第125話『カラスって食べられますか』

前回のあらすじ


突然黒い雪が降ってきたと思ったら猪の亡骸に付着。すると猪が復活。

倒しても何事も無かったかのように起き上がってくる不死身部隊となってしまった。

そして森の主の攻撃によって僕達は散り散りになってしまいました。

僕とゼウスは森の主に別れを手向けようとしたら…



「ローランド君おはよー!」


「おはよー!」


教室へ向かう際の廊下で可愛らしい女子2人の挨拶に振り向くシャーロットの相棒、

ローランド=ローゼン。


「おはようイデア君。メルト君。」


相棒が傍に居ないことが気になったメルトは首を傾げた。


「あれ?シャルちゃんは?」


「朝からヴァルハラに呼び出されたようだ。

我がライバルと一緒に出ていったが…

深刻な顔をしていた。」


「ついでに言うとレンもヨシュアちゃんも

居ないわよ。」


前からスカーレットが歩いてきた。


「「スカーレット君おはよ!」」


「おはよう深紅の友よ!」


スカーレットは微笑みを返す。


「おはよ、3人とも。

2人は廊下で走っていくのを見たわ。

つまり今居ないのはエクスちゃん、ヨシュアちゃん、シャルちゃんにレン…ヴァルハラのチーム分けね。」


イデアが納得した顔を向けた。


「あ、ホントだね。

確かユリウスさんとディアレスさんだ。」


2人の名前を聞いてメルトが


「大丈夫かなぁ…」


と小さく呟くとスカーレットが彼女の肩に

手を置いた。


「大丈夫よ!エクスちゃん達だもの。」


彼の言葉にメルトは笑顔になる。


「…そうだよね!

どんなことでも絶対無事!!」


口ではそういうものの心配の表情が拭えないメルトと眉間に皺を寄せるローランド、

目線を下に向けるイデアを見たスカーレットは空を見た。


「このアタシに心配かけてんだから絶対無事でいなさいよ、エクスちゃん達…!」



「ぜ、ゼウス…?何がまずいの…?」


『…』


黙って倒れた森の主を凝視するゼウス。

な、何かあるの?


疑問に思ったその時、ゆっくり、ゆっくりと森の主が起き上がり始めた。


「え…?」


『っ…もしやとは思っていたが…森の主まで



不死身になっているぞ…!』



ふ、不死身…!??


「じ、じゃあどうするの!?」


『不死身の原因を探すぞマスター!

堕天アンヘルの力が作用している何かがあるはずだ!』


「わ、分かった!!まず動きを封じないと…そうだ縛り上げよう!【雷の繭糸】!」


僕の杖の先から雷の糸が伸び、森の主の足を縛った。


「よし!」


『待てマスター!糸を切れ!!』


ゼウスの言葉が耳に入った瞬間、僕は森の主の振りかぶりによって宙に投げ出された。


「おわぁあっ!!?」


力強っ!?その力で糸が切れたよ?!


『マスターッ!!』


素早く動いたゼウスに空中で受け止められ

怪我は無い。


「ご、ごめん!」


『いいや。段々瘴気が濃くなってきた。

このまま空中での見える範囲で原因を探すぞ。』


「うん。」


森の主が僕達を睨んでいる。けれど飛行能力が無いからか襲ってこない。空中…レンだけ投げ出されていなかったけど見渡す限り誰もいない。皆無事かな…。



『…ン、起きてください。レン。』


「んうぅ…」


「おにーちゃんおきて!」


「ん〜…う?」


いっててて…身体痛…地面に倒れてたの?

え、何?俺どうしたの…?

