第76話『禁忌に触れたから』

前回のあらすじ


目覚めたクリムさんとシャル君にこれまでのことを話し、ドレスを召喚獣に作ってもらうことになりました。

その話をしている最中、医院長である

シュヴァルツ=ルージュさんの召喚獣

アスクレピオスが怒りながら入ってきて矛先を僕に向けた。

理由はゼウスの召喚士だから。彼はゼウスに殺されたと言っていたんだけど…


 …


「え…ゼウスに…殺された?」


『あぁ。ご自慢の雷霆でな。』


ゼウスそんな事したの…?


「確かアスクレピオスは死者を甦らせる蘇生薬を作って…それにハデスがゼウスに抗議して…それで…」


とメルトちゃんが呟くとアスクレピオスは向きを変えた。


『ふむ、よく知ってるな。

む、お前は伯母様の召喚士か。』


「おば……アテナね。」


『あぁ。彼女のおかげで蘇生薬は完成したと言っても過言ではない。メドゥーサの血のおかげで蘇生薬は完成したんだ…!それで何人か生き返らせた!そしたら…っ…伯祖父はくそふと祖父が私を殺した!殺してから勝手に功績だのなんだのとほざいてな!!

あぁ忌々しい!』


自分が死んじゃってからの事も知ってるんだな…。

確か召喚獣はだとか公式ファンブックに書いてあったっけ。でも僕の目の前で怒っている彼は紛れもない本物に見える。

もしかすると本当の…


『ふんっ!本当に厄介な男達ばかりに会うな今回は!!くそっ!あの患者を見に来ただけというのに!!チッ何故こんなにもイライラせねばならんのだ!!』


ブーツのヒール音がお怒りのせいでガンガン言ってる…はわわ。


『コイツか。…プロメテウスのマスター。』


アスクレピオスはヨシュアのベッドの前に

立った。すると黒蛇が巻かれた金色の杖を

顕現させ緑の光を放った。何してるんだろ。


「…今、ヨシュア=アイスレインの状態を見てるの。」


いつの間にか僕の目の前に立っていた医院長さん。


「ヨシュアの?」


「…うん…彼は治すのちょっと大変そう。

…だからアスクレピオスと相談…。そしたらもっかい診たいって言ったから…。」


医院長さんでも大変って…大丈夫かな。


『…ふむ…呼吸も脈も正常。

擦過傷以外の怪我は無い。

のに何だこの奥底の黒いモノは…。

魔力?いや…もっと複雑な…』


何かブツブツ言ってる。

やがて結論が出たらしく医院長さんを見た。


『マスター。

コイツはいつ起きてもおかしくない。』


「…でも…」


『あぁ。マスターが診た通り、起きて暴走するかもしれん。やはり別室へ…』


「ヨシュアなら、だ、大丈夫です!

根拠はありませんけど…」


僕がそういうとアスクレピオスは怪訝な顔で近づいて杖の蛇を僕に向けた。

ひぃいっ!!!シャーッて言ってる!!!


『はぁ?根拠の無い自信でどうにかなると

思う餓鬼は嫌いだ!』


「じ、じゃあ根拠!根拠を提示します!!」


『ほう…?言ってみろ。』


「それは…ヨシュアだからですっ!!」


『おま…っ…

お前、余程殺されたいようだな…。』


えぇ!?何か間違えた!?


『同じ話を2度もするとは…

お前は本当に祖父の召喚士か?

ココがやられているようにしか思えん。』


額に黒蛇が口を閉じてゴスゴスと突いてくる。いた、痛いっ!


