第134話『もう泣かない』

前回のあらすじ


ユリウスさんとシルヴァレさんと合流しました。

その後、主を亡くした祈りの森は瘴気を吸った代償として主と共に死んだ。


悲しみに浸りながらシルヴァレさんが連れてきてくれたワイバーンに乗って病院へ行って治療中…です。



どれだけ凄い人でも包帯は手で巻く必要があるようで、上半身裸にされたユリウスさんはたった今巻かれている。


「いだだだだだっ!シュヴァルツ!?

痛いのですが!??」


「…だって強く巻かないとユリウス仕事で動くから…傷開いちゃうかもだから。」


「だからと言って痛たたた!!」


「…ズレる。

骨折れてるんだから動かないで…。」


「はい…。」


騒ぐ2人を見守っていると、いつの間にか終わったらしく僕達に視線を移すシュヴァルツさん。


「…ユリウスとディアレスは骨折だったけど…君達に大事なくて本当に良かった。」


と、僕達生徒の頭を順番に撫でる。

僕の無事は彼女のおかげ。

撫でられるべきは赤ずきんちゃんだ。


「…瘴気の影響が無い君達は入院の必要は無さそう。

…ワイバーンを呼ぶから暫くここに居て?」


皆、声を出さないで頷く。


「…。」


シュヴァルツさんも察したらしく微笑みかえしてくれた。

ヴァルハラの面々に挨拶をしたら今の今までリンネさんを覗き込んでいたシルヴァレさんが「学校着いてくー!」と行って本当に着いて来た。


だから僕とヨシュアのワイバーンの運転を任せた。風で紙袋がガサゴソ凄い音だけど…。

お陰で何言ってるか全然聞こえない。

喋ってるのかも分からない。

というかよく飛ばないな、紙袋。

今、ワイバーンに乗るためにシルヴァレさんに抱きついている形なんだけど…生きている人って温かいな。安心する。

ヨシュアも僕の腰に手を回しているんだけど制服のせいか温度が分からない。

シルヴァレさんは薄いパーカーだからな…。

そのまま僕達は特に会話も無く学校へ戻った。


「とうちゃーく!」


運転手であるシルヴァレさんが一番最初に

降りた!危な!

シャル君とレンを乗せたワイバーンの運転手さんが僕達の乗ってきたワイバーンと共に

帰っていくのを見送ってから、学校の正門へ向き直る。


あっという間に帰ってきたんだ。


「エクス!お前ら!」


正門越しに校舎を見ると、

ヨガミ先生がパタパタと走って来た。


「ヨガミ先生!」


そして鍵を使って正門を開けてくれた。


「全員無事だな!?」


「は、はい。無事に戻りました。」


僕の返答に安堵の表情を浮かべたヨガミ先生。彼の視線はシルヴァレさんに。


「不審者連れてきたのは誰だ。」


視線を受けたシルヴァレさんはキョロキョロと辺りを見回す。


「えっ不審者!?何処!?」


「お前だよ紙袋野郎!」


「あ、ボクぅ?

ボクはねぇ…こういう者にゃん!!」


口で説明すれば良いのに紋所を振り翳すように、とある手帳をヨガミ先生に見せつけた。


「シルヴァレ=ジョーカー…?

ってお前まさかあのシルヴァレか!?」


「そうにゃん!

どのシルヴァレか知らんけどそれにゃん!」


「国家最高機関様が何の用だよ。

暇なのかよ?」


「あ"ぁ"ん?」


暇、という言葉に腹が立ったのか急に声が低くなったぞ…。


「ヒッ!」


ヨガミ先生は普通にビビってる。

先生ってチキンなのに普通の時は態度でかいの不思議なんだよね。


「ボクが来たのは視察にゃん。

新しくした校舎がちゃんと不備にゃく使えているかーとかにゃ。」


その為にわざわざ来てくれたのか。


「だからヴァルハラとして入るにゃーん!

