第37話『深淵侵食』
前回のあらすじ
ヨシュアを介抱しつつシャル君とローランド君とお風呂に入りました。
それでシャル君を女の子だと勘違いした野郎共が鼻血を噴き出す悲劇が。
今日最後の召喚をここで使うことになるとは思わなかった…。だからこそなのかゼウスは皆を回復させた後、小さくなって今日ずっと居てくれるみたい。
他愛のない話が出来てとっても楽しかったです!
これぞ求めていた学校生活!これぞ青春!
…
ドライヤー争奪戦は怖かった…。
でもお風呂で確かに疲労回復と魔力回復された気がする。自分達の部屋に戻って荷物を置いてからまた合流した。
『アルテミスのマスターはもう他人から見えるぞ!』
「はいっ!ありがとうございます!」
ゼウスはシャル君の周りをふよふよと移動する。相変わらずのお気に入りらしい。
歩いていると通り過ぎる男子生徒達がシャル君を見ていた。
むきーっ!!シャル君をっ!見るなっ!死にたくないならっ!
「え、エクス君?オレの周りを素早く動いてどうされました??あ、歩きづらい…のですが…」
「んっ!?いやっせ、世界平和のため??」
「せかいへいわ???」
「我がライバルが壊れた…。」
「エクス変なのー。」
何と言われようが僕は止めない!だってコレはシャル君と他の生徒を守る為の動きなんだから!!
「これは止めないよ!」
「えぇ…?」
僕は小さなゼウスと共にシャル君の周りをガードするように素早く動いた。食堂まで。
中に入ったら痺れを切らしたローランド君に「人が沢山いるから止めたまえ」とチョップされたので止めた。
「あっ!エクスくーん!みんなー!こっちよー!」
メルトちゃんがイデアちゃんと食券機の近くの席で手を振っていた。
「メルトちゃーん!イデアちゃーん!」
丁度メルトちゃん達の向かい側2つ、隣の対面2つの4つ空いている。
僕はメルトちゃんの向かい側!
ヨシュアはイデアちゃんかロキが苦手なのかシャル君を彼女の向かい側 (僕の左隣)に座らせ、イデアちゃんの隣にローランド君を座らせた。ヨシュア自身はローランド君と対面するように座った。皆ヨシュアの行動を気にしていないみたいで良かった。
「あら?小さいゼウス!可愛い!」
「ホントだ!かわい!」
女の子2人に褒められたゼウスは満更でもなさそうに
『ふふふ…私は完璧だからな。カッコよくもあり可愛くもある!それが私だ!』
と言ったが、言い終わったあとはデレデレしていた。やっぱ可愛い子には弱いんだな…。
「あたし達先に注文してるの!夜ご飯も朝ご飯も!皆も買ってきて!」
イデアちゃんに言われたので僕達は皆食券機に移動した。何にしようかな。大分お腹減ったしなぁ。
うーん…やばい、種類多すぎて迷う!
うーん…あ、唐揚げ定食ある!何か和風でいいなぁ。これにしちゃお。
ボタンを押すと電子板に朝も頼むなら選べ、と書いてあった。また食券のボタン押せばいいのかな?今日の美味しかったしもう1回食べよ。えーと…あ、この朝ご飯Aセットか。
ボタンを押したら2枚まとめて出てきた。
これを隣の食券受け取り機に入れてっと。
ガンッ
「痛って!」
透明の円盤は相変わらず頭に降ってくるの何なんだろう…っ!!
とイライラしつつ2人が待つ席に戻る。
座るとメルトちゃんが微笑んだ。
「おかえり、エクス君。補習どうだった?」
「あたし達ずっと心配してたんだよ!」
「心配かけてごめんね。でも大丈夫だったよ!100本目で作れた!」
「「ひゃっぽん…」」
やっぱり驚くことなんだなぁ。
「魔力大丈夫?」
心配そうに眉を下げるメルトちゃん。
そ、そんな顔しないで欲しい!女の子は笑顔が良い!
