第94話『一先ず終了。』

前回のあらすじ


アビスについてあの時の出来事を話しました。それよりシュヴァルツさんが変になってしまった事が気になります。


 …


ユリウスさんは眼鏡を中指で押し上げ、

アスクレピオスの膝上に座っている

シュヴァルツさんをちらりと見た後に

話を始めた。


「悪魔、怪物の前に“与えられた僕の役割”。その台詞から分かることはアビスに指示を

出す輩が居るという事ですね。」


「組織とかですかね。」


「えぇ、私もリンネと同意見です。もし組織だとして…アビスの様な危険な者がまだ数人

居るという事になりますね。組織の名前も、人数も、目的も把握しなければならない状態ですね。」


「アビスの言った事が組織の目標、目的ならば…悪魔を召喚しようとしているのでは?」


アムルさんのその言葉に僕の身体が汗ばむ。悪魔…ゲームでレンが使役したモンスター達。沢山居て、全てがボス戦だった。酷い時はまとめて3体相手したっけ…アイテム使いまくらなきゃ大変だったなぁ…エリクサー使わなかったけど。そもそもレンがルシファーを堕と……す…か、ら…………?ルシファーを…闇に…だから…悪魔が…出て…


「レン……君…」


「ん?どうしたの汗やばいよエクス君。」


「だ、大丈夫…。あのさ、ルシファー…と

お話したいんだけど…。」


「俺に許可取る必要無いよ、ねぇ?

ルシファー。」


『はい。

どうされました、ゼウス様のマスター。』


うわイケボ。じゃなくて!!


「レン君元気だけど……ルシファーは…

堕天アンヘルの被害受けていない?」


『問題ありません。レンと共に変化も見られません。どうかなさいました?』


「ううん。元気なら良いんだ。ごめん。」


「『?』」


今回悪魔を呼び出すのはアビス、という事で良いのだろうか。いや…こうは考えられないだろうか。


レンが自ら堕天アンヘルの力でルシファーを闇に堕とし、悪魔を率いる可能性があると。

もしくはアビスらにやられて暴走の末か。


だとしたらまずいまずい…!ストーリー上、一体の悪魔で何十人と死者が簡単に、呆気なく出たんだ!それが起こってしまうなんて…!!バトルフィールドだって主人公が助けに行った火の海と化している村だったりしたんだぞ…!?この世界の人間は全員生きているのだからそれはつまり…天災に匹敵する!!


『マスター、どうした。汗が凄いぞ。』


「っ!?」


いけない…まだ確定していない事に不安を

感じすぎた…。

落ち着け、まだそうと決まった訳じゃない。


「エクス君、大丈夫かい?」


「あ…大丈夫です。すみません。」


「そう?」


ニフラムさんに目をつけられたくなかったんだけどなぁ…やっちゃった。

アムルさんが咳払いして話を続ける。


「仮に、本物の悪魔だとしたらまずいですわね。強さも分かりませんわ。

もし召喚を許してしまったらどれだけの

被害が出てしまうのやら。」


「怪物は…ホムンクルスだろうね。

時間を与えればもっと強いホムンクルスが

出てきてしまうだろう。」


アムルさんとリンネさんの会話に手を挙げて参加するシオン先生。


「今回アビスが作ったとされるホムンクルスは私の刃で簡単に斬れる程軟弱でした。片腕の骨を折られ、ダメージを負った私でも。

…しかし殴る力はその軟弱さににつかわない強さと速さです。」


「まさかシオンの骨を折ったのは…」


リンネさんに頷くシオン先生。


「えぇ、ホムンクルスです。

不覚をとりました。」


「…それが強くなるのは嫌な事だね。」


「相手が元人間なら尚更、だな。」


久し振りにディアレスさんが口を開く。

放った言葉は残酷な事だ。

ニフラムさんも頷いたくらい。


「…我々には情報が少なすぎる。

しかしアビスを、その仲間を捕えなければ

ならない。悪魔や怪物を呼ばれる前に。」


「悪魔や怪物…目的はそれらを使って

国を混乱に陥れること、ですかね。」


「もし呼ばれたら俺らしか太刀打ち出来なくね?一般人守る組と悪魔狩る組に別れないとキツイぞ?」


アーヴァンが真面目なこと言ってる…!