『いや、祖父の召喚士そこがやられているのか。

…はんっ皮肉なものだ。もし起きて暴走し、部屋が破壊などでもしたら…修理費はきちんと払えよ?行くぞマスター。』


と言いながら医院長さんを置いていく

召喚獣。

医院長さんは眉を下げて僕に謝った。


「…ご、ごめんね…アスクレピオス…本当はいい神様なの。

…あの子をよろしくね。またね。」


そしてパタパタと小走りして退出した。


『私に気付かないで行っちゃったわ…

よっぽど怒ってたみたいね。』


溜息の後しょんぼりするアルテミス。

アルテミスもアポロンと双子だからアスクレピオスにとっては“おばさん”なんだ。


『私、アスクレピオスの蘇生薬に頼ろうとしたことがあるの。』


「え?」


アルテミスは俯きながらも話してくれた。


『私と仲良くしてくれた人を間違えて弓矢で射抜いちゃってね…どうしよーってなって…その時に私の甥のアスクレピオスが蘇生薬を完成させたって聞いて復活させて欲しいのって頼んだらパパと伯父様にダメって怒られてね…。結局そのままよ。でもね、アスクレピオスは彼のマスターが言ったように良い子なのよ!頼む時、私の話を優しく聞いてくれてね、快く引き受けてくれるはずだったから…。』


アルテミスはとても悲しそうに笑った。

シャル君はそんなアルテミスを手のひらに乗せた。


「そんな悲しい顔をしないで下さい。

今の貴女にはオレが居ますよ。

それとも、オレじゃ不満ですか?」


『そ、そんな訳ないじゃない!

私はマスターの召喚獣よ!!シャル!

貴方が今の私の大切な人よ!』


何からーぶらーぶな雰囲気が漂う。

絵になるなぁ。

それにしてもアスクレピオスは確かに小さく震えていた。怒ってたってのもあるけど目が怯えていたしな。ゼウスに後で聞こうかな。

暫く皆と話しているとナースさんが着替えとタオル、シャンプーなどを個人に持ってきてくれた。


「女の子達が先に入りなよ。

俺ら後でいいから。」


レンに頷いて女の子達はジャンケンをし始めた。でもシャル君お風呂に入れないよね…と思って彼を見ると彼の手にはタオルとウエットティッシュが。あ、なるほど。体を拭けってことね。背中は誰かが拭いてあげて……ん?


…シャル君の…体を……拭くっ!!!?


「しゃっシャルく」


『シャル!私が拭いてあげるわ!』


アルテミスぅ…。


「い、いえ!いくら召喚獣とは言えど女性の貴女に男の背中を拭かせる訳にはいきません!えっと…」


アッこれはチャンス!!


「アタシが拭いてあげるわよ、シャルちゃん。」


スカーレット君何で邪魔するのぉおお!!


「ありがとうございます、スカーレット君!」


「超残念そうな顔してるねエクス君。」


「レン君の気のせいだよ…。」


「エクスちゃん何か気持ち悪かったから

シャルちゃんに近付かないでちょうだいね。ほら、シャルちゃんそれ貸しなさい。」


「はい!」


「じゃあ私1番で入らせてもらうわねー!」


とメルトちゃんがお風呂に続く扉を潜った。


「あたしが2番目でリリアンちゃんが3番目、クリムちゃんが4番目だね!

エクス君達はー?」


イデアちゃんに言われて順番を決めることに。


「クリムの後はアタシよ。

異論は認めないわ。」


鬼が居る。シャル君の白くて綺麗な背中を

優しく拭く赤鬼が居る。

僕とレンは無言で数回頷いた。


「じゃあ僕最後で良いよ。

レン君先にどうぞ。」


「そう?じゃあお言葉に甘えて。」


はぁ…

シャル君の綺麗な背中でも見てよっと…


 シャッ


あ、くそっ!

スカーレット君にカーテン閉められた!!


 …


そして僕がお風呂のターンになった。

その間にローランド君もヨシュアも目覚めなかった。


扉の奥は個室になっていて服を脱いで入れる籠が置いてあった。そこに僕の名前が書いてあったので脱いだ物は中へ入れて、壁に付いている白いテーブルにもらった着替えを置いた。よし、後は…

