第90話『データによると』

前回のあらすじ


振り返りつつお話ししてます!

大人って怖い。


 …


シャル君が喋る番。皆が彼を見つめる。


「私は変装した後、ローランド=ローゼンと

別れアルファクラス男子生徒3人組に声を掛けられたのでアビスについて聞き出そうと思いました。すると彼らはアビスの事を思い出せず錯乱。それに驚いて1人に黒いカプセルを

持っているかと聞きました。錯乱しつつも

話が通じ、彼の胸ポケットから弾けていない堕天アンヘルが出てきました。焦りすぎて残りの2人の堕天アンヘルは確認出来ませんでした、すみません。」


男子生徒3人組は女装シャル君に鼻の下伸ばしてホイホイと寄ってきたんだな…!

誰だ天誅下すぞ…!


「気にすんなよ。普通焦るし、焦ったら

そりゃ確認し忘れるわ。な、シヴァ?」


アーヴァンに頷くシヴァ。

彼を見てシャル君は頭を下げた。


「ありがとうございます。以後気を付けます。

…あれ、そういえばその堕天アンヘルは…」


『マスターが持ってたのをこっそりと取って、3人組を眠らせてベンチに座らせた時に

小さな結界作ってその中で潰して土に溶かしたわ!』


ダブルピースでシャル君に微笑む

アルテミス。ふわふわしてそうで

案外ちゃんとしてるんだな…。


「あら、

お淑やかに見えて案外雑ですのね?」


アムルさんがすかさずシャル君を揶揄うが


「何分男ですので…つい。

以後気をつけます。ありがとうアルテミス。」


とイラついた声で反応する彼は怖かった。

ユリウスさんは眼鏡を布で拭いて掛け直してからシャル君に話す。


「アルテミスのその処理で解決するなら

いいですけどね。続きは?」


「その後、リリアン=ナイトイヴが私を呼び、共にアルファクラスへ向かいました。そこでローランドとも合流して3人教師を呼びに行く事になり、シオン=ツキバミ先生、スピルカ=アストレイ先生、エクス=アーシェ、メルト=ガーディア、ヨシュア=アイスレインと合流致しました。」


「なるほどねー。何で堕天アンヘル使ってないのに錯乱するんだろーねー。

リリアンちゃん、何か知らない?」


とやる気なさそうにニフラムさんはリリアンさんに話を投げる。それを受け止めた

リリアンさんは少し考える素振りを見せる。


「確か…シャーロットが対処したあの3人組は……朝にアビスとお話していた気がします。定かではありませんので分かりませんが…」


するとシュヴァルツさんが静かに口を開く。


「……その時か昼休みに手を打った…という事かな。天使クラスの1部も被害を受けてる訳だし…。…もしくは…堕天アンヘルが勝手に弾けたという話だけど…アビスがアルファクラス全員に堕天アンヘルを渡して彼の指示で弾けさせる事が出来るのなら…姉さんが教室を出た後スグに…ぱーんって弾けさせて…全員気化したのをすっちゃったとか…?」


彼はちらりとヒメリア先生を見る。


「しかしそれだとリリアン=ナイトイヴが1人だけ平気だったことはどうなる?」


「…うーん…アーサー王のスキル…とか?」


その発言で全員がリリアンさんの

隣に浮いているアーサー王を見る。


『私の固有スキルは【栄光の冠】といって

弱体化、状態異常の効果を95%カット出来るのものさ。マスターも90%カット出来る。』


無敵ではないけどとても強いな…それ。

でも残りの10%は効くって事だよね…

大丈夫なのかな、リリアンさん…。


「…堕天アンヘルが状態異常扱いになるのなら……君にあまり効かないのは分かるね……そういう強いスキルは…ランクの高い…強い召喚獣じゃないと…無いからね…。それに召喚獣がスキルを持っていたとしても…魔法で召喚士に付与させるか…

庇ってあげなきゃいけないだろうし…。」


僕がモーブにやられたのはゼウスが状態異常無効化EXを所持していたけど僕との共有スキルは全知全能だから状態異常無効化は

僕に無かった故に…って事だよね。…あれ?

僕、ゼウス居なくちゃ結構弱くない?


ユリウスさんは口を尖らせながら


「………堕天アンヘルが有れば良いのですがねぇ…一応私の考えだと、堕天アンヘルの効果は召喚士の魔力を染め上げて召喚獣を闇に堕とし暴走させる。

そしてその堕天アンヘルにはシオンさんとエクス君を襲った忘却香が混ぜられていた…と考えます。そうすれば堕天アンヘルを使用した皆さんは彼を忘れるという事が

納得出来ます。」


とペン回し。それに対してディアレスさんが


「忘却もバステの1つってか。

はぁ〜…めんどくせぇ…。」


と腕を組む。


「でもアスクレピオスでも治せなかったんですよね?」


リンネさんの問にアスクレピオスは黙り込む。


『…。』


ディアレスさんの言葉…忘却もバステ?

それなら望みはあるんじゃ…?


「ゼウス、耳貸して。」


『む?耳を千切ろと?』


 物騒!!


