第105話『親友が抱えたモノ』

前回のあらすじ


ネームレスがゼウスの拘束とシオン先生の刀を破壊。シオン先生の魔力を通して記憶を

見たと言ったネームレスは彼の母親の顔になりシオン先生の心を絶望に突き落とした。

それにオペラ先生がキレました。



スタンドマイクを持ったオペラ先生を不思議に思う目で見るミカエル。


『マスター、

私は何も見えないのですが…。』


「…(ふるふるっ)」


人形が無いからか話さず、首を横に振るだけで返答するオペラ先生。

それだけで理解したミカエルは頷いた。


『マスターは何か見えるのですね。

では私は援護に徹します。』


「…(こくり)」


どうしよう…このままで良いのか…?

オペラ先生どうするつもりだ??

もしも殺しちゃったら??

それだったらゼウスに頼んで…でもゼウスすらアイツが見えないんだ。どうすれば…


「あーあーテステス、聞こえていますか。」


オペラ先生が人形無しなのにマイクで腹話術を…!口調が変わったからもしかして本人?


「貴方は人の心を何だと思っているの?

他人は貴方の玩具じゃない。

故に貴方が壊して良い権利もない。

もし壊せばそれ相応の対応をする義務が生じる。それは誰しもが分かることでしょう?

子供でも分かる事よ。」


「人の心なんて知りませんよ。

他人がどうなろうが知ったこっちゃありません。僕が楽しければ良いのですから。」


コイツ…!!


「救いようのない人…なんて可哀想な人…。加害者は何も思わないのに傷付いた人は一生悲しみを背負うことになってしまう。

理不尽過ぎるわ。私はそれが許せない。

貴方はそれをシオンとヨシュアに行った。

私が出来ることはお前を心の底から反省させ、シオンとヨシュアの傷を少しでも癒すこと。その耳で聴き、懺悔せよ。

ミカエル、お願い。」


『は。【聖者交響曲シンフォニア】!』


ミカエルが剣を振ると、背後に青い光を放つ人型が沢山現れ、全員異なる楽器を2種類ずつ持っている。

ヴァイオリンとか持ってるぞ…?


「何する気ですかぁ?

そんなモノ、僕には効きませんよ。」


「悪しき者に天罰を。その穢れた心を洗って差し上げます。【天使の願い】」


オペラ先生が下を向いた瞬間、

シン…と辺りが新たな空気に支配された。

先生が息を吸い1秒だけネームレスを正面に

捉え、歌い出す。それと同時にミカエルが作り出したオーケストラが音を奏で始める。

これは…聖歌?聞いてるだけで心が洗われるような凄く綺麗な曲だ。ミカエルが創ったこの空間が音を綺麗に響かせているんだな。


『ふむ…美しい声だな。』


「ゼウス。」


彼は僕の真横で腕を組んで数回頷く。


『私を讃える曲だな。良い選曲だ。』


「あー…聖歌って神様讃える曲だもんね。」


『うむ!このミカエルの楽団はマスターの

魔法を強化するものだな。で、どうだ?

アイツに効果はありそうか?』


ネームレスは…

あ!!


「手が…動かない…っ!?これは…っ!?」


拘束が無くなった手がプルプルと震えている。


「効いてる!!」


『よし!』


「っぁああ…何だ、これ!耳障りな音だ…っ!!イライラする…!!」


頭を下にして踵を何度も擦らせるようにもがき始めた。本当にき、効いてるのかな…?


「やめろ!今すぐやめろ!!がふっ…!?」


吐血!!絶対効いてる!凄い!!


「綺麗な演奏の邪魔を…すんなっ!!」


「うぐっ!?」


ヨシュアがネームレスを直で殴った。

もしかして元に戻った!?