ニフラムさんは僕達生徒を指さした。


「だから君達生徒にも協力をしてもらおうと思っている。成績上位者で固めてね。君達は上位者だとすぐに分かるくらい強いし。」


「…!」


悪魔を倒すストーリーに沿い始めるのか…。


「取り敢えず俺らヴァルハラは

アビス=アポクリファの消息を掴む。

そこでなんだけど教師陣。

この子達に週一外出許可を。」


え、外出許可??


「何でまた?」


ヒメリア先生も疑問符のようだ。


「アビス捜索に協力してもらおうと思って。

ヴァルハラ1人に生徒2人。社会勉強として、助っ人として協力して欲しい。」


…余程の事なんだな。確かに情報を少しでも多く集められれば止められるかもしれない。


「しかし…

これ以上危険な事に関わらせたくは…」


「ヒメリア先生、僕達なら大丈夫です。」


「アーシェ…。」


「国…下手したら世界が本当に危ないのかもしれないです。それだったら僕らでも力になれることはやっておいた方が良いと思うんです。それに、国家最高機関の人の強さの秘密を

知れるいい機会です!」


「…」


「それに、もしかするとヨシュア君がアビス発見機になるかもしれませんよ〜。」


迷っているヒメリア先生にレンが頬杖をつきながら付け足しをする。態度悪いな!!


「……生徒の命を優先して下さいますのなら従いましょう。」


「おっけ。おじさん達こう見えて強いから大丈夫。生徒は守るよ。じゃあ君達、毎週2日のお休みが1つ無くなっちゃうけどそれはお金で対応させてね。次の日の買い物にでも使って?」


大人な話だなぁ…。魔法学校も土日のように休みは毎週2日。そのうちの1日をヴァルハラの人達とアビス探しに費やす事となった。


「じゃあ早速今週の組み分けしよっか。

どうしよ、ヴァルハラから引き抜く?」


「じゃあ私はレン君とヨシュア君を借りましょうかね。」


眼鏡を光らせたユリウスさんが手を挙げる。


「じゃあ僕は…メルトちゃんとそこの震えてる子にしようかな。」


リンネさんはイデアちゃんを指さした。


「!」


イデアちゃんビクビクしてる…

どうしたんだろ。


「俺はぁ紫頭と赤髪の女の子、お前たちだ!」


アーヴァンはローランド君とクリムさん。


「ぐ…」


スカーレット君の拳に力が入る。


「深紅の友よ、彼女は任せたまえ!」


ローランド君がスカーレット君に薔薇を投げた。


「絶対よ、絶対無事じゃないと許さないんだから…!」


スカーレット君はそれをへし折る。

ローランド君の顔が(´・ω・`)になった…。


「じゃあ俺は…

取り敢えずそこの金髪の女が良い。」


とディアレスさんがシャル君を指さす。


「(オレ男ですー…。)」


「シュヴァルツはどうするよ。」


「んー??」


ディアレスさんに返事しつつアスクレピオスの綺麗な髪を三つ編みにしているシュヴァルツさん。元に戻る気配が一向にしない。

編み編みされてるアスクレピオスは血走った目を向けて


『トールのマスターよ。

貴様が祖父のマスターを引き取れ!

一緒にさせるな!』


とディアレスさんに怒る。

分かりやすく避けられてますね僕。


「ならエクスを引き取ろう。」


名前間違えられてない!!?驚き!!