「だ、大丈夫!空っぽに近いけど無い訳じゃないから!うん、元気!」
『マスター自身は打ててもせいぜい初級魔法が数回か中級魔法が1回だな。』
「うわー…ギリギリだぁ。」
あ、皆戻ってきた。
「あ、ヨシュア君も何かやってたのよね?」
メルトちゃんの視線が僕からヨシュアに流れてしまった。ちょっと悲しい。
「うん。シオン=ツキバミって先生に扱かれた。」
「しおんつきばみ?」
イデアちゃんが首を傾げるとヨシュアは頷いた。
「アルファクラスの副担任の先生だってさ。」
「へぇー!」
「やっぱ先生だから凄くてね…」
「なぁ、お前さ、あのヤバそうな奴…えっとアビスだっけ?そいつと手を組んだって本当かよ?」
「「「!」」」
モブ男の話し声が後ろから。
こういう会話ほど不思議と鮮明に聞こえる。僕、シャル君、ヨシュアは耳を澄ませる。
「あぁ、コレを気化させてあの神クラス代表のエクス=アーシェに嗅がせるだけで金をたんまりくれるんだぜアイツ!今日早速やったんだがほら、見てみろよ!」
「うわ本当だ!やば!」
僕…?僕何か嗅がされたの?そんな覚えない。コレってなんだ?
後ろを向いて怪しまれる訳にはいかない。
そういう時こそ。
「ゼウス」
『あぁ。任せよマスター。』
ゼウスはふわりと床に降りた。
何する気なんだろ?
じっと見ていると怪しまれると思い、体の向きを戻すと後ろからガタッと音がした。
流石にこれは後ろを向いて良いだろう。
何をしたのゼウ……
小さなゼウスが居たはずの場所に、のそりと立ち上がる動作を見せる真っ白な肌と髪を持つ美女が居た。
女の子の艶やかな髪は肩まであり制服を着崩しているので胸元がみえっ…見える。えっギャル!?ギャルは僕にウインクした。
髪の毛短くなってるけど…もしかしてゼウス?ギャルゼウスは声の主であるモブに
「ね〜ぇ?お金貰えるってほんとぉ〜?」
と肩に手を回した。声も女性になってる。
それで…い、色仕掛けするの?
怪しまれないように再び体を正面に戻して耳を澄ませる。
「うぇっ!?あ、はいっ!本当ですっ!」
あ、色仕掛け通用した。見た目でやられたな。
「私もそれ聞きたぁい♡教えてぇ〜?」
「はいっ!お耳を拝借…えっと…アルファクラスにアビス=アポクリファというヤバそうな奴が居るんです。ソイツに話しかけられて何故か自己紹介させられて…エクス=アーシェに気化させたコレを嗅がせたらお金あげるって言われたんだ。」
『ふむ…ぁ、違う。へぇ〜…ねね、それ触らせて!』
「うん!はい、どうぞ。」
『ありがとぉ〜♡』
何かを受け取ったようだ。くっ…見たい!
「エクス君達?さっきから黙って3人して怖い顔…どうしたの…?」
メルトちゃんが首を傾げる。
「魔獣の、だよ。」
メルトちゃんなら伝わると思って選んだ言葉。案の定察してくれたようで、?マークを浮かべるイデアちゃんとローランド君にシー…と人差し指を立てて口元に寄せる動作をした。ごめんね、2人とも。
『…なぁにこれ?お薬?嗅ぐとどうなるの?』
ゼウス、やり取りしてた僕達を気遣って話進めてなかったんだ。流石だ。
「うーん、俺にもさっぱり。ただの黒いカプセルにしか見えないけど、中身は空気に触れると気化する薬品が入っているから、ココだ!と思った時にカプセルを潰して風魔法でこの中身を操って標的に嗅がせろってアビスが言ってた。距離が遠すぎるとダメになるからなるべく近くで、中身は気化した瞬間透明になるけど油断大敵、見失わないように、バレないようにね。とも言われたなぁ。」
『ふぅん…。潰して空気に触れると気化して透明に、風で操る、ねぇ…。あっ!ごめん落としちゃった!』
「だっ大丈夫だよ!」
『ごめんねぇ?えーと…あ、あった。もう落とさないように返すわ。コレをアビスに貰えば良いのね?』
「うん!人手は欲しいけど標的には内緒ねって言ってたから気をつけて!バレたら何されるか…」
その本人、貴方の後ろでガッツリ聞いてますよ。バレてますよ。何かされますよ。
『おっけー、ありがとう。貴方、名前は?』
「神クラスのモーブって言います!」
え?か、神クラス…!?
『神クラスのモーブ君ね。教えてくれてありがとう。ばいば〜い♡』
「ど、どういたしまして!あの、貴女のお名前は…って消えた!?」
「あ、あそこ!食堂の出入口!」
「瞬間移動!?名前聞かなきゃ!!」
「急がないと見失っちゃうぞ!!」
慌ててギャルゼウスを追ってったモブ達…いや、モーブ君ともう1人。あんな見た目だったんだ。彼らのお目当てのギャルは既に本来の姿 (チビver.)で僕の目の前に帰ってきている。
「おかえり、ゼウス。」
『ただいまだマスター。ほれ、これだ。』
小さなゼウスが両手で黒いカプセルを持っていた。何で持ってるの?