ゆっくり起き上がるとルシファーと赤ずきんちゃんが俺の顔を心配そうに見つめていた。


「ルシファー、俺達どうなったの?」


『はい。急降下したゼウス様達について行こうとしたら蔦の壁で隔離されました。その後レンの足が蔦に掴まれ墜落。最中に障壁を張りましたが完璧な緩和剤にならずダメージを受けました。』


「で、俺は?」


『レンは打ちどころが悪かったようで気を失っておりました。助けられずすみません。』


ふーん…なるほどね。


「赤ずきんちゃんは大丈夫かい?」


「う、うん!でもお兄ちゃんは?」


「おにーちゃんも大丈夫だよ。

ルシファー、皆は何処?」


ルシファーは無表情のまま


『瘴気が段々と濃くなり気配察知がしづらくなって参りました。東南にゼウス様とその

マスターの魔力を感知。

北西にトール様の魔力を感じるだけです。』


と告げた。つまりヨシュア君とシャル君、

ユリウスさんの場所が分からないってことね。こういう時は無闇に動き回るの良くないけど…


「ルシファー、皆と合流しよう。」


『承諾。立てますか?』


「当然。…?」


俺、落ちる時に足強めに打ったかな?

ぶっちゃけ痛い。


『レン?』


「何?早く行こうよ。」


『……レンが良いのなら。』


バレたな、問題ないけど。


「じゃあ赤ずきんちゃん。

ルシファーに抱っこしてもらって…」


[あはははハ!!]


「!」『!』


目の前にカラスが飛んできて不気味に笑う。


[困ってル!困ってル!

間抜けな顔で困ってル!あはははハ!!]


出会い頭にムカつくな。ルシファーに目配せして赤ずきんちゃんを護るように指示をした。俺は喋るカラスに問いかける。


「君、誰?」


[誰?誰?……お前、違うナ!]


「はぁ?人の顔見ていきなりなんなのさ。

というか質問してんのこっちなんだけど。」


[女の子!女の子探してル!!]


人の話をまるで聞かないな。

ん、女の子…?まさか赤ずきんちゃんの事?

それなら何故狙う?この子に何か力とかがあるのかな。それとも親の差し金?

後で本人に聞けば良いか。このカラスに嘘は言わないようにしておこう。


「生憎だけどこの森には男ばかりだよ。」


[そのようだナ!ちくしょう俺外れタ!]


「ハズレ?それは俺の事?」


[それ以外に何があるんダ!

もう良い報告すル!!]


そう言ってカラスはあらぬ方向へぐにゃりと曲がり、黒い渦となり消えた。


「何だったのアレ。」


ルシファーに問いかけると


『レン、あの烏はとてつもなく邪悪な気配でした。』


と答えた。

邪悪、ねぇ。あ、そうだ赤ずきんちゃんに…


「赤ずきんちゃん。君って何か凄い子?」


「?」


これは本人に自覚が無いパターンなのか、

本当に違う女の子を探しているのか…。

森の主はこの子のお世話してたみたいだし

前者の可能性アリだな。

何にせよ女の子はこの子だけ。

誰かと合流が先だね。


「ルシファー、ディアレスさんと合流しよう。トールの魔力を辿る。」


『承諾。空へ向かいますか?』


「いや、俺たちはダメ。赤ずきんちゃんが何かに狙われてる可能性高いから。

それにこの瘴気、濃くなっているでしょ?

飛んでも見つけられないかも。」


『承諾。』



『マスター。おいマスター…マスター!!

〜っ…起きろディアレス!!』


「ふげっ!?」


いっってぇ!!顔打った!!!

違う、感触からして殴られた!


「何すんだトール!!」


俺は下に居たトールに怒った。

けれどトールは真顔だ。


『私が守った故に気を失うはずが無いマスターが私の上にいて重かったから起こしたまでだ。』


って言った。


『私から降りてくれマスター。』


「ぉ、おう。他の奴らは?」


『ラジエル、アルテミス、プロメテウスが

マスターを助けた後で蔦に掴まれ飛ばされたのは見えた。ルシファーとゼウスは掴まれていなかったはずだ。』


「?」


何言ってんだ?