『深紅の髪のお前。』


アスクレピオスはスカーレット君を指さした。


「アタシ?」


『貴様だ、イーリスの召喚士。イーリスの

回復術を見てみたい。貴様はコチラだ。』


「…分かったわよ。」


『それとアーサー王の召喚士、貴様もだ。』


「分かりました。」


あれ?アムルさんは…?

興味無さそうに自分の爪を見てるけど…。


「…決まったね。俺とアムルは今週別の仕事あるからそれでおっけー。取り敢えず出来る限り情報を集めよう。君達携帯持ってる?」


え、携帯この世界にあるの?


「持ってないみたいだね。じゃあ支給しておく。くれぐれも他の生徒には内密にね。」


クロノスが指を鳴らすと目の前にスマホの様なものが置かれた。様なもの、というか

スマホだ。僕のは黒に金色の線がカッコイイケースに入っている。


「俺たちはコレをデバイスって呼んでるんだ。横に付いているのが電源だよー。

取り敢えず全員付けてね。ここのメンバーの連絡先を交換しておいて。教師ともヴァルハラとも生徒同士とも。これがあれば召喚獣の力を使わずとも電話出来たり手紙が書ける

便利システム。写真も撮れるから気になったものは写真に撮って送ってねー。

学校でも気になったことは写真に撮って。

弱い雷魔法で充電出来るからよろしくー。」


成り行きでスマホをゲットし、全員と連絡先を交換した。つまりメルトちゃんの連絡先もゲット!!最高かよデバイス!!


「スカーレット君とリリアンちゃんは

シュヴァルツの症状回復によって色々変わってきちゃうから申し訳ない。戻ったら連絡するようにアスクレピオスが言っておいて。」


『…あぁ。』


「シュヴァルツの回復は無理そうだし…

会議はコレで終了、の前に…

イデア=ルークスちゃん。」


ニフラムさんに名指しされて肩を震わせる

イデアちゃん。


「!」


「そんな怯えないで。おじさん怖くないよ。

君の情報聞いてない事に気づいてね。

何してたの?」


「あ、あたしは…皆が戦っている時、

何も出来なかった…。皆が居なくて…

スーくんが戦って…あたしは走って…皆何処にいるか分かんなくて…ずっと走ってた…。白い怪物はロキが倒してくれて、倒れている子達を沢山見てきた…。でもあたしは何も

してあげられなかった…。」


震える声から悲しさが伝わってくる。


「そう…辛かったね。でも君が気負う事など何一つ無いよ。大丈夫。辛いこと話させてすまなかった。おじさん反省。だから美味しい物食べていきなさい。クロノス!」


クロノスが手を翳した瞬間、パーティー会場に戻って来た。円卓には白いテーブルクロスが引かれ、結婚式のテーブルみたいに飾られていた。


「立食形式は終わり。

ここからはコース料理を楽しんでねぇ。」


ニフラムさんがカッコよく指を鳴らすと、

メイドさんや執事さんの格好をした人達が

料理を運んできた。


「会議はお終い。リラックスして食べようの会に変わりましたー。

心置き無く食べてねー。」


目の前に美味しそうに焼かれたチキンが…。


「わぁー!あしゅ見てみて!鶏!!」


『そうだな。

シュヴァルツの好きな物だな。』


「うんっ!あしゅも食べる?」


『いや、私は…』


「食べないの…?」


『……頂こうか。小さく切り分けてくれ。』


「うんっ!」


相変わらずシュヴァルツさんは子供のまま。アスクレピオスそろそろ胃に穴空くんじゃないかな。などと思っていたら貰ったスマホが振動する。


失礼の内容に机の下で起動すると

ニフラムさんからだった。

いつの間に文字打ったんだろ。


“今のシュヴァルツに疑問を抱いている事だろうからコレで伝えるね。返信は取り敢えず

不要。振動するまでは料理食べてて。”


と書いてあった。

シュヴァルツさんについて…か。気になる。


僕はスマホをポケットにしまってチキンを

ナイフとフォークで切り分けて口に運んだ。


…あ、めっちゃ美味い。

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