第70話『小休止。』

 前回のあらすじ


ルプスさんのフェンリルに乗って別棟に

着いた僕達はオペラ先生の歌魔法の凄さを

見ました。

腹話術なのに普通に歌ってるみたい!!

聞き惚れているとスカーレット君が

手を振っていた。


 …


「スカーレット君!無事だった??」


僕の問に足を揃えて床に座っている彼は

苦笑した。


「無事…では無いわね。

ちょっと痛い思いしたから。」


とスカーレット君はしなやかな手で

お腹を摩った。


「どうしたの?」


「ナイフが刺さったのよ。

避けようとしなかったから自ら刺したもんだけど。」


え、痛った!!考えただけで僕も彼が

押さえているお腹の部分が疼く。

彼はそんな僕を差し置きイデアちゃんを

手招きし、頭を撫でた。


「イデアちゃんが無事で良かったわ。」


「ごめんねスーくん。

何もしてあげられなくて…。」


「何言ってるの。ロキと一緒にアタシの言うこと聞いてくれたじゃない。何もしてない

なんて言わないでちょうだい。」


「スーくん…!」


むぎゅっと抱き合う2人。

…スカーレット君ってイデアちゃんのお母さんか何かだろうか。そんな2人を見ていた

レンはヨシュアを寝かせて頬を膨らませた。


「スカーレット君、俺は〜?」


「は?」


うわ、ゴミを見る目だ。

気になるから聞いちゃおう。


「レン君スカーレット君に何したの。

スカーレット君にはレン君のこと話しただけなのにあんなに嫌われるもんかな。」


「…心当たりはあるな。妹さんに避けられてるんだけどーって相談した。」


「そりゃあぁなるね。

スカーレット君、妹さんを自分の命よりも

大切にしてるんだから。」


「あ、やっぱそうなんだ。極度のシス」


 僕は反射でレンの口を塞いだ。


「もがもがっ」


言い方ってもんがあるでしょうが!!


「エクスちゃん。手を離しなさい。

何言いたいか分かってるから。」


あぁぁあ…スカーレット君もヨシュアみたいに黒い笑顔に…っ!


「シス?なぁにシスって。」


あっイデアちゃんロキに聞いちゃダメ!!

くっ…こんな綺麗な歌声が響く中で大声なんて出せないっ!


『マスター、シスの続きにはコンという言葉が付くんだぜ。それは略語でな。

正しくはシスターコンプレックスという。

姉や妹に強く愛着や執着を持つ人の事さ。』


あーーー…言っちゃったよもう…。

するとイデアちゃんは何故か目を輝かせた。


「すごーい!スーくん凄いね!

妹さんをそんなに愛せるなんて!

大事にされてるんだねぇ〜!」


とスカーレット君の横で眠っている

クリムさんの頭を優しく撫でた。


「イデアちゃん…。

ホントに貴女はいい子ねぇ!もーっ!」


「わぁー苦しいよぉ!」


「「(何見せられてるんだろう…。)」」


今絶対レンと同じこと考えてたな。

あれ?スカーレット君の隣…

クリムさんじゃない方…


「シャル君?それにローランド君??」


寝息を立てている2人がいた。毛布の代わりに薄い布が掛けられており、シャル君の足が固定されているのに気付く。


「シャルちゃん足の骨に罅ですって。

ローランドは頭からの出血が多いけど

それ以外の怪我は無いみたいよ。」


「そうなんだ…。」


怖かったはずなのに2人も頑張ってくれてた。本当にありがとう。


「うぅ……あーしぇ…」


声…後ろから…?

振り向くと夜叉に右腕を支えられながら

起き上がるシオン先生が。

シオン先生の左腕は包帯が巻かれていた。

そんな怪我してるのに起き上がっちゃダメだ!


「シオン先生!無理なさらないで下さい!

寝ていて下さい!」


「はー…はー…そんな訳にはいかん…。

君達が無事で良かった…本当に…。

アポクリファは…?」


汗びっしょりで辛そうなシオン先生を見て

僕とレンは目を合わせる。

そしてレンが首を横に振った。


「逃げられました。」


「…そう、か。」


「ごめんなさい。僕達が捕まえれてたら…」


すると頭に何かが乗る。

シオン先生の右手だった。…冷たい。


「何を言うとんのや。謝る必要がどこにある?

感謝しかあらへんよ。

…デイブレイクは何か言っとった?」


「ヨガミ先生は…シオン先生を探していらっしゃったので此処に居ることをお伝えしました。」


「何や、僕が…あ、いや、私が此処に居ることを知っとったん?夜叉か?」


夜叉はフルフルと小さく首を振る。


「あ、僕…アビスと話している時に映像見せられてて…その時に先生のかっこいいシーンが見えて…」


「見られとったんか。何や恥ずかしいな。」


「…あの、玉藻前は?」


「煩いから戻した。」


「あぁ…。」


めっちゃシオン先生の事心配してたもんな…。

シオン先生の視線はレンに移った。


「…確か天使クラス代表のレン=フォーダンと言ったな。それとルシファー。」


「えぇ。

覚えていてくださるとは嬉しいですね。」


出たよ営業スマイル。


「ウチの生徒がすまなかった。」


と夜叉と共に包帯の手で合手礼をするシオン先生。それにレンも驚いて目を見開く。


「え、そんな。頭を上げてください!