『はぁ…つまり、皆散り散り…いや、バラバラになったんだ。合流せねばなるまい。』


「ほーん…

ユリウス何処に居るか分かるか?」


『いや、瘴気が邪魔して魔力感知が上手くいかない。感じるのはゼウスとルシファーのみだ。』


「誰だっけそいつらのマスター。」


『忘れたのか。エクスという私よりも明るい橙色の髪を持つ少年がゼウスのマスター。

黒髪の賢そうな少年がルシファーのマスターだ。』


んー…あ、思い出した。


「あぁ、アイツらか。」


『マスターのアイツらが誰か知らんがな。』


「…おいトール構えろ。」


『!』


急に来た嫌な気配。邪悪な感じ…


[なんだコイツ!!お前女の子じゃなイ!]


目の前に突然現れたカラスが俺を見てそう

言った。女の子?


「どっからどう見ても男じゃねぇか。

お前目ぇ大丈夫か?」


[分かっとるワ!女の子じゃないってちゃんと言っただロ!!]


「そうだっけ。女ってアルテミスの事か?」


[アルテミス?知らなイ!知らなイ!]


静かな場所でカーカーうるせぇな。


『マスター、コイツ燃やすか。』


燃やす…カラスって食べられるのか。


「おう、焼き鳥にして食おう。」


『…(焼き鳥?)』


[エ??ヤキトリ?]


「カラスって鳥なんだろ?

なら焼けば焼き鳥になって食えるだろ。」


[食えねぇヨ!!!]


「食べてみないと分からんだろ。」


[カァッ!?コイツヤバイ!!

帰ル!!帰ル!!]


カラスはグルグルになって目の前から消えた。何だったんだあれ。


『マスター、早く合流するとしよう。』


「おう、アイツらちゃんと守らねぇと。」


『…あぁ。(珍しく覚えていたのか。)』



「ラジエル。ラジエル無事ですか。」


『…!』


「良かった。無事のようですね。」


それは良いがエクス君達と離れてしまった。

この状況はあまり良くない。彼らが万が一

死んでしまったら元も子もない。守らねば。


「ラジエル、皆さんと合流しますよ。」


『!』


ラジエルが1本の木を指さした。


「ラジエル?」


名前を呼ぶとラジエルの指さした方から1羽のカラスが現れた。


[ムッ!私ハズレ!!女の子違ウ!]


驚いた、今どきのカラスは喋れるのですね。

それにハズレに女の子、ですか。


「女の子とは?」


[アンタ違うワ!!女の子!!どコ!?]


女の子…赤ずきん少女の事でしょうか。

そうだったら危険なので誤魔化しましょうかね。


「女の子?此処には居ませんけど。」


[ウソ!居るって言ってたもン!!]


「誰が?」


[言うわけないでしょばーカ!!]


「ほう…ラジエル、カラスって食べられましたっけ?」


『!?(フルフルフルッ)』


ラジエルが凄い勢いで首を横に振っています。


「冗談です。でも解剖はしてみたいですね。

どうして喋る事が可能なのか気になります。

アスクレピオスに頼みましょうかねぇ?」


目を細めてカラスを見ると焦るように羽根をばたつかせた。


[か、解剖っテ!?そ、それならソコの薄汚い羽根の奴にすれば良いじゃないノ!!]


『…』


「こらこらラジエル。

指さしてもカラスは食べられませんよ。」


ラジエルの根元の黒から青へと染まっていくグラデーションの綺麗な羽根を汚いと言うとは少々…いや、大分頭にくる。


「ラジエル、この鳥を捕らえなさい。」


『!』


[ひょエッ!!]


ラジエルが手を伸ばすもカラスは気体のようになり捕まえられなかった。

どういうことでしょう…?


『…』


手を下ろして私を見ている。もう居ないという事か。ならば仕方ありません、合流する為に動くとしましょうかね。ディアレスと合流したい所ですがまずは赤ずきん担当のレン君とルシファーが無事かどうか確かめねば。


「行きましょう。」


『…。(コクリ)』

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