第121話『森にて伸びる魔の手』

前回のあらすじ


授業が終わって僕とヨシュアはミカウさんとの取引でモデルをすることになったシャル君とローランド君の様子を見ることにしました。

買収されたメイクスタッフことスカーレット君も一緒に撮影風景を見ていると、怪しげな烏の大群が。それを見たヨシュアの様子がおかしくなって心配だったけど何とか大丈夫そうです。でもやっぱ心配。



「1羽のカラスがカァーカァー♪

2羽の…なんちゃらコケコッコー♪」


男の陽気な歌が暗く鬱蒼とした森に響く。


「ねぇねぇ知ってますカ?ライアー。

ゼウリス魔法学校ってネ、入学選別の際に特殊な鏡を使って結構優秀な人材を見極めているんですっテ。その中でも神クラスは凄いらしいですヨ。」


男は1人、1羽の烏を肩に乗せ森を手でかき分けながら歩いていた。


彼は全身が至極色。切り揃えられた前髪も、右へ垂らすアクセントの髪も、厚手のタートルネックも、ボタンをせず前を開けたトレンチコートも、手袋も、細い足が際立つズボンも、高そうな革靴も。

ただそれとは対照的に血の気を感じさせない真っ白な肌。そして彼を人間のように見せている桃色の目。

その目は肩のカラスを映していた。


「ライアーのお気に入りになった女の子は何クラスなんでしょうネ。アビスはアルファクラスだったらしいでス。」


男は森の中を知っているかのように迷いもなく歩き続ける。


「確かこの辺ニ……あ!!いたいタ。」


森の中でも開けた場所に出て何かを見つけた男はそれに近づく。


「こんにちハ、キミがエンデュですカ?」


男が近付いたのは森の中で異様な雰囲気を放つ白い棺だった。棺の周りには色とりどりの花が咲いており、木漏れ日が射している。


「可哀想ニ。家族が狂って大切にしていた兄弟さんに殺されちゃったんでしョ?

悲劇ですネ〜。」


笑いながら棺に腰掛け表面を指でなぞる。


「そんな可哀想な貴方を放っておけないと君をお墓から掘り起こして魔力が溢れるこの森に移動させたのですガ。どうでス?神秘的で良い場所でしョ?」


中の様子を見るために立ち上がって棺の蓋を開けた。


「うン、良い状態ですネ!何処も腐ってませン。てことは成功しましたかネ。おーイ、

無視してるって事は分かりましたヨー。」


棺の縁に手を置いて頬を膨らませると、棺の中から声がする。


「ごめんごめん、あまりにも君が1人で楽しそうに喋ってたものだからさ。」


「んもウ、無視は良くないですヨ。どうでス?寝れましタ?」


男が聞くとエンデュと呼ばれた棺の中の人物はむくりと起き上がる。


「うん、いい感じ。」


男はエンデュの刺されたような傷がある右目を見つめながらコートのポケットを探る。


「その目玉痛いですカ?

はい、コレ。白薔薇の眼帯でス!

薔薇の下のレースがオシャレでしョ。俺が見繕ったのだからオシャレなのは当然ですけド!」


「ありがとう。」


「いえいエ。ではやる事やっておバカを連れ戻しに行きましょうカ。」


「何するんだい?」


エンデュの聞いてくれたことが嬉しかったのか男は笑顔で腰のポーチから黒い箱を取り出した。


「この森、もう要らないですかラ。」


「焼くの?」


「それは俺達の仕事じゃないですヨ。

こんなに魔力が溢れている森ですかラ、皆元気いっぱいのはズ!だから遊びやすいようにしてあげるだけでス。」


「…ふぅん。」


次の瞬間、大きな地響きが彼らを襲う。


「おわワ!」


「わぁ…何これ。ドシンドシンっていってる。」


よろめかないように足に力を入れる2人は音の原因であろう者がいる背後を見やる。


「おっ良かっタ!探す手間が省けましたヨ!

森の主が自ら現れてくれましター!」


「君が煩いから来ちゃったんだね。」


「ならばもっと煩くしまス?一緒にお歌でも歌いますカ?」


「遠慮しておくよ。」


「つれないですねェ。」


男は持っていた箱を開け、中から拳銃と紫の弾丸を取り出した。慣れた手つきで弾を込め、地響きの正体に向けて構えた。


「ぱんぱかぱーン!おめでとうございまース!貴方は実験台に選ばれましター!つきましてはどうぞ堕ちて良い夢をご覧下さイ。

goodnight!」



「さァ、時間の問題でス!早く帰りましょウ!」


「凄いね。長閑だった森が一気に邪悪な森に早変わりだ。」


エンデュは変わり果てた森を見回していた。

木は枯れ果て、残った植物は紫や茶色に変色し、土は干からび、日が射し込まなくなった。

辺りには瘴気が漂い不気味な雰囲気となっている。


「それだけ森の主が凄いという事でス。

早く行きましョ!」


そう言いながらも2人は森の中を歩いている。


「お城へ向かうんだっけ。」


「そうでス!捕まったネームレスを助けてあげるんですヨ。ココの騒ぎで少しでも戦力削っとかないと面倒くさくテ。」


「そう、じゃあ行こうか。…あ、そうだ。

君の名前は?」


男はエンデュに向かって振り返った。


「ノイズと呼んでくださいナ!ノイジーでもお好きなようニ!この烏はライアー。俺の相棒でス!」


名前を聞いたエンデュは


騒音ノイズ、ね。君にピッタリだ。」


と呟いた。


「?何か言いましたカ?」


「何も?」


「そうですカ?ま、同じなんですから仲良くしましョ!アビスも皆も待ってますかラ!」


「そうだね。」



ピピピッ…ピピピッ


「んぅううぅ…」


まだ眠い…。


ピピピピピピッ


うるさ…


ピピピピピピピピピッ!!!


