第120話『烏が鳴く』

前回のあらすじ


リンチに遭いました。負けました。



ご飯を食べ終わった僕達は1日最後の座学を

受けるために教室へと戻ってきた。


「今度は寝ないようにね、エクス。」


ヨシュアが悪戯な笑みを浮かべて僕に言う。


「ね、寝ないもん。…多分。」


「ふふ。

今度こそ起こして差し上げますよ。」


シャル君に起こされるなら幸せだ。


「うん!…ん?」


神クラスであるこの教室になんと


シオン先生が入ってきた。


教室間違えてる?

周りの生徒がスピルカ先生じゃないことや

シオン先生という事に驚いてザワザワする。


「静かにしいや。」


一言の圧が凄くて皆が黙る。


「スピルカ=アストレイとヨガミ=デイブレイクが召喚士として急用が入った為、座学をこのシオン=ツキバミが代わりに行います。」


あ、教室間違えた訳じゃないのか。

スピルカ先生とヨガミ先生が急用…もしかしてヴァルハラに呼び出されたとか?

デバイス確認すれば良かった…。


「アストレイにココまでやれと言われていますからちゃんと帳面に書き記しなさいね。

それと」


左手がギプスで使えない先生は右手で

チョークを3本持った。


「私はアストレイみたいに寝るなら自己責任ではなく、許さない。寝た者は容赦なく成績を下げる予定にするのと同時にコレが飛んでくると思いなさい。」


体罰じゃん。


「エクス=アーシェ!」


え!?僕が呼ばれた!??


「ひゃい!?」


「お前さん、アストレイから要注意人物だと聞いている。…気いつけや。」


「…ハイ。」


絶対寝るなよ、5分後の僕!!



「この環境を利用してこの仕組みが出来たという訳です。これが無ければ経済は成り立ちません。…はぁ…エクス=アーシェ!!」


「……ふぁっ!?」


「お前さん、開始早々チョークよりも

魔刃抜刀を喰らいたいようですね。」


あれ??ひょっとして寝てた!?


「…」


怒っていたシオン先生は何かを考えるような表情(真顔)になり、チョークを持つ手を下ろした。


「…いや、時間の無駄ですね。

次、ページを捲って。」


それから僕は寝ることなく授業を受けた。

何を言っているかさっぱりだった、けれど

シオン先生の授業もスピルカ先生並に教え方が上手だと思う。理解は出来てないけど単語が頭には入っているから。

シオン先生はちらりと時計を見た。


「…よし、今日は早めに終わったな。

頼まれたことを終わらせるために少し急いだのだが皆お利口さんでした。」


授業が終わる5分前だ。

因みに先生は1回もチョークを投げず、名前を呼ぶだけの圧で叩き起していた。皆1回ずつで済んだから飛んでこなかっただけ?


「ヨシュア=アイスレイン。」


「はい。」


シオン先生に呼ばれたヨシュアは首を傾げる。悪いことしてないもんね。


「STも私がやります。終わったら前に来なさい。エクス=アーシェもです。」


「あ、はい。」


僕も?ヨシュアとお互い顔を見合わせ疑問に思いつつもSTを終え、シオン先生の待つ教卓へ。


「来たか。まずアイスレインだが…

今日の補習、私は見れへん。

ヴァルハラに呼び出されていましてね。」


「分かりました、大丈夫です。」


「次にアーシェ。デイブレイクからお前さんも補習と聞いている。が、生憎ヴァルハラに呼び出されているのはテレサリアと私で

ルージュとベルカントは警備に当たるので

今回は補習見送りです。」


「そうなのですね。分かりました。」


「何かあると困るので教師の目が届かない

場所での魔法は御法度です。良いですね。」


「「はい。」」


何故かしら僕達に釘を刺す先生はスタスタと足早に教室を後にした。


「先生が言うのは多分自分達で勝手にやるなって事だよね。錬金術も薬学も。」


ヨシュアの言う通りだろうな。…僕自習するようなお利口さんじゃないんだけどな。


「エクス、これから何する?」


「え?うーん…

どうしよう、皆どうするかな?」


すると目の前を横切るスカーレット君が。


「あれ?スカーレット君どっか行くの?」


「アタシ、1日最低1回クリムをぎゅっとしないと死ぬ病気なの。

話なら後で聞くから邪魔しないで。」


とそのまま教室を後にした。

…怖い、圧とか色々な意味で。


「シャル君とローランド君はミカウさんとの約束があるし…」


「見に行っちゃう?」


「行きたい!シャル君の女装見たい!