拒否権にゃいにゃー!」


「ちょっと待て!

お前がシルヴァレならハデス出せ!

あれじゃ証明にならん!」


あれってヨガミ先生に見せた手帳だよね。


「さっきの身分証ではないのです?」


僕の代わりにレンが聞く。

するとヨガミ先生から溜息が返ってきた。


「顔写真がねぇんだよ。どう信用しろと?」


「ボクの存在知っているのは限られた人間にゃんだけどねぇ。

分かった、ハデス来てにゃん!」


黒っぽい紫の魔導書からハデスが出てきた。


「はい、自己紹介するにゃん。」


『…』


頭に?を浮かべたハデスだったけど、理解したのかすぐにスケッチブックへ文字を書く。


“会議振りですね、アポロンのマスター。”


1枚ペラリと捲るとまた文字を書き始める。


“私はハデス。

紙袋な彼、シルヴァレの召喚獣です。”


ハデスを見て青白くなったヨガミ先生は数回頷く。


「あ、はい。分かりました。大丈夫です。」


何が??


「じゃあお邪魔するにゃーん!

ハデス行くよー!」


あ、勝手に行っちゃった。


「ほっとけ。

お前ら、まずはお疲れさん。」


今度はヨガミ先生に撫でられた。


「もう授業も終わった。今日はよく休んで明日から勉学に励むように、良いな。」


僕達4人は元気の無い返事を返した。

ヨガミ先生はそれを疑問に思ったようで僕を見る。


「…何かあったんだな。

話せる時があれば話せ。

聞いてやるくらいなら出来る。」


と、僕達に背を向けて先生も校舎の中へ。

残された僕達は少し立ち止まっていたがレンが発言する。


「ひとまず解散だね。」


「…そだね。」


僕達はメルトちゃん達に会う事よりも1度部屋に戻る事に決めた。



「ただいまぁ…」


「ただいまー。」


僕とヨシュアの部屋だから返事が返ってこないのは当たり前…


「おかえりー。」


「「!?」」


返ってきたぞ!?

僕とヨシュアは顔を見合わせる。

部屋の中の扉を閉めている事が悔やまれる。

誰だ?

出入口の扉は本人たちじゃないと雷魔法が発動するシステムだったはずなのに…。


僕は杖を握りしめ、

扉の取っ手に手をかけた。

そしてヨシュアに頷き、勢いよく扉を開けて杖を前に突き出す。


「誰だ!!」


「あらー乱暴ねぇ!

ミカウお兄さんだよ〜?」


ホントにミカウさんだ。

黒い狐の仮面…怪しげに微笑む口元…

紛れもなくミカウさんだ。


「話は聞いたよ。」


「「!」」


「だから頑張った君達にご褒美あげようと思ってさ。」


「ご褒美?」


「じゃーん!」


ミカウさんはパッドを何処からか取り出した。そこには映像が映し出されていた。


誰かコソコソとしゃがんで何かしてる…

てかあれ?紙袋マン…つまりシルヴァレさんじゃないか?何してるんだ?


「何か仕掛けているみたいだねぇ?

鼻歌まで聴こえるよ〜。」


鼻歌…は聞こえないけど確かに何か仕掛けてるな。何だろう?


「聞くも良し、聞かぬも良しだよ。

小生のご褒美はこれまでだからね。

後は自由にしてね〜。じゃ!」


あ、行っちゃった。


「…エクス、どうする?」


シルヴァレさんが魔女の夜ヴァルプルギス・ナハトの一員の可能性は……まだ分からない。


「先生達だけに報告しておこっか。

メール送っておく。」


「おっけ。」


シルヴァレさんを認知したヨガミ先生でいっか。


「俺、先に着替えるね。」


「うん。」


ベッドを背もたれがわりにしてヨガミ先生へメールを送る。

前のようにアイオーンが手紙を紙飛行機にして投げたのを見届ける。


『送信完了しました。』


「ありがとう。」


『む、ヨガミ=デイブレイク様から着信です。如何致しますか?』


電話?


