第130話『大嫌いなセカイ』

前回のあらすじ


ゼウスと気まずくなった直後、彼に強く突き飛ばされました。



身近に起こる小さな嫌なこと。

それは全て人間が関わり、起こしている。


ゴミをゴミ箱以外のその辺に置いたり、

捨てる奴。

誰が拾うと思っている。

世界はお前のゴミ箱じゃない。


何食わぬ顔で列へ横入りし、並んで待ち続けた人を踏みにじりながら我先へと行く。

何故待たずしてお前が先を行く。



大きな嫌な事だってそうだ。



他人を騙し、蹴落とし、金から命まで全てを奪って満足している者。


他人の必死な頑張りを見ようともせず一方的に蔑ろにし、名が知られないことを良い事に言葉で、態度でズタズタと傷付ける者。

自分でその人の苦労を、頑張りを身をもって体験しろ。


虐めている奴が楽しそうに笑って、虐められた方は絶望しなくてはいけないのだろう。

虐めている奴さえ居なければこんな絶望は感じることが無かったのに。

何故辛い思いを植え付ける奴が笑っていて、何も悪いことをしていない者達が悲しみ、

苦しみ、我慢をし、時には自ら命を絶ってしまうのか。


何故同じ人間が生み出した脅威に怯えなくてはならないのか。


何故ルールを破り、悪態を撒き散らす馬鹿共がのうのうと生きていて、正しい行いをする者が嫌な思いをし、それを我慢しなくてはならないのか。


そんなの間違っている。

俺はこの世界がとてつもなく歪んで見える。

大嫌いだ反吐が出る。

俺は、俺達は間違っちゃいない。


悪人に裁きを。悪人に罰を。

俺ら以外にも苦しんでいる人間は沢山居る。

でも為す術がなく、我慢し続けている。


それらを救う、その為に俺は悪魔憑きになったのだから。


俺達は腐ったこの世界を壊す。

それは正しい。正しいのだ。


そう、このクソみたいな世界で起こす戦争だって正しいんだ。



「We Are Right!

そう、俺は何も間違っちゃいないのでス!」


『ノイズ…!まだ居たのか!』


「逆に何で帰ったとお思いデ?」


の、ノイズ!

ゼウスが僕を突き飛ばしたのはアイツが拳銃を持っているからか!

ゼウスの元へ行かなきゃ


『来るなマスター!』


「っ!」


足を止めた僕を一瞥するノイズ。


「別に狙いませんヨ。

貴方だってそのかすり傷でご理解してるでしょウ?」


かすり傷…?


よく見るとゼウスは左の脇腹を押さえている。ノイズが撃ったのか?


僕はゼウスの右側に居た。

確かに僕を狙っていなかったのかもしれない。でもゼウスが僕を突き飛ばすくらいだ。

多分僕を狙う振りをしてゼウスを撃ったんだ!


「それにしてもあんなに目立つ物を立てちゃって大丈夫でス?」


ノイズは首を動かし後ろを向いた。

その視線の先には…


『!』


雷の柱…。


「あレ、道標でしョ?

なら俺はこうしますよネ。“動ケ”」


『…?』


アイツは右手を小さく上げた。

するとドシンドシンと地響きが始まる。

この音…まさか…


「森の主が皆の所へ向かった…?」


「ゼウス様のマスター君、正解〜!」


そんなノイズを睨みつけるゼウス。


『チッ…瘴気に紛れて上手く隠れおって…』


「今のゼウス様じゃ感知能力も案外衰えているのですねェ。

マスター君が弱いから大変ですネ!」


ぼ、僕が弱いから…。


『マスターのせいな訳あるか。』


「ゼウス…。」


『よくも我が最強のマスターを蔑んだな。

その命、不要と見た。』


ゼウスは神々しい杖を顕現させた。


「きゃー怖いでス〜!