(いや、邪魔しちゃうし他のことしようよ。)」


「エクスー?多分本音と建前逆だよー?」


「あれっ!?」


シャル君の女装を見たいとかは置いておいてヨシュアと購買部を覗くことにした。


ヨシュアは初めて来たらしく、生徒たちで

ガヤガヤ賑わっている店の中に置いてある

商品に目を輝かせていた。


「わぁ…ここなら文具とか揃うね。

え、漂白剤とか洗濯ネットとかも!

自動掃除機もある!」


主婦かな?


「凄い凄い!面白いねココ!

もっと見ようよ!」


「うん!」


ヨシュアが楽しそうで良かった。


「わー!すげぇ!!

やっぱ校内アルバイトしなきゃだなー!」


…楽しそうだなぁ、本当に。

コレが本来普通なのに。

当たり前の日常を過ごしている普通の生徒

なのに。どうして、どうしてあぁなっちゃったんだろう。

あの時、ヨシュアを1人にしなければ。

皆で倒してから教室に向かっていれば。

何とかなってたかもしれないのに。


「エクス!!」


「っ!?」


ヨシュアに正面から肩を叩かれ我に返る。


「エクスどうしたの?ぼーっとして。

俺1人で騒いじゃってたよ。」


「ご、ごめんちょっと考えごと。」


嘘は言っていないのにヨシュアの顔が

だんだん不機嫌になる。


「……どうせ俺の事でしょ。」


「ぅえっ!?何で分かったの!?」


「だって俺の顔を悲しそうな顔で見るんだもん。流石に分かるよ。」


「…」


顔に出てたんだ、今度は気をつけないと。

僕が目を逸らしたのを見たヨシュアは笑顔を作る。


「…今はこの話やめよ!俺なら大丈夫、

シャルとローランドの元へ行ってみようよ。」


「うん、そうだね。」


余計な気遣いをさせてしまった…。

気を付けろ、僕。


「えっとミカウさんはー…」


「ばぁ♡」


目の前に黒い狐のお面が唐突に現れた。


「ぎゃーーっ!!!」


「っははは!朝と同じくらい〜!!

元気があって良いね。」


「ミカウさん。」


ヨシュアが名前を呼ぶとミカウさんは

「おいで」と手招きして僕達を店の奥へと

誘い込む。

相変わらず広い旅館みたいな和風の造りだ。


「何これ…すっげぇ…!天井高い…」


「ヨシュア君は小生の館へ来るの初めてだよね。」


先頭を歩いているミカウさんが振り返った。


「はい。ココ凄いですね。異空間ですか?」


「お、ご名答。

小生の家は小生の力で作ったんだ。」


家ってことは…ミカウさんもシオン先生と

リンネさんと同じ故郷?


「ほい、ここの中に彼らが居るよーん!」


何故かミカウさんは襖を開けようとせず、

半歩右に逸れる。僕が開けろってか。

いざ御開帳!!


勢いよく襖を開けると沢山の服がハンガーに掛かっている部屋の中心でスカーレット君にメイクされているシャル君の姿が。


「…え、何でスカーレット君が居るの。」


つい聞いてしまうとスカーレット君は睨みをきかせる。


「こっちの台詞よ。何でエクスちゃんと

ヨシュアちゃんが来てんのよ。」


「シャル君の女そ…いや、シャル君と

ローランド君の勇姿を見ようと思って…」


「え、ローランド君は兎も角オレのですか。見ても良い物などありませんが。」


女性物の服を身にまとっているシャル君は

どう見ても女性だ。可愛い。


「スカーレットこそどうしたの。」


ヨシュアの質問でスカーレット君からビキッと音が聞こえた。


「どうしたも何も誘拐よ誘拐!

クリムに会おうとしたらそこの狐がアタシを攫ったのよ!」


スカーレット君が指をさしたのは部屋の奥の方。そこでは撮影中のローランド君とカメラのシャッターを切りまくるミカウさんの姿があった。

あれ、ミカウさんいつの間に撮影を…。

てかローランド君イケメンだな!?


「で、でもスカーレット君、何で言うこと

聞いたの?」


スカーレット君は何よりもクリムさんが大事なのに。


「…シャルちゃんとローランドをメイクしたらクリムに好きな服貸してあげるって言われたからよ。つまり買収されましたー。」


だろうな…。ホント、妹思いなお兄ちゃんだ。お兄ちゃん羨ましい。


「シャーロット君、準備終わったー?」


ローランド君の撮影を終えたであろうミカウさんが手を振っている。


「急かすんじゃないわよ!!」


キレるスカーレット君。


「すんません!!それ終わったら…


外ね!庭園で撮る!」


「え"っ?」


シャル君から野太い声が聞こえたぞ!?