『この曲を聞いたらマスターが元に戻ったんだよ。これ浄化作用のある歌の魔法なんだな。』


プロメテウスが僕の隣に浮いて来た。


「プロメテウス。そうなの?」


『あぁ、こやつの言う通り光の魔法だ。

ふむ、プロメテウスのマスターの気が鎮まったのなら良い。

あの狐のマスターはどうだ?』


「シオン先生は…」


「…」


玉藻前の多い尻尾で見えないな…。


「い、今はヨシュアとオペラ先生と

ネームレスだよ!」


もう一度彼らに視線を向けると、ヨシュアがネームレスの上に乗り、右膝で取り押さえていた。


「頭が痛い…っ!!…退け!!げほっ…!」


「嫌だね!俺は意識が遠のく時、エクスや

先生達に沢山迷惑かけてんだ!意識がある内にお前を捕えるくらいはやらないとね!」


周りの音で声が小さいがそのような事を

言ってくれた気がする。


「2人とも、ヨシュアの方に行くよ!!」


『分かった。』

『俺様に指図すんなゴラァ!』


えー!?

…まぁいいや。僕達はヨシュアの元へ駆ける。


「ヨシュア!」


「エクス!ごめん俺また変になってた!」


「気にしないで!」


「…変?…っそうか…お前が…!」


何?ヨシュアが何だ…?


「っははは…そうかそうか、

お前がアビスの言ってた…っははは!」


きゅ、急に笑いだしたぞ!?コイツオペラ先生に浄化されて頭おかしくなったの!?


「な、何を知っているんだ!!」


「っ…話してあげても…いいですが…っ…

この歌を止めなければ…がはっ…

僕は喋れなくなるでしょうねぇ…」


吐血し続け、苦しそうな息づかいなのに笑顔のネームレス。オペラ先生の歌が相当いている。

その歌を止めて…ヨシュアの事を聞く…?


「止めなくて良いよエクス。

俺の事は俺がどうにかするから。」


「…でも…」


迷っていると歌が止まった。

オペラ先生が歌うのを止めてしまったようだ。それによりミカエルも指揮を止める。


「カヒュッ…ゲボゴホッ…がは…っ!

…はぁっ…はぁっ…」


地に伏せ咳き込み、尚も吐血するネームレス。それを見たヨシュアはオペラ先生に詰め寄る。


「オペラ先生!?

な、何故止めたのですか!」


「…貴方の身体の異変を知りたかったから…。私は生徒である貴方が大事。それに、あのままだとやり過ぎそうだったから。」


しゅん…とするオペラ先生の返答にヨシュアは悔しそうに唇を噛み、拳を握りしめる。


「そんなこと…気にしなくて良いのに…。」


「大丈夫。」


オペラ先生は呟くように言った後、スタンドマイクを持ってネームレスに近づく。


「がはっ……

おや、貴女…思った以上に…お綺麗ですね…」


震える腕で身体を支え、上半身を起こした

ネームレスの薄ら笑いを浮かべた顔へ



ゴルフのようにマイクを振りかぶり、

その勢いを殺さずにフルスイングした。



「ぁが…っ!!」


ごぎゅって音が今ネームレスの首から…

人間から聞こえちゃいけない音がしたよ…?それから僕に手を伸ばすオペラ先生。

どうしたんだと首を傾げると


『私の人形を返して欲しいそうだ。』


とミカエルが言ったので渡した。ミカエルの言う通りだったらしく、右手に人形をはめたオペラ先生はネームレスを勢いよく殴っても直線を保っているマイクを隣に優しく置いた。


「シオンの傷はこれよりももっと痛くてもっと辛いのだ…だが…一旦やめ、これから贖罪の時間だ。正直に口を割れ。」


「っはは…生徒の前で拷問ですか…っ?」


「正直に話せばお前でないのだからそんなことはしない。ヨシュアについてお前が知っていることを話せ。」


麻痺が残っているのか動きが油のない機械のようなネームレスは手で血塗れの口を拭った。


「っは…良いですよ……その子が…がふっ…アビスの…実験台です。…その内…感情が消え、意思を持った機械のように冷酷と…なって…人を殺すかもしれませんね。」


「「「!!」」」


感情が消えて人を殺す…?


「俺が…アビスの実験台?機械のように人を殺すだって?冗談だろ。

顔を殴られておかしくなったんじゃない?」


「お好きなように…捉えて下さい?