『落としたフリをして屈み、一瞬で作った偽物とすり替えておいた。本物はこっち。中をよく見てみろマスター。』
「中?」
言われた通り見てみると真っ黒な煙のような、瘴気みたいな何かが小さなカプセルの中を漂っていた。
『カプセルが黒いのではなく、黒い瘴気のような何かを透明なカプセルに閉じ込めた物だ。マスターはコレを嗅がされたらしいな。』
別に身体は何ともないけどな。
「でもいつでしょう?」
それについて考えてくれていたシャル君はハッと顔を上げてこちらを向いた。
「彼は神クラス所属だと仰ってましたよね。アビスさんからなるべく近くで嗅がせろとも…なら…」
僕が近くにいて、神クラスの彼が仕掛けられる絶好のタイミングは…
「授業中…。」
実践は外だったし彼に近づいた覚えもない。僕を眠らせた奴の近くに彼がいた覚えもない。なら座学か錬金術、薬学のどれかだけど…
「彼は座学で僕の前に座っていた。
杖も握っていなかったから魔法は使っていないだろう。」
とローランド君が話してくれた。
記憶力良いな。その話が本当なら眠らせた奴とは関係が無いと見て良いかな。
となると錬金術か薬学のどちらか…。
するとゼウスが口を開いた。
『なぁ、マスター。黙っていたのだが、薬学の時アポロンのマスターに喝を入れられていただろう?その時、様子がおかしかった。自覚はあるか?』
「自覚……あ。」
そういえば黒い気持ちがぐわっと出てきたかも。けど僕の単なる反抗心かもしれないし関係ないかな?
そう考えている僕に対しゼウスは
『何か思うところはあるようだな。』
と呟いた。メルトちゃんも机に両肘をつき指先を合わせながら
「それに、アビス君?とクラスが違ってもお昼になら時間もあるし皆食堂に来て人が少なくなるから別の部屋でもお話しやすいと思うわ。」
と僕を見た。
「確かに。」
「…んーっ!ねーねー!さっきから皆何をお話しているの?あたし分かんない!」
イデアちゃんが頬を膨らませて机をバンバン叩いていた。
「僕も言及したが君達は何を知っている?その黒いもの以前に何か知っているのだろう?教えてくれないか?」
ローランド君もむすっとしていた。仲間はずれ状態なんだ。当たり前だろう。
それに、アビスの事をメルトちゃんに伝えたとヨシュアから聞いていない。
彼女も知らない状態なんだろう。
伝えたいけど他の人になるべく聞かれたくない。どうしたものか…。あ、悩んだ時こそゼウスに頼もう。
「ねぇ、ゼウ…」
待てよ、イデアちゃんに話して良いのか?
ストーリーだといい子だからこそロキとレンに騙されてしまった被害者だ。けれど形はどうであれレンに協力してしまう子だぞ?そんな彼女に話すべきなのか?
『マスター?』
いや、ヨガミ先生で確信したじゃないか。
ここに居るのはNPCじゃない。生身の人間だと。だから感情もある。それに何度も思っていること…これはもう知っているストーリーじゃないんだ。だからその未来になる可能性は低い。全て話せばレンと関わる事を防げるかもしれないし。
僕は疑うことをやめて彼女のように信じることにした。どうせなら友達を疑い続けるより信じて裏切られた方が良い。
「ゼウス、話そう。」
ゼウスは少し黙って僕を見つめた。
それから頷くまでは数秒だった。
『…分かった。周りに聞かれぬよう私がテレパシーを使って伝える。それで良いか?』
「うん。頼むよ。メルトちゃんにもアビスの事を伝えて。」
『あいわかった。アテナのマスター、ロキのマスター、アフロディーテのマスター。今から我がマスターに代わり私が話す。話す代わりに貴殿らにも協力を求める。良いか?』
3人は快く頷いた。
ローランド君は赤い薔薇を手に持ち
「友が困っているのなら手を貸す!それが僕の思う美徳さ!!」
イデアちゃんは両手をブンブンと振り
「あたしも手伝えるなら何でもするよ!」
メルトちゃんは落ち着いて
「途中で投げ出すわけないわ。お願い、ゼウス。教えて。」
彼らの思いを受け止めたゼウスはゆっくり頷いた。
『うむ。では集中して聞くが良い。』
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