「出るよ。」


僕に頷いたアイオーンはヨガミ先生へ姿を

変えた。


{よぉエクス。今どこだ?}


「部屋の中です。」


{分かった。

今から個別に話を聞きたいんだが良いか?}


「個別…?分かりました。何処へ行けば…」


{ミカウに部屋借りたからそこで。

アイツに声をかけてくれ。}


あと少し早ければ…仕方ない。行こう。


「分かりました。向かいます。」


{おう、シオンも同席するから。}


「はい。では失礼致します。」


切る直前に「先生を付けや」とシオン先生の声が聞こえた。

通話を切ってアイオーンが姿を戻す。


「という訳だからヨシュア、行ってくるね。」


「うん、いってらっしゃい。」


「何かあったらちゃんと連絡してね。」


「分かった。ちゃんとする。

と言っても寝てるかも。」


「それが良い!休んでてね。」


「ありがとう。」


さり気ない話の後、僕は購買部へと足を運んだ。メルトちゃん達、何してるんだろう。

会いたいはずなのに、不思議と話したいと

思えない。


「疲れてるのかな。」


呟いても通り過ぎる人達から返答は返ってこない。当たり前だ。独り言なんだから。

でも、独り言でもメルトちゃん達なら笑ったり、心配してくれたりするだろう。


だからこそ話したくないんだ。


「はぁ…」


暗い気持ちのまま購買部に着いた。

メルトちゃん達と本当に会わなかった。

何してるんだろ。

自動ドア越しに中を見るけどそれらしい人は見当たらなかった。

よし、入ろう。

そう思って足を踏み入れた瞬間、


「!」


店内ががらりと雰囲気を変え、旅館の中に入ったように変わった。

堕天の話をしたあの時と一緒だ。

僕以外誰も居ない辺りを見回すと、白い狐がとある襖の前に座っていた。

そこに行くと、ヨガミ先生の声が聞こえた。


「そこに居るのはエクスか?」


「は、はい。エクス=アーシェです。」


「入ってくれ。」


「失礼します。」


襖を開けるとこじんまりとした個室にヨガミ先生とシオン先生が居た。

ヨガミ先生は胡座をかきながら背丈の低い長机に頬杖をつき、シオン先生は座布団の上に姿勢よく正座して目を瞑っていた。


「靴はその辺に置いとけ。んで座れ。」


その辺って…1面畳で脱ぐ場所ないじゃん。

かと言って外に置いておくとミカウさんに取られそうだから部屋の隅っこに揃えて置いておこう。

そして座布団に座るっと…。


僕が座ると同時にシオン先生が目を開き話しかける。


「まずはお勤めご苦労さん。

よう頑張ったな。」


「いえ…」


「何があったか教えてくれないか?」


僕はヨガミ先生に頷いて全てを話した。


ノイズと対峙して話した事…

堕天アンヘルの不死身の件。

魔女の夜ヴァルプルギス・ナハトの件。

森の主と森が死んだ件。

そして…


「僕の…ぼくの…せいで…っ」


いけない。勝手に泣きそうになる。

我慢しろ、全て伝えるんだろ。

泣いてる場合じゃ…


「何を我慢してんだ。泣きたい時は泣け。

その為に狐野郎から個室を借りたんだからな。」


その為…?


「デイブレイクは辛そうなお前さんの為にわざわざ空き教室ではなく、ミカウ殿から個室を借りたんや。

誰も来ない事が確定している場所やから。」


「あ、言うなよそれ!」


僕の…為に?

すると涙が勝手に零れた。


「泣いても良い。俺もシオンも笑ったりなんか絶対しないから。」


その言葉が発破となり、僕の中で我慢していたものが千切れて思いが爆発した。


「ぼ、ぼくのせいで…っ!