…なーんちゃって。」



次の瞬間、


『っ!?』


ゼウスの口から血が零れた。


「そんな!」


『うっ…どういう事だ…!?』


「チッやっぱ完全には消えないか。

改良の余地ありっと。」


人差し指で拳銃をクルクル回して何か呟いてる…。あのゼウスが血を…。


『…』


しかしすぐに血は止まり、口元を拭うゼウスにノイズは驚く。


「あレ!?

もう治したのですカ!?」


『ふん、造作もない事だ。

この我に堕天アンヘルの類が効くとでも思うたか。』


ゼウスの口調が大きく変わってきた。

これは相当怒っているな。


『貴様に与える慈悲は無い。

貴様が壊した生命の痛み、その身を持って味わい償え。』


「く…これは予想外でしタ。

しかしゼウス様、貴方間違ってますよ。」


ノイズの話し方が普通になった…。


「俺が壊した生命の痛み…もう味わっているんですよ。俺はそれを返しただけ。

順序が逆なんです。」


常に笑っていたノイズから笑みが消えた。

ノイズの言いたいことってつまり…


『やられたからやった、か。

所詮人間の童だな。稚拙にも程がある。』


「貴方から見れば人間誰しも童でしョ。

ま、システムに言ったって意味ありませんガ。」


ノイズの口調が元に戻った。

アイツはまだ喋り続ける。


「あはァ…森の主行っちゃいましたヨ〜?

貴方達でも仕留められず苦戦していたのですかラ…


仲間の誰か死ぬかもしれませんよ?」


死ぬかもと聞いた瞬間、

僕の心臓が飛び跳ねる。


「花嫁は殺しませんがネ。

花嫁攫った次はアビスの言う玉藻前のマスターを殺しまス。」


玉藻前のマスターって…



シオン先生だよな?



「あの狐、少々厄介なのでネ。」


ん?その台詞…まるで


『まるで知ったような口振りだな。』


僕の思ったことをゼウスが言ってくれた。


「知ってますとモ!ホムンクルスちゃんを

一瞬で灰にした狐とネ!」


両手を広げるノイズにゼウスは


『いや、違うな。』


と言い放つ。


「は?」


『貴様の瞳から僅かな動揺を捉えた。

別の事で知る機会があったのだろう。』


「動揺?俺がですカ?」


『応えよ。』


有無を言わせないゼウスの圧力に押されたのか、ノイズは上がっていた口角を下げて口を開く。


「俺のこと、嘘吐いたのがバレたから真実を言う在り来りな馬鹿だと思いますカ?」


『あぁ、思うな。』


「うわぁ酷いナ〜!

こんなに情報を提供しているのニ!」


確かに…何でペラペラと情報を話すんだ?

全部嘘だから?

勝つ自信があるから?


『貴様の勝手に付き合ってやってるんだ。

相応の対価だろう。』


「はぁ…ちなみに言っておきますけどさっきの本当ですからネ。

それに、君達の魔力も狙っているんですヨ?大人しく斃れよ。」


はぁ?


「それは…」


『こちらの台詞だ!』


僕とゼウスはノイズに向かって同時に杖を突きつける。


「先生も皆も護る!やるよゼウス!」


『あいわかった!』


さっきの気まずさは捨てる。

そうじゃないと皆が危ない。ゼウスも分かってくれているから答えてくれる。

大丈夫、大丈夫!集中して…


「天帝神雷…」


『天誅!!』


え?ゼウスも僕と同じ魔法を!?

僕の杖とゼウスの杖から雷龍が飛び出す。


ゼウスの龍がとてつもなくデカくて僕の龍が蛇に見えるほどの差があった。


「え、でか。」


ノイズの呟きは雷が爆ぜる音に掻き消され、僕の耳に届くことは無かった。


彼は雷龍に喰われ、龍が消えた時ノイズは湯気を立てながら倒れた。


「ゼウスも使えたんだね、天帝神雷。」


『マスターのとは少し違うがな。

私も言ってみたかった!』


子供のように笑うゼウスを見てもう怒っていないんだと思い安堵する。


『それとマスター、1つ。』


「何?」


『先程の天帝神雷は私が真似て撃った。

これが模倣魔法だ。』


もほーまほー?