「室内だと光が硬いんだよ。

自然光でいこーう!」


「えっえぇえぇぇ!?」


準備を終えたシャル君は本当に外へ連れ出され、庭園へ赴く。当然何事かと生徒達が集まって来る。


「は、恥ずかしいのですが!!」


赤面するシャル君を宥めるミカウさんは慣れた手つきで三脚を立てる。


「大丈夫大丈夫。

男だってバレていないなら問題ないって。」


「その言葉で今バレましたーっ!!」


「エクス君、レフ板持って。」


え、パシるの?


「わ、分かりました…。」


手渡されたレフ板をミカウさんの指示通りに持つ。


「エクス君もミカウさんも無視しないで下さい!」


「はぁーい、これは君達のお代だよー?

笑顔笑顔!」


カメラを向けられた瞬間、シャル君のスイッチが入った。ノリノリでポーズを取り始めたんだ。


「あら、シャルちゃんいいじゃない。」


「うむ、流石我が同胞!

堂々としていて美しいぞ!」


スカーレット君もローランド君も感嘆の声を漏らす。


「凄い、本当に女の子が写真撮られてる…。」


ヨシュアも驚いている。僕も驚いている。


「いーねいーね!目線頂戴!あーっ最高!」


ミカウさんの指示にも的確に答えていってる。凄いことに同じポーズが無い。

…モデルさん?


「よし!この服はおっけい!」


ミカウさんがカメラを下げた瞬間、

シャル君のスイッチも切れた。


「ふぅ…カメラはいつも緊張しますね。」


「シャル君凄い!!慣れてるの??」


僕の疑問にシャル君は居心地悪そうに目を

逸らす。


「…家でドレスやワンピースを着て散々やられまして…スパルタだったので身体が覚えていたようです。」


何それ見たい。じゃなくて、やっぱお家が

関係しているんだなぁ。縛られてるって言ってもおかしくないのかも。…ゲームでも思っていたけど実際悲しそうな顔をされると本当に大変だったんだろうなと思い心が痛い。


「エクス君…?」


「あっごめん何でもない!

可愛いねシャル君!」


「やめてください!オレは男ですから!!」


その格好だと説得力無いよと言おうとしたその時、


「カァーッカァーッ!」


大きな声で烏が鳴いた。

鳥の声ってあんま耳に入ってなかったけど

ちゃんと居るんだな。

あれ、まだ明るいのに烏って鳴くっけ?


この場に居た皆が鳴いた1羽の烏を見上げる。

見える大きさからして結構な高さがあるだろう。

鳴いた烏の周りに別の烏が1羽、また1羽と段々集まり、群れとなり、青空には異様な

黒く蠢く塊となる。

塊は僕達の頭上で鳴き喚く。


何だろう、見ていると気分が悪くなる。

煩いってのもあるだろうけど…胸がザワザワする。何か、嫌なものを見ているような…

見せられているような…。嫌な感じ。


皆ずっと烏達を見ている。

僕はヨシュアが心配になり声を掛ける。


「ねぇ、ヨシュア…」


「…」


目線だけこちらに向けるヨシュアの目は過去ヨシュアのものと酷似していた。戻ってきている。だめ、ダメだ。

戻さないと、治さないと。


「ヨシュア、ダメだよ。戻ってきて、

アレは見ちゃダメなやつだよ。」


「……」


目線すら向けてくれなくなっちゃった。

…こうなったら。


「【エクソルキズモス】!」


浄化魔法をヨシュアに掛ける。


「…ぅ?エクス?」


「よ、良かったぁあ…」


いつものヨシュアに戻った…。


「また俺何かやった…?ご、ごめんね。」


「い、いや…大丈夫…」


「撮影は室内でやろっか。

見学の子達〜散らないならお金取るぞー!」


ミカウさんも何かを察したのか生徒達を庭園から遠ざけるようにした。


「…あの烏、嫌な感じだね。」


ローランド君に4人皆が頷いた。

僕だけじゃなかったんだ。


「さ、まだまだ服はあるんだ。

休憩終わりー!行くよー!」


ミカウさんに言われ購買部へと戻る。


あの烏、何だったんだろう…。

ゼウス呼べば良かったかな。


もしかすると悪魔が関わっているんじゃないか、なんて思っちゃうよ。



「おかえリ。どうだっタ?

アビスのお気に入りくんハ。ふんふん…

ピカーっと光る板に惹かれたけど我慢しタ?

おぉー!“ライアー”は烏なのにキラキラに

負けませんでしたカ。偉い偉いでス。

気になる人はいましタ?ぅん?可愛い女の子が居た?へぇ…じゃあ俺も明日見に行きましょうかネ。やる事やってかラ♡」

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