あかずきんちゃんが…あかずきんちゃんが

死んじゃったんです!!」


「「!」」


「ぼくがっあのときもっと飛ばされていれば!うごけていれば!あの子は死ぬことなんてなかったのに!ぼくのせいで!ぼくをかばって死んじゃった!うぁあぁぁっ!!」


情けない、泣くなんて情けない。

でも、我慢が出来なかった。悔しすぎて苦しすぎて涙が波となって僕を飲み込むんだ。


「我慢していたのはそれか。」


喉が絞められたように苦しくて声が出せなかったので何回も頷いた。


「よく我慢したな。偉いぞ。」


ヨガミ先生のその台詞で涙がもっと溢れてくる。


「アーシェ、その赤ずきんちゃんとやらが庇ってくれたんならそれはお前さんのせいとちゃうで。それだけは履き違えんとき。」


「っ…」


そんなこと言われても…僕の目の前で、僕を庇ってくれた事、つまり僕のせい…!


「なぁエクス。1回考えてみろよ。

もしお前の目の前で善人が死にそうになって、自分が庇ったら助かるのならお前は庇うか?」


「…(コクッ)」


「何で?」


「その人が…助かるから…」


「結果論ソイツが助かったとしてお前は死ぬ。

その場合お前はソイツを恨んで死ぬか?」


僕は…人を助けて後悔はしたくない。

自分が庇ってその人が助かるなら、その人が感謝してくれるのなら…僕はその人のヒーローになれるのなら…


「ソイツはお前を思って泣いてくれるやつだ。」


「…恨まない…。」


「必ずしも人の心がそうだとは限らんが違うとも限らねぇ。赤ずきんちゃんも助けた奴がいつまでもウジウジしてんのは望んでねぇんじゃねぇの?(俺は人の事言えねぇけど。)」


…そうだよな、泣いてばっかじゃダメだよな。ハデスにも言われたじゃないか。

ちゃんと強く生きなくちゃ赤ずきんちゃんに申し訳ない。


「…すみません、もう泣きません。」


涙を拭って前を向くと、ヨガミ先生もシオン先生も微笑んでくれた。


「よし!」


あ、そうだ。シオン先生と言えば…


「シオン先生。」


「何や?」


「玉藻前と話がしたいのですが…」


「?ええよ。玉藻前、【summon】」


シオン先生の魔導書から小さな玉藻前が現れた。


『何やシオン、魔力けちって…。

お陰で小さなってもうたよ?』


「戦いの場やないからな。

アーシェが話したいんやと。」


玉藻前の視線が僕に移る。


『おぉ、ゼウスはんのマスターやないか。

何や?何でも聞きや〜?』


それは助かる。


「あの、魔女の夜ヴァルプルギス・ナハトを聞いたことはありますか?」


『ヴァル…?何やそれ。』


知らないのか…一方的に相手が知っているのか?


「それとノイズと言う真っ黒な男やエンデュと言う白薔薇の眼帯付けた男とかは…?」


『うぅん…長年野良やってたがそんな奴らは覚えあらへんし翡翠と相棒だった頃もンなやつの覚えもあらへんなぁ。』


ダメか。あと最後に…


「悪魔憑きという者達をご存知ですか?」


『はて、霊媒的な何かやろか?』


「うーんと…」


返答に困るとシオン先生が


「ちゃうらしいで、新月。」


と助けてくれた。


『ちゃうんかぁ。』


全て知らないようだ。

ヨガミ先生達にもこの話はしていなかったから伝えないと。


「実は魔女の夜ヴァルプルギス・ナハトはシャル君と…

シオン先生を狙っているみたいなんです。」


「私を…?」


「何だと?」


『…は?』


まずい、玉藻前が居る時に言うんじゃなかったかも。気配の一変と圧から一瞬で怒ったのが分かった。


どうしよう…!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る