シオン先生が謝ることなんて何も無いじゃないですか。倒れた生徒は兎も角ですが少なくとも正気の俺達は謝って欲しいだなんて思ってませんよ。

不謹慎ですがちょっと楽しかったですし!」


ホントに不謹慎…。


「そか…優しいな。

さっきテレサリアとラブラビが話しとんのを聞いたんやけど皆、一旦国が運営している

病院へ入院やと。

何も無い君達も入院やて。

もしかすると時間差で悪い作用とか出てくるかもしれんから。」


「「え、国の病院?」」


うわ、レンとハモった。


「国で1番大きい病院や。学校全員が入院したって医者も居るし場所もある。…こんな形で学校から出ることになるとはな。…はぁ。」


「溜息吐くと幸せ逃げるってスーくん言ってたよー?」


いつの間にかシオン先生の顔を四つん這いで覗き込むイデアちゃん。

シオン先生相手の時はこ、言葉遣いに

気を付けて!!怒るから!!


「せやなぁ。逃げてまうなぁ…。」


あれ?怒らない。


「考え事?」


イデアちゃんの大きな目に折れて溜息混じりに


「…定例会議嫌やなぁ思うて…。」


と呟いた。シオン先生もか。


「定例会議好きなやつなんておらへんわ。

…もしかすると君達も呼ばれるかもしれへん。」


「「え!」」


先生だけじゃないの!?


「…あんま来いひん方がええけどな。

取り敢えず病院で入院や。話はそれから。

…治れば城下町散策でもしいや。

特別に許したるさかい………

と言っても許可もぎ取らんとあかんけど。」


「もぎ取ってくれるんですか?」


レンが首を傾げるとシオン先生は目を閉じた。


「生徒への詫びと言ったらこれくらいしか思いつかんへんから。ルージュや他の教師とも相談する。だから大人しくしとってくれ。」


頷いてオペラ先生の歌に耳を傾ける。

その間にメルトちゃん、リリアンさん、

スピルカ先生、ヨガミ先生、ルプスさんも合流した。


最後にヒメリア先生が入って扉を閉めた。


「あ、全員揃ったみたいだな!ではっ」


とさっきまでの美しさはどこかへ行った

オペラ先生が光の速さで舞台から降りた。


「ではちゃんと休むように。

っう……行くで夜叉。」


『は。』


左腕を抑えながらヨタヨタと教師陣の元へ

行くシオン先生。大丈夫かな。


「俺めっちゃ元気なのに入院かー。

エクス君は?」


「僕も元気だよ。」


他の皆を見回すけど意識が無く寝ている人達ばかりで話しているのは僕達と先生達だけ。意識があるのは僕達だけだから当たり前なんだけどさ。

メルトちゃんもリリアンさんも切り傷が酷い。女の子なのに大切な肌や髪も傷ついちゃって…悲しんでないかな、大丈夫かな。


「うーん…無傷なの俺とエクス君とイデアちゃんだけだね。」


「ね。」


するとスピルカ先生がアストライオスの呼び出した大きな羊に跨って宙に浮いた。

え、可愛い。羊は牡羊座かな?


「よーうお前らー!起きてる奴居るかー!」


一応意思表示として小さく手を振る僕達。


「エクス達は元気だな!他にもチラホラと

居るな!だがしかーし、元気なお前らも全員国の病院へ入院が決定した!

もうすぐ国の治療班が来る。転移魔法は範囲が遠すぎて使えないんだ。だからこその治療班がワイバーンに乗って迎えに来てくれるんだ!だからちょっと待っててなー!あ、気分が優れない奴はちゃんと言うように!

それ以外の皆はー…それっ!!」


スピルカ先生が飛んで羊から離れると羊が

パーンッと分裂した。

ギョッとしたけど…僕達一人一人の目の前に小さな羊が降ってきた。

両手でキャッチすると


『めぇ。』


と可愛く鳴いて笑った。


「え、生きてる…。

生けるぬいぐるみ…!!」


ふわふわ…!!


「スピルカ先生とアストライオスの癒し提供だ!牡羊座アリエスをもふもふしてるとふわ〜っと癒されるんだぞ!」


スピルカ先生はアストライオスと手を繋いで宙を舞っていた。辺りが暗いから壁や遠くの天井にまでプラネタリウムみたいに沢山の星を映し出してくれて先生も疲れてるのに笑顔にしてくれて…凄いなぁ。


こうして僕達は国の治療班を待つことにした。

 

まさか卒業より前に学校の外に出るとは…。

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