関係が

拗れる可能性も否定出来ない。

やはり聞かずにスキルロックを外し、

一瞬で見るしかないか。



ゼウスは黙る事にした。



「…姉さん…うん。

ヨシュア=アイスレインはゼウスに付いてきてた、だから2人とも今日は預かるね。

…ゼウス、リンネも見てくれるって。

…ぼくの方で診れるチャンスかもしれない。

…分からないかもだけど…。

…ぼくが出来ることは全力を尽くすよ。


もうこれ以上失いたくないから。」

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