第69話『人形劇:序曲』

前回のあらすじ


召喚士を殺すと言ったアビス。

逃げようとした彼を捕まえようとしたら

ゼウスがスキルを全てロックされるという

異様な出来事が起こりました。

倒れたヨシュアを背負ったレンと共に

ヨガミ先生と合流して話すことに。


 …


言い合うヨガミ先生とアポロンを放っておき、レンに色々と話した。

レンは僕から自らの足先へと視線を移した。


「へぇ…なるほどね。神クラスの少数が俺を変な目で見てる訳だ。その目の理由は魔獣殺しの時に俺が居たからなんだね。」


「うん。

(それ以外もあるけど)何していたの?」


「エクス君について行ったんだよ。

面白そうだったから。でも目を付けられたくなくて尾行って形でだけどね。ある程度したらベヒモスとグリフォンが死んでたから気になって触って調べていたんだよ。」


触る必要あるのかな…。


「エクス君達にバレたら先生に告げ口されるかもって思ってその事を隠したんだよ。」


…納得出来ちゃうな。僕が単純だから?


「あと堕天アンヘルって言ってたよね。

何なのそれ。」


「アビスが創った召喚士を介して召喚獣を

闇に堕とす危ないものだよ。召喚士の魔力が闇に染まって召喚獣が狂っちゃうんだって。召喚獣は召喚士の魔力や生気を吸っちゃって、吸われた召喚士は廃人化するらしくて。

だからヨシュアが心配なんだ。」


「なぁるほどね。」


「あ、そうだお前ら。

シオンとスピルカ見なかったか?

あー…シオン=ツキバミ…せんせぇ。」


ヨガミ先生はスピルカ先生とシオン先生を

探していたのか。…嫌々先生を付けたな。


「シオン先生は僕らを先に進ませるために

生徒の相手をしてくれていました。でも怪我してしまったようで…スピルカ先生はアルファクラスで戦闘を…その後は生徒の手当を

メルトちゃんとリリアンさんと一緒に。」


「そうか。じゃあ別棟にいぐへっ!!」


いぐへ?

ヨガミ先生は何故かしら前につんのめって転けた。よく見ると腰の辺りに女の子が。

あれ?この髪色…


「イデアちゃん?」


聞くと女の子はその場でガバッと顔を上げた。


「やっぱりエクス君だー!!

エクス君とヨガミ先生だろーなーって思ってダッシュして来た!」


猪突猛進…。

イデアちゃんはヨシュアを背負うレンを見た。


「あれ?貴方はさっき会った…」


「やぁ、元気なお嬢さん。さっきぶりだね。俺はレン=フォーダン。天使クラス代表だよ。

よろしくね、イデアちゃん。」


「えっ何であたしの名前を?」


「…僕が名前呼んだからだよ。」


少し呆れている僕に気付かないのか

イデアちゃんは素直に納得した。


「あ、そっかー!天使さんこんにちはー!」


『…?こんにちは。』


ルシファーにまで挨拶するんだ…いい子。


「イデアちゃんの召喚獣はその小さい人?」


とレンは小さくなったロキを指差す。


「うん!ロキだよ!」


ロキは口を尖らせた。


『男に興味なんてありまてーん。

つーかプロメテウスのマスターだよなそれ。何でお前が背負ってんの?』


あ、やっとヨシュアの話題に。


「倒れちゃったから運んでるの。」


レンの笑顔に疑いを向けるロキ。


「ロキ、今回は僕も居たから…

レン君に助けてもらったから…。」


『ふぅん…。そう。』


訝しげな表情を浮かべながらも頷いた。


「あのー…イデア?そろそろ離れてもらっていいか。重くはないが顔面が痛てぇ。」


ヨガミ先生の倒れている顔の辺りには赤い水溜まりができつつある。


「あ、はーい。」


ヨガミ先生から離れ立ち上がった

イデアちゃんにレンは微笑みながら


「イデアちゃんも一緒に行こう?」


と言った。僕の台詞取られた…。


「うん!」


あれ?


「そういえばスカーレット君は?」


するとイデアちゃんは俯いてしまった。


「あたしを守ってくれて別行動になっちゃったから…分かんない。

離れた場所へ戻ったら居なかったの。」


『この辺りから気配も無くなってるしなー。ま、生徒もバケモンの気配もだけどさ。』


「イデア、多分スカーレットも別棟に居る。

…あ。おーい!駄犬!」


ヨガミ先生の視線の先にはすっごく大きい

狼に乗った男の人が。彼は


「だぁれが駄犬だワカメ!」


と中指を立てた。

穏やかじゃないな。


「生徒達をフェンリルに乗せて別棟まで連れて行って欲しいんだ。」


「はぁ!?何でそんなこと…」


「ラブラビに頑張ってたから褒めてやれって言ってやるから。」


それが決め手だったらしく


「よっしゃテメェら優しく乗りやがれ!」


と嬉しさを隠せていないニヤケ面でそう

言った。ラブラビ……あ、保健室の先生か!お医者さんの!

