第29話『おっと…?』

前回のあらすじ


メルトちゃんに状態異常回復魔法をかけて

吐き気が治ったところで着替えて猛ダッシュして錬金術部屋を目指していたらアルファクラスの副担任であるシオン=ツキバミ先生に怒られたけど見逃してもらってギリセーフで授業に参加出来て錬金術を試したらゼウスの光杖2本目が作れました。


しゃっ、一息で言えた!


 …


石がゼウスの光杖になった…。


「眩しいと思ったらエクスか。何した?」


ヨガミ先生が訝しげに僕を見る。


「え、杖作ろうと思って…」


石だった方の杖を先生に渡すと、目を見開いた。


「おまっ…これ作ったのか…!」


「は、はい…。」


「すげぇ再現力の高さだな…。

試しにコレで魔法打ってみろよ俺に!」


ヨガミ先生に!?キラキラした目が向けられる。…仕方ない、やるか。


「初級魔法いきます!サンダー!」


杖の先から小さな雷の玉が先生に飛んでいった。


「(どうせ餓鬼の初級魔法なんてマッサージ

みたいなもんだろ。)」


と思ってそうな顔に向かう雷の玉。

先生にぶつかった瞬間、弾けて彼の全身に電気がまとわりついた。バチリと爆ぜて先生から骸骨が見え隠れするほど激しく雷が唸る。


「うぎゃぁぁぁぁああああっ!!」


「ヨガミ先生ぇーっ!!?」


初級魔法のはずなのに凄い威力だ!?

雷が収まったあと焦げたヨガミ先生が真っ黒な煙を吐いて倒れた。そして石で出来た杖が砕けた。破片は石に戻っていた。


「あっ」


焦げたヨガミ先生の上に小さなアポロンが乗り、笑い転げた。


『あっははははっ!!

ヨガミおばかじゃーーんっ!!父上の召喚士の魔力量分かってたじゃーん!!初級魔法ですら高威力って分かるでしょー!!

あーっはっはっは!!』


しっ…知らなかった…!!

アポロンは知ってて黙ってたのか!!


『ひーっ…あー…ちょっと回復魔法かけてもらっていーかな、父上のマスター。

上級くらいの。ポーションでも可!』


「はいっただいま!」


ポーションは寮の鞄に入っているから魔法を!えぇと上級回復魔法は…あった!

あれ?沢山ある。えーとこれでいいかな。


「【グランダキュア】!」


本物の杖でそう唱えると綺麗な模様が先生の下に浮かび上がった。光の双葉がぴょこっと顔を出し蔓のように伸びて彼の身体に巻きついた。


『おぉー!流石父上のマスターだ!

 あとはつんつんするだけ!えいえい!』


ドスドスと音を立てながら強力なつんつん

(突き)をかますアポロン。焦げが消えたヨガミ先生は眉間に皺を寄せ唸る。


「うぅ…っ」


『起きろロクデナシー。』


「だぁれがロクデナシじゃボケェエ!!」


あ、起きた。

前はどうせロクデナシだよばーかみたいな事言ってた気がするんだけど。


「はれ?」


目覚めた先生は気の抜けた顔で僕を見る。


「お、おはようございます…。

お身体大丈夫でしょうか…。」


「…あぁ、そっか。

俺はお前にやられたんだった。」


いや、言い方。


「お前を甘く見ていた…流石ゼウスの召喚士だ。これ程の威力なら杖壊れたろ。」


「はい、ボロボロになっちゃいました。」


僕の足元の石の破片を見た先生は口角を上げた。


「まだ完全に出来た訳じゃねぇってことだ。

もしかするとお前はいつか本物をも創れるかもなァ。む…おい、お嬢!」


「はいっ!…あ。」


急に呼ばれたと思ったのかシャル君が返事をした。昨日の会話が効いているんだろうか。


「くっくっく…

ちゃんと覚えてたのか面白ぇ…!」


声は出さずとも大きく肩を震わせることで

ツボに入っていることがよく分かる。

対してシャル君は顔を真っ赤にさせていた。もう女子、可愛い。


「不安そうじゃなくても響きが気に入ったから呼んだら反応するとは…っくくく…!」


まだ笑っているヨガミ先生を頬を膨らませ睨むシャル君。


「もういいですっ!何ですか!」


「いや、特に難しそうな顔してたから気になっただけだ。お前ら!エクスみたいになんて思うなよ。コイツが異常なんだからな。」


異常、か。褒められてるはずなんだけどそんな感じしないなぁ。


「化け物」


ボソッと誰かの呟きが耳に刺さった。


…僕に言ったのか?