「うるっ…本当に煩いな!!」


溜まったストレスを拳に込めて音の発生源を叩く。

鳴っていたのは昨日ミカウさんがレフ板を持ってくれたバイト代と言って手渡してくれた目覚まし時計。試しに使ったらめっちゃ煩い。


「凄い音だったね、おはようエクス。」


ヨシュアが櫛で髪を整えながら挨拶してくれた。


「おはよヨシュア。もう使うの嫌になった。」


「っはは!早いねぇ。それがなくても俺が起こしてあげるよ。」


「そだね…頼むよ…。」


僕もゆっくりと起き上がって準備を始める。

顔を洗って髪を整えてから食べる朝ごはんはいつも一緒。


「「いただきます!」」


ヨシュアと他愛のない話をしながら食べるご飯は美味しい。誰かと食べるっていいなぁ。前世じゃ考えられなかった。


「「ご馳走様でした!」」


ヨシュアが俺はもう着替えているから、と僕のトレイごと片付けてくれている間に申し訳ないと思いつつ制服に着替える。そして歯を磨く。

これが朝のルーティンとなっている。


「今日の授業は錬金術が2時間あるんだよね。」


「ほんっと最悪。出来る気しない。やだ、やりたくない。」


ヨシュアが珍しく嫌々になっている…!


するとヨシュアのデバイスが机の上で震える。

画面にはユリウスさんと書いてあった。


「ヨシュア電話ー。」


「えぇ?朝から?わ、ユリウスさん…。」


ヨシュアは授業の支度をやめて電話を取る。

僕も気になって電話に耳を澄ませる。


「はい、ヨシュア=アイスレインです。」


{ユリウスです。朝早くにすみませんが急用です。レン君と共に学校の正門まで来てください。}


「え?」


ユリウスさんはその先を言うことなく通話を切った。


「きゅ、急用…?」


ユリウスさんが電話…?正門…?

絶対何かあったんだな。


「気をつけてねヨシュア。」


「う、うん。行ってくるね。」


「いってらっしゃい…。」


早足で部屋から出ていくヨシュアの後ろ姿が見えなくなった直後、僕のデバイスも鳴った。アイオーンが電話を持っていた。


『エクス様、ディアレス=リベリオン様からお電話です。』


ディアレスさん?ユリウスさんに続いてという事は何かあったんだ…!


「う、うん!繋げて!」


『はい!』


アイオーンがディアレスさんの姿に変わった直後、焦った表情を見せる。


『おいゼクス!!お前も早く正門に来い!相方連れてな!!』


ブチッ


き、切られた…けどやっぱ何かあったんだ!!

相方って事はシャル君だよね。急がなきゃ!


「アイオーン!

シャーロット君に電話掛けて!」


『畏まりました。Calling…』


僕はシャル君に電話を掛けながら部屋を飛び出した。


『シャーロットです。どうされました?』


「ディアレスさんから呼び出し!急いで正門に来て欲しいって!!」


『えぇ!?

わ、分かりました今行きます!!』


僕が電話を切った場所はシャル君達の部屋の前だ。ここで待った方が良いかな…。あ、そうだ!


「ゼウス来て!【summon】!」


『私を呼んだなマスター!おはよう!』


「おはよ!あのさ、今ディアレスさんから呼び出しがあってシャル君を迎えに…」


「きゃっ!え、エクス君とゼウス様!?」


噂をすればシャル君!


「シャル君おはよう!ゼウス、シャル君を抱えて正門へ!」


『あいわかった。

失礼するぞアルテミスのマスターよ。』


「えっえぇ!?」


なるべく今は足に負担かけちゃダメだからね。



正門に着いたのでゼウスを一旦戻すと既にヨシュアとレン、ユリウスさんとディアレスさんが居た。

ユリウスさんは僕達を見た後に眼鏡を中指で押し上げる。


「エクス君、シャーロット君。君達も呼び出してしまってすみません。」


「い、いえ…でも一体どうして…?」


僕が聞くとディアレスさんが目線を逸らして口を開いた。


「リンネが…大怪我したんだ。」


「え…」


リンネさんってあのリンネ=コウキョウさんだよな。ネームレスを連れてって…それで…


「リンネの事は後程。今はもう1つの方です。

ここから数十キロ先にある森、通称祈りの森に異変が起きたと連絡がありました。」


祈りの森…?それってゲームだと薬草とか木の実とか道具を作るのに必要な材料が集まりやすくてよく周回するダンジョンだったな。

そこに異変…?

ユリウスさんは腕を組んで言葉を続けた。


「アビス達による犯行の可能性が限りなく高いので城の兵もゼウリス魔法学校の教師も持ち場から離したくない。という訳で君達の力を借りようかと思いまして。」


「ま、アレだ。シャケ弁当だ。」


鮭弁当…?


「それを言うなら社会勉強、です。」


ユリウスさんよく分かったな…ディアレスさん社会勉強すら言えないのか。


「貴方達の命は絶対に守ります。

ので我々にどうか力を貸して下さい。」


僕達4人は頷いた。正直僕達に何が出来るのか分からなかったけど何が起きたかは気になる。


「ワイバーンを連れてきています。

さぁ乗って。」


ユリウスさんの方にはヨシュアとレン、ディアレスさんの方には僕とシャル君が乗った。


「しっかり掴まってろよ。」


「「は、はい。」」


男3人乗っても軽々と飛ぶこのワイバーン達は凄いな…。


ワイバーンはディアレスさんの運転で森を目指した。何があるんだろう…そしてリンネさんはどうしちゃったんだろう。

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