でこっちはお供のルプス=ウルフレイさんか。実際見るとヤンキー気質だなぁ。


フェンリルが座ってくれて乗りやすくなる。

うわ、ふわふわもふもふ!


「お前ら、コイツはあれでも医者だ。

自分の身体に違和感があったら包み隠さず

言うこと。いいな。」


そう言うヨガミ先生はフェンリルに乗ろうとせずアポロンと並んで立っていた。


「ヨガミ先生は?」


「見回りしてからそっちへ行く。」


「分かりました。お気を付けて。」


「おう。」


「わー!もふもふ〜!!

ロキ!もふもふだよ!」


するとフェンリルが立ち上がり、走り始める。


えっ速!!高!!怖!!


そんな恐怖と戦いながら僕、レン、イデアちゃんは別棟へ移動した。

別棟…ゲームだとイベントで数回しか訪れない場所。塔のような造りで広さも1階だけで生徒全員入れるほどだ。クリスタルのある大聖堂とは別の聖堂みたいな所。

…皆無事だと良いけどな…。


フェンリルに乗って見える景色は速すぎて

よく分かんない。頑張って目を凝らしたけど倒れている生徒もホムンクルスも居なかったと思う。


「着いたぞ。扉の前にオペラ=ベルカントと

ヒメリア=ルージュが居る。だから身構えなくていい。その坊ちゃんを早く助けてやれ。

じゃあな。」


フェンリルから降りたらルプスさんは来た道を引き返した。ヨガミ先生追うのかな。


ルプスさんに背を向け、扉へ向かう。

あ、オペラ先生とヒメリア先生が本当に

立ってた。


「オペラせんせーい!」


とレンが手を振ると肩を震わせたオペラ先生。

ヒメリア先生もこちらに気付いた。


「レンではないか!無事だったか!」


とオペラ先生がミカエルの人形を向けた。


「えぇ、何とか。

エクス君達と合流出来ましたし。」


するとヒメリア先生が頭を下げた。


「3人とも、ウチの生徒がすまなかった。

無事で良かった。が、その銀髪は…」


心配そうにヨシュアを見る先生にはいつもの覇気が無い。


「ヨシュアも戦ってくれたんですよ。」


と僕が言うと黒いファイルを取り出して

ペラペラと捲る。


「ヨシュア…ヨシュア=アイスレインか。」


それブラックリスト…

それで確認するのやめてください…。


「一先ず中へ。ラブラビとリーレイが治療をしている。お前達も念の為治療を受けるんだ。オペラ、お前も治療へ回ってくれ。

そろそろ神クラスのアイツらが戻ってくるだろうから。」


スピルカ先生とヨガミ先生の事かな。


「…分かった。行こうか、三人衆。」


ミカエル人形に頷き中へ入る。


中の広い聖堂は薄暗く、沢山の生徒で床が

埋まっていた。…こんなに…被害者が…。

アルファクラス全員、天使クラスは多分レン以外は被害者だろう。平気な神クラスの生徒は僕達だけかもしれない。


「あらっ!オペラちゃん!ミカエルちゃん!

リーレイちゃーん!

オペラちゃん来たよー!」


「あらぁ〜!助かるわぁ〜!」


明るい声…あ、あのうさぎさんはラブラビ先生と、のんびりな声はリーレイ先生!


「ラブラビ!リーレイ!私も手伝う!

お前達はそこに座って休んでいなさい。」


とオペラ先生は聖堂の奥へ、人形を付けていない左手でドレスの両裾を摘み生徒を跨ぎながら進んだ。横には赤と金の魔導書が浮いていた。何するんだろう?


「【舞台:ディーヴァ】」


と呟いたオペラ先生。

すると先生の周りに柔らかな光が纏う。


「オペラちゃーん!In bocca al lupoイン・ボッカ・アル・ルーポ!」


ラブラビ先生が謎の言葉を発するとオペラ

先生は開かない口を吊り上げた。

そして舞台のような場所に上がる。


「【アインザッツ:コロラトゥーラ】」


オペラ先生が舞台の上で口を閉じたまま歌い始めた。マイクを付けてスピーカーから音が出ているのかと思うくらい響き渡る。

どうなっているんだろう…

でも凄く癒される。よく見るとオペラ先生の周りの光が淡い緑になって辺りに広がっていた。


「癒されるわねぇ〜オペラちゃんの声ってぇ。腹話術なのに凄いわよねー!多分最初に魔法範囲広げる魔法でも掛けたのねぇ!」


いつの間にか隣にいたラブラビ先生に驚く僕達。


「オペラちゃんの回復能力は凄いんだよ。

オペラちゃんの舞台を見れば傷が癒えるの!素敵でしょう?」


「素敵ー!」


イデアちゃんが元気に答える。


「あ、やっぱりイデアちゃんにエクスちゃんじゃないの。」


聞き覚えのある声の方に向かうとスカーレット君が小さく手を振っていた。

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