僕は…正直に話しただけですから。

…嗚呼、今は気分が良い。

特別に…もっと…話してあげます。

ゲホッ…君は…悪魔の主となる…者。

悪魔が気に入る性格に…なった君は…

悪魔を統べる者となり…神となる…。」


「何を言って」


「僕達の…実験……それは……

召喚士を…悪魔の…依代に……」


実験?召喚士を悪魔の依代に?……依代ってあの時の夢にも…いやいやいやそれはたまたまだろう。


「依代は…相応しい…人間が、いる…。

アビスが…探した……それを…悪魔は…

実体を持たずとも…待っている…。

彼らは既に生きている…。」


「「「…」」」


言葉が出ない。考える事を放棄している頭と考えようとしている頭がぐるぐる回っているみたいだ。よ、ヨシュアが悪魔を統べる者?召喚士が悪魔の依代?学校で探した?

悪魔は生きている?全く意味が分からない。


「僕が居なくても…実験は…出来る。

精々…ゲホゴホッ…阻止を頑張って下さい。

僕達を…見つけられれば、ですがね。」


「…」


「おや、ヨシュア君…いや、ヨシュア?」


「っ…」


そうか、ヨシュアが今見ているネームレスの顔と声はヨシュアの…多分亡くなったお兄さん。さっきまでの話し方を変えたらもう…。


「お前はこれから凄いことをするんだ。

…大丈夫、1人じゃないよ。…依代は…お前の友達だから。悪魔になってもずっと一緒だよ。何も怖くない。でも…余計な感情があると怖いだろう?さっさと意識を手放して楽になろう?」


「…」


ヨシュアが何か変だ…!


「よ、ヨシュア?ダメだよ。

どうせコイツの嘘だよ!!信じちゃダメ!」


『お、おいマスター。先程から何が…?』


ゼウスが心配そうに声をかけてきた。


「色々とあった!と、取り敢えずヨシュアがそのあのえっとっ!!」


僕が焦ると頭に拳骨が降ってきた。


「いだぁっ!!」


『落ち着けやゼウスのマスター。

俺様のマスターは大丈夫。

意識がある内はそんな事に屈しない。』


「え?」


「…そう、プロメテウスの言う通りだよ。

俺はお前達の思い通りになんて動かない!!動いてやらない!!絶対仲間と共にお前らを

1人残らず潰して皆を守る!!」


「ヨシュア…!」


良かった!!

ネームレスは首を傾げ眉間に皺を寄せた。


「あれれ?なぁんだ…まだ染まってないな。誰かが邪魔してる…。あ、もしかしてゼウスか。厄介な奴。まぁ良いでしょう。

…ゆっくりと時が経とうが君は必ず堕ちる。それまで長々と沢山の依代を選定するとしましょうかね。でも少し君に手を加えて…」


血塗れの右手がヨシュアに伸びる。杖を構えたヨシュアだったが、杖から魔法を放つ前に


ネームレスの右手が腕とズレた。


「?」


ネームレスですら分かっていないそれは


刀が鞘に仕舞われたカチンという音と共に、結果が見えた。


音と同時にネームレスの手がぼとりと

床に落ちたんだ。


「???」


状況が分かっていないネームレス。

彼は斬られているのに血が出ておらず骨が見えている腕の方を凝視する。

こんな音も無く、相手の痛覚を遮断させ綺麗に斬ったのは…


「ベルカント、堪忍な。

私としたことが心の弱さに付け込まれてしもた。貴女の歌で助かった。」


「シオン!!」「「シオン先生!」」


刀に付いた血を振り払ったシオン先生だった。刀が戻ってるっ!!


「君ら2人にも迷惑かけたな。

話は全て聞かせてもろたで、ネームレスとやら。その御礼は手を1本切り落とすことや。」


「腕…っぁ…っ!!!」


やっと事を理解したネームレスは耳を劈くほどの言葉にならない人ならざる叫び声をあげる。この悲鳴で過去ヨシュアにならないと良いけど…!!


「…」


ちらりと視線を向けると彼は両腕を擦っていた。


あぁ…


その目は興奮しているのかギラギラしていた。


もしかしてこういうのが悪魔が気に入る性格ってこと…?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る