「耳寄せてって事!」


『そちらか。良いぞ、どうしたマスター。』


僕は屈んだゼウスの耳元で


堕天アンヘルの力が全部デバフやバステになるのなら…状態異常として捉えられるのならゼウスは治せる?」


と聞いた。するとゼウスは姿勢を戻し

腕を組んで自慢げに微笑んだ。


『無論、治せる。その証拠にプロメテウスのマスターを回復させたろう?』


「そっか!あのすみませんニフラムさん!」


「どしたエクス君。」


「ゼウスなら堕天アンヘル被害者を治せると思います!」


また皆が驚いた顔を僕に向けた。

しかしシュヴァルツさんとアスクレピオスだけは驚いていなかった。アスクレピオス…

腕組んでるからあまり見えないけど中指立ててるぞアレ。ダメだ気にするな、

僕は話さなきゃいけないんだ。


「あ、堕天アンヘルの被害者であるクリム=アルカンシエルさんは一時的に召喚獣を

出せなくなるという事が起こりました。

その時、ゼウスが彼女の召喚獣を出せるように治したんです!」


…あ、しまったコレ言ってなかった。

怖くてゆっくりとシュヴァルツさん達を見るとアスクレピオスが蛇と共に睨んでいた。


『私はそんな事聞いてないぞ…?』


おぉっと殺気だ!殺気が凄い!


「…まぁまぁ…。クリム=アルカンシエル…

その時、身体に異常は無かった…?」


クリムさんは肩を震わした後、

ぶんぶんと首を縦に振る。


「は、はい!ありませんでした!

元気でした!」


『それにおじーちゃんが治してやったのだ!気にする必要は無いだろう!』


『(スッ)』


流石アスクレピオス。

ゼウスに向かって両中指2本立ててる…。

アポロンもアワアワしてる。


「はぁい、喧嘩はやめようねー。

ひいじーちゃんでもあり父親でもある彼が

怒っちゃうから。」


『『!』』


ニフラムさんが言うようにクロノスは……

怒ってんのかな。ずっと真顔だけど怒ってんのかな。けれどゼウスとアスクレピオスには効果抜群。2人とも黙っちゃったよ。


「よろしい。じゃあエクス君、ゼウスと共に病院の回復手伝ってもらえるかな。」


「はい!」


 大仕事…!頑張るぞ!!


「ニフラムさん、

私そろそろ我慢出来ないのですが。」


ユリウスさんが急に口を開いた。我慢?

でもニフラムさんは首を横に振って


「まだダメ。メルト=ガーディア。」


と名指しした。急にメルトちゃん?


「は、はい!」


「君はスピルカの話だとリリアンちゃんと

一緒に暴走した生徒を止めて保護に回ってくれたそうだね。

その時に気になる点とかあったかな。」


「…気になる点……あ、はい。あります。

えっと…元々オロチという人型の召喚獣だったのに堕天アンヘルの力か何かでヤマタノオロチ?っていう8本の首を持った大きな竜になった事とか、オロチの召喚士じゃない堕天アンヘル被害者からも魔力と生気を吸っていたところ…ですかね。

沢山生徒が倒れてました。」


ヤマタノオロチ…おかしくなったヨシュアとメルトちゃん、リリアンさんとスピルカ先生が止めてくれた怪物。回復優先してたから

見てることしか出来なかったけどあれは確かに強かった。


「ふーむ…その子の名前は?」


と言うニフラムさんの問に


「テト=カムイ…私の友人です。」


とリリアンさんが目線を下げて答えた。

悲しそうな彼女にリンネさんは優しく


「そうだったんだね…。

辛かったろうに。よく頑張ったね。」


と褒めて、アーヴァンが


「偉いぞ!」


と眩しく笑った。それによってリリアンさんは少し笑顔になった。

だけど小さくシュヴァルツさんが呟いた。


「…彼女は…意識戻ってないよ…。」


「…!」


僕達は極力病室の外に出るなと言われて

他の生徒がどうなのか知ることは無かった。

お見舞いも行けなかった。行ったところで誰?くらいの仲だし別に良いかと思っていたけど…リリアンさんはアルファクラスで、

僕達とは違うメンバーで授業を受けているんだから話が違うよな。

でも!だからこそのゼウスだ!


「ゼウスと彼女を起こします!ね!」


『うむ!』


「ありがとうございます、アーシェさん…。」


涙を堪えて微笑む彼女は強い人だ。


するとユリウスさんが話を掘り返す。


「シュヴァルツ、アスクレピオス。

意識が戻っていないとの事だが…

その子の治療は終わっていたのですか?」


シュヴァルツさんは頬を撫でる髪を左耳に

掛けてヨシュアをちらりと見てから頷いた。


「…うん…アスクレピオスと一緒に…

個室の彼女を治療…した。

いつ起きてもおかしくない…んだけど…」


『目を覚まさん。…チッ』


それを聞いたユリウスさんはニッコリと

笑顔になって何故か嬉しそうに話す。


「それはそれは…聞いたデータによるとそれと同じ状態だった子が居るはずですね!

いや…その前に。最初のニフラムさんの問を弄って聞きましょう。

アビス=アポクリファと接触したのは

エクス=アーシェ君とレン=フォーダン君だけですか?」


…何だ、この人…。何でいちいち



ヨシュアを話に引きずり出そうとしてるんだ…?



ヨシュアは正気じゃなかった。

本人もやり取りを覚えていないはず。

なら言う意味は無い。だから…


「「はい。」」


と僕とレンは答えた。

…レンも考えは同じか。するとユリウスさんの目の前に1つの黒い羽がふわふわと舞い落ちた。それを手にしたユリウスさんは…

所謂ゲス顔になり


「…エクス=アーシェ、レン=フォーダン。

貴方達、国家最高機関ヴァルハラと教師に

向かって嘘を吐いていますね?」


僕達を嘘吐きだと言った。

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