『自分なりにコピーしたのだ!』


え、そんなこと出来るの?



…出来たなそういえば。


ラスボスだったレンの全攻撃リフレクトを模倣して戦ったような…。

でもそれはゼウスのレベルが完凸していたような?

世界とゲームとじゃ違うのかな。



『これは発動元が召喚士、召喚獣を問わず私がこの目で見た魔法を模倣する事が出来る。』


「うん。」


『故にノイズが行った森の主への指示。

あれを模倣しようとしたら出来なかった。』


「つまり魔法じゃないってこと?」


『うむ。それにアイツが喋る前にカチと音が聞こえた。道具でも使っているのであろうな。』


「へぇ…あ!

ならもう道具は壊れてるんじゃないかな?」


期待を胸にノイズを見ると、ゆっくり起き上がって黒のロングコートに付いた土を払うのだった。


『…』


「な、何で生きてるの…!?」


「悪魔憑きってネ、丈夫なのでス。」


上げた顔には火傷の1つさえ無かった。


『(正体を知らねば…しかし次のスキルロックを外すのには時間が掛かる!)

チッ…ロキが居れば!』


「そんなが居たって俺のことなぞ分かりませんヨ!

じゃ、俺は合流して花嫁の所に行きますんデさいなラ〜!」


ノイズが手を振りながらまた消えていく!


「待て!」


詠唱無しで雷の玉を放つが、ノイズをすり抜け木の幹にぶつかり爆ぜた。


「くそっ!」


『マスターまずいぞ。

ノイズは1人ではないようだ。』


「えっ!?」


『合流して花嫁の所へ、そう言った。』


「!」


『更に森の主を操る術が私の読み通り道具だとしたら…』


「その仲間も持っている可能性が高い…!

戻ろうゼウス!」


『うむ、最高速度で向かう!

私の手をとれマスター!』


「うんっ!」



ゼウス様が立てたであろう柱の傍に来てから時間は経ったと思うのですが…


「レン君とヨシュア君、遅いですね…。

大丈夫でしょうか。」


とオレが不安を零してしまうと、

ユリウスさんが拾ってくださった。


「大丈夫ですよ。

あの子達図太いでしょうから。」


「はい…。」


「!おいお前ら…構えろ。」


ディアレスさんに言われ、戦闘態勢を取る。

アルテミスと目を合わせ頷き合い、

オレとユリウスさんの前に出てくださった彼の背中を見やる。


「何かやべぇもん来るぞ。」


「やべぇもんって…酷いな。」


瞬きした一瞬で、白いロングコートを着た男性が立っていました。

男性の右目には白薔薇の眼帯があります。

何でしょう…この人、変です。


「こんにちは、エンデュと言います。」


変であるとは思うのですが何処がと聞かれたら答えられない、フワフワした感じ…。

皆さん口から声を出せずにエンデュさんを

見るしかありません。


「実は人を探しているんだ。」


人…?


「まずは君。

ライアーが一目惚れした女の子だよね。」


エンデュさんの人差し指はオレを差していた。ライアー…やはりこの人もあのカラスと同じ敵!


「…」


身体は動くのに声は出ません。

出ない、というより出したくないような…出したらいけないような…一体何なのでしょう。


「それと実はもう1人探しているんだ。

でも此処には居ないみたいだね?

残念だな。」


何を仰っているのでしょう。

オレ以外にも誰か狙われている?


此処というのが森全体以外を指しているなら誰か分かりません。

今この場を指しているならヨシュア君、

レン君、エクス君が含まれる。


1番可能性があるのはエクス君…?


何にせよ、この人は敵。

ユリウスさんもディアレスさんも戦闘態勢に入っている。

オレは1人じゃない、大丈夫。

ローランド君に怪我をさせてしまった時と状況が違う。1番弱いのはオレという事が変わっていないだけ。


オレならやれる。

オレ達なら…!

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