声の聞こえた後ろへ顔を向けると、沢山の生徒が僕から顔を背ける。顔色が恐怖を物語っていた。


…気味悪がられてる?

前みたいに?昔みたいに?また?

避けられるの?悪い事してないのに?


「エクス?」


ヨガミ先生が首を傾げた。

悪口言われたと子供のように言って良いだろうか。いや、意味が無い。

黙って耐えるのは慣れっこだ。言わせておけば良いんだ。


「何もありません。」


「…?…!」


ヨガミ先生の上に閃いたと電球が光って見えると僕の頭の上に大きな手を置いて


「よく出来ましたァ♪」


と左右に動かす。


「お前が凄くて褒めんの忘れてた。

よしよし。」


雑い撫で方によって髪の毛が乱れた。

やめて欲しい。


とは思わず、褒められる事なんてここ何年と

無かったから満更でもなかった。


「よぉし、錬金術1位はエクスかなァ…

 お前ら頑張んねぇと成績下がるぜェ〜!

 さぁ1人ずつ見せてみろー!」


ヨガミ先生はパッと手を離し僕の背中を

バシンッと強く叩いてヒラヒラと手を振った。


「…」


何だろうこの気持ち。

何だろうこの感じ。

何だろう…


嬉しい…!!

思わず笑みが零れる。


「っへへへ…」


「エクス君?」


「ひょああぁっ!!」


ニヤけているとシャル君に声を掛けられた。余韻に浸っていたところだったので変な声が出た。


「っふふふ…!」


シャル君が口に手を当て上品に笑っている。あ、これ結構ツボってるヤツだ。


「っ…ごめんなさ…っ!ふふふ…っ!」


何か恥ずかしい…。


「どうしたんだい?我が麗しの同胞よ。」


ローランド君来ちゃったよ。


「な、何でも…っふふ…」


隠してシャルくぅん!!


「?変な2人だね。それより見たまえ!!」


と、僕とシャル君の間に青い薔薇の花を出してきた。


「わぁ!綺麗ですね!」


シャル君の言葉に嬉しそうに「ふふん!」と言ったローランド君。試しに触ると…めっちゃ硬い。


「これ…石が形を変えたって感じ?

いや、石じゃない?ん?材質が変わった?」


「うむ、どうやらそのようでね。

君のように完璧にとは無理のようだ。」


「でも綺麗だね。」


「絶対に僕だって完璧にしてみせるさ!!

絶対君に追いついてみせるっ!!

見ていたまえ!!」


「うん、負けない!」


何となく流れでグータッチをした。

確かな友情が芽生えた気がした。


そんな中ヨガミ先生が呆れながら口を開いた。


「何してんだお前ら。もうすぐ時間だ。

まだ出来てない奴は頑張れよ。

そのうち課題とか出すからな。

これ終わったら昼飯食ってまたこの部屋にローブで集合!」


あと5分も無いかな。メルトちゃん達は何を作ったんだろ。左を見るとメルトちゃんは手のひらサイズの青い盾を見つめていた。


「凄いねメルトちゃん!作ったの?」


「えぇ、アテナのイメージよ!

カッコイイでしょ!ちょっと小さいけど。」


「凄いよ!」


「えへへ。嬉しい、ありがとう!」


は〜〜〜笑顔が良いっ!!


「エクス君!あたしのもみてみて!」


イデアちゃんが僕の目の前に何かよく分からない白色の人型の物を突きつけてきた。


「な、何コレ…?」


「分かんない!」


分かんないんかい!


「適当に杖振ったら何か出来たの!」


正直動き出しそうで気持ち悪いな…。


「す、凄いね…!」


「後でロキに見せるんだー!」


「よ、喜ぶと…思うよ。」


「だといいな!」


うーん…いい子なんだけど、なんだかなぁ…。


ヨシュアは…

と視線を動かそうとした時にチャイムが鳴り、壁の時計に視線が移る。


もうお昼だ。


「よーし、昼飯だ!いっぱい食って授業寝んなよ。寝たらころーす。」


教師が言っていい言葉じゃないよ…。


僕は呆れながらもヨシュアの元へ向かった。


「ヨーシュア!何作ったのー?」


座っている彼を覗き込むと目を見開いていた。どうしたんだ?彼の目線を追うと床の石に向いていた。え?石のまま?


「エクス…やばい…。」


「どしたの?」


「俺、錬金術出来ない!!」

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