僕は魔導書を顕現させ、小さく【summon】と呟いた。


『小さくて愛い私を呼んだなマスター!』


「しーーっ!」


『ふむ。マスターは私に背中を洗えと申すか?良い良い、私に任せよ!』


「いやいやそうじゃないよ。

聞きたいことがあってさ。

とりあえずお風呂に付き合ってよ。」


『うむ!』


ホテルだとトイレの隣とかのイメージがあるけどココのトイレは別室だからその分広いお風呂場だった。けれど誰も湯船に浸からなかったらしく、お湯は張ってなかった。


『ちっさい風呂場だな。』


「そう?僕には少し広いくらいだよ。

濡れないようにね、ゼウス。」


『忘れたか?マスター。私には』


「結界があるんだったね。」


『うむ!』


そうだったそうだった。

はぁ…呼び出しといてちょっと怖い。

いつ話そうかな。

まず髪の毛洗って様子を見よう……。



タイミング図れないまま髪洗い終わった。

じゃあ体を洗いながら…


そんな感じでちんたらしているとむすっとしたゼウスが痺れを切らして口を開いた。


『……マスター。聞きにくい質問だろうが

良いぞ、何でも聞くが良い。』


やっぱりバレた。

意を決して僕はゼウスに聞いてみた。


「ゼウスは本当にアスクレピオスを…

その…殺したの?」


『!…会ったのか…。』


「うん…超怒りながら入ってきてね。

僕を見てもっと怒った。

それでその事を聞いて…気になったの。」


『成程。

率直に言うと間違いなく我が雷霆で殺した。』


「!」


『それとアスクレピオスが怒りながら入ってきたのは多分アポロンに出会ったからだろう。あやつはアポロンの事をこの上なく憎んでおるからな。自分の母親を殺した奴だと。アイツも反省しとるというのに…』


「な、何でアスクレピオスを殺したの?

孫でしょ?」


『……マスター、ホムンクルスとの最初の

出会いを覚えているか?』


「う、うん…。」


『死者蘇生とは生命ある者がしてはならん

禁忌。私はそう言った。』


「うん、覚えてる。」


『それを犯したから殺した。それだけだ。』


「っ…!」


ゼウスがとても怖い…。

今は僕の手くらい小さいのに…

放たれる威圧感がこの部屋よりも大きく、

僕にのしかかる。


『私が怖いか?』


「…」


『ま、怖くない訳はないな。私はアスクレピオス以外にも沢山殺している。神も半神も。マスターが聞きたいことはそういうことか?』


「…うん、そう。

ゼウスの事よく知らないから…。」


『…む、なら私はこんなことよりも私の

カッコいい所をたっくさん知って欲しい!

知って褒め讃えよ!』


「…え?は?」


『この神をも容易く殺した力も今はマスターの為に使うのだ!私は至って寛大なのだぞ!アスクレピオスに何を吹き込まれたかは知らんがたまにちょーっと怒るだけだ!

だから怖がるな、大丈夫だぞ!マスター!』


「ゼウス…。」


何かちょっと怖がってたのが申し訳なくなった。


「ゼウスごめ」


『ゼウス様、言われたものを調査して参りました。ヴァルハラ所属の召喚獣を何体かだけ確認出来ました。』


今のゼウスと同じサイズで青色の帽子、服の銀髪さんが現れた。


え、誰?


『おぉ、御苦労だった。、下がって良いぞ。』


『は。』


消えた。


「な、何ゼウス…あれ。」


『ん?あぁ、新しくマスターの召喚獣になったヘルメスという者だ。情報収集に長けているのだぞ。私の使いだ。誰の召喚獣にもなっていないようで良かった。』


「へ?」


僕の召喚獣ならマスターに挨拶せんか!!!


『ふむ…成程な。マスター、ヴァルハラの事と会議の事は知った。それでヴァルハラ所属の召喚獣をヘルメスに調べてもらうよう指示を出したのだ。』


え?いつ知ったの?

いつヘルメスに指示だしたの?


『召喚獣はアスクレピオス、トール、シヴァを確認出来た。まだ居るだろうがな。』


僕でも聞いたことのある神様達だ…!!

もしかして全員神様だったりするのかな…!?こっっわくなってきたぞ…。


『マスター。そろそろ上がって睡眠を取った方が良いぞ。どれ、一瞬で乾かしてやろう。

ほれっ』


「そうだね」と言ってシャワーを止めた瞬間、下からも上からも暴風が吹き、首を痛める代わりに一瞬で乾いた。


「あ、ありがとう…」


『うむ!』


着替えてゼウスと一緒にベッドへ戻ると


『え!?ヴァルハラ!?ってことは居るでしょ!?え、やだぁ!!』


イデアちゃんの目の前に浮いているロキが駄々こねてた。義兄様??

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